中国における鉱物資源の開発利用による環境への影響(その4)
2016年 9月30日
陳軍:中国地質大学マルクス主義学院副教授、中国地質大学中国鉱物資源戦略・政策研究センター
博士,主な研究テーマは資源環境経済学
成金華:中国地質大学中国鉱物資源戦略・政策研究センター教授
博士指導教授,主な研究テーマは資源環境経済学
(その3よりつづき)
3.2 回帰分析の結果
これまで述べた理論分析に基づけば、鉱物資源の開発利用によって環境汚染は引き起こされ、モデルに設定された変数の間では、環境汚染指数と各種鉱物資源開発量との間には強い関連性があり、特に産業構造、技術進歩および政府管理等の要素による作用を考慮する状況においては、これらの関連性はさらに顕著となることが説明された。内因性によるバイアス誤差の問題を効果的に回避するために、動的パネルデータの特徴に基づき、lnEPitを被説明変数とし、lnEPit-1、lnMm、lnEmおよびlnNmを内因性説明変数とし、lnInd、lnTecおよびlnGov等の変数を制御変数としてモデルを評価した。以下では、まず全国を観察対象として、鉱物資源の開発利用による環境影響の特徴およびその形成メカニズムを説明した。
3.2.1 全国に対する推定
現実の環境変化は動的プロセスであり、考察対象期間当期のみの要素ではなく、過去の要素とも関係する。このため、計量分析においては、自身の動的変化の考慮が必須となる。当然ながら、動的データ構造はパラメータ評価の偏りと不一致性を招きやすい[25-26]。本稿では、サンプルのインターフェースを30の省(N)とし、期間のスパンを10年(T)としたところ、T
表1の各欄で示すJ検定の統計結果によれば、産業構造、技術進歩および政府管理等の変数を除去した場合には、第1項のほうが第3項のモデル設定よりも有効であり、上記変数を考慮に入れた場合には、第2項のほうが第4項よりも有効であるため、本稿では第1項と第2項の推定結果を用いて解釈を行う。モデルにより推定された全体状況から見れば、環境汚染指数の一次ラグ項の係数が正である上に、有意性検定に合格したことは、環境汚染には明らかな動的効果があり、過去の環境汚染が当期の環境の質に顕著な影響を及ぼすことを物語っている。第1項の回帰分析結果によれば、その他の要素による影響を考慮しない場合には、鉱物資源の開発利用において、過去の環境汚染による当期の環境影響の作用係数は0.824であり、金属、エネルギー、非金属鉱物ならびにその資源の開発利用による環境影響への作用は存在し、これら鉱産物の開発利用が1ユニット増加するごとに、環境汚染はそれぞれ0.155,0.546および0.08ユニット増大する。つまり、エネルギー鉱物の開発利用による環境影響が最も突出しており、金属鉱物および非金属鉱物の開発利用による環境影響がこれに次ぐことが分かる。
表1 全国の鉱物資源の開発利用による環境影響の推定結果
Tab. 1 Estimation results of the environmental impact by mineral resources development and utilization in nationwide scale
産業構造、技術進歩および政府管理等の要素による作用を考慮する状況においては、過去の環境汚染による当期の環境影響への作用係数は0.918に変わり、金属、エネルギーおよび非金属鉱物による作用係数はそれぞれ0.312、0.530および0.281となる。産業構造、技術進歩および政府管理の3つの変数の作用係数はそれぞれ0.159、-0.133および-0.157である。このことは、鉱物資源の開発利用においては、産業構造、特に工業化を原動力とした近代産業構造体系の発展による環境汚染への正の作用が顕著である反面、技術進歩および政府管理は環境汚染を抑制する重要な勢力として、鉱物資源の開発利用による環境変化に逆方向の作用をもたらすことを物語っている。また、このことによって、中国全体では、技術進歩がすでに環境影響に対する抑制作用を形成しており、技術進歩は鉱物資源の開発利用による環境汚染の改善に役立つことが示されている。これと共に、中国における鉱物資源の開発利用での政府管理行為は、環境汚染の抑制に積極的な作用を発揮しており、中央政府が公布した資源開発および環境監督管理に関する措置も一定の成果をあげている。当然ながら、作用係数の比較からも見て取れるように、考察対象期間においては、鉱物資源の開発利用による環境影響の制御に対する産業構造の係数は0.159で最も大きな作用を発揮しており、政府管理と技術進歩がそれに続く。政府による環境監督管理をさらに強化すると共に、産業構造を最適化し、鉱物資源の開発利用におけるハイテク技術の運用と波及を強化することが中国の資源環境保護の重要な方向性である。
3.2.2地域別推定
中国3大地域区分に基づけば、東部地域には北京、天津、河北、上海、江蘇、浙江、福建、山東、広東、海南が含まれ、中部地域には遼寧、山西、吉林、黒竜江、安徽、江西、河南、湖北、湖南、重慶が含まれ、西部地域には内モンゴル、広西、四川、貴州、雲南、陝西、甘粛、青海、寧夏、新疆が含まれる。中国における鉱物資源の開発利用およびそれによる環境汚染には地域性という特徴があることを考慮し、東部、中部および西部の3大地域における鉱物資源の開発利用による環境影響についてそれぞれ考察し、これらの影響における地域差を明らかにした。地域別に回帰分析を行った際に、各地域のパネルデータ切断面と期間スパンの数量はいずれも10個(N=T)であったため、パネルデータの回帰分析における要求に基づき、中国東部、中部および西部における鉱物資源の開発利用による環境影響について、それぞれランダム効果モデルまたは固定効果モデルを採用して推算した。具体的なモデル選択は、Hausman検定の結果により確定した(表2のとおり)。
表2の第1、3、5項は、さまざまな種類の鉱物資源の開発利用による環境影響の状況を示している。データによれば、東部、中部および西部地域における金属鉱物の環境汚染に対する作用係数はそれぞれ0.160、0.320および0.113で、エネルギー鉱物の環境汚染に対する作用係数はそれぞれ0.200、0.455および0.814、非金属鉱物の環境汚染に対する作用係数はそれぞれ0.132、0.274および0.048であった。地域別に比較すると、中、西部地域における各種鉱物資源の開発利用による環境への作用が顕著であった。中部地域では、金属、エネルギーおよび非金属鉱産物の開発利用が1ユニット増加するごとに、環境汚染もそれぞれ0.320、0.455および0.274ユニット増加した。また、西部地域では、金属、エネルギーおよび非金属鉱産物の開発利用が1ユニット増加するごとに、環境汚染指数もそれぞれ0.113、0.814および0.048ユニット増加した。鉱物資源の種類ごとに比較すると、エネルギー鉱物の環境への作用が最も顕著で、金属鉱物と非金属鉱物の開発利用による環境への作用はこの順に弱まった。
表2 地域ごとの鉱物資源の開発利用による環境影響の推計結果
Tab.2 Estimation results of the environmental impact by mineral resources development and utilization in different areas
表2の第2、4、6項では3大地域を観察対象として、産業構造、技術進歩および政府管理の要素が作用を発揮した場合の各種鉱物資源の開発利用による環境汚染への作用をシミュレートした。分析の結果、産業構造、技術進歩および政府管理の要素は、鉱物資源の開発利用においていずれも異なる作用を生じた。3大地域においては、産業構造は環境汚染に正の作用を及ぼし、この作用は中西部地域では顕著であったが、東部地域では弱かった。
つまり、鉱物資源が比較的豊富な中西部地域では、鉱物資源に対する産業発展の依存性が強いために、これにより生じる環境汚染も比較的顕著であるのに対し、東部地域は資源不足地域として、産業構造のレベルアップおよび集約化の進展によって良好な資源環境効果が生じることを示している。技術進歩による作用係数もすべて負の値であったことは、技術進歩のレベルが高い程、環境汚染は逆方向に変化することを意味する。この結果は全国的な推計結果と一致することから、技術進歩は環境汚染の制御においてすでに積極的な効果を表していることがわかる。当然ながら、技術進歩による作用の大きさからいえば、東部地域が最も突出しており、中部および西部地域は相対的に弱い上に、双方の作用程度は同等であった。東部地域は経済発展地域として、環境保護の面でも比較的顕著な優勢を保っており、R&D投資をバロメータとする研究開発努力およびFDIによる技術拡散効果は、中西部地域にとって参考とする価値がある。他方、政府管理による作用係数は、東部、中部、西部のいずれの地域でも負の値であった。つまり、鉱物資源の開発利用において、各地域の地方政府による環境汚染の管理には一定の抑制作用があり、特に東部地域では、政府管理によって資源環境管理職権が良好に履行され、環境品質の改善が促されている。また、中西部地域では、政府管理は環境汚染に対して一定の影響があるが、鉱物資源の開発利用による環境影響に対する政府管理の作用は依然として限定的で、大きな改善の余地がある。この結果は、中西部の一部の地域での鉱物資源の開発利用では、資源利益を追求するあまりに環境保護に対する投資が不足し、環境対策によって政府が機能不良となるため、経済発展モデルの転換が強く望まれるという現実をある程度反映している。
4.結論
本稿では、パネルデータ分析のモデルを運用して、中国における鉱物資源の開発利用による環境影響の全体効果および地域差を検討し、産業構造、技術進歩および政府管理の次元から理論および実証分析を行った結果、鉱物資源の開発利用による環境影響の内在的メカニズムが提示された。主な結論は以下のとおりである。
第一に、全国を対象とした全体的な推計結果によれば、鉱物資源の開発利用活動による自然環境への影響には強いラグ効果があり、過去の環境汚染によって当期の環境影響に明らかな作用がある。環境汚染には歴史依存が存在することは無視できず、ラグ作用は全国および各地域で環境汚染を処理し、環境品質を改善する上で大きな障害となっている。鉱物資源の開発利用による環境影響を制御するには、地域空間の環境収容力、自浄能力の解釈を根拠として、政策選択とプロセス実施には長期性およびターゲット性が必要となる。これは、環境管理の実施における内的要求である。
第二に、鉱物資源の開発利用活動による環境への影響は、鉱物資源の種類によって異なる。エネルギー鉱物の開発利用による環境影響が最も突出しており、金属鉱物がこれに続き、非金属鉱物の開発利用による環境影響は相対的に低い。現段階では、中国としてはエネルギー鉱物の開発利用方法に重点的に注意を払い、エネルギー鉱物の発展計画に環境面からの制約を組み込む必要がある。現在、中国では石炭を主としたエネルギー構造を根本的に転換するのは難しいため、エネルギー鉱物の開発利用による環境影響を減らすためのポイントは、石炭等のエネルギー資源の採掘、転化および最終消費等の段階におけるクリーン化を促し、かつ、石炭のクリーン化利用の促進を契機として、近代的なエネルギー産業システムを構築することである。
第三に、鉱物資源の開発利用によって環境影響が生じるプロセスにおいて、産業構造、技術進歩および政府管理等の要素はいずれも明らかな作用を及ぼしている。産業構造は、環境に正の作用を及ぼし、環境汚染をもたらす重要な原因となっている。鉱物資源の開発利用においては、産業構造のレベルアップに基づいて、産業発展における資源利用方法と環境干渉モデルを転換する必要がある。技術進歩は環境汚染の制御においてすでに積極的な効果をあげている。技術的潜在力をさらに開拓し、技術革新を強化することは、環境対策を推進するための重要な手段である。また、政府管理は環境変化においても積極的な作用を及ぼしている。鉱物資源の開発利用および環境規制において、地方政府がさらに方向性を確定することを奨励し、地方政府による資源や環境のレントシーキング行為を制限し、より実務的な排出削減措置を執行することは、鉱物資源の開発利用による環境影響を効果的に制御する戦略上、必要なことである。
第四に、さまざまな地域における環境影響の構成要素を比較したところ、中国東部地域では鉱物資源の開発利用においては、産業構造、技術進歩および政府管理の3要素による作用がいずれも中部および西部地域を上回ったことがわかった。地域発展の推進という目標においては、東部、中部および西部の各地域では、その地における鉱物資源の開発利用、生態環境の保護、社会経済の発展等の特徴および優勢を把握し、地域協力を強化し、優位性の相互補完を促進し、その土地や時期に応じて、その地域の優位性に資する、資源節約型・環境友好型の生産システムを構築し、生態文明に適合するために必要とされる資源環境のための技術経済革新システムを共に構築することは、中国における鉱物資源の開発利用による環境影響を改善するための重要な任務である。
(おわり)
参考文献
[25] Blundell R., Bond S. GMM Estimation With Persistent Panel Data: An Application to Production Functions [J], Journal of Econometrics. 1998,(87):115-143.
[26] 雷根強, 蔡翔. 所得分配のねじれ、財政支出の都市バイアスおよび都市・農村間の所得格差[J]. 数量経済技術経済研究, 2012,(3):84. [Lei Genqiang, Cai Xiang. The Distortion of Primary Income Distribution, Urban-biased Fiscal Expenditure Policy and Urban-Rural Inequality [J]. The Journal of Quantitative & Technical Economics, 2012,(3):84.]
※本稿は陳軍;成金華「中国鉱産資源開発利用的環境影響」(『中国人口·資源与環境』第25巻第3期、2015年,pp.111-119)を『中国人口·資源与環境』編集部の許可を得て日本語訳・転 載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司