第120号
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ヒューマンロボットインタラクション力覚テレプレゼンス遠隔操作ロボット技術研究(その2)

2016年 9月 9日

宋愛国:東南大学儀器科学・工程学院 教授

研究テーマ:ロボットインタラクションおよび遠隔操作ロボット技術

その1よりつづき)

2 力覚テレプレゼンス遠隔操作ロボットのセンシング技術

 力覚テレプレゼンス遠隔操作ロボットのセンシング技術は、主に2つの面を含む。(1)操作者の運動と姿勢を計測するセンシング技術と(2)ロボットと環境の相互感知における非視覚センシング技術が挙げられる。

2.1 操作者の運動を計測するセンシング技術

 人体の運動の計測装置には、ヘッドマウントディスプレイ(head mounted TV)や外骨格装置(exoskeletal device)、データグローブ(data glove)など操作者の体に固定される計測装置や、人体の姿勢を機械の視覚によって捉える非接触計測装置がある。

(1)頭部の運動位置の測定。操作者の頭部の運動位置を測定する感知装置は通常、方向探知器や超音波測位などの方法を利用して操作者の頭部の運動を計測する。代表的な装置と言えるのがヘッドマウントディスプレイであり、一部のヘッドマウントディスプレイは人の眼球の運動も計測できる。

(2)操作者の身体の運動位置の測定。操作者の身体の運動位置を計測する感知設備には次の2種類が含まれる。一つは、操作者の体全体の運動を測定するデータスーツ。もう一つは、手の部分の運動と位置の測定に用いられる外骨格装置またはデータグローブである。現在の主要な外骨格装置とデータグローブとしてはEXOS Dexterous Hand Master、VPL Data Glove、Immersion Data/Cyber Glove、Mattel Power Glove、5DT Data Glove等がその代表例となる。

 米国EXOS社のDexterous Hand Master(図3)は、外骨格装置の典型例と言える[20]。同装置は、操作者の体に固定された剛性直列リンク機構であり、リンクされた関節の位置は人体の関節の位置に合わせられ、20個の関節を持ち、それぞれの関節には精巧な磁霍爾センサが装着され、手の指の回転角を計測し、角度の分解能は0.1度に達する。

図3

図3 EXOS社のDexterous Hand Master

 データグローブは一般的に、柔らかい材料によってグローブの形状を作り、グローブには柔かい角度センサが装着され、手の指の関節の角度を計測する。データグローブは一般的に、電気抵抗式フレックスセンサと光ファイバー型角度センサの2種類の方式で関節の角度を計測する。Immersion社のData/Cyber Gloveは、18個または22個の光ファイバー型角度センサを備え、分解能は0.5度、質量はわずか84gである。5DT社のData Cloveは、14個の光ファイバー型角度センサを備え、分解能は0.1度、質量は300gである。日本Mattel社のPower Gloveは、プラスチックのポテンショメータ式角度センサによって関節の角度を計測する(図4)。

図4

図4 代表的なデータグローブ

2.2 ロボットと環境の相互感知の非視覚センシング技術

 ロボット非視覚センシング技術には主に、力覚センサと触覚センサがある。力覚センサは、ロボットと目標が接触した際に産出される力とトルクの測定に用いられ、腕力覚センサや指先力覚センサ、関節力覚センサなどがある。触覚センサは、目標と接触した際の圧力分布や表面の形状、振動、温度などの情報の測定に用いられる。

(1)ロボット力覚センサ。現在の研究は主に、各種ロボットの腕力覚センサに集中しており、その典型的な構造は、クロスビーム型弾性体構造(図 5(a))[21]である。国内外で代表的な製品となっているのは、米国A社の一連の6軸力覚/トルクセンサと、中国科学院合肥智能機械研究所と東南大学儀器科学科が共同開発したSAFMS型ロボット6軸腕力覚センサ[22-24]である。

図5

(a)典型的なクロスビーム構造 (b)東南大学の6軸力覚センサ構造 (c)東南大学の開発した6軸力覚センサ

図5 ロボット6軸腕力覚センサのクロスビーム型弾性体構造

 ヒューマンロボットインタラクションの精度に影響するロボット6軸腕力覚センサの主要な問題としては、慣性力の影響が深刻である、軸間の結合における干渉が比較的大きい、体積が大きいなどが挙げられる。

 力覚テレプレゼンス遠隔操作ロボットにおいては、力覚センサの体積の小ささや重量の軽さ、精度の高さが求められ、慣性力の干渉を克服することがとりわけ重要となる。これには構造と計測原理において新たな方法と手段を探求する必要がある。

(2)ロボット触覚センサ。現在多く研究されているのは、光電式・圧電式・半導体容量式触覚センサレイである[25,26]。大多数の触覚センサは長期にわたって垂直抗力の測定にとどまっており、3G触覚センサは一定の進展を実現したものの、その一致性と軸間干渉の完全な解決はまだ難しい状況にある。

 力覚テレプレゼンス遠隔操作ロボットにおいては、触覚センサに対し、面積の大きさや厚みの薄さ、分解能の高さ、一致性の高さ、人類の皮膚に類似した柔軟性などが求められている。

3 テレプレゼンス遠隔操作ロボットの力覚/触覚再現技術

 力覚/触覚再現技術には主に、力覚フィードバック技術と触覚再現技術が含まれる。力覚フィードバック装置は、力覚フィードバック機能を備え、遠隔地のロボットと環境の間の作用力を操作者に感じさせることを可能とする。触覚再現は、遠隔地のロボットが接触した物体の外形の輪郭や触覚の特徴を操作者に再現し、遠隔地の物体を実際に接触したかのような触覚を操作者にもたらす。

3.1 力覚フィードバック技術・装置

 力覚フィードバック装置には主に、力覚フィードバックデータグローブやハンドコントローラー、操縦桿などがある。Immersion社が生産したMasterARM(図6(a))のような力覚フィードバックデータグローブは、関節の上に駆動モーターが備えられ、力覚フィードバックの作用を得ることができる。米国Rutger大学の開発した力覚フィードバックデータグローブ(図6(b))は、ガスポンプを用いて力覚フィードバックを行う。

図6

図6 力覚フィードバックデータグローブ

 ハンドコントローラーは、テレプレゼンス遠隔操作ロボットの力覚フィードバックヒューマンロボット感知インタフェイス装置であり、その作用は、(1)操作者の腕の運動を追跡計測し、人の手の計測結果をマニピュレーターの運動制御指令とする、(2)マニピュレーターと環境との間の作用力と比例する力覚を操作者の手に伝達する――ものと考えることができる。ハンドコントローラーは、同構造式と異構造式の2種があり、異構造式ハンドコントローラーは現在、遠隔操作システムのハンドコントローラーの主流となっている。

 図7[6]は、米国ユタ大学の開発した外骨格式ハンドコントローラーと遠隔操作ロボットである。外骨格式ハンドコントローラーは、比較的早くに発展した同構造式ハンドコントローラーの一種で、その各関節は結び付けられている。その構造上の重要な特色は、人の手と腕の構造と運動に照らして設計され、ハンドコントローラー全体が操作者の腕に固定または連結され、人間の腕の関節の運動を計測すると同時に、人間の肩や肘、腕、手の指の関節にそれぞれの力覚をフィードバックすることにある。

図7

図7 米国ユタ大学の開発した外骨格同構造式力覚フィードバックハンドコントローラー

 米国NASAは、宇宙ロボットの遠隔操作の必要をターゲットとし、1988年、Salisbury/JPL力覚フィードバックハンドコントローラーを開発した。その特色は、6個の直流サーボモーターを置き、重力を均衡させると同時に6自由度の力作用を生み出したことにある(図8(a)[27]参照)。カナダでは、宇宙船外の18mの長大型機械アームの遠隔操作のため、2004年、立体力覚フィードバックハンドコントローラーを開発した。運動空間の大きさに特徴がある(図8(b)[28]参照)。日本は、衛星遠隔操作ロボットのため、Deltaパラレル機構に基づく6自由度力覚フィードバックハンドコントローラー(図8(c))を開発し、ETS-VII衛星上のロボットの遠隔操作に用いている。構造が簡潔で、比較的良好な力覚フィードバック効果を示している[29]。

図8

(a)米国NASAの力覚フィードバックハンドコントローラー
(b)カナダが開発した力覚フィードバックハンドコントローラー
(c)日本が開発した力覚フィードバックハンドコントローラー

図8 典型的な異構造式力覚フィードバックハンドコントローラー

 東南大学儀器科学・工程学院は、さまざまな用途の力覚テレプレゼンス遠隔操作ロボットのため、多種類の力覚フィードバックハンドコントローラーを開発した[30-31]。図9は、2種類の同構造式の力覚フィードバックハンドコントローラーであり、図9(a)は1997年に開発された、宇宙船内のロボット遠隔操作に用いる6自由度力覚フィードバックハンドコントローラーである。図9(b)は、1999年に開発された、遠隔共有実験室のロボット遠隔操作に用いられる6自由度力覚フィードバックハンドコントローラーである。図10は、2種類の異構造式の力覚フィードバックハンドコントローラーであり、図10(a)は、2003年に、ネットワーク遠隔操作ロボットのために開発された6自由度異構造式力覚フィードバックハンドコントローラーHCOIであり、運動空間が大きく、精度が高いという特色を持つ。図10(b)は、2011年に、宇宙船内ロボットの地上遠隔操作所のために開発された7自由度力覚フィードバックハンドコントローラーである。

図9

図9 東南大学の開発した同構造式力覚フィードバックハンドコントローラー

図10

図10 東南大学の開発した異構造式力覚フィードバックハンドコントローラー

3.2 触覚再現技術及び装置

 触覚再現とは、操作者の手に装着される触覚作用設備が、ロボットの触覚センサによって出力されるマニピュレーター・物体間の接触の信号を物理的に再現し、人体の相応する部位を刺激し、遠隔地のマニピュレーターと物体との接触の力や接触の形状、物体の柔かさや模様、温度などの物理的な特性を再現することを指す。

 触覚再現は、形状改変式と表面刺激式の2種類に大別される。

 形状改変式触覚再現は、位置の変化を通じて遠隔地の物体表面とマニピュレーターの接触状態をシミュレーションし、遠隔地の物体の存在とその形状を操作者に直接感じさせるものである。形状改変式触覚再現は初期には、気嚢や気環が採用されていた。例えば触覚フィードバックグローブTeletact Glove Ilは、指と掌のいくつかのカギとなる部位に30個の気嚢をつけ、遠隔地の物体の接触部位と形状の大まかな感覚を操作者に与えるものである。触覚ディスプレイの解像度を高めるためTini Alloy社は、形状記憶合金によって触覚ディスプレイアレイを製作し(図11)、その空間解像度は3mmで、単ポイントの出力は0.2Nだった。英国ハル大学は、電気粘性流体を利用して高密度の触覚ディスプレイを開発し、電極アレイに電場を加えることで、電気流体の特定の部位を硬化させ、その表面に遠隔地の物体の形状をシミュレーションし、受動触覚ディスプレイの効果を達成するもので、その空間解像度は2mmだった。だがこの種の装置は、2000vまたはそれ以上の作動電圧を必要とした。

図11

図11 Tini Alloy社のアレイ触覚ディスプレイ

 表面刺激式触覚再現は、操作者の皮膚表面または表皮神経に気流刺激や振動刺激、電気刺激を加えることで、操作者の相応の位置に接触感覚を生み、触覚再現を実現するものである[32]。振動刺激は、電磁式振動ボイスコイルや圧電材料、SMAなどの多種類の駆動方式を採用している。Immersion社の触覚フィードバックデータグローブCyber Touchは、触覚再現装置として多くの振動ボイスコイルが装着された振動刺激式触覚フィードバックグローブであり、振動を通じてロボットと目標対象との接触部位と接触状態を操作者に感じさせるものだが(図12[32])、振動ボイスコイルはサイズが比較的大きく、高密度のアレイを製作しにくいという難点がある。Telesensory社の開発したアレイ式振動触覚ディスプレイは100個の刺激点を持ち、空間解像度は1.9、3.8mmで、振動周波数は230Hzだった。電気刺激触覚ディスプレイは、表面電極刺激や神経筋刺激、静電刺激の方式によって触覚を産出する。米国ルイジアナ工科大学とウィスコンシン大学が現在研究中のシリコンベース静電触覚ディスプレイは、シリコン上に電極アレイを作り、ポリイミドフィルムを絶縁層としてカバーし、電極に200-600vの電圧を加えると、このシリコンに触った指の表皮に静電吸引力を生じ、相応の位置に接触を感じさせるものである。米国ノースウェスタン大学のColgate教授は2007年、携帯ディスプレイ上に触覚フィードバックを実現するTPad触覚再現システム(図13[32])を打ち出した。これは、ディスプレイ内に内蔵された圧電セラミックスを通じてさまざまな強度の振動を産出させ、操作者の指と接触面との表面の摩擦力を変え、非常に滑らかな感覚から非常に粗い感覚まで操作者に想起させ、異なるパターンのテクスチャーの触覚を再現するものである。この方法は、比較的細かいテクスチャーの触覚を実現できるが、提供される接触面積は小さい。

図12

図12 Immersion社の振動触覚グローブ Cyber Touch

図13

図13 米国ノースウェスタン大学のTPad触覚再現システム

 東南大学儀器科学・工程学院の宋愛国課題チームは、これまで多くの種類の触覚再現装置を開発してきた。2005年には米国ノースウェスタン大学と協力し、弾性梁構造制御に基づく柔性触覚再現装置を開発した(図14(a))[33]。2006年には、運動制御に基づくテクスチャー触覚再現装置(図14(b))を開発に成功し[34]、2008年には、磁性流体に基づく受動触覚再現装置を開発し、大レンジ接触点力覚フィードバックの要求の下での触覚フィードバックを実現した(図14(c))[35]。

図14

図14 東南大学の開発した多様な触覚再現装置

 しかし完全な触覚再現技術は、形状やテクスチャー、表面の柔軟性や温度などの物理的な属性の再現にかかわるため、その複雑性と難度は立体視覚ディスプレイ技術をはるかに上回る満足できる総合的な触覚再現装置は現在に至るまで開発されていない。

その3へつづく)

参考文献

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※本稿は宋愛国「人機交互力覚臨場感遥操作機器人技術研究」(『科技導報』第33巻第23期、2015年12月,pp.100-109)を『科技導報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記 事提供:同方知網(北京)技術有限公司