中国の地熱資源の特性と発展対策(その3)
2016年 9月30日
周総瑛:中国石化集団新星石油公司、国家地熱エネルギー源開発利用研究・応用技術推進センター
博士、教授級高級工程師。主に石油・ガス資源評価、地熱資源評価などに取り組む。
劉世良:中国石化集団新星石油公司、国家地熱エネルギー源開発利用研究・応用技術推進センター
劉金侠:中国石化集団新星石油公司、国家地熱エネルギー源開発利用研究・応用技術推進センター
(その2よりつづき)
4 中国の地熱産業発展対策の提案
中国が近年打ち出している再生可能エネルギー発展政策は、中国の地熱産業の発展に大きなチャンスをもたらし、地熱資源開発利用には「第二の春」が訪れたと言われている。だが中国の地熱資源開発利用は現在、強みとチャンスに恵まれていると同時に、その弱みと挑戦に直面していることも認識しなければならない。強みには主に、▽地熱資源が豊富で、開発の巨大な潜在力がある、▽経済が持続的に成長しており、国家の省エネ・排出削減と気候変動対応への必要から、地熱市場には巨大な需要がある、▽地熱エネルギーは安定した熱源であり、エネルギー利用率は平均73%と最高で、太陽エネルギーの5.4倍、風力エネルギーの3.6倍に達し、CO2の排出削減が際立っている――などがあり、地熱は、現実的で競争力を持った再生可能エネルギーの一種と言える。弱みには主に、▽全国の地熱開発調査の進展が後れており、発見された地熱の熱貯留量規模は小さく、品質も劣り、とりわけ大型の高温地熱田の発見数は少なく、地熱発電などの大規模な開発利用を十分に支えられない、▽地熱利用は、暖房や医療保健、温泉入浴などの直接利用が中心で、地熱発電の比率が低い、▽核心技術体系に改善が待たれており、砂岩の経済的な還元や中低温地熱発電、高温岩体開発利用などの技術でブレークスルーが求められている、▽環境保護の意識が低く、地熱排水の大部分は直接排出されており、環境汚染を生んでいる、▽太陽エネルギーや風力エネルギーなどのその他のクリーンエネルギーと比べると、地熱に対する政策支援の強度にはまだ大きなギャップがある、▽地熱資源の管理が欠けており、対象をしぼった地熱開発の法律法規や産業発展計画が国家レベルでまだ正式に制定されていない、▽高温岩体の開発利用の関連研究がまだ展開されていない――などが挙げられる。上述の主要問題をめぐって、本稿では以下に、地熱産業発展の促進のための5つの対策を提案する。
(1)国家級地熱産業核心技術研究開発プラットフォームを設立する。
中国の地熱資源開発の利用度は低く、地熱発展は依然として初期段階にある。地熱資源の調査や地熱資源と開発区選定の評価、砂岩の経済的な還元、高温地熱井の建造工法、高温岩体のドリリングと破砕熱貯留層の形成、総合カスケード利用、防腐・防垢、効率ヒートパイプと熱交換媒体強化技術、地熱発電などの分野での中国の技術レベルは総体として後れており、地熱産業の核心技術がまだ形成されておらず、地熱産業の発展は制約されている。このため国家地熱エネルギーセンターを拠り所とし、国内外の地熱研究機関や大学、地熱開発企業と協力し、国家級地熱産業核心技術研究開発プラットフォームを設立し、科学技術の革新によってコスト削減と効率向上を実現し、地熱エネルギー利用のモデルプロジェクトを通じて、地熱エネルギー利用のキー技術の産業化プロセスを加速し、国家の地熱エネルギーの開発利用に強力な技術の支えを形成する必要がある。
(2)高温岩体調査開発利用モデルプロジェクト建設を早期に始動する。
高温岩体は、熱エネルギーの埋蔵量が大きく、利用効率が高く、システムとして安定しているという特長を持つ。推測によると、地下3~10 kmの高温岩体は、地球の地熱資源量の90%を占める。このため高温岩体は、最も主要な地熱資源の存在形式であり、高温岩体を開発してこそ、地球の巨大な熱の宝庫を開けることにつながる。
米国は、高温岩体の応用研究を率先して開始した国である。1973年、米国エネルギー省ロスアラモス実験室は、ニューメキシコ州のフェントンヒルで、高温岩体エネルギー応用研究プロジェクト(LASL-HDR)を展開した。世界では現在、多くの国々、とりわけ米国やオーストラリア、ドイツ、フランス、英国、日本などの先進国が、高温岩体の研究と実験を強化し、経済的で有効な、商業化可能な規模の利用手段の探求と発見に努めている(表4)[19-24]。
注:データ源は文献[19] | |||||||
プロジェクト |
類型 |
国家 |
規模/MWe |
発電所類型 |
深度/km |
開発者 |
状況 |
Soultz |
研究開発 |
フランス |
1.5 |
バイナリー |
4.2 |
ENGINE |
運用 |
Desert Peak |
研究開発 |
米国 |
11~50 |
バイナリー |
— |
エネルギー省、Ormat、GeothermEx |
開発 |
Landau |
商業 |
ドイツ |
3 |
バイナリー |
3.3 |
— |
運用 |
Paralana (Phase 1) |
商業 |
オーストラリア |
7~30 |
バイナリー |
4.1 |
Petratherm |
ボーリング |
Cooper Basin |
商業 |
オーストラリア |
250~500 |
カリーナ |
4.3 |
Geodynamics |
ボーリング |
Geysers |
モデル事業 |
米国 |
— |
フラッシュ |
3.5~3.8 |
AltaRock Energy,、NCPA |
一時停止 |
Ogachi |
研究開発 |
日本 |
— |
― |
1.0~1.1 |
— |
CO2実験 |
United Downs, Redruth |
商業 |
英国 |
10 |
バイナリー |
4.5 |
Geothermal Engineering |
資金調達 |
Eden Project |
商業 |
英国 |
3 |
バイナリー |
3~4 |
EGS Energy |
資金調達 |
国外の高温岩体研究は現在、中国の関連部門の重視を受けるようになり、いくつかの研究機関はすでに、高温岩体利用の国際協力研究の一部に参加している。中国における高温岩体の調査開発利用は総体的に空白の状態にある[25]。だが中国の経済発展水準や高温岩体の資源条件、開発利用技術などから考えると、その環境は整っており、国家としてもこの分野でのニーズを持っている。積極的に環境づくりを進め、高温岩体の調査開発利用のモデルプロジェクトの建設をできるだけ早く始動し、後続の開発利用に向けて経験を蓄積する必要がある。モデルプロジェクトは主に、次の5つの分野にかかわる。①高温岩体の資源分布と潜在力を評価し、中国の高温岩体の開発利用に有利な地域を明らかにする。②地球物理調査・識別技術を総合的に運用し、高温岩体の開発に有利な部位を割り出し、ボーリングに用いる高温岩体の試掘井を確定する。③高温岩体の超高温井戸掘削技術。④高温岩体の破砕人工貯留層形成技術。⑤高温岩体効率発電技術。
(3)優遇支援政策を制定し、地熱産業を急速発展の軌道に乗せる。
中国には地熱資源が豊富に存在するが、大部分の資源は品質が低く、中低温資源が中心で、資源の開発利用には、初期投資が大きく、コストが高く、後期の設備維持が困難であるなどの現実的な問題が存在する。経済効果は低く、総体として利益が少ないかほとんどない状態で、一部のプロジェクトは赤字に陥っており、地熱産業の発展は深刻に制約されている。このため国家が専門的な優遇支援政策を打ち出し、強力な支援を与え、地熱産業を急速発展の軌道に乗せる必要がある。支援政策には主に次のものが含まれる。①地熱暖房企業に対して一定の財政補助を与える。地熱暖房の費用徴収の面では現在、大部分の都市は、石炭ボイラー暖房に基づいた費用徴収がなされ、生態効果が無視され、地熱暖房の費用徴収標準は総体として低すぎ、多くの暖房プロジェクトは経済効益が低いために実施できない状態となっている。②地熱発電のオングリッド電力価格の補助政策を制定する。風力エネルギーや太陽エネルギーによる発電のオングリッド電力価格には現在、国家による補助政策が制定されているが、地熱発電には関連優遇政策がない。その他の再生可能エネルギーによる発電のオングリッド電力価格の補助を参考として、地熱発電のオングリッド電力価格の補助政策を制定することを提案する。③地熱流体の還元に対しては、還元井の費用の一定の割合の適切な設備投資資金を企業に投じる。地熱流体還元には一般的に、一つの生産井につき一つまたは二つの還元井が設置されるが(「一採一潅」または「一採両潅」)、生産企業には大幅な枠外のコストがかかる。そのため多くの企業はその負担に耐えられず、排水を直接排出することになり、その結果、環境汚染と資源の急速な枯渇といった状況が生まれている。
(4)地熱流体還元技術を積極的に普及させ、環境を適切に保護し、グリーンで低炭素、無汚染の新エネルギーとして地熱資源を発展させる。
地熱資源の開発利用の環境に対する影響は主に、水質(化学汚染)、水温(熱汚染)、水位(資源問題)の3つの方面に現れている。①水質問題:地熱水には、フッ素や重金属、その他の有害元素が含まれており、排水を処理せずに直接排出すれば、地表水や地下水の水質汚染をもたらす。②熱汚染問題:地熱水の温度は、一回または複数回の利用によって低下するが、地下水と比べればその排水の温度は依然として高い。例えばチベット羊八井熱田の排水温度は70~80 ℃、華北地区の天津や河北雄県の地熱排水は40 ℃以上に達する。地熱排水が地表水に排出されると、地表水の温度は高まり、もともとの温度場の均衡が崩れ、水生生物の正常な生長や水体の機能に影響をもたらすこととなる。③資源問題:地熱資源は往々にして地下深くに埋蔵されており、地下熱水の補給は緩慢で補給量は少なく、還元しないままに長期にわたって採掘を続ければ、地下水位が低下を続けることとなり、地熱エネルギー源の浪費につながるだけでなく、地熱資源の枯渇をもたらし、採掘場の地面の沈下や陥没といった一連の二次地質災害を呼ぶこととなる。
現在、中国の地熱排水の多くは直接排出されており、環境汚染と地下資源の枯渇をもたらしている。地熱流体の還元は、地熱資源保護の実施と持続可能な開発利用の重要な手段となる。地熱流体を地熱貯留層へと還元することで、地熱資源の採掘率を高め、汚染を減らし、安定した熱貯留圧力を保ち、資源の持続可能な利用を維持することができる。
(5)全国的な地熱資源管理法規を早期に打ち出し、中国の地熱資源開発利用の法制化管理を推進する。
地熱資源は、鉱物資源のカテゴリーに属し、中国の鉱物資源分類においては「エネルギー鉱産物」に分類される。現在、地熱資源の調査と開発において国家レベルで実施されているのは、『中華人民共和国鉱産資源法』と『中華人民共和国再生可能エネルギー法』の2本の法規とその付帯法規である[26]。このうち『中華人民共和国鉱産資源法』の付帯法規には主に、『鉱産資源補償費徴収管理規定』『鉱産資源調査区画登記管理弁法』『鉱産物・地下水調査報告審査認可弁法』『鉱産物埋蔵量登記統計管理弁法』『鉱産資源採掘登記管理弁法』『鉱産物調査権・採掘権譲渡管理弁法』『全国地質資料収集登記管理弁法』などがある。
近年、地熱資源の科学的な調査と合理的な開発、有効な保護を進め、地熱資源の採掘行為を規範化し、地熱資源の持続可能利用を保障するため、北京・天津・咸陽などの地方の省市は、『中華人民共和国鉱産資源法』と『中華人民共和国再生可能エネルギー法』、これに関連する付帯の法律・法規に基づき、一連の地方性の法規・政策を相次いで制定・施行してきた。北京市の『ヒートポンプシステムの発展に関する指導意見』と『地熱還元強化と地熱資源保護に関する通知』、天津市の『天津市地熱利用プロジェクト設計標準(試行)』と『天津市地熱還元地上プロジェクト建設標準』、河北省の『河北省地熱資源管理条例』、重慶市の『地熱資源管理強化に関する意見』、咸陽市の『咸陽市地熱資源管理暫定弁法』などはその例である。
中国ではまだ、専門的で全国的な地熱資源管理のための法律・法規は出されていない。いくつかの地方では、現地の地熱管理のための条例または弁法(規則)が制定・施行されているが、打ち出された関連法規と付帯する政策は整備が進んでおらず、一部の条項は実現性に乏しく、一部の条例は管理が硬直的で、操作プロセスが煩雑であるといった問題がある。例えば、地熱資源の採掘権許可証の管理について、一部の地方は、常用されている区画ごとの登記管理規則を採用せず、地熱井ごとに登録し、地熱井ごとに採掘権許可証を取るよう求めているが、生産に大きな不便がもたらされるだけでなく、全体の統一的な計画や地熱井ネットワークの合理的な配置にも不利となっている。また地熱資源の調査権と採掘権の管理について、一部の地方は、地熱資源の調査権許可証手続を地質鉱産物行政主管部門、地熱資源の採掘権許可証手続を水行政主管部門の管理とすることを求めている。さらに一部の地方は、地熱資源の採掘権許可証手続について、すでに調査された地熱資源の採掘は水行政主管部門が取水許可証を発行するとする一方、商業経営のために利用するものは地質鉱産物行政主管部門が採掘許可証を発行するとしている。このような複数部門による管理は、責任の不明確につながり、越権行為や管理不足、相互制約、法執行の重複などの問題をしばしば生んでいる。
地熱資源の調査開発利用を健全で秩序ある発展の軌道に乗せ、地熱の開発行為の拠り所となる規則を提供するためには、全国的な地熱資源管理法規を早期に制定・施行し、地熱資源に対して系統的・科学的・統一的な全面管理を行う必要がある。関連分野には、財政予算や地熱資源開発利用計画、地熱調査権許可証手続、地熱採掘権許可証手続、地熱資源補償費徴収・管理、市場供給価格、環境保護措置、奨励・処罰などが含まれる。
5 結論
中国の地熱資源は豊富で、市場の需要は旺盛で、発展の潜在力は大きく、政府は、地熱資源の開発利用を重視しはじめ、短中期の発展目標を提出している。だが中国の地熱資源の調査・開発利用の程度はいずれもまだ低く、初期投資の不足や核心技術での弱み、国家の総合支援政策の欠如、地熱流体の還元比率の低さによる環境汚染、資源管理体系の不整備などの現実的な問題が存在し、地熱産業発展の進展は大きく制約されている。本稿では、中国の地熱資源の特性と開発利用の現状、直面する問題をまとめ、発展のための具体的な対策を提案した。今後の地熱産業大発展の促進に向け、たたき台の一つとなることを望んでいる。
(おわり)
参考文献
[19] 何金祥. 世界主要発達国家増強型地熱系統応用研究 [J]. 国土資源情報, 2011(8): 49-52, 25. [HE Jin-xiang. Study on application of enhanced geothermal system in the main developed countries. Land and Resources Information, 2011 (8): 49-52, 25. ]
[20] Duchene V D. Geothermal energy from hot dry rock: A renewable energy technology moving towards implementation [R]. World Renewable Energy Congress, 1996: 1246-1249.
[21] Brown D W. Hot dry rock geothermal energy: Important lessons from Fenton hill [C]// Proceedings, Thirty- Fourth Workshop on Geothermal Reservoir Engineering. Stanford University, Stanford, California, February 9-11, 2009: SGPTR-187.
[22] Kuriyagawam M, Tenman N. Development of hot dry rock technology at the Hijiori test site [J]. Geothermics, 1999, 28 (7): 627-636.
[23] Massachusetts Institute of Technology. The future of geothermal energy: Impact of Enhanced Geothermal Systems (EGS) on the United States in the 21st century [R]. 2006: 2-3-2-48.
[24] Kaieda H, Jones R H, Moriya H, et al. Ogachi HDR reservoir evaluation by AE and geophysical methods [C]// Proceedings of World Geothermal Congress 2000. Japan. 2000.
[25] 冉恒謙, 馮起贈. 我国干熱岩勘査的有関技術問題 [J]. 探鉱工程, 2010, 37(10): 17-21. [RAN Heng-qian, FENG Qizeng. Some technical issues on hot dry rock exploration in China. Exploration Engineering, 2010, 37(10): 17-21. ]
[26] 陳森森, 劉軍弟, 胡茜茜, 等. 我国地熱資源開発利用立法研究 [J]. 安徽農業科学, 2007, 35(19): 5824-5827, 5979. [CHEN Sen-sen, LIU Jun-di, HU Qian-qian, et al. Study on the legislation of geothermal resources development and utilization in China. Journal of Anhui Agricultural Sciences, 2007, 35(19): 5824-5827, 5979. ]
※本稿は周総瑛,劉世良,劉金侠「中国地熱資源特点与発展対策」(『自然資源学報』第30巻第7期、2015年7月,pp.1210-1221)を『自然資源学報』編集部の許可を得て日本語訳・転 載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司