第121号
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中国の3D印刷業界の発展状況(その1)

2016年10月21日

柳 建:装備再製造技術国防科技重点実験室(北京市) 68129部隊(甘粛省蘭州市)

博士。研究分野は設備部品の付加製造/再製造技術。20編以上の論文を発表。

雷 争軍:68129部隊

顧 海清:68129部隊

李 林岐:68129部隊

要約:

 3D印刷は、その材料の節約および省エネ技術という特徴が中国の持続可能な発展戦略に合致するため、中国ではさまざまな分野から広く関心を集めている。本稿では、中 国の3D印刷業界の発展状況を簡単に紹介したうえで、現存する問題および業界の発展に対する潜在的リスクについて検討する。そして最後に、各問題の解決に向けた提言を試みたい。

キーワード:3D印刷、発展状況、迅速成形

 3D印刷技術は、またの名を「付加製造技術」とも言い、中国では「快速成形(迅速成形技術)」とも呼ばれる先進的な製造技術である。その基本原理は離散と堆積であり、すなわち、コ ンピュータによるアシストのもとでソリッドモデルに対してスライス処理を行い、3Dソリッドの製造を2Dレイヤーの堆積へと転換して成形方向に向かって不断に重ねあわせることによって、最 終的に3Dソリッドの製造を実現するのである。伝統的な製造方法と比べて、3D印刷には、製造サイクルが短く、成形において部品の複雑度による制約を受けないうえに、材料の節約・省エネである等の長所がある。こ のため、3D印刷技術は中国のみならず海外でも高く評価され、新たな工業革命をリードする、と主張する者さえいる。3D印刷技術はすでに、工業、バイオメディカル、考古学等の分野で広く応用されている [1-4] 。また、一般家庭向け商品の3D印刷設備も販売されている。本稿では、中国の3D印刷業界の発展状況について概括したうえで、同業界に現存する問題を分析し、これを踏まえて発展に向けた提言を行いたい。 

1. 中国における3D印刷業界の現状

 3D印刷技術は、1990年代に初めて中国に導入されて以来、研究者の間で重視されてきた。3D印刷設備にはじまって印刷材料の研究開発に至るまで、また、3 D印刷と伝統的な成形技術の結合による複合成形技術に至るまで、中国ではいずれの分野においても研究が進められた。3D印刷の材料節約・省エネという技術的特徴は持続可能な発展戦略と一致することから、中 国では最近、3D印刷ブームが起きている。このため、多くの企業のみならず、地方政府も相次いでこの業界に参入している。

1.1 高等教育機関および研究機関

 高等教育機関および研究機関は、先進的技術の発信源や先駆者になるケースが多い。なかでも清華大学は、中国で最も早く迅速成形技術の研究に着手した機関のひとつであり、レ ーザーおよび電子ビーム等の3D印刷技術の基礎理論や、成形技術、新素材の成形ならびに応用分野のいずれにおいても深い研究がなされている。同大学の顔永年教授は、中 国の3D印刷業界の第一人者と称されているほどだ。同大学は、LOM(紙積層造形)技術による用紙の自主開発を行うとともに、FDM(熱溶融積層法)技術によるワックスの使用や、A BSフィラメントの作製にも成功し、一連の成形設備の開発に成功した [5-7] 。同大学の先進的な成形製造に関する中国教育部重点実験室では、中国初のEBSM-150電子ビーム迅速製造装置の開発に成功し、さ らに西北有色金属研究院と共同で第2世代となるEBSM-250電子ビーム迅速成形システムの開発も行っている。この設備に基づいて、西 北有色金属研究院は電子ビーム迅速成形製造技術と変形制御等の領域で研究を進め、関連の特許申請を行い、チタン合金を使用した複雑なインペラサンプルを製造した [8] 。他方、西安交通大学は、電子ビーム溶融による直接的な金属成形や光硬化成形等の3D印刷基礎技術について研究を行うとともに、LPSシリーズ用の光硬化樹脂の自主開発に成功した。しかし、彼 らの開発した樹脂は、色合いや機械特性の面で優れなかったため、あまり利用されなかった [9-12] 。華中理工大学は、1990年代初期からシンガポールのKINERGY社と共同で、紙積層造形(LOM)迅速成形技術によるZippyシリーズ迅速成形システムを開発するとともに、L OM成形材料の性能に対する試験指標や試験方法を確立した [13-14]

 アーク/プラズマアーク溶着による迅速成形技術は、効率が高いうえにコストが安く、材料の節約が可能であるなどの長所があり、特に大型部品の3D印刷による直接成形に適している。このため、ハ ルビン工科大学 [15] 華中科技大学 [16] 西安交通大学 [17-18] 南昌大学 [19] 天津大学 [20-21] 北京工業大学 [22] 、ならびに装甲兵工程学院 [23] 等の中国の多くの高等教育機関は、当該技術による印刷・成形技術の発展と応用を重視し、システムの構築から部品の直接製造、さらには成形材料の開発に至るまで、深く研究を行っている。また、装 甲兵工程学院の朱勝・研究グループでは、溶接による3D印刷・成形技術を機械の補修分野に応用しており、さまざまな機械の故障部品の再製造に成功している [2]

 レーザーに基づく印刷・成形技術が現在の3D印刷のメイン技術となっており、これには紙積層造形装置(LOM)による迅速成形技術(レーザービームにより薄紙を切削)や、選択的レーザー焼結法( selective laser sintering, SLS)、選択的レーザー溶融法(selective laser melting, SLM)、レーザー直接積層法(laser engineered net shaping, LENS)、直接光製造法(directed light fabrication, DLF)等が含まれる。このうち、LOMおよびSLS技術は主に金型やプロトタイプの製作に、S LM、LENS、DLF技術は主に金型部品の直接製造に用いられる。

 LOM技術で代表的なのは、清華大学華中科技大学(合併前は華中理工大学)である。華中科技大学の史玉昇・研究グループはSLS技術研究で豊富な実績がある。同 大学の開発した1.2m×1.2m立体プリンタ(粉末床レーザー焼結迅速製造装置)は、現時点で世界最大の成形空間を誇る迅速製造設備である。西北工業大学の黄衛東・研 究グループはLENS技術を採用して金属部品を直接製造し、航空機のエンジン・インペラの再製造・修復に成功している [12] 華南理工大学南京航空航天大学四川大学等はいずれもSLMの分野で充実した研究実績があり、特に華南理工大学は設備開発の分野でめざましい成果をあげている。同 大学が2007年に広州瑞通激光科技有限公司と共同で開発したSLM製造機械DiMetal-280は、特定素材の重要性能の面で海外の同種製品と肩を並べる。しかし、成 形プロセスにおける安定性制御や材料成分制御等の面において、海外の商品化設備と一定の差がある [24-25] 中国科学院瀋陽自動化研究所は、シェイプデポジション製造(shape deposition manufacturing, SDM)の原理に基づく金属粉末レーザー成形技術(metal powder laser shaping, MPLS)の研究を行った結果、一定の複雑な外形を持ち、かつ、直接使用の要求を満たす金属部品の開発に成功した。瀋陽航空航天大学レーザー迅速成形実験室 [28] もMPLS分野の研究を行い、すべての密度の金属機能におけるニアネットシェイプ部品の加工成形が可能なシステムの開発に成功した。こ のシステムで加工できる部品の最大成形寸法は200mm×200mm×100mmであり、精度は0.1mmに達する。

 北京航空航天大学は、レーザー堆積成形技術による大型チタン合金製品の成形分野で優れた実績を持つ。同大学の王華明教授は、航空機のメインベアリング構造のレーザー迅速成形を行う一連の機器を開発し、世 界最大の航空機用チタン合金製メインベアリング構造製品の成形に成功した。中国はこのことによって、世界で初めて、かつ、唯一の航空機用チタン合金製大型メインベアリング構造製品のレーザー成形技術を掌握し、航 空機への搭載を実現した国となった。王華明教授はまた、この「航空機チタン合金大型複雑構造部品のレーザー成形技術」によって、2013年の国家技術発明一等賞を獲得している。当該技術はすでに、中国の航空・宇 宙分野で幅広く応用されている。

 最近の報道によれば、合肥工業大学は3D印刷・レーザー再製造先端技術センターを設立し、3D印刷・レーザー溶融設備システムプラットフォームを設置して、ハ イエンド3D印刷製造機器の開発を専門的に行うとともに、3D印刷による直接製造および再製造技術の研究を行っている [29]

 このほか、上海交通大学3D印刷実験室や瀋陽飛行機設計研究所(601研究所)、南京航空航天大学、上海飛行機設計研究所、中航工業北京航空製造工程研究所高出力ビーム加工技術重点実験室、な らびに中国海洋大学、青島大学、青島科技大学、山東科技大学、中国石油大学、瀋陽工業大学、中北大学等の高等教育機関においても、機械制御、製品設計、3 Dスキャンおよび印刷材料の開発等の分野で関連研究が行われている。高等教育機関の研究グループによる関連の研究成果は、3D印刷の大手企業における技術の源となっており、企 業や事業家に技術的なバックアップを提供している。中国有数の3D印刷機器メーカーと高等教育機関との関係、ならびに3D印刷産業における関連状況に関しては、表1にまとめる。

表1 中国の主な3D印刷企業の業務およびそれをバックアップする研究グループ
企業名 研究グループ 3D印刷事業
北京太爾時代科技有限公司
(北京殷華激光快速成形・模具技術有限公司)
清華大学・顔永年研究グループ FDM、SLA技術に基づく設備、ならびに感光性樹脂、ABS樹脂印刷材料の生産
陝西恒通智能機器有限公司 西安交通大学・盧秉恒研究グループ SLA技術に基づく設備ならびに感光性樹脂印刷材料の生産
飛而康快速製造科技有限責任公司 イギリス・バーミンガム大学先進材料設計・加工研究室・呉鑫華研究グループ 高密度・高精度な粉末冶金部品、各種新素材および複雑な部品の研究開発、生産、販売
武漢濱湖機電技術産業有限公司 華中科技大学・史玉昇研究グループ SLS、FDM、SLA、SLM、LOM等の技術に基づく設備の生産
上海富奇凡機電科技有限公司 華中科技大学・王運研究グループ SLS、FDM、SLA等の技術に基づく設備の生産
中科院広州電子技術有限公司 中国科学院広州電子技術研究所 SLA技術に基づく印刷設備の生産
杭州先臨三維科技股分有限公司 浙江大学CAD&CG国家重点実験室 印刷サービスの提供。スキャン、印刷設備の販売および印刷材料の研究開発
西安鉑力特激光成形技術有限公司 西北工業大学・黄衛東研究グループ 高性能かつ緻密な金属部品の製造および修理
中航激光成形製造有限公司 北京航空航天大学・王華明研究グループ 金属部品の印刷サービス

その2へつづく)

参考文献

[1]劉偉軍、迅速成形技術および応用[M]。北京:機械工業出版社、2005.1-10

[2]朱勝、柳建、殷鳳良ら、設備補修のための付加再製造技術[J]。 装甲兵工程学院学報、2014, 28(1) : 81-85

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[7]顔永年、張人佶、21世紀の重要な先進的製造技術--迅速原型技術[J]。迅速原型製造, 2001(2) : 68-71

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[9]劉海涛、趙万華、唐一平、電子ビーム溶融による金属の直接成型技術の研究[J]。西安交通大学学報、2007, 41(11) : 1307-1311.

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[25]楊永強、王迪、呉偉輝、金属部品の選択的レーザー溶解による直接成形技術に関する研究の進展(Newest Progress of Direct Rapid Prototyping of Metal Part by Selective Laser Melting)[J]。中国激光、2011, 38(6) : 1-11.

[26]宋建麗、李永堂、鄧琦林ら、レーザー溶解による成形技術に関する研究の進展[J]。機械工程学報、2010, 46(14) : 29-39.

[27]張海鴎、王超、胡幇友ら、金属部品の直接・迅速製造技術の発展の傾向[J]。航空製造技術、2010(8) : 43-46.

[28]尚暁峰、韓冬雪、于福鑫、金属粉末のレーザー迅速成形技術および発展の現状[J]。機電産品開発およびイノベーション、2010, 23(5) : 14-16.

[29]http://laser.ofweek.com/2013-03/ART-240015-8120-28673256.html.

※本稿は柳建;雷争軍;顧海清;李林岐「3D打印行業国内発展現状」(『製造技術与機床』2015年第3期,pp.17-25)を『製造技術与機床』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記 事提供:同方知網(北京)技術有限公司