第121号
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中国の3D印刷業界の発展状況(その3)

2016年10月28日

柳 建:装備再製造技術国防科技重点実験室(北京市) 68129部隊(甘粛省蘭州市)

博士。研究分野は設備部品の付加製造/再製造技術。20編以上の論文を発表。

雷 争軍:68129部隊

顧 海清:68129部隊

李 林岐:68129部隊

その2よりつづき)

2. 3D印刷技術における問題

 3D印刷技術は、伝統的な製造技術の改善や新素材の応用において、パラダイムシフト的な意義と役割を持つ。このため、第三次工業革命の重要な段階の一つと見なされており、人類の未来の生活のさまざまな分野に大きな影響を及ぼすことが予想される。現在、中国の3D印刷産業は急速に発展しているが、以下のとおり、注意や考察に値する問題も一部に存在する。

(1) 3D印刷自体の欠点。例えば、機器が高価で、原材料やサイズに制約があり、大量生産におけるコスト面のアドバンテージがないこと等がある。

(2) 金属部品への直接印刷技術が未成熟であること。現在、金型やプロトタイプの開発に用いられている3D印刷技術では、FDMやSLA等が最も成熟した応用分野であり、商業化レベルも最も高い。金属部品への直接印刷では、金属材料の持つ高い融点や高い強度といった特性のために、成形プロセスで応力集中や変形等の問題が生じやすいことから、金属部品への直接印刷は難しくなっている。また、これらの要素によって、機器システムの設計や制御にさらに高い要求が突きつけられていることから、システムがより複雑になり、機器価格を引き上げる結果となっている。

表4 中国の3D印刷業界の川下企業および主な業務
企業名 主な業務 備考
中航重機 3D溶接(3D-Welding)技術を採用し、溶接シーム金属によって構成された部品を成形。チタン合金材料を使用。主に航空・宇宙分野、原子力発電分野で応用 中航激光成形製造有限公司の株主。全株式の30%を保有
南風股分 原子力発電設備、火力発電ユニットならびに水力発電、石油化学、冶金、船舶等の業界における大型金属部品の製造および修理 子会社の南海南方風機研究所有限公司が投資を行う「大型金額部品の電気溶解精密成形技術の産業化プロジェクト」は、現在の3D印刷技術ブームの一環
光韵達 レーザー3D印刷事業を精密レーザー技術の総合的応用の一部とすることを計画。3D印刷技術の産業化に向けて努力  
高楽股分 3D印刷のカスタマイズ製造、ネット販売およびモバイルゲーム事業を拡大(深セン支店) デジタル-アナログ設計の分野に秀でる
先臨三維科技 3D印刷サービス、設備の代理販売(ドイツEOS社製品) 中国最大の3D印刷会社を自称する
上海彩石激光科技有限公司 ハイエンド工業基礎部品の直接製造および修理業務 3D印刷の川中企業にも属する
西安鉑力特激光成形技術有限公司 高性能かつ緻密な金属部品の製造および修復 ステンレス15人民元/グラム、アルミニウム合金20人民元/グラム、耐熱合金18人民元/グラム、チタン合金25人民元/グラム、
新松公司 レーザー迅速成形製造技術を利用して、金属部品等を直接的または間接的に製造 レーザー迅速成形システムの開発も並行して実施
華工科技 レーザー3D印刷技術を採用し、工業部品の直接製造および再製造を実施  

(3) 技術の単一性。現在の主流である3D印刷技術はいずれも、レーザーをエネルギー源としている。レーザーには、エネルギー集中度の高さや成形材料の幅広さといった長所があるが、現行のレーザー技術は未成熟なため、システム価格が高く、複雑である等の欠点がある。このため、コストが高く、普及が難しい。

(4) 現行の3D印刷はまだ精度が低く、10ミクロンオーダーには至らないため、印刷製品の後処理が必要となる。

(5) 3D印刷の効率と精度はトレードオフの関係にあるため、高精度は往々にして低効率を意味する。3D印刷のプロセスでは、効率と精度はいずれも積層ピッチと密接に関係する。積層ピッチが小さければ印刷精度は高いが、印刷効率は低くなる。3D印刷における効率と精度のトレードオフは、その技術原理によって導かれる矛盾であるため、根絶は不可能である。

(6) 海外に比べ、中国の3D印刷技術は材料およびソフトウェアの開発、設備等の面でまだ一定の差がある。中国では現在、樹脂やナイロン等の3D印刷の材料は主に輸入に頼っている。また、中国製の設備は、レーザー生成や印刷システム全体における印刷プロセス制御の安定性等の面で、海外製品と大きな隔たりがある。

(7) 現在、中国の一部では3D印刷ブームが加熱し過ぎている。SLAやFDM等の3D印刷技術は導入のハードルが比較的低いうえに、メディアが3D印刷の機能を大げさに報じていることから、消費者の期待が高まっている。また、地方政府も3D印刷産業基地を相次いで建設し、3D印刷科学技術展覧会等を開催することによって、産業発展を後押ししている。このため、中国では企業や事業単位に始まり、個人に至るまで、3D印刷産業への参入が拡大している。中国では現在、多くの3D印刷設備メーカーが存在し、印刷設備がネット通販サイトで大量に販売されている。また、印刷サービスを提供する実店舗やネット店舗も増えつつあり、一部で3D印刷ブームのヒートアップが生じている。さらに、地方政府が先を争って3D印刷技術産業パークを建設しているため、発展の分散や資源の浪費等の潜在的リスクが懸念される。

(8) 過度のカスタマイズによって、資源やエネルギーの浪費が生じる。3D印刷技術は、グリーン生産(環境にやさしい生産)や持続可能な発展の追求という人類の共通認識を背景に生まれたものである。ところが、3D印刷で最も関心を集めた技術的長所は、カスタマイズ生産能力であった。カスタマイズ生産の行き過ぎによって、資源やエネルギーの浪費に結びつくのは必至であるため、3D印刷による資源やエネルギーの節約という技術的長所そのものと相反した状況が生まれている。

3. 3D印刷の発展に向けた提言

(1) 3D印刷技術の研究をさらに進め、特にレーザー印刷以外の技術研究に尽力すること。印刷材料の研究開発を加速し、中国製印刷設備の安定性を高めることによって海外との差を縮め、3D印刷の製造コストを削減する。

(2) 3D印刷の精度向上。設備については、直接使用が可能な部品の利用によって、後処理加工による材料やエネルギーの浪費を削減する。

(3) 再製造分野における3D印刷技術の応用を拡大すること。3D印刷技術の再製造分野における材料節約・省エネという二重の長所を総合的に発揮すれば、リサイクル製品の再生利用が実現できるため、カスタマイズ製造の行き過ぎによって生じる可能性のある資源やエネルギーの浪費というリスクが解決でき、中国の持続可能な発展戦略における目標の早期実現を後押しできる。先日、アメリカ国防総省が発表した計画によれば、3D印刷技術を宇宙における軌道修復に応用することによって、同省のフェニックス計画への支援を目指している。世界3大スーパーの一つであるTescoも、店舗内で3D印刷サービスを提供して印刷商品や損傷商品の修復という消費者のニーズを満たしている。中国では現在、再製造分野における3D印刷の応用は、主にハイエンド設備部品の再製造に限られているため、ミドルエンドやローエンド部品の再製造分野における応用の普及にも力を入れる必要がある。

(4) 今や、コンピュータネットワークは驚くべきスピードで発展している。このため、リモートオンライン3D印刷サービスがすでに登場しており、急速な発展を遂げるのは必然の勢いである。国の関連当局は、その指導的・調整的機能を適切に発揮し、かつ、インターネットの持つ優位性を充分に利用して各地の3D印刷資源の長所を統合する必要がある。また、3D印刷産業の発展のために国家レベルからの設計を行い、3D印刷産業チェーンの構築を促さなければならない。関連措置を制定し、技術規範・基準を整備することによって、3D印刷産業の持続的な発展を促すのである。また、企業や個人の過剰な参入による投資の過熱や、資源・労働力・資金の浪費を防ぐことも肝要である。

4. 最後に

 3D印刷の将来性は明るい。専門家のなかには、3D印刷技術の発展と成熟に伴って、将来的には食品のような簡単なものから、航空機のミサイルやスペースシャトルまで、3D印刷設備ですべて直接的また間接的に製造できるようになると予測する者もいる。3D印刷技術の発展のために尽力すれば、中国では科学技術の進歩が促されるだろう。また、グリーン生産や持続可能な発展戦略における目標の実現に向けて、3D印刷は建設的な役割を発揮するであろう。

(おわり)


※本稿は柳建;雷争軍;顧海清;李林岐「3D打印行業国内発展現状」(『製造技術与機床』2015年第3期,pp.17-25)を『製造技術与機床』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記 事提供:同方知網(北京)技術有限公司