中国の高比率再生可能エネルギー発展の実現のための研究(その2)
2016年11月 9日
白 建華:国網エネルギー研究院
工学博士、高級工程師(エンジニア)、国務院特殊手当専門家。主要研究テーマは、エネルギー戦略・計画、エネルギー・経済・環境・電力総合発展計画など。
辛 頌旭:国網エネルギー研究院
工学修士、高級工程師。主要研究テーマは、エネルギー戦略・計画、新エネルギー送電網接続・運用、技術経済評価など。
劉 俊:国網エネルギー研究院
工学博士、高級工程師。主要研究テーマは、エネルギー戦略・計画、再生可能エネルギー送電網接続、エネルギー貯蔵技術など。
鄭 寛:国網エネルギー研究院
工学博士、工程師。主要研究テーマは、エネルギー戦略・計画、新エネルギー送電網接続・運用、技術経済評価など。
( その1よりつづき)
2 研究の筋道と方法
2.1 研究の筋道
本稿では、エネルギー発展や経済、社会、環境などの要素を総合的に考慮し、多地域・多資源・多次元の電力計画モデルを構築し、中国のクリーンエネルギー発展目標を今後実現するための電源の構造と配置や、全 国の地域間の電力潮流の局面を研究・分析した。総体研究の枠組みは図1に示す通りである。
図1 総体研究の枠組
Fig. 1 General framework
(1)電力計画
多地域・多資源・多次元の電力計画へと従来の電力計画をアップグレードし、多地域の電源配置と地域間電力潮流を統一的に計画し、変動性電源のランダム性と間欠性という特徴を考慮する。入力境界条件は、各 地域の電力需要、各地域の再生可能エネルギーの発展規模と特性、各地域ですでに明らかにされているその他の各種電源発展計画、各種の電源と電力網の技術・経済的特性など。主要な最適化変数は、エネルギー貯蔵( 揚水発電含む)、ガス発電、システム調節にかかわる従来型石炭発電ユニットなどの候補電源、地域間送電の拡張規模など。出力結果は、未来の各基準年次の全国と各地域の電源構造・配置、地域間電力網拡張計画、計 画期の投資・運用コストなどとなる。
(2)生産シミュレーション
確定した電力計画案を土台に、電力システムの稼働状況と運用コスト(外部費用含む)を細かく分析する。入力境界条件は、各地域の電力需要、確定された電源・電力網発展プラン、各種の電源・電力網の技術・経 済特性など。出力結果は、計算基準年次の各発電所(新エネルギー発電所含む)の発電ユニットのメンテナンス計画、稼働ユニットの組み合わせ、シーケンス発電の状況、地域間電力網の運用モデル、運用コスト( 外部費用含む)などとなる。
2.2 電力計画
全社会の電力供給総コストを最低とすることを最適化目標とし、目標関数を以下のように構築する。
式中の各代数は、▽tは電源タイプ、▽zは研究地域、▽iは計画周期、C old,t,i,zはすでに実働中の電源発電容量、▽C out,t,i,zは代替された発電容量、▽ C new,t,i,zはすでに計画されているがまだ稼働されていない電源発電容量、▽H t,i,zは電源利用時間数、▽P t,i,zは単位電力量当たりの全社会コスト、▽γは割引率、▽ y iは第i周期の第1年と計画初期との時間的距離、▽T i,zは地域外との接続路線の集合、▽C k,i,zはサブ地域と地域外との接続路線の最大伝送容量、▽H k,i,zは連絡線の大伝送容量利用時間数、▽ P k,i,zは単位輸送電力量当たりの全社会コスト、すなわちオングリッド電力価格または実地価格、▽Φ i,zはシステムの電力不提供のロス――である。
主要制約条件には以下が含まれる。
(1)発電エネルギー資源の均衡の制約
式中のF Gt,i,zとF Pt,i,z、F It,i,z、F Et,i,z、F Ut,i,zはそれぞれ、発電用燃料総量と現地の生産量、地域外からの調整輸送量、地域外への輸送量、そ の他の産業でのこのタイプのエネルギーの使用量(ストック増量を含む)である。主 に考慮されるのは、石炭と天然ガスの均衡の制約である。
式(3)は、全国の発電用燃料の純輸入量F It,iを考慮し、地域間の燃料総調整量が総体的な均衡を保つ状況を示したものである。
(2)水資源の制約
式中のG C,i,z、C W,i,zはそれぞれ石炭発電容量(空気冷却ユニットと水冷却ユニットを含む)、用水均衡を考慮した後の石炭発電の開発上限容量。
(3)環境空間の制約
式中のE e,t,i,zとE total,e,t,i,zはそれぞれ汚染物排出量(SO 2、NOx、CO 2など)、排出許可上限。
2.3 生産シミュレーション
生産シミュレーションモデルは、与えられた計画案を研究対象とし、計画期内のシステムの運用総費用を最低とすることを目標とする。燃料費C Fや運用メンテナンス費C OM、ユニット始動・停 止費用C Sなどを含む。
主な運用制約条件には以下が含まれる。
(1)電力均衡の制約
(2)運転予備の制約
(3)分区間の送電容量の制約
(4)ユニットのランプレートの制約
式中のP x,n,tとP x,n,tmin、P x,n,tmaxはそれぞれ伝送出力と伝送極限を指す。P z,n,tは、分区nの時間区間tにおける送り出しまたは受け入れ電力を指す。P D,n,tとR D,n,tは分区nの時間区間tにおける負荷と予備を指す。H c,n,i,tは分区nのユニットiの時間区間tにおける熱供給出力を指す。H D,n,tは分区nにおける熱負荷を指す。P c,n,i(up)とP c,n,i(down)はそれぞれユニットiの昇降出力レートを指す。
2.4 主要入力変数
火力発電ユニットの単位発電容量当たりの建造価格は、電力計画設計総院が近年発表した「火電工程限額設計参考造価指標」(火力発電プロジェクト限額設計参考価格付け指標)を参照し、今 後の火力発電技術の変化の傾向を考慮し、3800元/kWとする。
中国の風力発電の単位発電容量当たりの投資額は現在、約8500元/kWで、2020年と2025年までにそれぞれ7000元/kW、6000元/kWに低下すると考えられる。鋼 材などの原材料価格の制約により、2025年以降、風力発電の建造価格はそれ以上下がる余地はないと見られる。
中国の太陽光発電所の単位発電容量当たりの平均投資は現在、約1万1000元/kWで、2020年までと2025年までにそれぞれ8000元/kW、6000元/kWに低下すると考えられる。太 陽光発電の建造価格は技術の進歩に伴ってさらに引き下がると考えられ、2030年以降は5000元/kW前後を維持するものと見られる。太陽熱発電の単位発電容量当たりの投資コストは現在、2 万5000元/kW前後で、2020年には1万5000元/kW、2025年には1万2500元/kWに引き下がるが、その後は低下の余地は少なくなり、2050年には1万2000元/kWとなると考えられる。
揚水発電所の単位発電容量当たりの建造価格は現在、4500元/kWとなっている。揚水発電所の建設地資源は枯渇に向かい、開発難度が高まっており、揚 水発電所の単位発電容量当たりの建造価格は5000元/kW前後に高まるものと考えられる。2030年以降は、新型エネルギー貯蔵技術のコストは経済的に運用可能なレベルに下がり、単 位発電容量当たりのコストは現在の1万2000元/kWから2030年には2500元/kW前後に下がり、安定していくものと見られる。
2.5 分析プロセス
以上のモデルから解答を求めるのは、複雑で大型の非線形の最適化の問題であり、具体的なプロセスは以下のようになる。
(1)電力計画
電力システム計画の計算分析に必要な境界条件とその他のデータを入力し、風力発電や太陽エネルギー発電の典型的な変数を入力データとして選んで、電 力供給の総コストが最低の電源と地域間電力潮流計画の初期プランを確定する。これを土台として、送電元側の地区が、新エネルギーを効率的に吸収することができるかを分析する。効率的な吸収ができなければ、風 力や太陽光の無駄の比較的多い地域のピーク調整電源の建設規模や地域外への送電の規模を拡大する必要がある。さらに送電先側の地区の新エネルギーの吸収状況を計算し、初期計画案における電源構造を調整し、再 生可能エネルギーの効率的な吸収の要求を満たす。地域間の送電容量を固定し、風力発電や太陽エネルギー発電の容量と電力量の効果を確保する計画を考慮して、火力発電とピーク調整電源を最適確定し、電 源計画案と地域間電力潮流プランを含む電力計画案を最終的に確定する。
(2)生産シミュレーション
すでに確定した電力計画案と結合し、電力システムの運用方式と風力発電などの再生可能エネルギー吸収の初期プランを確定する。各時期区分(月または週)の電力需要の予測に基づき、各 種電源の検修周期を考慮し、水力や風力、太陽光による発電量の無駄を最低にすることを目標とし、水力発電や風力発電、太陽エネルギー発電などの季節的な特性や保証容量、有効出力などの指標に基づき、シ ステムの検修計画や稼働機の組み合わせを最適配置し、システムの異なる時期区分のピーク調整能力の分布を最適化し、再生可能エネルギーの発電量の吸収をできる限り増大させる。シ ステムの各種ユニットの運用方式と結合させ、システムの生産シミュレーション分析を展開し、システム運行の経済性指標に基づき、運用方式と再生可能エネルギー発電吸収プランを最適調整する。
(3)結果
電源の構造や配置、地域間電力潮流の局面などの計画を成果として求め、総合的な効果の評価を行う。
( その3へつづく)
※本稿は白建華,辛頌旭,劉俊,鄭寛「中国実現高比例可再生能源発展路径研究」(『中国電機工程学報』第35巻第14期、2015年7月,pp.3699-3705)を『中国電機工程学報』編 集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司