中国製造業の核心的能力、役割の位置づけと発展戦略——「中国製造2025」への評論を兼ねて(その4)
2016年11月30日
黄 群慧:中国社会科学院工業経済研究所所長、研究員。博士課程指導教官
賀 俊:中国社会科学院工業経済研究所副研究員
(その3よりつづき)
四.「第13次五カ年計画」の期間及び未来の中国製造業の機能的位置づけ
中国は五カ年計画において、長きにわたり、第一次~三次産業の構造変化の一般的共通則に基づいて、第一次~三次産業の生産額や就業者比率の関係を産業構造の最適化・高度化の指標と位置づけてきた。ただし、世界各国の過去の経緯に鑑みると、第一次~三次産業には厳密な意味での比率関係は存在せず、とりわけ昨今のように工業化と情報化の融合、製造業とサービス業の融合が進み、産業間の垣根があいまいになりつつある情勢において、統計上の産業規模の数値比率を政策誘導の指標とする意義は薄まりつつある。最適な産業比例関係を追求したり、「産業構造の指標をターゲットとした」産業構造の高度化を図る思考は、その合理性や運用性の基盤が弱まりつつある。事実、産業構造の進化や高度化の本質は、生産率の低いセクターを淘汰し、生産率の高いセクターへの置き換えを段階的に進めて主力産業に育てることにある。近年、中国では第二次産業の相対的な労動生産率は下降しつつあり、第三次産業の相対的な労動生産率は上昇しつつある。これは一定レベルにおいて産業構造の合理化の進展を反映したものである。しかし、2013年現在、中国の第二次産業の労動生産率はなお第三次産業の労動生産率の18.5%を上回っており、第三次産業の比率が上昇しているにかかわらず、全体的な労動生産率が下降するという潜在的な産業構造の「逆クズネッツ現象」が存在しており、これがある程度において中国経済を減速させたとみられている[26]。産業構造の最適化の本質とは生産率の向上である。第一次~三次産業の比率を、第一次~三次産業の構造の合理化や高度化を図る唯一の判断基準とするべきではない。カギとなるのは労動生産率レベルの向上である。
このため、「第13次五カ年」の期間及び更に将来にわたって、中国の第一次~三次産業の構造最適化・高度化の主眼を、これまでの成長を強調した規模の比率関係から、発展を強調した産業の融合・協調に移行させる必要がある。中国の産業発展戦略もまた、その重点を産業間の数値的比率の調整から、産業の質的能力の向上へ移行させる必要があり、発展の軸は産業の生産率向上に置かれる。産業融合の趨勢に的確に適応していくために、今後、中国の産業政策の考え方においては、「産業構造の指標をターゲットとする」従来型の思考を打破し、セクター間の要素の移動に対する政府の介入を排除し、セクターの垂直管理がもたらす産業融合への障害を減らし、産業間の技術融合やビジネスモデルの融合や政策協調を促すことで、第一次~三次産業間及び各産業内部の調和のとれた発展につなげるべきである。具体的な「第13次五カ年計画」の策定に当たっては、第一次~三次産業の構成や生産額、就業者比率を産業発展の「理想形」の目標として打ち出すべきではない。産業構造の数量比率は単なる「実態」の変化であり、第一次~三次産業の発展の質的目標に重きを置くのであれば、労動生産率や技術イノベーションの指標をそのものさしとすることができよう。
「第13次五カ年計画」の期間や更に将来にわたって、産業能力の向上による産業の発展が戦略の重点として強調される中、製造業の機能的位置づけにもまた、大きな変化が生じるだろう。これまでの30年余り、工業は急成長し、第一次~三次産業の中で最大の比率を占めるセクターとなり、常に中国経済の急成長のエンジンとして、経済成長や雇用創出を促す面で重要な役割を果たしてきた。ただし、2013年以降、工業が第一次~三次産業に占める比率はサービス業を下回るようになり、経済が「中高速」レベルの成長率に落ち着く「ニューノーマル(新常態)」の段階へ入った。工業セクター、とりわけ製造業が国民経済において果たす役割も、イノベーションの推進力や高度な要素の媒体としての色彩が濃くなった。世界各国のこれまでの経緯や多くの研究が示す通り、工業化が進むにつれ、工業化の後期では一般的に製造業の比重が下降するものの、製造業はその後も常に国民経済において研究開発活動が最も活発で、イノベーション資源が多く盛り込まれたセクターであり続ける。製造業は、技術革新の主な発生源であるばかりでなく、新たな技術の応用や拡散を担うセクターである。技術革新の発生源という視点から見れば、製造業そのものが技術革新の最も活発なセクターであり、技術革新への投資であれ、研究開発の成果であれ、製造業セクターがほとんどを占めている。技術革新の利用という視点から見れば、製造業は技術の進歩を生産に応用する直接的かつ主要な担い手である。新たな技術を利用する場合、まずは主に製造業で応用されてから、ようやく経済の発展に活用される。技術革新の伝播という視点から見ると、製造業は通常、先進素材、工具設備、新知識の提供を行うことにより、技術革新を他分野へ伝播させる足がかりとなる。農業やサービス業的の技術進歩も必ず、製造業の技術革新をその基盤としている。このため、製造業は技術革新の「土壤」として、「第13次五カ年計画」の期間及び更に将来において、資本を集中させたり雇用を創出したりするこれまでの役割を脱するだろう。これに替わって、新技術のイノベーションや拡散を促し、経済成長の効率化に寄与し、この過程で更に多くの質の高い雇用を創出し、同時に製造業のサービス業に対する牽引効果をより増強する役割を担うことになり、こうした役割は主に生産性サービス業の規模拡張や質的向上に反映され、事実上、「工業の強化」を目的として展開される。
製造業の役割の位置づけの変化によって、将来の製造業を導く考え方が、「構造最適化」から「能力向上」に変わることが決定的になった。先述の中国の製造業の核心的能力に関する分析に基づき、本稿は、将来の中国の製造業の技術力向上について、モジュール構造製品分野という方向性を挙げたい。中国はモジュール型(Modular)製品の改良型開発から、次第にモジュール化(Modularizing)によるブレークスルー型の技術革新能力の向上へシフトしている。現在、中国がモジュール構造製品分野において有する競争力は、先進工業国のメーカーが主導する技術競争の過程、あるいは製品がライフサイクルの「自然の流れ」によりモジュール化段階(成熟段階)に入る過程において、技術獲得・導入によって形成してきた分業やシステムの面での優位性である。将来の中国は、技術力の蓄積や、構造イノベーション・モジュール規格制定の面での主導力強化により、構造イノベーション・コンポーネンツイノベーション・規格イノベーションを通じて製品構造の一体型からモジュール型への転換を「主体的」に促し、技術ライフサイクルや製品ライフサイクルを短縮させ、ひいては主導的なデザインの技術路線を改編することにより、中国製造業の世界の製造業システムにおける挑戦的姿勢や主導権を大幅に高めるべきである。大型の複雑な設備の分野において、中国は独力での技術獲得・開発を堅持しつつ、その中で中国ならではの市場資源の優位性、すなわち国外技術が中国市場に適合しないことでもたらされる優位性や、政府調達面における優位性を十分に生かし、基幹構造イノベーションや統合能力を更に高め、製品開発プラットフォームの整備を絶えず進めるべきである。
一国が有する製造業の核心的能力は、その国のグローバルな製造業競争における独自の資源・能力であり、同時に一国が人類社会や工業文明の進歩のためになしうる「モデル」という形の独特の貢献でもある。過去百年近くに及ぶ工業発展の過程において、米国製造業は科学や先端技術という形で、日本はリーン生産方式という形で、ドイツはプロセス化技術という形で、それぞれ貢献を果たしてきた。今後、中国の製造業がモジュール化や複雑な設備の分野で能力躍進を実現できれば、必然的に、世界の製造業の発展モデルの根本的な調整やブレークスルーを促すことになるだろう。
五.「中国製造2025」の不足点から見る製造業発展戦略の調整
2015年5月19日、国務院は「中国製造2025」を発表した。学術界や管理セクターは、これを将来十年ないしより長いスパンにおいて中国の製造業の発展を導く綱領的文書と捉えている。2012年の時点で、黄群慧はすでに、政府として全体性、体系性、長期性、国際競争性の各方面の要件を満たした「工業強国戦略計画」を制定し、中国の製造業の発展についてその使命、目標、具体的任務、必要条件、推進措置などを明示するべきだと指摘していた[27]。実際に制定された「中国製造2025」の内容を見ると、まさにこのように全体性、体系性、長期性、国際競争性の各面の要件を踏まえた工業強国化プランであることが伺える。このため、「中国製造2025」は中国の工業発展史においても記念碑的な意義を持つ戦略計画であり、中国の製造業が産業政策体系の整備に向けた重要な一歩を踏み出したことの象徴であり、中国の製造業の長期的な発展のために方向性や道筋を示した初の綱領的文書である。「中国製造2025」は、中国の製造業が長期的な発展を前に直面する新たな環境や新たな問題にフォーカスし、将来の新たな技術環境、国際競争環境、国内要素環境において中国の製造業の国際競争力を根底から引き上げることを主眼としたものであり、その目的は産業発展の過程で現れた短期的な困難を解決したり、短期的な成長問題の解決のために投資の動機を提供したりすることにとどまらない。このほか、「中国製造2025」は新たな経済・技術・国際環境において、新たなレベルや視点から、経済・社会の発展に対する製造業の戦略的意義を再認識している。このような背景において、「中国製造2025」は業界の参入、監督管理、金融、財政、税制、サービスシステム構築などのいずれの面でも、従来の産業政策に対して重要な調整やブレークスルーを加えたものとなっている。
「中国製造2025」の重要な意義には評価できる面もある一方、中国の製造業の核心的能力に対する分析という面では、重大な不足点があることも分かる。計画の全体を見ると、依然として従来からの比較優位や産業構造、共通的制度に囚われた思考パターンを脱しておらず、このため、「中国製造2025」は本質的には依然として単なる政策としての側面が大きく、従来の産業計画を焼き直して計画期間を延長したものに過ぎない。長期的に中国の工業強国化を妨げてきた一連の根本的な制約について、「中国製造2025」は言及していない。
(1)最も重要な点は、綱領的な計画である「中国製造2025」が、「もし中国が製造業強国への脱皮に成功するとすれば、その核心的能力となるのは何か?」という根本的な問いに答えていないことである。「中国製造2025」は、スマート製造や「インターネット・プラス」を、将来における世界の製造業の発展傾向や中国の製造業のモデル転換・高度化の方向性を象徴するものと判断してはいるものの、将来における世界のスマート製造の勢力図において、中国のスマート製造の優位性や核心的能力が何であるかは明確に示されていない。「インダストリー4.0」を打ち出したドイツと比べた場合の現在の中国の主な不足点として、工業用ロボット、スマート工場ソリューションなどの細分化された分野では先進技術を掌握した企業が多く出現しているが、ドイツのシーメンス、ボッシュ、SAPなど、サイバーフィジカルシステムや全プロセスデジタル化ソリューションの全体を構築できる総合的な統合システム会社は不在である。このような状況に対して、中国の統合システム企業やシステム統合能力の育成に努力する一方、要素の統合により複雑な製品を開発する能力には長期にわたる蓄積や模索が必要であるという事実を尊重し、モジュール化を推進する工業用IoT技術路線を模索することで、中国のモジュール分野における技術優位性を発揮させることをスマート製造の発展に向けた初期戦略と位置づけ、総合的統合をめざし徐々に優位性を強化するべきである。このほか、ドイツ、日本などのフレキシブル生産体制や従業員の技能を重視した製造形態の優位性と比べ、中国の製造における優位性は、大規模生産や標準化された操作技能にある。このため、フレキシブル生産やカスタマイズ製造の発展に力を入れると同時に、中国のスマート製造においては中国の人口や技能面の優位性を生かせる技術路線を選択することで、スマート製造と大規模生産との効果的な連携により、中国の恵まれたリソースの優位性をより生かしていくべきであり、このプロセスにおいて、中国独自のスマート製造能力を形成すべきである。将来における中国製造業の核心的能力を明確に示せていないため、「中国製造2025」の各部分の内容には整合性が取れていないところがある。例えば、「中国製造2025」は将来に発展の重点を置くべき十大分野を列挙しているものの、中国が経済・社会・国防の発展に際して直面しうる特異的な問題を踏まえた重点分野の発展についての戦略がなく、ましてや複数の分野にまたがる全体的な布陣も示されていないため、従来の選別型の産業政策というステレオタイプからの根本的な脱却は果たされていない。
(2)「中国製造2025」は、製造業の生産効率向上の重要性を認識しているものの、カギとなる分野や業界制覇のための重要技術でのブレークスルーの重要性にのみ目が行くばかりで、中国の製造業全体の生産効率を向上させることの重要性には注目していない。中国の製造業全体の生産効率を高める上で、産業組織の構造の面では中小企業の発展や起業を促す必要があり、次の4つの分野に重点を置いて中国のテクノロジー型中小企業の公共サービス体系を整備することが望まれる。
第一に、「新産業革命」を背景とする中小企業のテクノロジーイノベーションに対する実際のニーズを踏まえ、非営利型または官民協力型、もしくは営業ベースの、ビッグデータ・プロセスデータベース・高性能計算サービスを手掛ける機関の設立を後押しする。このうち、非営利型のサービス機関は、主にテクノロジー型中小企業向けの「ベーシック」なサービスを提供するものとする。一方、官民協力型または営業ベースのサービス機関は、主にテクノロジー型中小企業に「プレミアム」なサービスを提供する。
第二に、大学や研究機関が多くの中小企業向けにベーシックな研究実験施設を開放するよう奨励するとともに、各種テクノロジーサービスプラットフォームによる地域横断的なサービスメカニズムの設置を奨励することにより、中小企業が公共のテクノロジー資源を適切かつ最大限に活用できるようにする。
第三に、国・省・市の三レベルでそれぞれ総合的なテクノロジーサービス機関の設立に尽力する。総合的サービス機関自体がテクノロジーサービスを直接提供するのではなく、主に各種テクノロジー情報やリソースを一元管理することにより、テクノロジー型中小企業と各種テクノロジーサービスとの連携やマッチングを促す。
第四に、テクノロジー型中小企業におけるサービス従事者チームの構築に当たっては、企業家や研究開発要員、エンジニアなど退職した専門職経験者の自発的な積極性を刺激し、専任または兼職、あるいはボランティアの形で非営利型のサービス機関、官民協力組織または非政府組織が展開するサービス活動に参画するよう奨励し、これにより中国の中小企業向けテクノロジーサービスに携わる人材や公共サービスの質の充実を図る。
産業構造という角度から見れば、戦略的新興産業の発展ばかりに目を向けるのではなく、従来産業のモデル転換や高度化にも注目し、とりわけ従来産業と新興産業との融合や相互連携により、核心的能力の普及や強化を促す必要がある。現在、中国全体のイノベーション体系の構築において、先端技術や新興技術におけるブレークスルーの促進を目指している一方、従来産業の構造改革や高度化に関する政策にはあまり力が入っておらず、この面において、「中国製造2025」もまた依然として従来産業を取り巻く政策的思考を脱していない。従来産業は、新興技術や新興産業が発展するための重要な土壤またはプラットフォームであり、新興技術の発展プロセスは、新興技術の従来産業への応用を絶えず図り、従来産業の技術・組織構造に根本的な変革を引き起こすプロセスでもある。新興技術を従来産業セクターに幅広く応用してこそ、投資に対する十分なリターンを獲得して持続的なイノベーションのサイクルを形成する原動力となる。ハイテクは、複雑な現実の環境に応用され、既存の企業と情報感度の高い消費者との相互連動が生じてこそ、試行錯誤の中で完成度を高めていくのである。
(3)製造業発展の環境整備という面において、「中国製造2025」は製造業の発展環境を最適化することの重要性を認識しているものの、中国の製造業の発展環境における最も根本的な問題、すなわち環境整備による製造業の生産効率向上を的確に製造業の高い投資回収率やイノベーションの収益率につなげていくという課題は把握できていない。製造業のイノベーション型投資の回収率を高めてこそ、多くの製造業企業による創造的な活動のインセンティブになり、さらには模索や創造の活動において絶えず核心的能力を構築していくことができる。製造業の発展環境という面では、以下の三つの内容が重要である。
第一に、生産要素の市場化に向けた改革として、金利の市場化、資本市場の開放、農村出身労働者の市民化、資源型製品の価格形成メカニズムの改革などの措置を更に掘り下げ、要素価格が資源配分に対して持つ誘導作用を働かせるとともに、他方でより重要な措置として、要素のねじれによって形成された独占状態や過剰な利益を解消し、製造業の相対的な収益率を高める。
第二に、基礎産業における独占、とりわけ国有企業の行政的な独占を打破し、国有経済における産業構造の大幅な調整に重点を置き、国有経済の産業構造を重化学工業中心から公共サービスなどの分野へシフトさせ、実業セクターにおける独占事業から撤退し、独占的なネットワークセクターのみでの独占に特化させる。
第三に、知的財産権の保護やサービスを着実に強化する。現在、中国の製造業企業、とりわけ中小企業が充分に知的財産権を利用してテクノロジー面の成果を保護したり、技術イノベーションによる収益を獲得したりする上での制約要因としては、知的財産権に関する取り締まりが不十分であることのほか、より大きな問題として、知的財産権訴訟のコストが多大であることが挙げられる。このため、国や各レベルの政府に対し、中小企業の法律事務を扱う公共のサービス機関を設立し、多くの中小企業に知的財産権面の「ベーシック」な法律サービスを提供し、多くのテクノロジー型中小企業の知的財産権保護コストを抑えることを提案したい。知的財産権の保護を強化した上で、技術市場の発展を促すことで、テクノロジー型の中小企業が製品市場に完全に依存するのではなく、技術市場をより活用してオープンイノベーションができるようになる。
(4)産業政策の措置の面では、「中国製造2025」には行政の介入を減らすという点で重要な努力が払われているものの、全体としてみれば、選別型の産業政策体系から機能型の産業政策体系に移行するための改革がなお徹底しきれていない。長きにわたり、中国の産業政策を主導してきたモデルは選別型の産業政策、すなわち投資審査、リストに基づく行政指導、企業への直接の補助金支給といった手段により、ミクロ経済に直接的かつ幅広く介入する手法であった。選別型の産業政策は、萌芽期にある産業の保護や、産業のキャッチアップ開始に当たっては重要な役割を果したが、市場メカニズムを歪曲するものであるため、多くのマイナス影響も残している。将来、中国の従来産業における投資活動が相対的に飽和すると、企業にとってはイノベーションによって新技術、新製品、新業態、新ビジネスモデルを模索することが必要になってくる。産業の発展や技術の発展の不確定性が増せば、政府部門は支援「すべき」産業、企業や製品を正しく選別することが困難になり、政府として「市場メカニズムとの親和性のある」産業政策を構築し、市場制度の整備や市場メカニズムの欠点の補完、市場機能の強化を図る必要が出てくる。産業政策の手段は、ミクロ経済への直接介入を主体とした手法から、市場メカニズムの育成、市場プレーヤーの行動に対する間接的な誘導へ転換していく必要がある。補助金や税制面の優遇といった企業支援政策も存在するが、支援の対象は通常、先端技術や公共基礎技術であり、研究開発や技術規格、市場育成の協同推進が強調され、事後のインセンティブではなく事前の補助金支給が強調されるべきである。また、補助金の規模は過大にするべきではなく、牽引・誘導効果をより大きく発揮させることにより、製造業企業が整った市場競争環境において現地におけるリソース面の優位性や市場での優位性を十分に生かし、独自の核心的能力を形成するよう促すことが望まれる。
(おわり)
参考文献
[26]蔡昉「産業構造の『逆クズネッツ化』の防止」 [N]『第一財経日報』2014-12-31
[27]黄群慧「中国の工業大国としての国情と工業強国戦略」[J]『中国工業経済』2012,(3):5-16
※本稿は黄群慧,賀俊「中国製造業的核心能力、功能定位与発展戦略——兼評《中国製造2025》」(『中国工業経済』第6期2015年6月(総327期),pp.5-17)を『中国工業経済』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司