第122号
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中国沿岸海域の海水水質と海水淡水化利用の研究の進展(その2)

2016年11月29日

方宏達、陳錦芳、段金明、林錦美:
集美大学生物工程学院、集美大学水処理工程研究中心

徐珊、張珍玉: 集美大学生物工程学院

その1よりつづき)

3 東シナ海海域

3.1 東シナ海の水質の理化学的特徴

 東シナ海は、島嶼が最も多い海域であり、上海・浙江・福建および台湾に隣接している。東シナ海海域の水体の平均塩度は31‰~32‰で、東部はわずかに高い34‰である。水温の平均は9.2℃で、冬季の南部の水温は20℃以上となる。邵和賓〔22〕は、東シナ海北部の冬・夏季の浮遊物質濃度の分布の特徴と運搬の法則を研究し、東シナ海北部の浮遊物質の運搬は季節による変化という特徴が際立ち、冬季の大陸棚上の浮遊物質濃度が夏季よりも明確に高いことを発見した。辺昌偉〔23〕は、東シナ海の水体の浮遊物質濃度が沿岸から沖に行くにつれて低くなり、等値線の向きが基本的に海岸線と平行しており、濃度が最大の海域は長江河口と福建・浙江沿岸にあり、濃度が最低の海域は等深線が100mを超える遠海にあることを発見した。東シナ海沿岸の海水温(SST)は、主に太陽放射によって決まり、その分布は南が高く北が低い。だが地理環境や気候環境、水文環境の影響も、異なる程度で受ける。同時に東シナ海沿岸の表層海水温(SST)は総体として上昇傾向にあり、暖冬はSSTの総体的上昇傾向の重要な原因と見られる。全体的に言って、東シナ海の海水の水質は、塩度が高く、温度が高く、近岸の浮遊物質とSDIが高いという特徴を示している。

3.2 東シナ海の海水淡水化の現状

 海水淡水化産業は、上海では始まったばかりで、その発展は比較的おくれている。だが上海は、比較的進んだ海水淡水化技術を持っている。例えば上海電気の低温多重効用海水蒸発技術の日産淡水量は1万2000m3に達する。上海704研究所と711研究所は、比較的進んだ多段フラッシュ蒸留技術を持っている。華東理工大学は、海水淡水化における濃塩水処理技術と、低温多重効用蒸発器の生産においてカギとなる設備「焼結型多孔管ハイスループット熱交換器」の生産技術を持っている。上海はこれまでに、政策を通じて海水淡水化産業を推進することを決定している。これは海水淡水化産業の急速な発展を促すための重要な手段となる〔24〕。浙江省は、国内で最も早く海水淡水化の応用を展開した省である。2011年末までに、浙江に建てられた海水淡水化装置の設計生産能力は11万m3/dで、全国の総生産能力の6分の1を占めている。都市行政における供水目的と発電所の付帯設備が生産能力のそれぞれ50%を占め、生産水はすでに、浙江の主要な海島と一部沿岸の水不足地区の淡水資源の重要な補充となっている〔25〕。現在すでにある大型海水淡水化プロジェクトには、華能玉環発電所、大唐烏沙山発電所、舟山六横発電所、嵊山島海水淡水化プロジェクトなどが挙げられる。華能玉環発電所の海水淡水化プロジェクトは、2006年の試運転から現在まで、安定した安全な稼働を続けており、現在の日産淡水量は3.5万m3となっている。前処理技術には、「海水―マイクロ渦層折畳式反応沈殿槽―浸漬式限外ろ過膜槽―逆浸透」を利用し、通水温度が25℃前後を保つようにするため、淡水化システムの通水ルートには、夏は熱交換のなされていない海水を利用し、冬は循環水を利用するという2つのルートが採用された〔26〕。海島地区である舟山市は、中国で最も早く海水淡水化プロジェクトが建設された地区であり、2011年9月までに建設された海水淡水化装置は20基近くにのぼり、生産規模は5万4000m3/dに足し、海水直接利用量は7×108m3/aにのぼる〔27〕。このうち六横発電所の10万m3/d海水淡水化プロジェクトは、中国最大の海水淡水化プロジェクトの一つであり、前処理プロセスには、「海水―凝集反応槽―傾斜板沈殿槽―マルチメディアメカニカルフィルター―セキュリティフィルター―逆浸透システム」が採用された〔28〕。波浪や長江からの入水の影響を受け、濁度の変化が大きいなどの東シナ海水域の状況に基づき、舟山の各淡水化企業は、濁度の変化する環境において薬剤の添加量と配分を調節する方法を採用し、前処理した海水の水質を安定させ、水生産コストの引き下げをはかっている。

4 南シナ海海域

4.1 南シナ海の水質の理化学的特徴

 南シナ海は、中国大陸部、台湾、フィリピン諸島、大スンダ列島、インドシナ半島によって囲まれている。南シナ海の海域面積は356万平方キロメートルで、そのうち居住者のいない島嶼と岩礁は200を超え、南海諸島と呼ばれている。南シナ海の表層水温は、赤道に近いことから比較的高く、年平均水温は25~28℃で、年間の温度変化は小さい。塩度を見ると、沿岸の淡水注入の影響から、沿岸に近い海域の塩度は比較的低く、中・南部海域の塩度分布は32.0‰~33.6‰で均等性が比較的高い。塩度の最高値は次表層に出現し、35‰に達する。郭敬ら〔29〕は、南シナ海の混合層の塩度の年次変化とENSO現象との間に強い関係があることを発見した。エルニーニョ期間には南シナ海北部の塩度は上昇し、南シナ海中部・南部の塩度は低下し、「北強南弱」の空間的状況を呈する。このうち南シナ海北部の冬季の最高塩度は33.8‰~34.4‰、南シナ海南部の秋季の最低塩度は32.8‰~33.0‰である。楊海麗ら〔30〕は、海南西部の近海海域の表層水体の濁度と浮遊顆粒物の濃度が、沿岸水域から沖へと離れるに従って徐々に低下することを発見した。底部の水体の濁度と、浮遊顆粒物の体積濃度の値の高い地区はまだら状に分布しており、水体の濁度と浮遊顆粒物体積濃度は、水深が増すにつれて増大した。全体的に言って、南シナ海海域には、温度が高く、塩度が高く、沿岸水域のSDIが高いという特徴が見られる。

4.2 南シナ海の海水淡水化の現状

 南シナ海域においては、香港地区の海水利用技術が世界のトップレベルにあり、トイレ洗浄への海水利用の規模は世界最大となっている。2006年末までに、香港の海水取水所は29カ所、総生産量は173万m3/dに達している。香港の総人口694万人の80%を占める555万人が海水の供給を受けている。統計によると、トイレ洗浄への海水利用は一人あたり約70L/dに達している。トイレ洗浄への海水利用は住宅用水の最高で40%を節約することができ、香港全体の平均海水利用量は80万m3/dに達する〔31〕。海水淡水化研究の面では、香港はこれまでに、鴨脷洲と屯門の小型海水淡水化試験プロジェクトの建設を終えている。現在建設中の軍澳海水淡水化プラントの竣工後の供水量は5000万m3/aと見込まれている。広東省では、火力発電所と原子力発電所の工業冷却水としての海水直接利用がすでに一定の規模に達している。2009年には、淡水化技術応用事業を行う企業は80社余り、逆浸透・電気透析淡水化設備の生産に従事する企業は23社を数え、逆浸透技術を主体とした海水淡水化技術産業群がすでに初期的に形成されている〔32〕。2012年末までに、広東省の一日の淡水化量は3.08万m3に達し、全国第6位につけている。すでにある海水淡水化プロジェクトとしては、平海発電所、国華台山発電所、恵来発電所、恵州平海発電所などが挙げられる。このうち恵州平海発電所は2009年に運用開始となり、現在の海水淡水化量は1万6704m3/dで、その前処理技術は、「海水―傾斜板沈殿槽―清水槽―AMIADネット式自動洗浄フィルター―限外ろ過装置」である。南シナ海に隣接する深セン市では2005年、発電所で使用される冷却水の海水利用量が73億m3に達している。海水は淡水化後、住民の生活飲用水とトイレ洗浄用水に主に使われており、海水淡水化技術は、深セン市の淡水資源不足の局面を大きく緩和した。

5 中国の海水淡水化の発展の見通しと提案

 総体的に言って、中国の海水淡水化技術は日増しに成熟し、海水淡水化設備の自前の開発・設計・製造ですでに一定の土台を築いており、海水淡水化プロジェクトの設計・建設・運営管理でも一定の能力と経験を備えている。このほか国家レベルでは、中央政府と各級地方政府は、海水淡水化を重視し始め、計画や政策を通じて海水淡水化市場を積極的に指導・規範化し、沿岸各地と社会各界は、海水淡水化事業の展開を積極的に推進している。2012年末までに全国ですでに建設された海水淡水化プロジェクトは95カ所にのぼり、淡水化の総規模は日産77.4万m3に達している。このうち天津と河北、浙江、遼寧、山東の一日平均の淡水生産量は全国を率いるレベルにある〔33〕。このように海水淡水化産業は新興産業として広大な見通しを持っているが、ここ10年の発展の程度を考えると、中国の海水淡水化には依然として一定の問題が存在していることがわかる。中国「海水利用専項規劃」は、2010年には海水淡水化装置の産水量を80~110万m3/dとするとしている。このため現在の全国の海水淡水化装置の産水量(77.4万m3/d、2012年)と計画値の間には一定の距離がある〔34〕。このほか海水淡水化プロジェクトの技術の面でも、いくつかの際立った問題が存在する。例えば海水淡水化装置の核心となる設備と技術は依然として米国やドイツなどの国が握っている。海水の原水と生産水の衛生標凖はまだ規範化されていない。さらに濃縮海水の排出問題などもある。

 これらの問題をターゲットとして、筆者は、次のような提案と意見を提示する。

5.1 海水の原水と生産水の水質標凖の制定

 海水の原水の水質は、海水淡水化の前処理プロセスやその後の脱塩淡水化プロセス、運営コストに大きな影響を与えるだけでなく、飲用を中心とした心理的な受け入れにも重大な影響を生む。現在、淡水原水水質評価は主に、「生活飲用水水源水質標凖」(CJ3020--1993)を根拠としている。この標凖は、都市・農村の集中型生活飲用水の水源水質に適したものであり、淡水化のための海水の原水には相応の標凖がない。中国国家海洋局が発表した「2012年中国海洋環境状况公報」によると、中国の海洋環境の質の状况は総体として良好だが、沿岸海域の水体汚染や生態悪化などの環境問題は依然として際立っており、このうち「第一類海水水質標凖」に到達しない海域の面積は17万km2に達し、4類の水質標準に届かない沿岸海域の面積は約6.8万km2に達している〔35〕。このため海水淡水化事業の推進のためには、海水水源の水質標凖の制定が焦眉の課題となっている。このほか現在は、飲用水の衛生評価も主に、「生活飲用水衛生標凖」(GB5749--2006)に基づいて行っている。同標凖は、飲用水の安全を基点とし、原水は地表水と地下水であることが前提にされており、有害・有毒な汚染物の最大値制限指標が中心となっている。海水の淡水化では、生産水が弱酸性を示し、有益な鉱物塩を欠いている。そのため一般的に、淡水化された海水には後続の鉱化処理を行い、ミネラルの含有量とアルカリ性を高める必要がある。だが現在、生活飲用水の標凖においては、人体の健康に有益となる指標の最低値制限が欠けており、海水淡水化水の水質を全面的に評価することが難しくなっている。このため海水淡水化水の水質の特徴に基づき、相応の海水淡水化水水質衛生標凖を制定することを提案する。

5.2 エネルギー消費とコストの面での課題

 海水淡水化のコストにおいては、エネルギー消費が决定的な要素となる。現在、海水淡水化の主流技術には、低温多重効用蒸留、多段フラッシュ蒸留、逆浸透法がある。この3種の技術のエネルギー消費は2.5~5kW·h/m3である。コストを考えると、生産水日産2万m3の設備においては、低温多重効用蒸留法のコストが最低で、約0.56ドル/m3となっている。逆浸透工法のコストはこれに次ぐ0.63ドル/m3で、多段フラッシュ蒸留のコストは最も高い0.89ドル/m3である〔36〕。これらの価格は、国内の淡水価格からすると依然として高い。このため大型海水淡水化企業にとっては、自主革新技術を開発して淡水化のエネルギー消費とコストを引き下げることが最大の任務となっている。淡水の実際需要が差し迫り、日産淡水量の需要が数十トンから1千トン以上となる海島にとっては、適用範囲が広く、メンテナンスが簡単であるなどの長所を持つ逆浸透法の普及率がより高い。だがその欠点は、日産淡水量が低ければ低いほど、エネルギー消費とコストが顕著に増加することにある。このため低コストの国産小型高圧ポンプやエネルギー回収装置などの技術を開発し、海水淡水化が小規模で電力料金が高い小型海島の水生産コストを引き下げ、水不足の中小型海島の飲用水の問題を解決することが、沿岸の島と離島の開発や発展に影響する决定的な要素となる。これはまた、中国の海洋経済発展のニーズにも符合している。

5.3 政策管理の面での課題

 海水利用業に対しては、中国海洋経済発展「十二五」(第12次5カ年計画、2011-2015)計画が、「海水淡水化技術の自主化の水準を高め、海水淡水化科学技術の産業化プロジェクトを実施し、産業化技術の政策によるモデル事業を展開し、沿岸の都市や海島による大規模海水淡水化産業モデルプロジェクトの実施を奨励・支援しなければならない」との方針を掲げている。だが現在に至るまで、海水淡水化産業の面では依然として、関連政策による推進と誘導が不足している。一般の淡水と比べると、適切な水価格補助政策の欠如、政府による国民的動員の欠如、庶民の認識や賛同の欠如などの原因から、淡水化された海水は、一般の庶民の家にはなかなか入っていけないのが現状だ。このため、後期の海水淡水化産業化の推進過程においては、先に政策による支援、後に政府による誘導をはかり、その相互作用によって、市場が運営し企業が管理する発展モデルへの前進をはかる必要がある。とりわけ淡水化された海水の都市行政水道網への供給を奨励・支援し、淡水化海水の分級・分質供給モデルを提唱し、海水淡水化水の利用效率を高める必要がある。生産水の価格の面では、政府は、適切な新型水価格のメカニズムと海水淡水化の財政・租税政策を制定し、海水淡水化産業の発展環境を創造・育成し、中国の海水淡水化産業の急速な発展を全面的に推進し、国家の水資源の戦略備蓄の危機を緩和する必要がある。

5.4 濃海水循環利用経済体制の構築

 海水淡水化プロジェクトの建設・稼働の最大の副産物は濃海水である。目現在、濃海水処理の手段としては、直接排出と資源化循環利用の二つがある。濃海水の直接排出の問題については、近年の研究はいずれも、排水における物理的性質の改変と残留化学品の毒性が海洋生物に潜在的な脅威となっていることを指摘している。最近では、「海水淡水化産業の発展加速に関する国務院弁公庁の意見」〔国辧発(2012)13号〕が、「海水淡水化によって産出された濃塩水の臨海・近海の企業による製塩及び塩化学産業への利用を推進・促進する」との方針を明確に示している。このため濃海水化学資源総合利用を展開し、濃海水循環利用経済体制を構築することは、海水淡水化産業の持続可能発展の唯一の道となる。工学プロセスにおいては、濃海水は、従来の塩田による製塩と塩化学工業による製塩とを結びつけて総合利用し、海塩や臭素、マグネシウムなどの産品を生産することができる。また電気透析濃縮製塩を核心とした総合利用などの技術を採用することも考えられる。

(おわり)

参考文献


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※本稿は方宏達、陳錦芳、段金明、林錦美、徐珊、張珍玉「中国近岸海域海水水質及海水淡化利用的研究進展」(『工業水処理』第35巻第4期2015年4月,pp.5-10)を『工業水処理』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司