第123号
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ばれいしょ主食化戦略の意義、ボトルネック及び政策的提案(その1)

2016年12月16日

盧 肖平:国際ポテトセンター副主任兼アジア太平洋センター主任

主な研究分野:国際農業及び農業経済

要旨:

 2015年、中国農業部はばれいしょ主食化業務を重要な政治課題に加えた。ばれいしょの主食化は農業構造の調整を促すばかりでなく、農業の持続可能な発展を実現させ、中国の食料安全を保障し、かつ、国民の栄養構造の改善や食生活の多様化にも貢献する。本稿では、国際的な経験及び実践の見地から、世界のばれいしょ生産及び消費の特徴を分析し、中国でばれいしょ主食化戦略を実施する積極的意義について論じる。そのうえで、消費ニーズや遺伝資源、加工レベル、政策等の階層から、ばれいしょ主食化戦略のボトルネックについて分析し、最終的には消費促進、調整政策、研究開発投資の増加、加工のレベルアップ、国際交流の推進及び主食化の着実な拡大等の視点から、相応の政策的提案を行う。

キーワード:食料安全保障、ばれいしょ、主食、食事構造

 長年にわたる研究、検討及び準備を経て、中国農業部は2014年末の全国農村業務会議で「ばれいしょの発展及びばれいしょ主食化の推進」業務を重要な政治課題に加えることを正式に決定し、2015年初頭にシンポジウム等を通じて広く社会に発信することにした。この知らせは大きな波紋を呼び、じゃがいもが主食となることの是非が熱く議論されることとなった。はたして、じゃがいもの主食化は、中国の食料安全保障や国民生活に錦上花を添える意味があるのか、あるいは雪中に炭を送る効果があるのか、世論をにぎわせ、賛否両論あることから、受け取り方はさまざまと言えよう。

 こうして、ばれいしょの主食化が熱い議論を呼んだことは、食料安全保障や食料消費への関心の表れであり、かつて食料難のころに味わった苦しみがまだ忘れ去られていないことや、食文化や生活習慣に対する執着の反映でもある。とはいえ、莫大な人口をかかえた国や社会にとって見れば、ばれいしょ主食化によって刺激された農業や食料安全保障に対する人々の意識は、新たな時代の農業発展戦略や政策の制定及び実施の後押しとなるだろう[1]。本稿では、国際的な経験や実践の紹介を切り口として、国の推進するばれいしょ主食化戦略の意義や主なボトルネック、政策に関する提案について検討する。

一、ばれいしょは世界で最も重要な主食の一つとしての歴史があり、食料安全保障及び栄養面で重要な役割を果たしている

1. 世界のばれいしょ生産及び生産構造の変化

 国連食糧農業機関(FAO)の統計によれば、2013年における世界の穀物生産量は約24.79億トンで、イモ類の生産量は約8.4億トンであった。これが現在、70億の世界人口をまかなう基本的な主食の総量にあたる。実際には、イモ類の消費はトウモロコシを上回っており、イモ類又はばれいしょは世界第三の主食作物となっている。ばれいしょは主食、野菜及び飼料を兼ね備えた機能があるうえに、バイオマスエネルギーとして潜在性のある作物でもあるため、将来性が大きい。ばれいしょは他の主食作物と比べて耐寒性、耐乾燥性が強く、痩せた土地でも育つために適応性が広い。現在、世界の150以上の国や地域で栽培されており、2013年の世界の作付面積は1946万hm2(平方ヘクトメートル)に、生産量は3.7億トンに達している[2]

 世界のばれいしょ主要生産地域はヨーロッパとアジアである。21世紀以前は、作付面積と栽培規模のいずれから見てもヨーロッパのばれいしょ生産が世界第一で他に大きく水をあけており、アジアが世界第二で、アメリカ大陸とアフリカがそれに続いていた。1993年にはヨーロッパのばれいしょ作付面積は1021万hm2で世界の55%を占め、アジアは578万hm2で世界の32%を占めた。しかし、その後10数年の間に西ヨーロッパの多くの国々では加工用・輸出用品種への生産転換が行われた[3-5]。2005年以降は、アジアのばれいしょ作付面積及び生産量がヨーロッパを上回り始め、世界最大のばれいしょ生産地域になった。2013年、アジアのばれいしょ作付面積が1006万hm2に増加して世界の51.7%を占めたが、ヨーロッパは573万hm2まで減少し、世界シェアも29.4%に減少した(表1参照)。1993年に比べると、ヨーロッパのばれいしょ作付面積の減少分がそのままアジアに移転した構図で、アメリカ大陸やオセアニアのばれいしょ生産規模は基本的に変わっていない[2]

表1 2013年における世界各地域のばれいしょ生産状況
注:FAOデータベースより http://faostat.fao.org/
地域名 面積/万hm2 面積におけるシェア/% 生産量/万トン 生産量におけるシェア/% 単位面積
当たり生産量(t/hm2)
世界平均との比較/%
世界 1946 ----- 36810 ----- 18.9 -----
アジア 1006 51.7 18046 49.0 17.9 -5.3
中国 577 29.7 8899 24.2 15.4 -18.5
ヨーロッパ 573 29.4 11298 30.7 19.7 4.3
アフリカ 201 10.3 3020 8.2 15.1 -20.1
アメリカ大陸 163 8.4 4262 11.6 16.3 -13.8
オセアニア 5 0.2 184 0.5 40.4 113.8

 中国、ロシア、ウクライナ及びインドの4大生産国が世界のばれいしょ作付面積の50%を占めている。このうち、中国が作付面積と生産量のいずれにおいても世界第一で、2013年の作付面積は577万hm2で世界の約30%を、生産量は8899万トンで世界の24%を占めた。

2. 欧米ではばれいしょは長らく主食の一つとして消費されている

 世界人口の約2/3は、ばれいしょを主食として消費している。統計によれば、2011年における世界の1人あたりばれいしょ消費量は約35.0kgである。食用以外にも、ばれいしょは飼料及び加工等の間接的消費分野でも利用されており、2011年の世界のばれいしょ生産量の64%は食用、13%は飼料用で、3.5%は加工分野に使用された(表2)。つまり、直接的消費又は間接的消費のいずれにおいても、食品消費においてばれいしょは重要な位置を占める。

 ヨーロッパでは、ばれいしょは長らく主食として消費されており、「第二のパン」との別名があることからも、食料消費で重要な地位にあることがわかる。歴史的に見ても「ばれいしょがヨーロッパを育て上げた」との言説もあるほどだ。これはアメリカ大陸のばれいしょがヨーロッパに上陸した後、その安定的な生産力によってヨーロッパ人口が激増したためである。しかしながら、19世紀半ばになると、アイルランドではジャガイモ疫病のために大幅な減産となって大量の餓死者が発生し、何百万人もの人々がアメリカ大陸に移住する等、欧米人口の構図が置き換わった。今では、ばれいしょの伝統的な消費地域として、ヨーロッパの1人当たり食用量は84.2kgに達し、世界平均の2.4倍となった(表2)。近年、生活レベルの向上にともなって食品や栄養の多様化に対するニーズも高まったため、ばれいしょの主食としての消費は大幅に減少したものの、依然として高いレベルにある。一方、オセアニアの1人あたり消費量は世界第二で48.0kg、アメリカ大陸が世界第三で36.0kgであり、いずれも世界平均よりやや多い(表2)。

表2 2011年における世界各地域のばれいしょ利用及び消費
注:FAOデータベースより http://faostat.fao.org/
地域 食用/% 飼料用/% 加工用/% 栽培用/% 欠損分/% その他の
用途/%
1人あたり食用量/(kg/人)
世界 63.8 13.2 3.5 8.8 8.5 2.3 34.9
ヨーロッパ 48.4 24.0 2.9 14.3 6.1 4.0 84.2
オセアニア 76.0 4.5 8.5 9.1 1.9 0.1 47.9
アメリカ大陸 80.7 1.1 0.2 7.3 9.0 2.6 36.4
アジア 69.8 9.7 5.1 5.1 9.7 0.6 29.5
中国 65.1 17.0 9.5 3.3 5.0 0.2 41.2
アフリカ 70.6 3.6 0.0 8.3 12.0 5.4 18.7

3. 他の地域でも、ばれいしょの消費は増加傾向にある

 米文化の影響により、アジアのばれいしょ1人あたり消費量は世界平均より低く、30kgに満たない。一方、アフリカの1人あたり消費量は最も少なく、わずか18.7㎏である。数字的にはアジアとアフリカの1人あたり消費量が世界平均を下回るものの、構造的にはアジアとアフリカでは70%が食用で、ヨーロッパの48%を大きく上回る。このため、低所得層の食料安全保障においてばれいしょは重要な役割を果たしている。2005年以降、小麦やコメ等の伝統的主食の価格暴騰を受け、ペルー等の一部の国では、価格の高い輸入小麦への依存を減らすために、ばれいしょ粉を加えたパンの食用を奨励したことが、ばれいしょ消費量を引き上げる結果となった。

 ヨーロッパにおけるばれいしょの食用消費が減少傾向となったのとは逆に、中国ではここ20年来、食用消費量が急速に増加した。これは、人口の持続的増加による総量的効果であり、さらには国民収入の増加による食品消費モデルの転換という構造的効果でもある(図1)。

図1

図1 1961-2011年における中国のばれいしょにおける食用消費の割合と人口の変化[2,4]

 ばれいしょの主食化を早くから行っていた欧米諸国にとっても、食品消費における重要性が日増しに増加したアジア諸国にとっても、さらには伝統的な主食不足の効果的対策となるアフリカ諸国にとっても、ばれいしょは食料安全保障及び栄養面の双方おいて重要な役割を果たす。このため、国連総会において2008年が「国際ポテト年」に決定され、ばれいしょが世界の「未来の主食」として定義されたことは、ばれいしょ産業の発展推進に対する国際社会の高い注目を反映したものであり、世界の主食改革に対する協力について各国間でコンセンサスに達したことを充分に示すものでもある。重要な主食作物又は主食としてのばれいしょの地位は、もはや国際的には議論の余地はない。

その2へつづく)

参考文献

[1] 謝従華, ばれいしょ産業の現状と発展[J]. 華中農業大学学報:社会科学版, 2012(1):1-4.

[2] 盧肖平, 謝開雲. 中国における国際ポテトセンター[M]. 北京:中国農業科学技術出版社, 2014.

[3] Food and Agriculture Organization. FAOstat[EB/OL].(2010-11-01) [2011-11-10]. http://faostat.fao.org.

[4] International Potato Center. Feeding the future: China and the International Potato Center launch new center to boost potato and Sweet potato capacity across China, Asia, and the Pacific [EB/OL]. (2010-12-19) [ 2011-11-10].
http://www.cipotato.org/press-room/press-releases/feeding-the-future.

[5] 鄒藍. ばれいしょと中国西部の発展[J]. 貴州財経学院学報, 2009(3):108-110.

※本稿は盧肖平「馬鈴薯主糧化戦略的意義、瓶頚与政策建議」(『華中農業大学学報(社会科学版)』2015年第3期(総117期)、pp.1-7)を『華中農業大学学報(社会科学版)』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司