第123号
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ばれいしょ主食化戦略の意義、ボトルネック及び政策的提案(その2)

2016年12月20日

盧 肖平:国際ポテトセンター副主任兼アジア太平洋センター主任

主な研究分野:国際農業及び農業経済

その1よりつづき)

二、中国におけるばれいしょ主食化戦略のプラス的意義

1. 伝統的主食作物の生産量は数年連続で増加、これ以上の増産余地は限定的。ばれいしょの主食化により、品種間の構造調整の条件が整う

 穀物需給から見れば、中国の穀物生産量は、1970年代末の改革開放初期の3億トンから2014年には6億トンを超えるまでに増加した。特に、この11年間連続で生産量が増加したことによって、穀物生産量が6億トンを上回ることは新たな常識となり、さらなる継続的増産の余地は少なく、難しくなってきている。このうち、水稲、小麦及びトウモロコシの単位面積あたり生産量はいずれも世界平均を上回り、なかには世界でも高いレベルに達している作物もある。この新たな常識である豊富な穀物生産量によって、品種間の構造調整に向けた条件が整った。人口は継続的に増加している反面、耕地面積と水資源が減り続けているため、持続可能な発展が可能な新たな優良穀物資源の開発が必要とされている。穀物総量の持続的増加を確保し、さまざまな主食品種に対する市場のニーズに応えるために、もともと主食品種の一つであったばれいしょの主食化が議題に上がったことは、国の新たな体制下における農業構造調整及び農業モデルの転換、持続可能な発展及び国家食料安全保障のレベルアップという具体的なニーズと合致するものである。

2. ばれいしょの栽培及び加工は、中西部経済の発展及び小都市・町の発展戦略を推進する国家戦略に合致する

 「脱貧致富(貧困を脱し豊かになる)」という政策目標の必要から見れば、ばれいしょの栽培地域は全国の貧困地域と高い割合で重なり合う。中国の国家級貧困県592県のうち、ばれいしょは549県で栽培されている。これらの地域では、ばれいしょの生産及び生産効率は他の主食作物をはるかに凌駕している。現地住民に対する基本的食料の提供となるのに加え、地域外への販売による良好な経済効果と農民の増収が期待できるうえに、都市化に向けた発展を促進できるためだ。このことは、中西部経済と小都市・町の発展を推進する国家戦略との一致性も高い。「脱貧致富」政策から見れば、ばれいしょ産業の発展に注力することも、良好な政策的選択と言えよう。

3. 資源環境及び持続可能な発展のニーズから見れば、ばれいしょ生産の発展は資源環境の圧力緩和に貢献する

 節水の面から見れば、ばれいしょの最低蒸発係数(水分需要量)はわずか350で生長に必要とされる水分が少ないのに比べ、小麦及び水稲はそれぞれ450及び500であるため、ばれいしょは天水農業の推奨作物になりうる。年間降水量が約350mmの中国西北部の乾燥・半乾燥地帯では穀物類の発育が難しいが、ばれいしょは発育可能なうえに水土流失を減らすこともできる。耕地利用の面から見れば、中国南部にある1億ムーの冬季休耕田を利用すれば、多毛作指数及び土地利用率を引き上げることができるうえに、他の作物の耕地を奪わずとも作付を1回増やし、追加収入を得ることができる。このため、一部の地域では、穀物類の代わりにばれいしょを生産することによって、食料の持続可能な発展に貢献している。

4. ばれいしょ主食化は、中国人の食事構造の調整及びレベルアップに貢献する

 都市人口の消費ニーズから見れば、全国の1人当たり食料消費量400kgという目標は基本的に達成できているため、人々は「お腹いっぱい食べる」ことができている前提で、食事の内容や栄養、健康的に食べることを求め始めている。現在、都市住民のあいだでは、高脂質・高カロリー等の不健康な食事構造によって、体重増加、肥満、高血圧、血中脂質異常症、糖尿病等の慢性疾患の罹患率増と低年齢化が広がりつつあるため、消費スタイルの改善と食事構造の調整が急務となっている。このような中、ばれいしょは他の穀物に比べて栄養が豊富でバランスが取れており、健康に良いことから、ばれいしょ主食化製品の開発は理想的な選択といえる。

5. ばれいしょ主食化は、「食料安全保障」及び「食事・栄養」の充実に貢献する

 ばれいしょ主食化の主旨は、ばれいしょを副食から主食に変え、家庭又は小規模作業場での生産から工場生産に発展させ、米や小麦粉とあわせることによって、じゃがいもマントウやめん類、パン、菓子類等、中国の伝統的な食習慣に合う蒸煮食品の新たな製品を開発することである。先行研究によれば、このような混合型の小麦粉製品は食感が良く、栄養も豊富で、価格も適当なことから、多くの人に受け入れられる新たな主食製品となる可能性が高い。このため、ばれいしょ主食化の主旨及び具体的な成果は、人々が懸念するような食料危機や食料不足時代の再来に備えることが目的ではなく、「主食の不足分をじゃがいもで補う」だけにすぎない。中国の食料自給率95%以上の確保を前提としてばれいしょ主食化を提案することは、消費や栄養面、食事構造に対する人々のニーズに適応するためであり、生態環境や土壌生産力、気候変化等の条件に基づいて農業構造の戦略的調整を適時に実施するためでもある。そして、このことはウィンウィンの成果を生むに違いない。つまり、国家食料安全保障に関しては雪中に炭を送る意味があり、栄養・食事の改善に関しては錦上花を添える効果がある。

三、中国のばれいしょ主食化の制約となる主なボトルネック

1. 伝統的な主食に対する消費者の好みは短期的には変化しがたい。ばれいしょ主食製品へのニーズ不足は重要なボトルネックである

 数千年にわたる伝統的な食文化・食習慣に基づけば、中国人の主食は米と小麦粉が主体である。ばれいしょは主食作物としては長らく脇に追いやられ、野菜や副菜として扱われることが多く、不作の年や貧困地域でようやく一部の集団の主食として扱われる程度であった。近年、ファストフードやインスタント食品の登場に伴い、相当数の消費者がフライドポテトやポテトチップスへの嗜好を示しはじめたが、海外に比べれば、ばれいしょの消費ははるかに少なく、真の意味で主食となるまでには相当の隔たりがある。

 政府主導の戦略的アクションとしては、ばれいしょ主食化の主旨は、国家食料安全保障とともに主食の栄養構造の改善にある。中国の食品消費が生産主導型から市場主導型・消費主導型に転換しつつあることを考慮するなら、ばれいしょ主食化という国家戦略を推進し、主食消費におけるばれいしょの割合を引き上げられるかどうかは、消費者に受け入れてもらえるかどうかにかかっている。このため、蒸煮食品という伝統的食文化に対する国民の根強い消費観念を変えたり、国民の消費習慣や嗜好に適応したりするには、外観・味覚・栄養のいずれにおいても消費者に受け入れられるような、多様なばれいしょ主食製品の開発をさらに進めることによって、はじめて消費が増え、ばれいしょ主食化のボトルネックを解消できよう。

2. 現行の食料生産奨励政策の恩恵をばれいしょは受けていない。ばれいしょ主食化には深刻な政策上のボトルネックがある

 ばれいしょ主食化戦略によって、ばれいしょの主食作物としての位置づけは形式的には明確になったが、相応の調整及び合理化を行わない限り、現行政策はばれいしょ主食化の足かせとなるだろう。

 理由としては、第一に、ばれいしょは現行の食料生産奨励政策の恩恵を受けていないからだ。例えば、2014年の中央財政による農民直接補助政策で、ばれいしょは補助金の対象に入っていなかった。今でも、ばれいしょ優良品種に対する補助金については、主要生産地域を対象にパイロット事業を行っているに過ぎず、普及していない。小麦やトウモロコシ、水稲等の穀物主要生産地域に対しては、国は生産意識向上のために財政支援を行っているが、ばれいしょ生産量は関連の政策基準の対象となっていないことが、ばれいしょ主食化戦略の推進上、明らかに不利となっている。また、国が推進する食料生産機能地域の建設計画においても、ばれいしょ優良生産地域は含まれていない。

 理由の第二は、未加工穀物の換算基準も、ばれいしょ生産に不利であることだ。中国は何年も前に、ばれいしょと未加工穀物の換算基準を伝統的に利用されてきた5:1(すなわち、未加工ばれいしょ5kgは主食1kgに相当)という比率に設定し、この基準に従って、ばれいしょ生産量を未加工穀物に換算し、食料生産量の統計データに加えてきた。しかし、この基準は科学的根拠に欠けているうえに、ばれいしょの品質が改善されて乾燥物質含有量が増加したために、この換算基準の踏襲はばれいしょ生産の奨励には不利となってきた。ばれいしょの換算基準を改めて検討し、適時に調整しない限り、ばれいしょ生産者の意識向上に対するマイナス要因となるだろう。

3. 種イモ及び品種によるボトルネックが、ばれいしょの単位面積あたり収穫量及び生産規模拡大の足かせとなっている。主食化に向けた物質的基盤が脆弱である

 1990年代以降、中国のばれいしょ栽培面積及び生産量は増加傾向にある。2013年の生産量は8899万トンで1998年の5626万トンに比べて58.2%増加し、栽培面積は1998年の406万hm2から2013年には577万hm2まで増加、伸び率は42.1%であった。一方、単位面積あたり収穫量は1998年の13.85トン/hm2から2013年には15.4トン/hm2に増加し、伸び率は11.2%であった。単位面積あたり収穫量の伸び率は、面積や生産量のそれをはるかに下回ったうえに、2013年における中国のばれいしょ単位面積あたり収穫量は世界平均の18.9トン/hm2を20%近く下回った。つまり、中国におけるばれいしょ生産量の増加は主に作付面積の拡大によるもので、生産性向上によるものではない。単位面積あたり収穫量は科学技術レベルを示す重要な指標だが、中国がこの面で優良な成果をあげていない原因は、主に種イモと品種構造のボトルネックによるものであろう。

 詳しく見れば、原因の第一は、良質な無毒化種イモの応用面積が狭いことである。ばれいしょの栽培・生産プロセスにおいては、種イモが無毒化されていない場合には深刻な病害が発生し、結果的に減産となりうる。中国のばれいしょ産業はスタートが遅かったため、種イモに関する行政基準・法規体制が大幅に遅れている。また、基準があったとしても、執行に関する基準体制や監督主体が欠けているため、品質制御システムが健全化されておらず、ばれいしょ種イモ市場の秩序に混乱が生じている。特に、監督体制の欠落が優良種イモの普及上、深刻な足かせとなっている。統計によれば、無毒化種イモの作付けは、先進国では栽培面積の70%以上であるのに比べ、中国では30%前後にとどまっている[2]

 そして、原因の第二は、ばれいしょ品種構造の矛盾である。中国では、ばれいしょ品種開発への投資が不足しているために優良品種に乏しく、特に中国北部向けの耐乾燥品種と南部向けの病害抵抗性品種の不足問題は深刻で、単位面積あたり収穫の向上と規模拡大の足かせとなっている。また、海外に比べ、ばれいしょ専用品種、特に加工向け品種の不足が深刻である。例えば、オランダでは加工向け品種が200種類以上あり、生鮮用、でんぷん加工用、フライ用、全粉用と細分化され、加工の特化レベルが高い。他方、中国のばれいしょ生産及び普及に利用される品種の多くは野菜用品種が主で、ポテトチップス・フライドポテト加工用品種や全粉用品種は少ない。統計によれば、先進国のばれいしょ専用品種は50%以上であるのに比べ、現在、中国の専用品種は6.5%前後にとどまっている。

 つまり、無毒化種イモの使用率が低いことや、品種構造の矛盾等がばれいしょ産業の健全な発展を阻んでいる。ばれいしょ主食化政策の推進のためには、特に種イモおよび品種構造のボトルネックを改善しない限り、ばれいしょ生産量の持続的増加は難しく、脆弱な物質的基盤は改善されない。

4. ばれいしょ主食化製品の製造法が少なく、高度加工技術が遅れていることが、主食化戦略の重要なボトルネックとなっている

 ばれいしょ主食化戦略とは、ばれいしょ全粉等の高度加工製品を中国の伝統食品であるマントウやめん類、米飯、米粉に添加することであり、製品開発や加工技術の革新によって、中国の食習慣に合うばれいしょ主食化製品を開発・生産することである。その例としては、ばれいしょ全粉を一定の割合(35%~50%)で使用したマントウやめん類、米粉、乾めん、菓子類がある。このため、主食化戦略においては、主食食品におけるばれいしょの割合が増加するにつれてその効果が顕著となることから、食料消費における小麦及び水稲等の伝統的な主食作物への依存を減らすことによって、国家食料安全を保障することとなる。

 しかし、実際には、中国のばれいしょ消費の半分以上は生鮮用であり、全粉加工能力の低さが主食化における深刻なボトルネックとなっている。ばれいしょ全粉は粉末状と顆粒状に分類され、主食化戦略で重要な役割を果たしている。しかし、現在の加工技術と設備はレベルが低く、加工規模が小さいため、高品質なばれいしょ全粉に対する市場ニーズをまったく満たすことができず、大幅な不足が生じている。また、単位製品あたりのコストが高いため、中国製品は輸入製品に比べて価格が高い。今後、主食化戦略の推進に伴い、高品質なばれいしょ全粉に対する市場ニーズは高まり、品不足はさらに深刻になるだろう。ばれいしょの高度加工における現在のボトルネックは、科学的に栄養バランスの優れた主食製品の製造技術が少ないこと、加工技術が未発達であること、ばれいしょの主食化に適した加工設備及び専用設備が不足していること等、多方面に及ぶ。ばれいしょの高度加工およびばれいしょ主食製品の加工プロセスにおける技術的なボトルネックが主食化戦略における最大の足かせとなっている。

その3へつづく)

参考文献

[2] 盧肖平, 謝開雲. 中国における国際ポテトセンター[M]. 北京:中国農業科学技術出版社, 2014.

※本稿は盧肖平「馬鈴薯主糧化戦略的意義、瓶頚与政策建議」(『華中農業大学学報(社会科学版)』2015年第3期(総117期)、pp.1-7)を『華中農業大学学報(社会科学版)』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司