第123号
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ばれいしょ主食化戦略の意義、ボトルネック及び政策的提案(その3)

2016年12月26日

盧 肖平:国際ポテトセンター副主任兼アジア太平洋センター主任

主な研究分野:国際農業及び農業経済

その2よりつづき)

四、中国のばれいしょ主食化戦略の推進に向けた政策的提案

1. ばれいしょ主食化に関する宣伝・指導の強化、認識の統一によって、ばれいしょ主食製品の消費に適した社会環境を構築する

 現在、中国の一人当たり国民所得は先進国のなかでもミドルクラスになってきており、食品の消費ニーズも量から質へと変化していることから、食事や栄養構造改善へのニーズも高まりつつある。このため、メディアや専門家へのインタビュー、一般向け講座等の効果的な宣伝方法を大いに利用してばれいしょ製品の栄養価値に関する情報をひろめ、ばれいしょ主食製品の消費を促す社会環境を作り出す必要がある。ばれいしょ主食製品に対する認識を高めることによって、消費者の選択を促し、ばれいしょ主食製品の市場シェアを着実に向上させ、消費者が主食として喜んで受け入れるような食品となるよう仕向けるのである。

2. ばれいしょの生産、加工及び流通をカバーする産業支援政策の構築・健全化を急ぎ、ばれいしょ主食化政策の物質的基盤を固める

 生産から加工、流通に至るまでのばれいしょ産業全体をカバーし、さまざまな関係機関の連携による産業支援政策の構築と健全化を急ぎ、主食化の秩序ある推進を保障する必要がある。

 それには、第一に、ばれいしょを食料直接補助の対象に組み入れるべきである。現在、ばれいしょの生産には、生産条件の悪い痩せた土地で、水資源が乏しく、灌漑条件の整っていない山間区や乾燥・半乾燥地帯等の、人々が目を向けない耕作地が多く利用されているため、単位面積あたり収穫量は低いまま安定せず、増産に向けた潜在性の掘り起こしも不足している。ばれいしょ主食化戦略では、主食作物としての特性を確立するとともに、ばれいしょを現行の食糧支援政策の対象に組み入れるべきである。まずは、ばれいしょを国の食料直接補助の対象に加えることが急務である。この政策によって、ばれいしょの栽培規模増が後押しされるだけでなく、栽培効率の向上と収入の安定増が保障され、地下水の利用超過地域の作付構造調整にも重要な指導的効果があるだろう。

 第二に、ばれいしょの価格安定政策を公布し、生産者意欲を保護するべきである。現在、ばれいしょの生産は中国西北地域に集中している反面、消費市場は東南地域に集中しているため、長距離輸送によるコスト高が商品属性の足かせとなっている。また、ばれいしょは大規模貯蔵に向かず、収穫期には産地で大量に販売されることから、価格の下落や売れ残りが生じやすい。今後、ばれいしょ主食化戦略を推進するうえで、栽培規模の拡大による価格下落が農民に損失をもたらす状況については十分に考慮するべきである。このため、ばれいしょ価格安定化政策の公布が急務である。まずは主産地域における目標価格政策の試験的実施を検討し、財政補助により価格差を補填し、ばれいしょ生産を安定化することによって、主食化に向けて物質的保障を提供することができる。

 第三に、ばれいしょ加工向けの優遇政策の検討・制定、並びにばれいしょでん粉及びばれいしょ全粉を国家戦略的備蓄体系の対象に入れることである。加工原料としては、ばれいしょ供給には季節差があることも、加工企業の生産周期を短縮化し、年間を通じてバランス良く生産するのを難しくしている。ばれいしょ加工企業による加工転化能力及び技術レベルの向上を奨励するために、ばれいしょでん粉加工業を一次農産物加工業の対象に組み入れ、税制優遇政策を行うことを提案する。また、国家主導と企業運営の融合したばれいしょ全粉の戦略的備蓄体制の構築を検討することは、食糧安全保障におけるばれいしょの地位を高めるだけでなく、価格変動リスクを解消する有効な手段となる。

3. ばれいしょ産業と研究界との協力体制を構築し、研究資源配分の最適化を図り、研究投資の優先順序を決定する

 中国のばれいしょ単位面積あたり収穫量は改善できる可能性が高い。現時点では、世界平均に比べて20%近い開きがあり、先進国レベルと比べればさらに余地がある。中国で単位面積あたり収穫量の向上を阻む技術的制約は、主に品種特性、環境、土壌及び気候条件、病虫害等があるが、なかでも品種特性の影響が大きい。

 現時点では、政府、研究機関及びメーカーの共同関与による研究体制の構築が急務であり、優良新品種の選抜育種によるボトルネックの解消も急がれている。育種研究による単位面積あたり収穫量の向上は、中国におけるばれいしょ増産の鍵であり、限られた研究資源の配分を合理化し、研究投資に優先順位をつけることが単位面積あたり収穫量を最大限引き上げるための必要条件となる。ばれいしょ品種の選抜育種、特に良質で、高生産性・病虫害抵抗性・耐乾燥性に優れ、主食化に適した専用品種(高乾燥物質含有量・高たんぱく質)の選抜育種については、今後長期にわたって投資の重点とするべきである。また、中国のばれいしょ栽培においては、無毒化種イモの利用比率が低いことが単位面積あたり収穫量向上の大きな足かせとなっている現状を考えれば、短期的には、既存の優良品種資源を十分に利用し、種イモの育種拡大体制を重点的に支援し、主要生産地域における無毒化種イモの全面普及に向けて尽力し、種イモ品質モニタリングシステムと市場監督システムの構築・健全化を目指すべきである。

 種イモの育種体制及び優良品種の選抜育種を優先的に進めるほか、中国ではばれいしょ栽培面積の拡大にも大きな可能性がある。小麦、トウモロコシ、水稲と耕地を争わないことを前提条件とするなら、ばれいしょ主食化戦略の推進は、水稲栽培を行い、冬季休耕田を持つ中南地域及び西南地域の各省に依存するところが大きい。南方の冬季休耕田を利用してばれいしょを栽培すれば、生産量の大幅増を図れる。このため、今後の選抜育種においては、南方の冬季栽培用ばれいしょ品種、特に早熟品種の選抜育種及び定型化への投資を拡大するべきである。

4. ばれいしょ加工への転化を主な突破口に産業チェーンを拡大し、付加価値を高める

 ばれいしょ主食化戦略の推進は、主に加工への転化による生産拡大と主食としての地位の向上に大きな鍵があり、なかでも加工段階が重要なプロセスとなる。このため、政策設計においては、ばれいしょの加工への転化を有力な手がかりとして、税収や信用貸付等の政策的手段によって、農産物加工メーカーが食習慣に適したばれいしょ主食化製品の加工における重要技術や付属設備の研究開発を進められるよう奨励する。また、ばれいしょ加工メーカーが技術的な改革やレベルアップにより、加工レベルと製品品質を高めることも奨励する。

 具体的には、短期的にはばれいしょの一次加工によって伝統的なばれいしょ製品の消費を維持・向上させる。また、中期的には、ばれいしょの仕上げ加工技術におけるブレイクスルーを重点に、米や小麦粉との組み合わせによる新たなばれいしょ主食製品を生産するとともに、配合比率のバリエーションによって多様な価格帯の製品を生産し、多様な消費グループのニーズを満たし、ばれいしょ主食製品の市場シェアを着実に拡大させる。そして、長期的には、ばれいしょ仕上げ加工技術を目標に、主食としてのばれいしょの消費を徐々に拡大させることを基盤として、仕上げ加工・高度加工によって抽出された栄養成分により健康食品・栄養補助食品又は医薬品を製造することである。

 つまり、政策により、企業がさまざまな加工技術を利用して多様なばれいしょ加工製品を開発するよう奨励し、「加工による消費促進、消費による生産向上」という好循環によって主食化戦略を推進し、ばれいしょの産業チェーンを拡大し、産業の付加価値を高めるのである。

5. 国際協力の強化、並びに対外進出・外資誘致の推進により、中国のばれいしょ産業の国際競争力を高める

 国際ポテトセンター(CIP)は、世界で最も多くのばれいしょの遺伝資源を有する。統計によれば、2013年現在、国際ポテトセンターは10343のばれいしょ遺伝資源を保有しており[2]、同センターの研究グループは、品種資源の保存や分析・評価・利用、遺伝的育種、生産栽培管理、栄養・研究関連の研究分野のいずれにおいても、高いレベルを誇っている。CIPは近年、ばれいしょの高生産性、高効率性及び持続可能な発展をいかに向上させ、経済面や食糧安全保障の面で重要な役割をいかに発揮させるかについて研究している。さらには、ばれいしょ早熟品種の品質向上や穀物生産体制全体における総合的生産力の向上により、アジアの食糧安全保障レベルを高めることを2014年から2023年までの10年間の戦略的発展目標の一つとしている。2010年、CIPが中国政府と共同で国際ポテトセンター・アジア太平洋センター(以下、アジア太平洋センター)を設立したことは、中国とCIPの協力体制における地理的なアドバンテージとなった。今後、中国のばれいしょ主食化戦略を推進するなかで、CIP等の機関との国際協力を強化し、彼らの豊富な品種資源や知的資源を十分に利用して、加工専用品種の選抜育種に力を入れる必要がある。このことは、中国の特色あるイモ類作物主食化戦略におけるアクチュエーターとなるだろう。

 外資導入によって国内の産官学体制を強化するとともに、対外進出についても積極的に検討し、国内におけるイモ類研究や生産の優位性を海外に拡大させることによって、中国独自の製品を開発し、ばれいしょ産業の国際競争力を高める必要がある。

6. ばれいしょ主食化戦略を着実に普及させ、イモ類作物の主食化戦略にまで拡大させる

 世界情勢、国内情勢のいずれから見ても、サツマイモもまた可能性の高い主食作物である。中国国内の栽培面積はばれいしょに及ばないものの、生産量は同等で約1億トンあり、ばれいしょとともにイモ類作物の双璧といえよう。世界の総生産量においても約80%を占めることから、ばれいしょ主食化を推進するなかで、サツマイモも政策の一環に入れるべきであろう。

 サツマイモは栄養が豊富で、抗がん性やアンチエイジング等の機能があることから、WHOの推奨する健康食品の上位に名を連ねる。サツマイモの生産特性はばれいしょと同様で、地域分布にのみ違いが存在する。サツマイモのほうがより耐熱性、耐乾燥性が強いため、長江流域や長江以南での栽培に向いており、ばれいしょ栽培地域と相補関係にある。このため、イモ類作物の主食化戦略の対象にサツマイモも含めれば、戦略の全面性が高まり、さらに科学的で現実的な提案となろう。

(おわり)

参考文献

[2] 盧肖平, 謝開雲. 中国における国際ポテトセンター[M]. 北京:中国農業科学技術出版社, 2014.

※本稿は盧肖平「馬鈴薯主糧化戦略的意義、瓶頚与政策建議」(『華中農業大学学報(社会科学版)』2015年第3期(総117期)、pp.1-7)を『華中農業大学学報(社会科学版)』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司