中国水産養殖業の地域集積の特徴と空間発展メカニズム(その1)
2016年12月28日
概要:
「立地ジニ係数」「立地係数」「産業集中度」「地区平均産業集中度」の4つの指標と動学的パネルモデルを運用し、中国の水産養殖業の地域集積の特徴を研究し、地域集積の発展メカニズムを検討した。これによると、1978年から2013年までに、中国の水産養殖業は急速な発展の傾向を示した。魚類は水産養殖業の主体だが、発展速度が最も急速だったのは貝類であった。1997年から2012年までの中国の水産養殖業は顕著な地域集積の特徴を示し、このうち貝類の集積水準が最も高く、魚類の集積水準は最低だった。だが水産養殖業の集積水準は絶え間ない低下の傾向を示している。水産養殖業の空間発展から見ると、中国には、東部沿岸の海洋水産養殖帯と内陸長江沿いの淡水水産養殖帯が存在し、水産養殖業には南北での差異という顕著な特徴がある。南方地区は、水産物総量と魚類・甲殻類生産量において北方を上回っているが、貝類生産においては北方に及ばない。水産養殖業には顕著な東西での差異という特徴も存在し、800mmと400mmの等雨量線を境界として、水産養殖条件の「優越区」(>800mm)、「一般区」(400mm~800mm)、「制約区」(<400mm)の3類に全国を分けることができる。水産養殖業の空間集積発展メカニズムから見ると、各地の資源賦存の優位性によって基本的な空間的局面が決定され、技術水準の向上や消費の高度化、政策による推進、市場利益による駆動が、海水養殖と淡水養殖の発展局面の変化を推進していることがわかる。
キーワード:水産養殖業;地域集積;空間発展メカニズム;動学的パネル;中国
中国は、世界最大の発展途上国であり、人間が多く土地が少ないことはこの国の基本的な国情となっている。人々の食物消費の高度化や国家の食糧安全の保護という発展の必要性を満たすため、中国は長期にわたり、耕地資源を過度に利用してきた。「全国農業持続可能発展計画(2015--2030)」は、「中国農業における投入品の過多、地下水の過剰採取、陸地農業資源の過度の開発などの長期にわたる一連の問題はすでに、中国農業の持続可能発展が直面する重大な挑戦となっている」と明確に指摘している。淡水・海洋水産物は、人類の動物タンパク質の重要な源泉の一つであり、30年余りにわたって、生産と消費のどちらから見ても、中国の水産養殖業は急速な発展を遂げ、その提供するタンパク質とカロリーが国民の栄養摂取量に占める割合は着実な増加の傾向を示しており[1]、中国の都市・農村住民の食物消費高度化という発展の必要性をよく満たしてきた。このため陸域生態系が巨大な圧力を受け、人々の食物消費高度化の必要性を持続的に満たすことが困難であるという条件において、陸域空間を飛び出し、中国の豊富な淡水・海洋資源を十分に利用し、水産養殖業を大きく発展させることは、中国の陸域生態系の保護と国家の食糧安全の保護に対して重要な意義を持っている。
産業地域集積とは、産業の空間的な分布を指し、規模の経済を実現する重要な条件であり、産業発展の促進に重要な役割を果たす[2]。Rosenthalは、規模の経済は、産業・空間・時間の3つの次元から効果を生み、自然の優位性と市場、消費、レントシーキングが産業集積形成の重要な原因となっていると指摘した[3]。農業の産業化と農村の都市化の発展プロセスの加速に伴い、中国の農業の発展には、地域化・大規模化・集積化という特徴が絶えず出現するようになった。このため農業発展の地域集積とその空間発展は人々の関心を呼んでいる。李二玲らは、進化経済地理学の視点から中国農業の地域集積現象と発展メカニズムを研究し、中国農業の空間集積度の増大は地域の特化と多様化を呈しており、社会活動の集積は農業生産集積においてますます大きな役割を発揮していると指摘した[4]。農業のさまざまな生産部門の地域集積研究に目を向けると、栽培業の地域集積の問題に極めて大きな関心が集まっている。これまでの研究によると、中国の栽培業の地域集積現象は日増しに際立ち、栽培業の地域における特化が徐々に形成され、ターニングポイントの特徴が顕著となっている。このうち経済作物(工業原料作物)の地域特化水準は多くの大口農産品よりも高い[5-7]。趙娜らによる江蘇省の栽培業集積現象の研究では、省域内においても栽培業の集積と発展が存在することが示された[8]。それだけでなく中国の栽培業は、空間的にも正の空間的自己相関を示し、はっきりとした「中心―周辺」の分布モデルを示し、強者の集積した核心地域が明らかに拡大している[9]。王偉新らは、栽培業における果物産業にしぼった研究を行い、中国の果物産業の地域集積現象が際立ち、その集積度は「一旦低下した後に上昇する」という特徴を示し、西部地区が最も主要な集積地区であるとの結果が示された[10]。これと比べると、中国の野菜産業の集中度のレベルは比較的低いが、野菜の生産の重心が北部へ移動しているという特徴を示し、地域集積が野菜産業の発展に顕著な促進作用を持つことがわかっている[11]。都市・農村住民の生活水準の向上に伴い、畜産物需要は急速に増加し、畜産業の発展を大きく促進し、その地域集積問題も人々の関心を集めている。王国剛らの研究によると、中国の畜産業は明確な地域集積の特徴を示し、その発展メカニズムは中国の栽培業に相似し、「まず増強した後に弱化し、それ後に安定する」という特徴を示している[12]。
畜産業の発展と同じように、需要の力強い後押しを受け、中国の水産養殖業も急速に発展している。比較分析によってわかるのは、現在の研究においては、中国の農業全体と栽培業、畜産業の地域集積と発展の特徴については立ち入った研究が行われているが、中国の水産養殖業の地域集積とその発展の特徴に目を向けたものは比較的少ないということである。張成らの研究によると、中国の水産養殖業には現在、発展效率の低さという問題があり、全要素生産性は全国的に低下の傾向を示しており[13]、水産養殖業の発展問題に対する研究は強化の必要に迫られている。そのため本稿は、すでにある研究を土台として、「立地ジニ係数法」「立地係数」「産業集中度」「地区平均産業集中度」の4指標を運用し、1978年から2013年までの中国の水産養殖業の総体発展状况を分析し、省間差異の角度から中国の1997年から2012年までの水産養殖業の地域集積とその発展の特徴に対して立ち入った分析を行った。さらに中国の水産養殖業の動学的パネルデータモデルを構築し、その空間集積発展メカニズムを定量的に明らかにし、水産養殖業の健全な発展への科学的な基準の提供をはかった。
1 研究方法
1.1 立地ジニ係数
ジニ係数はまず、ある地区または国家の所得分配状况をはかるのに用いられ、横断面データを通じた計算により、ある地区の所得の均衡状况が分析される。近年、ジニ係数は、空間レベルへと拡張され、特定の対象の空間的な分布における均衡状況の研究に用いられるようになっている。本稿は、呉愛芝らの研究[14]を参考とし、中国の水産養殖業の立地ジニ係数をGとし、次のように計算公式を定義する。
この式においては、iが0と1、2、3を取る時には、Giはそれぞれ、中国水産養殖業の全体、魚類、甲殻類、貝類の立地ジニ係数を示す。nはサンプル数で、ここでは、研究した省の数を示す。m、kはそれぞれ異なる省であり、m≠kである。ximにおいては、m省(市、区)における水産養殖業または特定の主要水産物の生産量が全国の水産養殖業または主要水産物生産量に占める比重を示す。xikは、k省(市、区)における水産養殖業または特定の主要水産物の生産量が全国の水産養殖業または主要水産物生産量に占める比重を示す。μiは、全国の各省(市、区)の水産養殖業または特定の主要水産物の生産量が全国の水産養殖業または特定の主要水産物の生産量に占める比重の平均値を示す。式(1)は次のように変換できる。
この式においては、各産業の立地ジニ係数はGi∈[0,1]を満たし、立地ジニ係数が大きいほど同産業の空間的分布がより不均衡であることを示し、さらに空間上の地域集積度がより高いことを示す。逆の場合は、空間上の地域集積度がより低いことを示す。
1.2 立地係数
立地係数は特化係数とも呼ばれ、主に、ある地区のある産業の生産過程における特化水準をはかるのに用いられる。これは、ある地区の特定部門の生産額が同地区の総生産額に占める比重と、全国の同部門の生産額が全国の総生産額に占める比重との比であり、特定の産業の空間分布をはかる重要な指標となっている。本稿では、中国のある地区における水産養殖業の立地係数をQinとし、nは省を示すこととする。具体的な公式は次の通りである。
この式においては、Qinは、ある省(市、区)の水産物の立地係数を指す。Einは、同省(市、区)の水産物iの生産量を指す。Eallnは同省(市、区)の水産養殖業の総生産量を指す。Aiは全国の水産物iの生産量を指す。Aallは全国の水産養殖業の総生産量を指す。Qin>1の時には、同省(市、区)の水産物iの特化度が全国よりも高いことを示す。Qin=1の時には、同省(市、区)の水産物iの特化度が全国平均水準と一致することを示す。Qin<1の時には、同省(市、区)の水産物iの特化度が全国水準を下回ることを示す。
1.3 産業集中度
立地ジニ係数は、産業地区分布の均衡度をはかるという面では顕著な働きを示すが、企業規模と地理的単位設定、産業分類の3つの面では限界がある[15]。とりわけ各地区の産業発展には大きな異質性が存在し、立地ジニ係数には、地区産業集中の評価さらには集中地域の確定の面で弱みがある。立地係数は、特定産業の空間的分布の特徴をはかるものだが、地区の生産規模を無視しており、立地ジニ係数と類似した問題が立地係数にも存在する。これと比べると、産業集中度は、ある産業においてトップを占めるいくつかの省(市、区)の全国的な比重の和をはかるものであり、同産業の空間的な集積現象をはかるのに用いることができる。このため、閻友兵らの研究[16]を参考とし、中国の水産養殖業の産業集中度指数をCRipとした計算式を構築した。このうちi=0,1,2,3はそれぞれ、水産養殖業の全体、魚類、甲殻類、貝類の各産業を示す。pは、研究した省(市、区)の数であり、通常は奇数を取る。計算公式は次の通りである:
においては、iとxikの定義は(1)と同等である。CRip指標は、トップ数省(区、市)の集積度とトップ数省(区、市)の変化の状況を反映しており、ここからは、その集積度の強化または低下を知ることができる。
1.4 地区平均産業集中度
産業集中度は、ランキングトップのいくつかの地区の集積状況をはかるものだが、地区におけるある産業の集積をはかる面では不足が存在する。このため範剣勇は、地区平均産業集中度を用い、ある地区の特定産業の集積水準をはかり、全体における産業集中の空間発展の状況を反映することを提案した[17]。ここでは、中国の各省(市、区)の水産養殖業地区の平均産業集中度をVk,(k=1,⋯,n)とした公式を用いる。具体的な公式は次の通りである。
この式においては、xkiの定義は式(1)と同様である。Vk指数が大きいほど、同地区の水産養殖業の平均シェアがより大きく、水産養殖業がより発達していることを示す。
1.5 動学的パネル計量モデル
立地ジニ係数と立地係数、産業集中度、地区平均産業集中度の4指標は、中国の水産養殖業の地域集積の状況を描き出すものとなる。多くの定性分析は、自然資源や農業技術の進歩、経済発展水準などの条件が、農業の産業集積の発展を推進する重要な原因となっていることを示している[10-12]。このため本研究は、鄧宗兵らの研究成果[7]を参考として、動学的パネル計量モデルを採用し、中国の水産養殖業の空間集積メカニズムを定量的に掲示した。モデルの数式は次の通りである。
この式においては、aquitはi省のt年における水産物生産量を指し、水産養殖業の発展水準を代表する。culit、machit、gdpitはそれぞれ、i省におけるt年の水産養殖面積、水産養殖機械総出力、一人あたり地区生産額を示し、それぞれ中国の水産養殖業発展に対する自然資源、農業技術の進歩、経済発展水準の影響を代表する。ρ1,ρ2,...,ρpは、被説明変数のラグ項の系数を示す。μiは個別効果を示し、εitは誤差項を示す。同モデルはさらに、被説明変数自身の影響も探究した。
2 データソースと処理
本稿は、全国と省級の2つのレベルから、中国の水産養殖業の発展状況を研究した。データソースは中国国家統計局ウェブサイトである。中国国家統計局の統計規定によると、水産養殖業には主に、魚類、甲殻類、貝類、藻類の4種の水産物が含まれる。養殖場所の違いに基づき、海水養殖と淡水養殖に分けられる。このため全国レベルの研究において、本稿は、1978年から2013年までの中国の水産物総量と品種ごとの水産物生産量のデータを集めた。省ごとの研究においては、1996年以前の中国の各省の水産養殖業データは欠損が深刻であるため、また重慶市は1997年になって初めて直轄市とされたことを考慮し、中国大陸部の31省(市、区)の分析の完全性を確保するため、省域差異の研究のため、1997年から2012年までの中国大陸部の31省(市、区)の水産物総量と品種ごとの水産物生産量のデータを集めた。
統計データによると、中国の藻類の生産は魚類と甲殻類、貝類にはるかに及ばず、年間を通じた生産は、遼寧・江蘇・浙江・福建・山東・広東・海南の7つの沿岸省だけで行われている。貝類の生産では、北京・山西・内蒙古・西蔵・陝西・甘粛・青海・寧夏・新疆の9省(市、区)でデータがなく、これらの地区では魚類と甲殻類の生産水準も低い。主な原因は、これらの地区が中国の北部と西北部に位置し、水産養殖業生産の条件を備えていないことにある。データによると、2012年、上述の9省(市、区)の魚類の生産量が全国総生産量に占める比重はわずか1.67%で、甲殻類はさらに少ない0.07%だった。上述の分析に基づき、本稿は、中国の魚類、甲殻類、貝類の3種の水産物の地域集積現象だけを研究し、上述の9省(市、区)は除いた。上述の9省(市、区)の魚類、甲殻類、貝類の生産量は中国の総生産量のわずかな比重しか占めていないことから、これらの地区の除去は、本稿の研究の結論には影響しないと考えられる。
(その2へつづく)
参考文献
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※本稿は姚成勝,李政通,王維,廖洋琴,張新芝「中国水産養殖業地理集聚特征及空間演化機制」(『経済地理』第36巻第9期,2016年9月、pp.118-127)を『経済地理』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司