第123号
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中国水産養殖業の地域集積の特徴と空間発展メカニズム(その3)

2016年12月28日

姚 成勝:南昌大学経済管理学院 副教授

博士、修士指導教官。主な研究方向は農業資源経済、地域持続可能発展など。

李 政通:南昌大学経済管理学院、南昌大学計量経済研究会

王 維:南昌大学計量経済研究会、南昌大学前湖学院

廖 洋琴:南昌大学経済管理学院、南昌大学計量経済研究会

張 新芝:江西師範大学財政金融学院

その2よりつづき)

4 水産養殖業の空間集積発展メカニズム

4.1 動学的パネルデータモデルの係数推定

 式(6)は、中国水産養殖業の動学的パネルデータモデルを示したものである。モデル内に被説明変数的ラグ項が加えられたことは、説明変数に内生性が出現しやすいことを意味している[7]。このため動学的パネルモデルによる推定を行う際には、適切な操作変数を見つけて初めて、モデルの一致推定量を得ることができる[18]。このためArellanoとBondは階差GMMの方法[19]を提出した。ArellanoとBoverはこれを土台としてレベルGMM[20]を発展させた。BlundellとBondはさらに、階差GMMとレベルGMMを土台としてさらなる優位性を備えたシステムGMM推定方法を発展させ、これは、動学的パネルデータ推定の最も有效な方法となっている[21]。本稿は、システムGMM方法による推定を運用した。その結果は表3の通りである。

 (※その1より再掲)
表3 動学的パネルデータモデル係数推定表
Tab.3 The coefficient estimation of Dynamic Panel Data Model
注:***と**、*はそれぞれ、1%と5%、10%の有意水準において有意であることを示している。
変数 系数 標準誤差 t統計量 P値
aqui.t -1 0.762*** 0.070 10.93 0.0000
aqui.t -2 0.153** 0.060 2.55 0.0110
culit -0.006*** 0.002 -3.33 0.0010
machit 0.012* 0.007 1.77 0.0760
gdpit 0.168*** 0.034 4.95 0.0000
定数項 -55.172*** 17.979 -3.07 0.0020

 表3からは、水産養殖生産量がそれ自身に対して顕著なラグ効果を持つことがわかる。このうちaqui.t -1とaqui.t -2の被説明変数に対する影響系数ρ1とρ2はそれぞれ0.762と0.153で、対応するt値は10.93と2.55で、それぞれ1%と5%の有意水準において有意である。culitのaqui.tに対する影響系数β1は-0.006、t値は-3.33、対応するP値は0.0010で、1%の有意水準において有意である。これは、水産養殖面積の大きさが水産物の生産量に対して顕著な負の影響を持ち、単純な水産養殖面積の拡大は、現代の水産養殖業を発展する重要な手段とすることはできないことを示している。この結論は、既存の研究とも比較的高い一致を示している。つまり自然資源は、農業発展の初期段階においては、農業生産に重要な役割を果たすが、経済社会の絶え間ない進歩に伴い、農業の発展は、自然資源の賦存条件ではなくほかの要素により依存するようになるということである[10-12]。machitの水産養殖に対する影響系数β2は0.012、対応するt値は1.77で、10%の有意水準において有意である。農業科学技術の発展が水産養殖に対して顕著な正の促進作用を持つことを示している。自然資源と農業科学技術を比べると、gdpitのaqui.tに対する影響系数β3は0.168、対応するt値は-3.07で、1%の有意水準において実現される。このことは、中国水産養殖業に対して経済発展が最も重要な促進作用を持つことを示している。システムGMM回帰のカイ二乗値は1445.49、対応するP値は0.0000で、1%の有意水準において有意である。これはモデルが高い有意性を持ち、信頼性が高いことを示している。それだけでなく、β3>β2>β1は、中国の水産養殖業に対する影響は、経済発展が最大で、農業科学技術の進歩がこれに次ぎ、自然資源賦存条件は最小であることを示している。

4.2 中国水産養殖業の空間集積発展メカニズム

4.2.1 水産養殖業の地域集積に対する自然資源賦存の基礎的作用

 研究によると、農業生産の発展は地区の自然の制約を比較的大きく受けており、自然資源は、農業関連産業の集積の重要な要素であり[6,22]、農業生産の発展と集積に対して基礎的な作用を持っている。システムGMMモデル分析の結果に基づき、既存の研究と結びつけて考えると、海洋や河川、湖など水産養殖業の発展に適した水域面積の大きさは、水産養殖業の発展状況に対して基礎的な作用を持っていることがわかる。上述の分析では、中国には沿岸海洋水産養殖帯と長江沿い淡水水産養殖帯があり、水産養殖には明確な南北と東西の差異があることを見た。両者はいずれも、水産養殖業に対する自然資源賦存の基礎的な作用を示したものと言える。中国沿岸は干潟資源が豊富で、水産養殖の発展に適した面積は淡水養殖面積よりも広い。そのため中国の水産養殖業には、海水養殖を主とし、淡水養殖を補助とする発展状況生まれた。この特徴は、経済と技術の発展水準が比較的低い段階においては非常に明らかである。例えば1978年の中国の水産物総生産量に占める比重は海産物生産量が77.23%にのぼり、淡水産物はわずか22.67%にすぎなかった。

4.2.2 消費構造の高度化が水産養殖技術の進歩を促進し、海水・淡水養殖発展の局面の発展を推進

 国務院が発表した「全国海洋主体機能区計画」によると、中国の1万8千kmの海岸線には14省(市、区)が分布し、沿岸の干潟の面積は3万8千km2で、大小52の漁場がある。中国の海域養殖面積は広大だが、海産物生産量が水産物総量に占める比重は1978年の77.23%から、2013年までに26.37ポイント減の50.86%に低下している。これに対し、淡水産物が水産物総量に占める比重は22.67%から49.14%に上昇した。これは、水産養殖面積の増加に依存していては、現代水産養殖業の発展を有効に推進できないことを示している(表3のculitのaqui.tに対する影響系数β1は-0.006である)。その原因は次のように考えられる。まず、内陸地区の人々の所得水準の高まりにつれ、水産物に対する人々の需要は大幅に高まった[23]。だが水産物はこれまで、沿岸地区に過度に集中していたため、中西部地区の人々の食物消費の高度化の需要をなかなか満たすことができなかった。そのために内陸の淡水養殖業の発展が大きく推進された。これに対して、東部地区の経済発展水準は中西部地区よりも明らかに高く、都市・農村住民の水産物需要の近年の増幅は比較的低く、海水養殖業を牽引する力は比較的弱かった。需要の強い刺激の下、水産養殖技術は絶えず進歩し、魚類・甲殻類・貝類の水産物淡水養殖は急速に発展することとなった。先端技術と内陸の豊富な淡水資源の利用によって淡水養殖は大きく発展され、中西部地区の人々の食物消費の需要を有効に満たすようになった。このことからは、地区の資源賦存の優勢が堅固な土台を築いているという前提の下、食物の消費構造の高度化によって推進される水産養殖技術の進歩によって、中国の淡水養殖業が、海洋水産養殖業を上回る急速な発展傾向を示していることがわかる。

4.2.3 農民の増収や農業経済発展促進などの政策が淡水・海水養殖業の発展をさらに深化

 水産養殖業の経済効果は栽培業を大きく上回ることから、水産養殖業の発展は農民増収を促進する重要な手段とされ、早い段階から中国政府の重視を受けた。1985年、中共中央と国務院は「政策緩和と水産業発展加速に関する指示」を打ち出し、制度の方式を通じて、水産養殖業のより深く幅広い発展を推進した。1996年に出された「漁業発展のさらなる加速に関する意見」はより踏み込んで、「水産養殖資源の条件を備えた貧困地区、とりわけ中西部地区は、水産養殖業を農村経済発展の促進と農民の貧困脱却・富裕化のための重要な産業として、開発を加速しなければならない」との方針を示した。中西部の非農業産業の発展水準は低く、淡水養殖の発展による農民増収の原動力は明らかに高い。これと比べると、東部沿岸地区においては、非農業生産の収益が水産養殖業よりも高く、東部地区の海洋水産養殖の急速発展の原動力は中西部には及ばない。もう一方で、中国は人が多く土地が少なく、食糧栽培だけに頼っていたのでは、農業経済の全面的な発展の促進は難しい。そのため広大な水域面積を十分に利用し、水産養殖業を大きく発展させる必要がある[1]。2008年、国家発展改革委員会は、「国家食糧安全中長期計画綱要(2008--2020年)」を打ち出し、内陸淡水や海洋などの各種の非食糧資源を十分に利用し、水産養殖業を大きく発展させ、農業経済の発展を促進し、食糧安全を全面的に保障しなければならないと指摘している。このように、政策の誘導を受け、中国の淡水養殖業発展の原動力はさらに増強されている。

5 結論

 本稿は、「立地ジニ係数」「立地係数」「産業集中度」「地区産業平均集中度」の4つの指標と動学的パネルモデルを運用し、中国22省(市、区)の水産養殖業の地域集積現象と空間発展メカニズムを研究し、次のような結論を得た。

 第一に、栽培業や畜産業と比べると、1997年から2012年までの中国の水産養殖業の地域集積現象はより顕著であり、各類の水産物集積のジニ係数は大きい順に貝類>甲殻類>水産物総量>魚類である。だがこの期間において水産養殖業の集積水準は下降を続けた。産業集中度から見ると、水産養殖業が最も集中している地区は、山東・福建・広東・遼寧・浙江の5省である。水産物の種類から見ると、魚類の地域集積度は最も低く、1997年から2012年までの立地ジニ係数の平均は0.4677で、貝類の地域集積度は最も高く、1997年から2012年までの立地ジニ係数の平均は0.7586だった。研究では、中国の水産養殖業とその主要水産物の立地ジニ係数はいずれも異なる程度の下降を示しており、その地域集積現象がいずれも弱化の傾向にあることがわかった。立地ジニ係数の下降速度は貝類で最も遅く、魚類で最も速かった。

 第二に、中国では、沿岸海洋水産養殖帯と長江沿い淡水養殖帯が形成され、さらに山東--湖北--広東を核心とする3つの中心を持つ分布状況が形成されている。研究では、中国東部沿岸の水産養殖帯においては、山東と広東の両省がより優れた水産養殖業発展条件を備えており、中国の水産物総生産量のランキングで1位と2位を占める省であり、海洋水産養殖地域の中心であることがわかった。近年、中国の淡水養殖業は急速に発展し、海洋水産養殖業をしのぐ発展の勢いを見せている。湖北は、中国の長江養殖帯において最も重要な淡水養殖地区となっている。このことからは、中国の水産養殖業が、「北方は山東、南方は広東、中部は湖北」を中心とする3つの中心を持つ分布の特徴を形成していることがわかる。

 第三に、中国の水産養殖分布は、南北の差異と経度での差異という顕著な特徴を示している。南北差異から見ると、南方は、中国の主要な水産養殖業発展地区であるが、省平均生産量から見ると、南方と北方の水産養殖業の格差はそれほど明らかではない。水産物の種類ごとに見ると、南方は、魚類と甲殻類の養殖において北方より優れており、北方は、貝類の生産において南方を上回っている。東西の差異の視点から見ると、中国の水産養殖業の地理分布には、顕著な経度地域差が存在しており、800mmと400mmの等雨量線を境界として、水産養殖条件の「優越区」(>800mm)、「一般区」(400mm~800mm)、「制約区」(<400mm)の3類に全国を分けることができる。人々の食物消費構造の高度化に伴い、水産養殖業の「一般区」と「制約区」の水産物生産は、住民の需要を満たせなくなるものと考えられる。このため水産物の保鮮や加工などの技術開発を強化し、水産物の輸送ネットワークと産業チェーンの整備を加速することは、水産養殖業の経済効果を高め、人々の食物消費構造の高度化を実現するための必然的な要求と言える。

 第四に、中国の水産養殖業の地域集積の空間分布は、自然資源の賦存の差異によって基本的な情勢が確定される。また消費構造によって導かれる技術の進歩や経済発展促進政策などの要素が、中国の水産養殖業の地域集積の再編を後押しする重要な力となる。研究によると、1997年から2013年までに中国の水産養殖業の基本的な情勢は変わっていないが、水産養殖技術や住民消費構造、政府の政策、市場の利益メカニズムに後押しされ、中国の淡水養殖業は急速な発展の勢いを示し、中西部地区の水産養殖業の集積水準は絶えず向上した。中西部地区は、中国における広大な農業地区であり、水産養殖業の発展は、農民の増収や都市・農村格差の縮小などに重要な意義を持っている。このため中西部地区の水産養殖業の急速な発展を保つと同時に、水産養殖の生態環境の保護にも注意し、中西部地区の水産養殖業の持続発展を実現する必要がある。

(おわり)

参考文献

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 ※本稿は姚成勝,李政通,王維,廖洋琴,張新芝「中国水産養殖業地理集聚特征及空間演化機制」(『経済地理』第36巻第9期,2016年9月、pp.118-127)を『経済地理』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司