第124号
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金属より強靱でやわらかい新材料開発

2017年 1月19日 小岩井忠道(中国総合研究交流センター)

 柔らかいのに金属より強靱(きょうじん)な新材料「繊維強化ゲル」を、龔(グン)剣萍 北海道大学教授らのグループが開発した。龔教授は、多 くの水分を含み柔らかいにもかかわらず強靱な生体組織に似た材料を作る研究を長年続けている。新材料は、既に開発済みのポリアンフォライトゲルと呼ばれるゼリー状の材料(ハイドロゲル)に、直径10ミクロン( 0.01ミリ)という細いガラス繊維からなる織物を複合させて作られた。体積比で40%の水を含み曲げても支障がない柔軟性があるにもかかわらず、金属を超える強靱性を備えている。

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繊維強化ゲル(龔剣萍教授提供)

 ハイドロゲルは、網目状の高分子(ポリマー)の内部に大量の水を含んだ材料。ゼリーやこんにゃくも同様の構造をしている。人間の体も約60%は水分からできているため、人 工関節などに用いても人体になじみやすい材料として、特に医療分野からの関心が高い。しかし、もろいという性質上、現在では応用がコンタクトレンズなど一部に限られている。

 龔教授が既に開発済みで、今回開発された新材料の基にもなったポリアンフォライトゲルは、負電荷を持つモノマー(重合してポリマーになる単量体)と正電荷を持つモノマーを重合させて作られる。この結果、内 部にできた多量のイオン結合によって、強靱性に加え、自己修復性といった特性が付与されたと考えられている。今回、さらにガラス繊維からなる織物と複合させることで、ポリアンフォライトゲルより100倍、ガ ラス繊維織物より25倍も引き裂きにくいという驚異的な強靱性を持つ材料が実現した。ポリアンフォライトゲル内部に加え、ゲルと繊維間にも作られた多量のイオン結合による相乗効果でさらなる強靱性が付与された、と 龔教授らはみている。

 龔教授は、「今回の成果を基に、今後『繊維強化ゲル』を人工靭帯(じんたい)や人工腱(けん)など極めて強い力がかかる生体組織の代替材料へ応用していきたい」と語っている。そのほか、丈 夫で柔らかなシートとして服飾、工業用材料などに活用することや、今回の方法をハイドロゲル以外に応用し、既存の製品よりよりしなやかで強靱なゴムの製造なども期待されている。

 今回の成果は、社会や産業に変革をもたらすハイリスク・ハイインパクトな研究開発を推進する政府の革新的研究開発推進プログラム「ImPACT」に採択されている研究開発プロジェクト「超薄膜化・強靭化『 しなやかなタフポリマー』の実現」から生まれた。研究開発を主導するプログラム・マネージャーの伊藤耕三東京大学大学院新領域創成科学研究科教授は、「今回開発された手法やメカニズムが、『 しなやかなタフポリマー』実現の重要な基礎技術になり、医療用材料や工業用材料など幅広い応用展開につながることを期待している」とコメントしている。

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龔剣萍 北海道大学教授

 龔教授は、1983年中国浙江大学を卒業した後、91年茨城大学大学院理学研究科 高分子化学専攻修士課程、93年東京工業大学 大学院総合理工学研究科材料科学専攻博士課程を修了した。北 海道大学理学部助手、助教授、大学院理学研究科 教授を経て、2010年4月から同大学院先端生命科学研究院 教授。05年から浙江大学の客員教授も兼ねている。I mPACT以前にも科学技術振興機構の研究推進事業で何度も研究員を務め、重要な成果を挙げている。

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