大型地下式原子力発電所の主要技術研究(その1)
2017年 1月25日
鈕新強:長江勘測規劃設計研究院
中国工程院(工学アカデミー)院士、院長、博士。現在は主に、大型水利水力発電プロジェクトと地下式原子力発電所設計・研究事業に従事する。
羅琦:中国核動力研究設計院
趙鑫:長江勘測規劃設計研究院
張文其:中国核動力研究設計院
劉海波:長江勘測規劃設計研究院
李翔:中国核動力研究設計院
概要:
国内で独自に設計・建造された600MW級原子力発電所の成熟技術と大型地下式原子力発電所建設のフィージビリティスタディの成果に基づき、独自の知的財産権を持つ地下式原子力発電所CUP600の機種と技術案を国内で初めて開発・提出し、プロジェクト全体の主要技術を形成した。分析・論証を経て、地下式原子力発電所は、安全性が高く、建造技術が実現可能で、経済的・合理的であり、第4世代原子力発電技術の特徴の一部を備え、国家の最新の原子力発電安全標凖の要求を完全に満たすものであることがわかっている。
キーワード:地下式原子力発電所;主要技術;安全性;CUP600
序言
日本の福島原発事故は、世界各国に対し、それぞれの原子力発電所の安全と原子力計画をあらためて評価・再考することを迫った。2011年、大型水力発電の地下プロジェクトの経験を生かして、陸佑楣院士は、地下式原子力発電の構想を打ち出した[1]。長江勘測規劃設計研究院(Changjiang Institute of Survey, Planning, Design and Research、CISPDR)は、中国核動力研究設計院(Nuclear Power Institute of China、NPIC)と共同で、大型地下式原子力発電所[2]の自主革新研究をスタートさせた。
それまでの自主研究を土台として、CISPDRとNPICは、中国工程院重点諮問研究プロジェクト「原子力発電所の原子炉及び放射性を帯びた補助建屋の地下配置のフィージビリティスタディ」を拠り所として、地下式原子力発電所建設の実行可能性の研究を進め、独自の知的財産権を持つ地下式原子力発電所CUP600の機種と技術案を国内で初めて開発・提唱し、プロジェクト全体の主要技術を形成した。これには、地下式原子力発電所の立地選定技術の要点、合理的な布石、核技術システムの適合性研究、大型空洞群の安定性、工事主要技術、消防・人工環境、水の安全、重大事故対策分析、全ライフサイクルの安全評価・リスク分析、緊急対応計画地区、廃炉・経済性分析などが含まれる。
プロジェクト完了報告の審査会では、20人余りの院士によって構成される専門家チームが、地下式原子力発電所の建設は技術が実行可能で、経済的・合理的で、安全性がより高く、中国の原子力発電の安全な発展に新たな道を切り開くものであると一致して認めた。
1 地下式原子力発電所全体案の選択
中国は、独自の知的財産権を持つ第3世代機種として「ACP100」「ACP600」「ACP1000」などを持ち、ACP600原子炉格納容器の外径は38.8mで、地下に配置する際、原子炉建屋の空洞のサイズを46m前後に抑えることができ、既存の大型地下水力発電所の円筒式放水調圧室とほぼ同じ規模で、成熟した設計と工事の経験がある。
ACP1000とACP600は、原子炉建屋の直径が異なるほかは、そのほかの各建屋のサイズは基本的に一致している。ACP1000の原子炉建屋の直径は46mで、既存の地下プロジェクト施工技術でACP1000原子炉建屋を地下に配置することができる。そのためACP600を代表機種として地下に配置し、独自の知的財産権を持った地下式原子力発電所CUP600を開発し、技術が成熟した後、ACP1000とそれ以上の機種を地下に配置する研究を展開すればよい[3]。
1.1 全体目標
CUP600の全体目標は、地上の第3世代原子力発電所よりも安全性が優れ、地上の第3世代原子力発電所に経済性が匹敵し、独自の知的財産権を持った国産化60万kW級の先進加圧水型地下式原子力発電所を研究開発し、大量の放射性物質の放出の可能性の実際的な除去を設計面から実現することである。CUP600の主要設計指標[4-5]は表1を参照。
パラメータ名 | パラメータ値 |
発電所設計寿命/a | 60 |
炉心損傷頻度/(炉・年)-1 | ~10-7 |
重大事故下の放射性物質の 環境放射頻度/(炉・年)-1 |
~10-8 |
炉心熱的安全余裕/% | >15 |
発電所設備利用率/% | ≥87 |
燃料交換サイクル/月 | 18~24 |
1.2 技術ロードマップ
地下式原子力発電所の技術ロードマップは、中国が独自に設計・建造した600MW級原子力発電所の成熟技術を十分に利用し、海南昌江原子力発電所を参考とし、パッシブセーフティシステム[6]を増設し、原子炉と一部の一次系統に最適化または適合性の改良設計を行い、上述の全体目標の要求を満たせるようにし、地下式原子力発電所の配置に適応できるようにする。
2 地下式原子力発電所の主要技術研究
2.1 立地選定技術の要点
原子力発電所の立地選定にかかわる応用地質・地震・水文・気象などの面での現行の標凖と法規、低中レベル放射性固体廃棄物の浅地層への処分規定を研究し、地上式原子力発電所の立地選定とプロジェクトの経験を考慮すると、地下式原子力発電所の立地選定は、既存の原子力発電所の立地選定にかかわる規定を遵守するほか、次の技術が要点となる。①適切な地形条件。山地または丘陵の選択が望ましい。②岩盤クオリティはIII類以上が求められる。③地震の「基本震度」はVII度を超えないものとする。④水文地質・環境地質条件が簡単である。⑤施工の手配と対外交通が便利である。⑥その場での埋蔵廃炉案を取るのであれば、立地選定は、低中レベルの放射性固体廃棄物の処分規定に合致しなければならない。
2.2 合理的配置の研究
地下式原子力発電所は、構築物を山体内に配置し、地下空洞の壁岩の防護作用と封鎖条件によって原子力発発電所の安全性と緊急対応防護能力を高めるものである。中国国外の関連研究資料によると[7-8]、地下式原子力発電所の建造費用は一般的に地上式よりも高く、地下空洞のサイズは大きすぎてはならない。地下プロジェクト技術の急速発展に伴い、地下空洞の掘削コストは大幅に引き下がり、空洞の規模も高まってはいるが、プロジェクトの安全と経済的な合理性の角度から分析すると、地下式原子力発電所は、地下空洞の規模をできるだけ減少させる必要がある。このため地下式原子力発電所の配置においては、機能と安全等級の面から、原子力発電所の構築物を地下と地上の2つの部分に分ける必要がある。
研究によると、原子力発電所において核構築物と核的安全に直接かかわり、安全等級の要求が高いものは、地下に配置すべきである[9]。原子炉建屋や燃料建屋、連接建屋、安全建屋、核補助建屋、電気建屋(地下)、核廃棄物建屋などがこれに含まれる。一次系統のうち核にかかわらない構築物は地下に置くことが望ましい。運用サービス建屋、緊急対応ディーゼルエンジン建屋、一次系統消防ポンプ室、緊急対応空気圧縮機室、電気建屋(地面)などが含まれる。二次系統とその他の補助建屋は、核関連構築物ではなく、核的安全には直接影響せず、安全等級の要求は比較的低く、蒸気タービン発電ユニットや冷却塔などの構築物のサイズが比較的大きく、地上への配置に適している。
2.2.1 空間全体配置の状況 地下式原子力発電所の配置案においては、地下建屋と地上建屋の各建築物の位置を合理的に計画し、運用や点検、交通などの機能の要求を協調させ、施工通路の配置の必要も考慮しなければならない。地下式原子力発電所の配置は、発電所の立地の地形や地質条件と直接かかわり、異なる地形条件に対しては、地下建屋と地上建屋の異なる組み合わせの案が必要となる。
山地地区と丘陵地形の一般的な特質の分析を通じ、斜面外部に開けた土地があるか、山体上部に段丘または台地などの適切な条件があるかについて、CUP600の単炉配置を土台として、4種の地下式原子力発電所の空間的な全体配置の状況を総括した。
図1 地下原子力発電所空間配置イメージ図
(1)斜面内への水平埋蔵:一次系統建屋を地下に置き、二次系統と周辺機器(BOP)を斜面の外側の平地に置く。斜面が比較的きつく、斜面外側にふさわしい平地のある丘陵または山地に適する(図1a)。
(2)段丘への水平埋蔵:斜面内への水平埋蔵案に類似している。斜面が比較的緩く、一次系統建屋の空洞の頂部に緩やかな台地があり、傾斜の外側にふさわしい平地のある丘陵または山地に適する(図1b)。
(3)段丘への下方埋蔵:一次系統を地下に置き、二次系統とBOPを上方の平面に置く。斜面が比較的緩く、外側に平地がなく、ふさわしい緩やかな台地が上部にある丘陵または山地に適する(図1c)。
(4)山地への完全埋蔵:二次系統と一次系統をいずれも地下に置く。斜面が比較的きつく、斜面の外側に平地のない山地に適する(図1d)。
2.2.2 地下一次系統空洞群の配置案 一次系統の各大型建屋の特質をターゲットとして、地下式原子力発電空洞群の特徴とサイズを明確化し、3種の地下一次系統空洞群の配置方式を提出し、異なるユニットの規模と立地の地形・地質条件への適用を可能とした。
(1)環状配置:地下空洞群の配置は主に、既存の地上における配置方式を参照し、地下プロジェクトの特質と結びつけ、原子炉建屋の周辺に配置された建屋間の距離を伸ばし、山体の壁岩中にまんべんなく分散し、環状配置を作り出す[10]。
(2)L型配置:環状配置案を土台として、一次系統建屋をできるだけ集中配置し、空洞の数量を減らし、全体配置を簡略化する。合同空洞と電気建屋空洞は原子炉建屋空洞に対してL字型に配置され[11]、このうち核補助建屋や燃料建屋、安全建屋などは合同空洞内に配置される。
(3)長廊形配置:L型配置案を土台とし、建屋の配置の組み合わせと多炉案を取る際の建屋の組み合わせには合併配置を取るという構想をめぐって、長廊型配置案[12]を提出した。合同空洞と電気建屋空洞は原子炉建屋空洞の両側に位置する。
工学類比法と数値シミュレーション解析を経て、3種類の地下一次系統空洞群配置案は、地下空洞群の壁岩の安定性と耐震安全性はいずれも確保され、配置案は技術的にいずれも実行可能で、投資はほぼ同等であるとの結果が示された。立地選択での有利性、地下プロジェクトの配置と連接の簡略化、空洞の掘削施工条件の改善、施工外乱の減少などの面で、L型配置が比較的優れていると考えられる。
2.2.3 核技術のシステム適合性の研究 地下式原子力発電所の空間配置がもたらす主な問題としては、主要蒸気配管・原子炉建屋と燃料建屋の間の燃料輸送距離の増加などが挙げられる。主要蒸気配管の長距離輸送に対する数値計算・解析によると、蒸気・湿度は地下式原子力発電所で特に増加せず、蒸気タービンに特殊な要求はなく、実行可能性を備えている。原子炉の燃料交換に対する燃料輸送距離の延長の影響の分析によると、燃料の交換・貯留系統を地下空洞に置くことでもたらされる一連の問題は、適合性設計による修正と最適化を通じて解决できる。パッシブな高位置プールの自然循環に対する数値流体力学(CFD)動的シミュレーションによると、高位置プールの配置の高度が高まるにつれ、自然循環の流量は高まり、全体の熱交換率は高まる。重大事故後の地下建屋の到達可能性に対する工学類比法分析によると、地下式原子力発電所には一定の優位性がある。地下式原子力発電所の配置方法に基づき、地下の各建屋間の設備運搬・人員交通通路、退避通路、避難経路、配管、電気ケーブル、通風経路、防火・放射性区画などの設計案を研究・提起した。[3]
シミュレーション分析と研究[13]を通じて、参考発電所の原子炉と一次系統を土台とすると、地下式原子力発電所へのパッシブ安全系統の増設は、自然循環の構築と運用により有利になることが論証された。原子炉と一部の一次系統に対して最適化や適合性改良設計を行うことで、CUP600は、第3世代原子力発電の技術水準に到達し、原子力発電所の安全・安定稼動の要求を満たすことができる。
2.3 大型空洞群の安定性
地下式原子力発電の立地選定の要求と配置案を考慮し、工学類比法や有限要素解析、数値シミュレーションなどの方法を採用し、地下式原子力発電所の大型空洞群の安定性を研究する[14]。
(1)工学類比分析:地下式原子力発電の空洞群の安全と安定に影響する主要な因子に対し、工学類比による分析を行う。結果:地下式原子力発電所の空洞群の規模は、水力発電所の地下建屋空洞群と同じ規模に属し、一次系統の原子炉空洞の採掘も、中国の地下プロジェクトの実践範囲内にある。地下式原子力発電の空洞群の立地選定を岩体分類III類以上の地域とすることで、空洞群の採掘の成功を確保できる。また地下式原子力発電の立地選定は比較的柔軟で、建設条件は一般的に、水力発電所の地下建屋空洞群よりも良好であり、中国の現在の施工採掘技術手段によって空洞群の採掘の成功を確保することができる。
(2)空洞採掘における壁岩の安定性の数値分析:立体弾塑性損傷有限要素法を採用し、地下式原子力発電所の空洞群の壁岩全体の安定に影響する岩石力学パラメータや初期地殻応力、空洞間距離などのカギとなる要素に対して感度分析を行い、選択したパラメータを用いて空洞群の支柱採掘過程のシミュレーションを行った。計算結果:安全の観点から考慮すると、地下式原子力発電所の空洞間距離は50m以上とし、空洞群の建設は岩体分類III1類以上の地域とすることを提案する。岩体材料パラメータをIII1類とした上で、空洞群は、側圧係数が2.0未満の岩体地域に建設する。従来のショットクリート・ボルトによるサポート措置の下で、空洞群の採掘における各壁岩安定指標はいずれも小さく、空洞群全体の安定性は比較的良い。
(3)空洞耐震性分析:四川大地震の被災調査によると、XI度の超強度の地震の作用下で、地下空洞群は高い耐震能力を備えており、原子力発電所の耐震設計標凖を満たすだけの高い可能性を持っている。波動場応力法による耐震計算によると、IX度の地震による動荷重の作用の下、地下式原子力発電所の空洞群の壁岩全体は比較的高い安定性を示す。立地選定による制御や空洞群配置の最適化、合理的な建設サポート措置を通じて、地下式原子力発電所の空洞群の壁岩全体の安定性を有効に確保することができる。
(その2へつづく)
参考文献
[1] 陸佑楣. 将核電站反応堆置于地下的設想[J]. 中国工程科学,2013, 15(4): 41-45.
[2] 長江勘測規劃設計研究有限責任公司,中国核動力研究設計院. 反応堆及帯放射性的輔助厰房置于地下的大型核電站:中国,201420318070.7[P]. 2014-11-26.
[3] 核電站反応堆及帯放射性的輔助厰房置于地下的可行性研究課題組. 地下核電站建設可行性研究[R]. 中国工程院重点咨詢研究項目,2014.
[4] 地下核電站合理布局研究課題組. 地下核電站合理布局研究[R]. 中国工程院重点咨詢研究項目,2014.
[5] 地下核電站示範性概念設計(含経済性評估)與水電站組合的可行性研究課題組. 地下核電站示範性概念設計(含経済性評估)與水電站組合的可行性研究[R]. 中国工程院重点咨詢研究項目,2014.
[6] 林誠格. 非能動安全先進圧水堆核電技術[M]. 北京:原子能出版社,2010.
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[8] Carl W, Myers, Ned Z, et al. Potential advantages of underground nuclear parks[C]. Proceedings of ICONE14 International Conference on Nuclear Engineering, July 17-20, 2006, Miami, Florida, USA.
[9] Pierre Duffaut. Safe nuclear power plant should be built underground[C]. 11th ACUUS Conference: Underground Space: Expanding the Frontiers, September 10-13, 2007, Athens, Greece.
[10] 長江勘測規劃設計研究有限責任公司,中国核動力研究設計院. 核島洞室群環形布置地下核電站:中国,201420316579.8 [P]. 2014-12-03.
[11] 長江勘測規劃設計研究有限責任公司,中国核動力研究設計院. 核島洞室群 L 形布置地下核電站:中国,201420318068.X [P]. 2014-11-26.
[12] 長江勘測規劃設計研究有限責任公司,中国核動力研究設計院. 核島洞室群長廊形布置地下核電站:中国,201420316612.7 [P]. 2014-11-26.
[13] 地下核電站全生命周期的安全評価與風険分析課題組. 地下核電站全生命周期的安全評価與風険分析[R]. 中国工程院重点咨詢研究項目,2014.
[14] 地下核電站大型洞室群穏定可行性研究課題組. 地下核電站大型洞室群穏定可行性研究[R]. 中国工程院重点咨詢研究項目,2014.
※本稿は鈕新強,羅琦,趙鑫,張文其,劉海波,李翔「大型地下核電站関鍵技術研究」(『核動力工程』第36巻第5期,2015年10月、pp.6-11)を『核動力工程』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司