第124号
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バイオテクノロジーに基づくウラン含有廃水処理に関する研究の進展(その1)

2017年 1月30日

譚文発:
南華大学環境工程系 南華大学放射性三廃 処理・処置重点実験室博士

研究テーマ:水処理技術

呂俊文、唐東山:
南華大学環境工程系 南華大学放射性三廃 処理・処置重点実験室

概要:

 原子力エネルギーの普及と利用の大幅な進展に伴い、ウラン含有放射性廃水の種類・量もますます増加している。自然水系への放射性核種の移行と拡散を防ぐため、ウラン含有放射性廃水の効率的な処理が解決すべき問題となってきている。最先端の研究によれば、バイオテクノロジーに基づく処理方法は効率的でコストが安いという長所のため、この分野での将来性が期待される。本稿においては、バイオテクノロジーに基づいたウラン含有廃水処理の分野におけるこの数年の進展を総括し、その主な原理と長所・短所を評価したうえで、さらなる研究の方向性について提案する。

キーワード:ウラン含有廃水、微生物、転換、メカニズム

 中国では、ウラン採掘・精錬技術の発展に伴ってウラン資源の開発と利用が急速に進み、核燃料の循環プロセスで発生するウラン含有放射性廃水の種類と量もさらなる増加を見せた[1,2]。ウランには重金属としての化学的毒性と放射能という二重のリスクがあるため、自己崩壊の過程で放出する粒子によってヒトに放射線外部照射をもたらすだけでなく、食物連鎖の過程で生物に吸収・蓄積され、最終的にはヒトの体に蓄積されて慢性中毒をもたらすため、生態環境とヒトの健康に危害を及ぼす深刻な環境リスクとなっている[3-5]。現実に、ウラン採掘・精錬による廃水の影響で、周辺農地の土壌や地下水、地表水からウランによる汚染物質が検出されている[6-8]。ウラン採掘・精錬の過程で放出される廃水中のウラン質量濃度は一般的に約5mg/Lまたはそれ以下であるが、現行の技術ではこのように濃度の低いウラン含有廃水に対する効果は芳しくなく、国の規定する排出許容濃度(0.05mg/L)を満たすのは難しい。このため、ウラン含有廃水によるヒトの健康および生態環境へのリスクを防ぐうえで、効率的でコストの低い処理技術の研究が差し迫った課題となっている。

1 ウラン含有廃水の処理

 一般工業廃水と異なり、放射性廃液は物理的、化学的または生物学的方法によって分解することができないため、自然崩壊によって放射性が低減され、消失するのを待つよりほかない。このため、放射性廃水の処理においては、現時点では貯蔵または拡散の2つの方法しか存在しない。つまり、適切な方法で処理を行い、放射性元素のほとんどを体積の小さい濃縮廃液中に移行させたうえで貯蔵することによって、体積の大きい廃液中に残った放射性元素の含有量を最大許容濃度より小さくした後に、環境中に放出して希釈および拡散を行うというものである。ウラン含有放射性廃水の処理については、すでに化学沈殿、イオン交換、蒸発濃縮および吸着等の伝統的な処理方法や、膜処理法、ファイトレメディエーション、浸透性反応壁による処理技術ならびに微生物による処理等の新技術を含むさまざまな種類の先進的な水処理技術が試されてきている[9-13]

 一方、ウラン含有廃水の現行の処理方法では、一般的に技術の成熟した伝統的な浄化処理技術が採用されているものの、いまだ多くの問題が存在する。例えば、化学沈殿法は沈殿物の量が多いために処理が難しく、蒸発濃縮法はエネルギー消費量が多いために特に低濃度ウラン含有廃水における応用に制約がある。また、イオン交換法はイオン交換選択性が悪いために交換容量に限りがあり、高塩分濃度のウラン含有廃水に対する処理効果が芳しくない[1]。近年、新たな処理方法の研究においては飛躍的な進展が見られるものの、いずれも処理効果が低かったり、あるいは割高なコストのため実用が難しい。例えば、人工湿地法は、海外で最近流行している方法だが、気候条件や温度の影響を受けやすく、ろ過層が飽和して目詰まりを起こしやすい。そのうえ、占有面積が広く、ウラン拡散を起こして二次汚染を生じやすい[14]。他方、膜分離法は汚泥を生じやすいために使用寿命が短く、ウラン含有廃水の処理方法としては成熟しているとは言えないことから、膜材料の作製や膜の汚染とその制御についての研究が待たれる。また、潜在性が高く期待される零価鉄による浸透性反応壁にも、吸着・還元後のウランが溶解吸収または酸化により再放出され、二次汚染を生じやすいと言う欠点がある[15]

 バイオテクノロジーの発展に伴い、微生物や重金属と放射性核種との相互作用メカニズムに関する研究が深化し、微生物によるウラン含有放射性廃水の処理が将来性の高い方法として徐々に認識されるようになってきた。葉状体をバイオ処理剤として利用して水溶液中のウラン等の放射性核種を吸着させる方法は、効率的でコストが安く、エネルギー消費が少ない等、優れた点が多い。また、放射性廃棄物の減量化という目標が実現可能で、核種の回収利用または地質処理に有利なことから、ウラン含有廃水の処理分野でますます重視され、注目を集めている[16-19]

2 ウラン含有廃水の転換を行う細菌の種類および転換のメカニズム

 1980年代に、一部の微生物による吸着容量は一部の吸着剤よりも高いことが発見された。例えば、溶液中のウランおよびトリウムの質量濃度がいずれも5mg/Lのとき、リゾプス・アリズス(Rhizopus arrhizus)によるウランおよびトリウムの吸収容量はそれぞれ80、140mg/gであるが、イオン交換樹脂(IRA-400)による吸収容量はそれぞれ31、3mg/gであり、活性炭(F-400)による吸収容量はそれぞれ15、20mg/gである[20]。ウラン含有廃水に関する研究の進展に伴い、ウラン濃縮作用と密接な関係のある微生物が数十種類発見され、これには細菌や放線菌、真菌等が含まれる。微生物構造の複雑性は、生物学的なウラン除去にはさまざまな方法がありうることを物語っている。現時点で発見されているメカニズムには主に生物の表面付着や生体濃縮、酸化還元および無機ミクロドメイン形成等の方法がある。これらのメカニズムは単独で効果があることもあれば、他のメカニズムとの組み合わせで効果を発揮することもあり、全プロセスにおける反応条件により決まる。ウラン含有廃水の生物学的処理については国内外の研究者によって大量の研究が行われ、優れた成果も数多くあがっている[21-23]

2.1 表面吸着

 生物の表面吸着は物理化学的プロセスである。廃水中のウランと生物の表面に静電気による吸着が生じ、または生物の細胞壁上の-COOH、-NH、-OH、PO43-や-SH等の官能基との錯体が生じることによって、その移行性を低減するという目的は達せられる。これらの方法は廃水量が大きく、濃度が低い放射性廃水の処理に適しており、迅速で安価という特徴がある[24]

 陽海斌ら[25]がウランに対するマングローブ内生真菌の濃縮特性を研究した結果、ウランに対する被験細菌の吸着平衡時間は60minで、常温・常圧下の吸着に最も適した条件はpH4.0であり、ウランの初期質量濃度は50mg/Lで、ウランの吸着容量は15.46mg/gであった。劉明学ら[26]は走査型電子顕微鏡、フーリエ変換赤外分光光度計および電子分光計等を利用して、出芽酵母とウラニルイオンの相互作用について研究した結果、酵母菌細胞の表面に大量のウラン結晶があったことから、UO22+イオンは細胞表面との間で顕著な吸着作用を生じ、かつ、ウラン濃度の増加と作用時間の延長に伴い吸着量が増加することがわかった。また、王宝娥[27]らの研究によれば、死んだ微生物による金属の濃縮能力は生きた微生物と差がない。彼らは不活化ビール酵母菌を利用してウラン吸着能力を研究した結果、pH6.0における不活化ビール酵母菌の吸着速度が速く、吸着量が多かったことから、吸着モデルによって得られる理論上の最大吸着量は196.1mg/gに達しうることがわかった。

 生物吸着によって廃水中のウラン含有量を急速に低減できるとはいえ、実際の廃水処理への応用があまり見られない主な理由は、生物吸着後の生成物が非常に不安定だからである。処理後期の脱着速度は、吸着速度と同じ速さであるとする研究も存在する[28]

2.2 生体濃縮

 生体内におけるウラン濃縮は、往々にして生物における表面吸着の後期に発生する。つまり、まずは物理化学的作用によって金属が受動的に細胞表面に付着し、それからエネルギー流動や情報伝達等の機能によって金属が細胞内で濃縮する[22]。生体蓄積は生きた細胞内でのみ発生するが、ウランは生物機能性元素ではなく、細胞の新陳代謝に関与しないため、細胞体内のウラン含有量は、ウランの毒性によって細胞膜の浸透性が改変され、生体内に浸入したためであろう[29]。Kazyら[30]は、シュードモナス属菌のウランに対する蓄積メカニズムおよび化学特性を研究した結果、ウランと作用する官能基にはリン酸基、カルボキシル基およびアミド基があり、その主なメカニズムはミクロドメイン形成であることがわかった。ウランは細胞内で緻密な細胞内蓄積物を形成し、ウランの濃縮に伴って細胞の長さと幅のいずれも拡大を見せるが、細胞表面は破壊されない。また、他の研究者[31,32]によれば、ウランで汚染された土地からシュードモナス属菌をスクリーニングしてウラン廃液に対して修復試験を行った結果、ウランの毒性に対して良好な耐性があることが分かった。

 ウランの生体蓄積はエネルギー消費を伴う能動的プロセスであり、その主な原理は生体内のリン酸塩との結合によって安定したリン酸ウラニル沈殿を生成することであるが、現時点でこの機能が認められているのはシュードモナス属菌等のリン蓄積細菌のみである。このため、生体蓄積技術に関しては、生体濃縮機能や、リン酸塩の出所とその生物活性等の要素に対するさらなる研究が必要である。

その2へつづく)

参考文献

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 ※本稿は譚文発,呂俊文,唐東山「生物技術処理含鈾廃水的研究進展」(『生物技術通報』第31巻第3期,2015年、pp.82-87)を『生物技術通報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司