第124号
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原子力発電所放射性廃液中の微量核種の逆浸透技術による除去の研究の進展(その2)

2017年 1月27日

魏新渝:環境保護部核・放射線安全センター

博士、高級工程師(シニアエンジニア)。主要研究テーマは、「三廃」(気体・液体・固体廃棄物)処理技術

馬鴻賓:中国核電工程有限公司

熊小偉,王一川,譚承軍,方圓:環境保護部核・放射線安全センター

王志:天津大学化工学院

その1よりつづき)

2 国内外の研究と応用の現状

2.1 国外

 過去10年から15年にわたって、膜分離技術は、放射性廃液の処理に国外の核施設から徐々に導入されてきた [12-15] 。表1は、RO技術の国外の核施設における応用状況をまとめたものである。 

表1 RO技術の国外の核施設における応用状況
Tab.1 Application of RO technology in nuclear facilities of foreign countries
注:UFは限外ろ過、MFは精密濾過、NPPは原子力発電所(Nuclear Power Plant)、AECLはAtomic Energy of Canada Ltd。
核施設 核施設 所在国 廃水の種類
RO AECL Chalk River カナダ 原子炉の冷却剤浄化及びホウ酸回取
従来の前処理+RO Nine Mile Point NPP 米国 沸騰水型原子炉の地面洗浄水及びその他の廃水
従来の前処理+RO Pilgrim NPP 米国 沸騰水型原子炉の地面洗浄水及びその他の廃水
UF+RO Wolf Creek NPP 米国 加圧水型原子炉の地面洗浄水、原子炉停止廃棄物、廃棄樹脂洗浄水など
UF+RO Comanche Peak NPP 米国 地面洗浄水、廃棄樹脂洗浄水、ホウ酸再循環水
UF+RO Dresden NPP 米国 超ウラン核種によって汚染された廃水
UF+RO Bruce NPP カナダ 蒸気発生器化学廃水除染
MF+RO Savannah River site 米国 後処理/軍事工業廃水
MF+RO AECL Chalk River カナダ 核研究廃棄物

 このうちチョーク・リバー研究所は、「精密濾過+ロール式ROモジュール+パイプ式ROモジュール」の統合技術システムによる低レベル廃水(塩の質量濃度5g/L、核種の総放射能濃度0.2MBq/L)の 処理を研究している。同システムの年間廃水処理量は約2200m 3で、 137Csと 60Co、 144Ceに対するロール式RO膜の除去率はそれぞれ98.6%、99.7%、99.4%に達し、 137Csと60Co、 144Ceに対するパイプ式RO膜の除去率はそれぞれ99.8%、100.0%、100.0%に達した。

 Nine Mile Point(NMP)原子力発電所は、放射性物質のニアゼロ排出を実現するため、Thermex逆浸透装置を設置した。同装置には、2つの並列された深層フィルター、1 つのバグフィルター、1つのROプレフィルター、1つのROユニット、1つの光酸化装置、1つの深層イオン交換浄化除塩装置が含まれる。2段に直列されたRO膜による処理を経た後、廃液の浸透液電気伝導率は、1 0mS/cm以下と非常に低くなる。浸透液は光酸化装置において紫外線を通じて有機炭素をイオン化する。さらにイオン交換剤を利用してイオン化された不純物を除去する。測定結果によると、蒸発システムと比べて、こ のシステムにおいては、二次廃棄物の産出量が500%以上減少した。高電気伝導率の高有機炭素の廃水の処理においても、Thermexシステムは、高い浄化效果を示した。原水における 54Mgと 60Co、 134Cs、 137Cs、総和の放射能濃度はそれぞれ1.48、5.55、0.74、7.4、15.17Bq/mLだったが、処理後の核種の放射能濃度はいずれも検出限界を下回った。

 Comanche Peak原子力発電所で使用されるUF+ROシステムは、UFが廃液中の不溶解核種 51Crと 95Zr、 95Srを除去し、ROがその他の大部分の溶解性核種を除去するものである [13] 。Wolf Creek原子力発電所もUF+ROシステムを採用している。同システムは、流 出物中の放射性核種を有効に除去し、放射性物質のニアゼロ排出が実現できる。

 米国電力研究所(EPRI)は、RO膜の分離性能を考察した。その結果、 60Coと 58Coに対するRO膜の平均除染係数が150程度に達することが示された。その他の方法を使っては除去が難しい125Sbにも高い除染係数を示し、同係数は平均で1000に達した。 134Csと 137Csに対するRO膜の除染係数は10前後で、RO膜分離技術は、経済と操作の両面で大きなアドバンテージを備えている [14] 。RO技術は、除染效率が高く、二 次廃棄物の産出量は比較的少なく、核工業における広大な応用の見通しを誇っている [15-16]

2.2 国内

 RO膜分離技術は、国外の原子力発電所や核研究施設の放射性廃液の処理プロセスにますます多く応用されるようになっている。だがこの技術の国内の研究と応用は比較的少ない [17-26]

 実験研究の面では、魯芸芸らが、UF+RO統合技術を採用し、低放射性廃液を処理した。模擬廃液と 60Coと 137Csを含む蒸留残液をそれぞれ処理し、核種の除去率は95.7%に達した [17] 。熊忠華らは、UF+RO統合技術によるプルトニウムを含む低レベル放射性廃液の処理を研究し、廃 液のpHが10である時、 239Puの除去率が99.94%に達し、減容比が12.5に達したことを突き止めた [18] 。陸暁峰と熊正は、UF+RO+電気透析統合技術を利用して、放 射性化学実験廃水とウラン鉱石酸浸出法放射性廃液をそれぞれ処理し、放射性核種に対する同技術の総除染係数はそれぞれ3.2×10 8と3.5×l0 3に達した [19-20] 。李俊峰らは、珪藻土フィルター+2段RO+イオン交換統合技術による放射性廃液の処理を研究し、2段ROの総除去率は99.9%に達したことをつきとめた。放 射能濃度32.29kBq/Lの原水をこのプロセスで処理すると、放射能濃度は1.1Bq/Lにまで下がる [21] 。台湾原子力研究所は、精密濾過+2級RO統合技術を採用し、原 子力発電所のプロセス排水と洗浄廃水を処理した。その結果、2級ROによる処理後、浸透液の水質は排出基準に合致し、溶 質に対するROの除去率はすべて99.8%以上だったことが示された [22] 。王暁偉・孔 勁松らは、ROを採用し、ホウ酸・コバルト・ニッケル・マンガンを含む模擬廃水を処理した。コバルトとニッケル、マンガンに対するROの除去率はいずれも95%以上に達し、除 去率に対する作動圧力と回収率の影響も小さいことがわかった [23-25] 。王欣鵬らの研究は、原子力発電所の放射性廃液におけるNa とCa 2+の含有量(とりわけCa 2+)は、コバルトに対するROの除去率を低めることを明らかにした [26]

 実際の応用では、中国で建設中の某AP1000原子力発電ユニットは、粒状活性炭(GAC)吸着+1級6段RO+イオン交換統合技術を使用し、質量分率0.25%の 燃料要素被覆管破損率の下での原子炉冷却剤ドレインを処理することになっている。技術プロセスは図1に示す通りである。

図1

図1 活性炭吸着+1級6段RO+イオン交換統合技術経路

Fig.1 Activated carbon adsorption+six segment RO + ion exchange integrated technology

 また某CPR1000原子力発電ユニットでは、化学凝集+活性炭吸着+イオン交換+1級2段RO統合技術を採用し、放射性廃液を処理することとなっている。中 国の原子力発電所の放射性廃液処理プロセスにおけるRO技術の応用は、初期設計と建造の段階にあり、実際の作動データはまだない。

3 輸送メカニズムと評価モデル

 実験室規模のフィージビリティ分析から大規模な工業応用まで、適切なRO膜輸送モデルを選択し、回帰とシミュレーションを行い、異なる規模のプロセスまたは異なる溶質・溶媒系の膜分離性能を記述する。R O膜輸送の記述に用いる古典モデルには、「溶解-拡散モデル」「キャピラリーフローモデル」「不可逆熱力学モデル」「過渡的輸送モデル(溶解-拡散欠損モデルなど)」などがある [27] 。Wangらは、R O膜分離プロセスの溶質輸送メカニズムと古典モデルを総論し、これらのモデルでは、水・溶質の輸送と膜性能との間の関系を解釈できないと指摘した [28]

 これに基づき、現在の研究者らは、多数の改良モデルを提出している。姫朝青は、吸着-拡散モデルを提出し、溶 媒を優先的な膜表面への吸着と溶質の優先的な膜表面への吸着を記述できる多孔膜の溶質除去率方程式と溶液透過流束方程式を導き出した。溶質と溶媒の多孔膜中の移動は、膜 表面の吸着層での拡散と膜孔溶液相中の拡散からなる。このモデルは、比較的良好な応用を実現している [29-31] 。程会文らは、上述のモデルを土台として、遺伝的アルゴリズムを採用し、膜 性能に対する数理シミュレーションを行った。すなわち無機・有 機溶質水溶液のROによる濾過の実験データから溶質-膜の物理化学パラメータを計算し、単成分・多 成分溶質水溶液のRO膜による分離性能を予測した [32] 。姫朝青はこのほか、一価イオンと中性分子の混合溶液体系における荷電膜のイオン除去率方程式と中性分子の除去率方程式、溶液透過流束方程式、濃 縮比表現式を導き出した [33]

 章麗萍らは、現在のポリアミドRO膜の透過メカニズムは優先吸着-キャピラリーフロー理論に従ったものと考え、これを土台として、実験を通じて、キャピラリーフロー理論の透水性の基本方程式を改良し、膜 汚染層の厚さσfが時間に従って変化する数理モデルを構築し、実際のプロジェクトにおける検証を得た [34] 。Mehdizadehらは、膜表面の重合体と溶質に強い親和力が存在する状況下の多成分溶質・溶 液のRO膜通過の2次元数理モデルを構築した。こ れは優先吸着-キャピラリーフローモデルと単一溶質モデルの拡張であり、溶質-溶媒-膜の間の相互作用が考慮された。開発されたモデルは、ア セチルセルロースRO膜のベンゼン・トルエン・水 溶液の濾過プロセスのシミュレーションに用いることができる [35] 。Ghiuらは、優先吸着キャピラリーフローモデルを使用し、溶質の透過流束を記述し、一 部の溶質の膜内輸送は水和形式で存在しており、晶 体イオン半径よりも水和半径を使った方がより正確であると論じた [36]

 Farguesらは、RO膜の分離性能と有機溶質の特質(極性、表面電荷、分子量など)との相関性を研究し、3種の商業RO膜における5種の有機物質の吸着等温線を記述し、有 機溶質に対するRO膜の吸着プロセスは拡張Langmuir方程式によって記述できると論じた [37] 。Marchettiらは、有機溶媒のナノ濾過プロセスにおける膜輸送予測モデルを研究し、溶 解-拡散的モデルに基づき、有 機溶媒と溶質の屈曲性鎖硝子膜における輸送を比較的良好に記述できることを発見した。孔隙フローモデルは、硝子態ポリ(1-トリメチルシリル-1-プロピン)とポリ( 4-メチル-2-ペンチン)膜 の性能を記述することができる。Maxwell-Stefanモデルまたは古典溶解-拡散モデルは、インテグラルスキン層の非対称ポリイミド膜の濃縮プロセスを予測できる [38] 。 

 一般工業廃水へのRO膜技術の応用の設計・評価モデルはすでに、開発・応用されている [11] 。例えば米国KOCH社の逆浸透シミュレーション設計ソフトウェア「ROPRO7.0」や「ROPRO8.0」、DOW Filmtec社の「ROSA9.1」などである。こ れらのソフトウェアは、R Oによる一般工業廃水の処理において良好に応用されている。

 例えば樊智鋒らは、「ROPRO7.0」を使用して、1級2段の逆浸透膜システムを設計し、循環冷却の汚染排水の処理プロセスに応用し、水の硬度を有効に低めることができた [39] 。放 射性廃液処理の面では、馬鴻賓らが、「ROPRO8.0」を使用したRO膜システムのコンセプト設計を試み、年間産出量30×10 3m 3の建設予定の大型後処理場の低放射性廃液を処理した。水質シミュレーションの結果は、2級RO膜の処理後の 137Csと 60Coの除染係数がそれぞれ10 3と21となったことを示した [40] 。この結果は、EPRIの測定結果と大きな差がある。EPRIの測定結果は、137Csに対するRO膜の除染係数は10程度で、6 0Coに対する平均除染係数は150程度であることを示していた [14] 。一般工業廃水処理のRO膜に応用されている設計・評価モデルでは、水 中微量放射性核種のRO膜による除去の正確なシミュレーションが難しいことがわかる。

4 課題と提案

 以上の分析と議論からわかるように、原子力発電所の放射性廃液中の微量核種除去におけるRO技術の応用には現在、主に次の4つの面で問題が存在している。

1)中国の原子力発電所の放射性廃液の特質をターゲットとして、さまざまなタイプの放射性核種に対するRO膜の除去效果を体系的に考察した研究がまだ発表されていない。例 えば中国の運用している加圧水型原子力発電ユニットからは、放射性核種として 58Coと 60Co、 137Csが排出されているほか、 110mAgと 54Mnの排出もすでに、周囲の環境に影響を及ぼす主要な核種の一つとなっている。微量の銀やマンガン、その化合物のRO膜による除去に関しては研究やレポートがまだなく、R O膜及びその統合技術が廃液中の 110mAgと 54Mnを有効に除去できるかについては、さらに研究を展開する必要がある。

2)研究者らは現在、簡単なイオンのRO膜による除去だけを考慮しており、異なるタイプの放射性核種の除去效果に対する考察はまだない。このほか原子力発電所の運用と操作プロセスにおいては、各 種の物質が添加され、また不純物(酸化剤や還元剤、有機物など)が混入する。これらの物質が、RO膜による微量放射性核種の除去にいかなる影響を持つかは、さらなる実験研究と分析、総括の必要がある。

3)水中微量放射性核種のRO膜による除去のメカニズムとモデルに対する研究はまだない。RO膜の分離性能と水中放射性核種の特質(含有量、放射性、極性、表面電荷、相対分子質量など)と の相関性についての報告はまだない。RO膜表面の重合体と水中微量放射性核種との間にいかなる相互作用があるか、古典モデルを採用して放射性核種のRO膜内の輸送を記述できるかなどはいずれも、さ らなる研究が待たれる。

4)一般工業廃水処理のRO膜に応用されている設計・評価モデルでは、水中微量放射性核種のRO膜による除去の正確なシミュレーションが難しいことがわかる。中 国の原子力発電所の放射性廃液処理システムにおけるRO膜技術の採用の処理效果の評価と論証、膜モジュールの排列・組み合わせ方式(1級多段、2級多段など)の最適化のためには、R O膜の除去效率と水中微量放射性核種の濃度、さらに膜面積と結びついた評価モデルを構築する必要がある。

(おわり)

参考文献

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※本稿は魏新渝,馬鴻賓,熊小偉,王一川,譚承軍,方圓,王志「反滲透技術去除核電廠放射性廃液中痕量核素的研究進展」(『水処理技術』第41巻第12期,2015年12月、pp.10-19)を『 水処理技術』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司