第124号
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中国節水灌漑設備の発展の現状・問題・趨勢・提言(その4)

2017年 1月23日

袁 寿其:江蘇大学国家ポンプ・システム工学技術研究センター研究員

博士指導教官。流体機械と灌漑排水機械の研究に主に従事。

李 紅:江蘇大学国家ポンプ・システム工学技術研究センター

王 新坤:江蘇大学国家ポンプ・システム工学技術研究センター研究員

節水灌漑技術・設備の研究に主に従事。

その3よりつづき)

1.3 再生可能エネルギー節水灌漑技術

1.3.1 発展の現状

 節水灌漑システムと設備の正常な機能の発揮には、そのエネルギー供給を有効に保障する必要がある。農村は土地が分散し、辺縁地区においては、農業生産向け送電網の集中建設の投資が大きく、難度が高い。移動式ディーゼルエンジンの採用は、運用とメンテナンスのコストが高いため、集中した大型ポンプステーションのみで相対的に有効であると言える。多くの農業生産エリアは、日照が豊富で、太陽エネルギー資源の開発に適している。また一部の地方は、水資源が豊富で、地勢条件も整っていることから、水エネルギー資源の開発に適している。一部の地方は風力エネルギー資源が豊富で、風力エネルギー資源の開発に適している。バイオマス資源はどこも豊富で、バイオディーゼルやメタンガス、電力などの資源を開発することにより、資源を十分に利用すると同時に、燃焼による大気汚染を避けることができる。

1.3.1.1 国外の発展の現状
1)太陽エネルギー灌漑技術

 太陽光発電揚水灌漑システムは、ソーラーポンプ技術と近代農業灌漑技術の有機的な結合であり、エネルギー消費が低い、資源を節約できる、使用が便利であるなどの長所を持ち、幅広い応用の見通しと巨大な社会・経済価値を備えた近代農業技術である。太陽光発電揚水灌漑システムは主に、太陽光発電システムやソーラーポンプ揚水システム、灌漑システム、制御システムなどのいくつかの部分からなり、このうちソーラーポンプ揚水システムがカギとなる[22]

 1970年代、国外では、ソーラーポンプ揚水技術の体系的な研究が始まった。初期の応用と研究は、ポンプと直流モーター、ソーラーパネルを直接組み合わせたシステムに集中していた。ブラシ付きDCモーターは使用が便利だが、メンテナンスが一般的に不便である。ブラシレスDCモーターは動的性能が良好で、エネルギー効率が高く、ソーラーパネルとの相性が良いが、一般的に出力が小さく、価格が高く、低出力のシステムにしか応用できない[23-24]。大出力システムのソーラーポンプシステムは、モーターと配列との最良の組み合わせを見つけ、高効率・低コスト・高信頼性を実現する必要がある。大出力システムにおいては、インバーターとAC非同期モーターの使用が最適のプランと言える。電池配列とモーター・ポンプ装置の2つの主要部分は、日照を最大限に利用するため、システム中にトラッカーを加えてパネルを最大出力点で稼働させ、蓄電池または貯水池などの装置によってエネルギーを貯蔵し、交直流転換を持つシステムに周波数変換器を加えてモーターの可変速運用を実現する[25]

 製品としては、早くも1975年に第1台となるソーラーポンプが登場したが、太陽電池の価格が高く、技術も成熟していなかったため、太陽電池の地上における応用の試みの一種として、一部の地区だけで試験的に運用された。国連開発計画(UNDP)や世界銀行などの国際機関は1981年、論証を経て、ソーラーポンプの先進性と合理性、良好な発展の見通しを確認し、ソーラーポンプ製品の開発と応用を大きく推進するようになった。1982年、ITPOWER社のテストセンターは、ソーラーポンプシステムの試験を開始し、関連標凖を制定し、この分野の開拓者となった。近年は、太陽光発電技術の絶え間ない向上に伴い、そのコストはますます低下し、ソーラーポンプの製品開発と応用は、世界各国の幅広い注目を得ている。デンマークや米国、英国、ドイツ、日本などの国は、ソーラーポンプの新製品を次々と打ち出した。デンマークGrundfos社のソーラーポンプシステムは、ポンプの性能指標で世界のトップに位置する。米国Mono社のソーラーポンプシステムは、GPSシステムを搭載し、太陽の位置を正確に追跡し、システムに毎日30%多い水を提供することを可能とした。

2)低水頭小型・マイクロ水力発電灌漑技術

 EUの水力発電は開発の程度が非常に高い。調査と分析によると、EUの小水力発電は、低水頭と超低水頭の小型・マイクロ水力発電を中心としている[26-27]。応用環境が多様で複雑であること、小型・マイクロ水力発電技術の由来が各種の大型水力発電技術であることから、技術と設計には一定の差がある。こうした差は、発電所や発電ユニットの設計・建設・製造のコストを高めただけでなく、その複雑性から、低水頭小型水力発電の開発利用にも影響を及ぼしている。

 このうちドイツのフォイト・ハイドロ傘下のオーストリアのケスラー社はここ30年で最も際立った成果を上げており、80年で2000カ所以上の発電所に発電ユニットを提供して来た。同社の提供する低水頭製品には主に、水平式と斜軸式のものがある。直立式のものとしては、オーストリアのアンドリッツ社が、低水頭分野で最も経験の豊かな企業であり、その研究開発した可変速水中タービン類製品は約9カ所の発電所でのみ応用されているが、5種のサイズだけで405基のユニットを製造している。

 低水頭小型・マイクロ水力発電の技術と製品では、ドイツやオーストリア、スイス、ノルウェーなどのEU諸国で、多くの形式の設計と製品が出現している。小型・マイクロ水力発電は基本的に10MW(マイクロ水力タービンの出力上限は100kW)以下のユニットと発電所で運用されている。異なる出力に対応する必要な流量と水頭について分析すると、低水頭区間は0~8m、流量は0.1~100.0m3/sであり、これらは欧州において大きな発展と進歩を実現している。それぞれの技術製品の応用範囲を比較すると、潜水タービンは応用範囲が最も広く、国内の小型・マイクロ水力発電市場の開発において大きな市場参考価値を持っていることがわかる。

1.3.1.2 国内の発展の現状

 中国はこれまで、再生可能エネルギーの開発と利用を非常に重視してきた。2000年以降は、国家レベルの水力発電・風力発電・太陽エネルギーが一斉に発展する傾向にある。2012年までに、再生可能エネルギー全体の設備容量に占める水力発電の割合は75%、風力発電の割合は22%、太陽エネルギーの割合は3%となり、水力発電をメインとし、風力エネルギーをサブとし、太陽エネルギーを補充とする再生可能エネルギーの開発・利用局面が形成されている。

1)ソーラーポンプ技術

 中国のソーラーポンプ技術の研究開発事業は、1980年代末から90年代初めにスタートした。初期の代表的な製品には、深圳大明が生産したDHB型ソーラーポンプや安徽日泉が生産したNSPシリーズなどのソーラーポンプが挙げられる。この2種の型番のソーラーポンプは実際に高い応用効果を示したが、当時は太陽光パネルの価格が高く、ポンプの出力が比較的小さかったことから、応用は大きく制限された。1990年代には、100W級とkW級のソーラーポンプが相次いで試作され、100W級ソーラーポンプの大量生産の可能なソーラーポンプメーカーも設立された。国家エネルギー政策の発表と実施、近年の太陽光発電パネルの価格の低下に伴い、中国のソーラーポンプ技術は新たな進展を実現し、多くの新型設備が出現している。これらの新技術は主に、次の2つの面にかかわるものとなっている。第一に、太陽電池には、最大出力点追従(MPPT)技術が幅広く用いられ、先進的なアルゴリズムが運用され、異なる日照下で電池効率の最大化が保障されている。第二に、中小型ユニットにおいては、永久磁石ブラシレス・ポジションセンサーレスDCモーターが大量に使われ、機械性能がより高く、速度調整の範囲が広く、効率がより高くなっている[28-29]。現在、国内ソーラーポンプの型番は1000種近くに達し、生産規模と生産量はいずれも国外の企業を超えている。だがこれらのソーラーポンプの設備容量出力はほとんどが小さく、揚程の範囲は数mから数十mに過ぎず、流量も小さく、多くは環境美化または景観用水に用いられている。

2)低水頭小型・マイクロ水力発電技術

 第7次5カ年計画(1986-1990)から第12次5カ年計画(2011-2015)の時期にかけて、中国の農村電化建設は主に2つの段階を経過した。第7次5カ年計画から第9次5カ年計画(1996-2000)の時期における水力発電による農村初期電化建設段階と、第10次5カ年計画(2001-2005)から第12次5カ年計画の時期における水力発電による農村電化建設段階である。国家の農村電化建設の推進を通じた新農村の再生可能エネルギー利用は総じて、小型・マイクロ水力発電を中心とした再生可能エネルギー利用の段階にとどまっている。

3)風力エネルギーやメタンガスエネルギーなどの再生可能クリーンエネルギーの利用

 メタンガス利用は農村ですでに幅広く応用されているが、農家が集中して居住する住宅建設区に集中し、配置は非常に分散しており、農家の日常の炊飯燃料と熱水供給の問題を解決することが目的となっている。農業生産や加工の面でのある程度の規模を持った応用は少ない。広大な農業生産区においては、風力エネルギーやバイオマスエネルギーなどの再生可能エネルギーの利用はスタート段階にあり、将来の5カ年計画においてより重視し、有効に推進していく必要がある。

1.3.2 存在する問題

1.3.2.1 太陽エネルギー節水灌漑技術

(1)ソーラーポンプシステムの配置が不合理である。ソーラーポンプシステムは、蓄電池付きのシステムと蓄電池なしのシステムの2つに大別される。中国で多く使用されているソーラーポンプは、太陽電池とDCモーターを直接つなげる方式が取られており、蓄電池の配備の必要はない。だがこのようなシステムは一般的に、出力が比較的小さく、大規模な普及・応用ができない。大出力のソーラーポンプシステムには一般的に、ACモーターが採用されている。このようなシステムにおいては、ポンプの動作特性を安定させるため、大容量の蓄電池が配備されることが多い。これはソーラーポンプの初期投資コストを高めるだけでなく、システムのメンテナンスコストを高め、さらにシステムの信頼性を下げ、システムの使用寿命を短縮させる。また蓄電池の使用は、環境汚染を生みやすい。

(2)ソーラーポンプ製品の信頼性が低い。従来のポンプユニットは、回転速度が安定しており、定格入力を満たすことはできるが、高効率範囲は比較的狭い。ソーラーポンプユニットにおいては、太陽電池モジュールの出力は変化し続けており、ポンプの定格点での作動を保障することは困難であるばかりでなく、経済的でもない。そのため変化する作動状況の下で効率的に運用できるポンプ水力モデルの開発が必要となる。国内では現在、この分野の研究成果がほとんどなく、既存のソーラーポンプは基本的に、従来の設計方法で設計されており、変化する作動状況の下でのポンプの運用は効率が低く、信頼性も低い。

(3)ソーラーポンプと灌漑システムの適合性が低い。ソーラーポンプシステムと太陽光発電システム、灌漑システムの間で性能が適合していない。ソーラーポンプシステムの稼動は日照の変化とともに変化し、環境温度などの要素の影響を受けるため、日照とシステムの出水量の間には明らかな非線性関係が生まれる。これは、ソーラーポンプシステムの設計や評価、最適化の複雑性の主要な原因となっている。このためソーラーポンプシステムを合理的に設計し、給水の信頼性を高めるためには、異なる日照条件下でのソーラーポンプシステムの出水量を正確に予測し、太陽光発電システムや灌漑システムなどの各部分の設計プランを正確かつ合理的に導き出す必要がある[30-31]

1.3.2.2 低水頭発電や風力エネルギーなどの節水灌漑技術

 再生可能エネルギーの農地灌漑での研究成果と応用が少ない。水力発電と風力発電は地域集中と大規模化の方向に急速に発展しており、農村の生活電力の問題の解決が中心となっている。だが節水灌漑に必要なのは分散型の小型の再生可能エネルギーであり、この面での研究と成果は極めて少ない[32]

1.3.3 発展の趨勢

(1)太陽光発電技術の急速な進歩と薄膜太陽電池の出現により、太陽光発電の効率は今後、さらに高まると考えられる。これは、ソーラーポンプシステムの大出力の方向への発展を促すものとなる。このため大出力のソーラー軸流ポンプ揚水システムとソーラー斜流ポンプ揚水システムは、今後の重要な発展の趨勢となる。

(2)節水灌漑に適した小規模化・小型化された水力発電と風力発電が発展の方向となる。

(3)太陽エネルギーまたは風力エネルギーの単独での発電にはいずれも、一定の不安定性があり、システムの連続稼動を保障することができない。だが一般的には、太陽エネルギーと風力エネルギーは高い相互補完性を持っている。晴天には太陽エネルギー発電を利用し、夜間と曇雨天で陽光がない時には風力エネルギー発電を利用することができる。風も日照もある状況においては、両者が同時に効力を発揮する。このため風光ハイブリッド発電システムは、風力発電と太陽光発電の単独システムの資源面での欠陥を補完し、全天候発電の機能を実現するものとなる。風力と太陽光とが相互に補完する揚水灌漑システムは、今後の主要な発展の趨勢となる。

(4)農村地区に適したバイオマスエネルギー灌漑システムも、発展方向の一つとなる。

(その5へつづく)

参考文献

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 ※本稿は袁寿其; 李紅; 王新坤「中国節水潅漑装備発展現状、問題、趨勢与建議」(『排潅機械工程学報』第33巻第1期,2015年1月、pp.78-92)を『排潅機械工程学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司