第125号
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動車組先頭車両の車体疲労強度の分析(その1)

2017年 2月21日

宋燁:西南交通大学牽引動力国家重点実験室博士課程

研究テーマは車両工学、車体疲労信頼性、動車組車体・台車枠試験技術。

鄔平波:西南交通大学牽引動力国家重点実験室研究員、博士課程指導教官

賈璐:西南交通大学牽引動力国家重点実験室博士課程

概要:

 時速350kmのある動車組(動力分散式列車)の先頭車両の車体を研究対象とし、ANSYSにおいて車体有限要素モデルを構築し、EN12663標凖にもとづき、剛性と静的強度を分析し、車体の垂直方向の最大変形5.39mm、最大相当応力280.2MPaを得た。最大相当応力は、空気バネの拘束部分に出現し、材料の降伏点よりも小さく、車体の剛性と静的強度の要求を満たすことができる。動車組の実際の路線運行状況に基づき、開けた場所でのすれ違い、トンネルでのすれ違い、トンネルの通過、横風のそれぞれの作動状況における4種の空力荷重作動状況を増やし、静的強度の分析を行うと、4種の作動状況における車体の静的強度はいずれも車体材料の降伏点を下回った。グッドマン線図を採用し、車体の疲労強度を評価すると、各部位の安全係数はいずれも1を上回り、疲労強度の要求を満たした。

キーワード:動車組;車体;空力荷重;有限要素解析;疲労強度

はじめに

 列車の運行速度の向上に伴い、列車の就役環境はますます劣悪となり、列車の安全性と信頼性により高い要求がなされるようになった。高速列車「動車組」の運行が普及する中、目下の車体関連標凖はすでに、車体強度の評価・判断を満たすものではなくなり、実際の路線の運行状況をさらに増やして分析する必要が出てきている。とりわけ空力荷重については、列車速度の高まりに伴い、車体強度に対する空力荷重の影響はますます大きくなる。特に高速でのすれ違い、高速でのトンネル通過、強い横風の影響を受けた際には、車体強度に対する空力荷重の影響がより明らかとなる。

 現在、車体疲労強度の問題に対する中国国内の研究は主に、車体の疲労強度に対する機械的荷重の影響に集中しており、車体の疲労強度に対する空力荷重の影響の研究は比較的少なく、標凖EN12663-2010[1]、JISE7106[2]、「時速200km以上級鉄道車両強度設計・試験評価暫定規定」において簡単な記述がなされているだけである[3]。中国国外では、韓国鉄道技術研究院(KRRI)のSeoら[4]は、高速列車のトンネル通過時に産出される空力荷重の疲労強度について、大量の理論・試験研究を行っている。本稿は、EN12663車体強度評定基準を土台として、4種類の空力荷重状況を加えて車体強度の評価・判断を行い、高速列車の開けた場所でのすれ違いの空力荷重作動状況と、軌道によって引き起こされる鉛直加速度、牽引・制動によって引き起こされる疲労荷重作動状況を組み合わせ、グッドマン曲線を採用し、車体の下部構造側梁と床外層、床中間層、車体外層、側壁内層、側壁中間層、運転台の7つの部分に対し、疲労強度の評価をそれぞれ行った。この7つの部分の強度の計算結果がいずれもグッドマン曲線によって閉じられた範囲内にあれば、車体が疲労強度の要求を満たしたことになる。

1 動車組先頭車両の車体構造及び有限要素モデル

1.1 動車組先頭車両の車体構造の特性

 動車組の車体は、大型の中空アルミニウム合金型材を溶接組立によって形成されており、良好な防腐性能を備え、耐力構造は筒型のモノコック構造となっている。この構造は、車体構造の部品の数量を有効に減少し、製造コストを引き下げ、車体構造の製造の質を高めることができ、比較的高い断面剛性という特質を持ち、車体構造の全体としての剛性と乗車快適性を高めることができる[5-6]。動車組の先頭車両の車体は主に、車体の下部構造側梁、床外層、床中間層、車体外層、側壁内層、側壁中間層、運転台の7つの部分からなっている。表1は、同動車組先頭車両の車体の主要技術パラメーターである。

表1 先頭車両車体の主要技術パラメーター
車体長さ(mm) 24 407
車体幅(mm) 3257
車体高さ(mm) 3890
車体軸距(mm) 17 375
レール面からの床面高さ(mm) 1260
軸重(t) 17

1.2 先頭車両車体材料の許容応力

 本稿の高速列車が用いているA7N01アルミニウム合金は、中国の国産材料であり、その溶接填充材料として用いられているのはSAF5356溶接ワイヤである。母材と溶接ワイヤの成分は表2の通りである。母材と溶接継目の実際の状況に基づき、材料の異なる物性を定義したのが表3である。

表2 A7N01アルミニウム合金と溶接ワイヤの化学成分(質量分率)%
  Mg Zn Fe Cu Cr Mn Ti Si Al
A7N01 1.20 4.50 0.40 0.20 0.20 0.15   0.35 残り
SAF5356 4.90 0.13 0.12 0.011 0.065 <0.13 0.11 0.057 残り
表3 車体材料の物性
  引張強度
(MPa)
降伏強度
(MPa)
疲労限度
(MPa)
弾性率
(GPa)
ポアソン比 密度
(kg/m3
母材 430 295 102 70 0.3 2700
溶接継目 247 128 90 70 0.3 2700

1.3 先頭車両車体有限要素モデル

 動車組車体のアルミニウム構造は、アルミニウム板・梁・型材溶接構造であり、車体の有限要素モデルは、任意4節点アイソパラメトリック薄肉シェルエレメントを中心とし、3節点三角形エレメントを補充とする。先頭車両車体の有限要素モデルのエレメント総数は2 199 500で、節点総数は180 557 8である。先頭車両車体の有限要素モデルは図1に示す通りである。

図1

図1 動車組先頭車両車体有限要素モデル

2 車体の静的強度の分析

2.1 車体の静的強度の作動状況

 EN12663-2010を参考とし、同動車組の車体強度の計算の特性と結びつけ、動車組車体の静的強度の計算作動状況を制定した。表4は、一部の荷重作動状況を示したものである[7-9]

表4 先頭車両車体の静的強度計算の荷重作動状況表
鉛直荷重作動状況 1 1.3倍の総鉛直荷重、特殊荷重状態
2 3点支持、装備状態
縦方向荷重作動状況 3 縦方向引張1000kN、装備状態
4 縦方向圧縮1500kN、装備状態
空気動力学荷重作動状況 5 空気動力学荷重は4000Paと考える、空車状態
組み合わせ作動状況 6 作動状況1+作動状況4、特殊荷重状態
7 作動状況1+作動状況5、特殊荷重状態

 具体的な荷重の処理は以下のとおりである。①車体自重に対しては、ANSYS前処理モジュールに車体アルミニウム合金材料の密度と重力加速度を入力する。プログラムは、モデルの各エレメントの表面積や実定数に基づき、エレメントの荷重因子の情報を総荷重に自動的に記入して計算する。②車内設備(座席など)や乗客、荷物などの荷重は、荷重均等配置の形式で、下部構造の側梁に作用する。③車両上部の空調設備と車体牽引用電力変換器、冷却装置は、設備の設置点の実際の位置に照らして、集中荷重の形式で、相応する節点上に均等に作用する。

2.2 車体の剛性・強度の計算結果

 車体鉛直荷重作動状況1において計算した表現値によって同車体の剛性を補正し、車体の最大変形を計算した。車体下部構造側梁の鉛直変形は5.39mmで、相対変形は比較的小さかった。図2の通りである。

図2

図2 車体変形図

 作動状況1から作動状況7の荷重作用の下、車体の最大相当応力は作動状況7における280.2MPaで、第二端の空気バネ拘束部分に出現した。表5に示す通りである。作動状況7は、車体の鉛直乗客満員超過状況下で、縦方向超常圧縮荷重を同時に受ける際、車体材料の必要性が満たされるかを考察したものである。鉛直荷重の主要な積載部位は空気バネの座にあり、縦方向荷重の作用も同時に受けるために、車体のこの部分における応力が最大となり、比較的大きな相当応力が、運転台のドアの角、第二端・第一端の連結器補強板、車体の側壁と車体上部の移行部に発生する。その他の部位の応力は比較的小さい。図3は作動状況1における車両全体の応力を示した図である。

表5 車体の静的強度の計算結果
作動状況 応力値(MPa) 応力最大位置
鉛直荷重作動状況 1 120.28 運転台のドアの角
2 138.9 運転台のドアの角
縦方向荷重作動状況 3 182.9 第一端連結器補強板部
4 275.8 第一端連結器補強板部
空力荷重作動状況 5 75.2 車体側壁と車体上部の移行部
組み合わせ作動状況 6 199.6 第二端の台車拘束部分
7 280.2 第二端の台車拘束部分
図3

図3 作動状況1における全体応力図

 関連標凖の規定する荷重作用の下、機関車車両の積載構造の静的強度が設計と運行を満たす条件は以下の通りである。

(1)正常な運行荷重の作用の下、その最大von_Mises応力は製造材料の許容応力を超えてはならない[10]。すなわち、

σmax≤[σ](1)

(2)運行における最大荷重(走行中に事故の発生した際に受ける荷重)の作用の下、その最大von_Mises応力は製造材料の降伏点σsを超えてはならない。

σmax≤σs(2)

 上述の作動状況においては、作動状況1は、運行荷重作用の下での作動状況であり、式(1)を用いて補正する。材料の許容応力は、材料降伏点σsと安全係数Sの商に基づいて計算を行う。「時速200km以上級鉄道車両強度設計・試験評価暫定規定」に基づき、運営荷重下の安全係数Sを1.5とすると、材料許容応力は197MPaで、静的強度の要求を満たした。作動状況2から作動状況7まではそれぞれ、車両持ち上げ作動状況、縦方向静荷重作動状況、組み合わせ作動状況であり、非正常の運行荷重作用の下での作動状況であり、式(2)によって補正すると、材料降伏点は295MPaで、静的強度の要求を満たした。

その2へつづく)

参考文献

[1] Beuth Verlag Gmb H.EN12663-1/2010,Structural Rerequirements of Railway Vehicle Bodies[S].Berlin: CNE,2010.

[2] Japanese Industrial Standards Committee. JIS E7106: 2006, Rolling Stock. General Requirements of Carbody Structures for Passenger Car [S]. Tokyo:Jpn.Ind. Stand.,2006.

[3] 白彦超,張碩韶,胡震,等.CRH3動車組鋁合金車体 強度設計技術研究[J].鉄道機車車輛,2013,33(2): 16-20. Bai Yanchao, Zhang Shuoshao, Hu Zhen, et al.Research on Design Technology for Aluminum-alloy Car Body of CRH3EMU[J].Railway Locomotie &CAR,2013,33(2):16-20.

[4] Seo Sung II,Park Choon-Soo,Kim Ki Hwan.Fatigue Strength Evaluation of Aluminium Alloy Carbody of Vehicles by Large Scale Dynamic Load Test[J].Foreign Rolling Stock,2009,46(2):27-32.

[5] 尹艶.CRH2動車組頭車車体結構強度研究[D]. 北京:北京交通大学,2007.

[6] 白彦超,胡震,黄烈威.出口加納動車組動車車体強度有限元分析及結構優化[J]. 鉄道車輛,2009,47(12): 17-21. Bai Yanchao, Hu Zhen, Huang Liewei. Export Ghana EMU Train Car Body Strength Finite Element Analysis and Structure Optimization [J]. Railway Vehicle, 2009, 47(12):17-21.

[7] 郭祥涛.高速動車組鋁合金車体結構分析及基于霊敏度分析的優化[D].北京:北京交通大学,2011.

[8] 屈昇.高速列車車体疲労強度研究[D].成都:西南交通大学,2013.

[9] 呉仁恩.基于ANSYS的鋁合金車体結構有限元分析研究[D].北京:北京交通大学,2008.

[10] 劉坤.鋁合金車体抗疲労能力研究[D].大連:大連交通大学,2013.

※本稿は宋燁、鄔平波、賈璐「動車組頭車車体疲労強度分析」(『中国機械工程』第26卷第4期、2015年2月下半月、pp.553-559)を『中国機械工程』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司