第126号
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浅水富栄養化湖中のリン吸着・固定の研究の進展(その2)

2017年 3月24日

毛成責:江蘇省海塗研究中心、江蘇省海洋環境監測預報中心

エンジニア。水生生物学の研究に従事。

矯新明:江蘇省海塗研究中心、江蘇省海洋環境監測預報中心

シニアエンジニア。海洋環境保護の研究に従事。

袁広旺,張暁昱:江蘇省海塗研究中心、江蘇省海洋環境監測預報中心

邵暁陽:杭州師範大学生命・環境科学学院

余雪芳:浙江省環境監測協会

その1よりつづき)

2.2 生物処理による水中リンの吸着と固定

2.2.1 食物連鎖による「固定」 湖の富栄養化の主要な特徴は、窒素やリンなどの栄養塩の濃度が高レベルを保ち、藻類が大量に繁殖することである。だが藻類は同時に、窒 素やリンなどの栄養素の重要な消費者であり、リンの吸着と固定に重要な役割を果たしている。

 関連する実験によると、湖やダム、水路などの水中に浮游性カイアシ類や藻食性魚類、虫食性魚類を投じると、「魚類→浮游性カイアシ類→浮游植物(藻類)」という食物連鎖によって藻類の密度が制御される。そ のため食物連鎖の頂点にある魚類を捕獲することによって、水中のリン元素を削減することができる。同時に水中でタニシやイシガイを放し飼いにすることにより、底泥中の有機質と栄養塩を減少させ、相 対的に安定した生態系を構築することができる [27-28] 。この方法は、水体のリン元素を削減すると同時に、一定の経済効果の産出も可能とする。だがカイアシ類や魚類などを投じる際には科学的な計画が必要となる。魚類の投入密度が高すぎれば、食 物連鎖の均衡が簡単に破壊され、大量の排泄物が水中に入り、二次汚染が引き起こされる可能性が高い。

2.2.2 沈水植物 沈水植物のリンの吸収・固定能力の研究は主に、セキショウモやエビモ、クロモなどの典型的な沈水植物を扱っている。関連研究はいずれも、沈水植物が主に、2 つの面から水中のリン元素を吸収・固定していることを示している。第一に、沈水植物そのものの生長が窒素やリンなどの栄養素の吸収を必要としており、リンの吸収・固定効果は、品種や時期、水 環境におけるリン濃度の違いなどによって異なる。セキショウモの幼苗期のリン吸収効率には一定の濃度範囲があり、0.013mg/Lよりも低い場合は吸収できず、0.1mg/Lよりも高いと吸収速度が遅くなり、吸 収量も減少する。また高すぎる濃度の窒素やリンはその生長を抑制し得る。生長期のセキショウモは、濃度が高いほど吸収がより強くなるという傾向を示し、吸着量とリン濃度は正の相関を呈する [29] 。エビモの環境適応能力は比較的高く、堆積物と水中の窒素リン濃度が高い湖はエビモの生長を逆に促進する。濃度が0.3mg/Lの時、エビモの全リンの摂取効果が最良となる。リ ン除去効果が良好であるため、玄武湖や白洋淀などの水域の富栄養化の生態修復に用いられている [30-32] 。だがある研究によると、エビモ腐敗後の残物が放出する窒素とリンの濃度は水に対する汚染負荷が最も高くなる。そのため過度に生長した際や衰退の季節には、科学的で合理的な取り入れや引き上げを行い、水 中の栄養塩濃度の反発を避ける [33-34] 。第二に、沈水植物は、湖の水・堆積物界面のリン吸着・脱着の理化学的プロセスに影響することを通じて、堆積物の水中リン元素の吸着和と固定に間接的に影響する。まず沈水植物は、流 速を低下させることにより、水の停滞する時間を延長し、有機質の沈降を促進する。沈水植物は、根の酸素放出を通じて、堆積物表層の酸化還元電位を上昇させ、堆積物の間隙水中の鉄・ア ルミニウム酸化物の含有量を高め、鉄・アルミニウム酸化物などと堆積物中の有機質は有機無機複合体を形成し、堆積物のリン吸着能力を顕著に高め、相対的に安定したリン酸鉄とリン酸アルミニウムの沈殿を形成する。こ のような鉄酸化物と被膜に包まれたリン酸塩は、生物によっては吸収されにくい吸蔵リンとなる [35-36] 。次に水体中の可溶性正リン酸塩は直接利用できる。その他の形式のリンは一般的にあまり利用されず、そのうちアルカリホスファターゼ(APA)は、後者が前者に転化する重要な条件となる。研究によると、沈 水植物は、アルカリホスファターゼ(APA)の活性の抑制を通じて、利用可能なリン濃度を引き下げ、水質浄化の目的を達することができる [37-38]

2.2.3 抽水植物 抽水植物によるリン除去の研究対象としては主に、ヨシやコガマ、ショウブ、マコモ、フトイ、ボタンウキクサ、アサザなどがある。その光合成部分は水面より上にある。沈 水植物に比べた場合の抽水植物の優位性は、透明度が比較的低い水でも正常に生長できることにある [39] 。羅虹 [28] は、何種類かの抽水植物と沈水植物の富栄養化淡水生態系の修復効果を比較した。その結果、同等の栄養塩濃度条件下では、バイオマス増加幅は、抽水植物のダンチクとコガマの方が、沈 水植物のマツモとセキショウモよりも明らかに大きいことが示された。高濃度の窒素とリンは、コガマとマツモ、セキショウモの生長に明らかな抑制作用を持つが、ダンチクのバイオマスは、窒素・リ ン濃度の上昇に従って増加し続けた。窒素・リン濃度が比較的低い状況では、抽水植物のダンチクとコガマの窒素・リン吸収能力が後者をいずれも上回った。鄧然ら [40] は、5種の水生植物の窒素・リン固定効果を比較し、ヨシは、環境中のNとPの濃度の変化に対する反応速度が比較的遅く、NとPの固定能力は中等水準に属するが、その安定性や耐倒伏性、耐 腐敗能力は5種類の植物のうちで最も強く、二次汚染や生物学的侵入の形成が起こりにくく、主導的な修復品種とすることができると論じた。同時に一部の高等抽水植物(ヨシ、シログワイ、ショウブなど)と沈水植物( 輪葉クロモ、ホザキノフサモ、エビモなど)は、アレロパシーを通じて特定藻類の生長を抑制する。例えばヨシから分離・抽出された2-メチルアセト酢酸エチルは、ミクロキスティス・エ ルギノーサとクロレラに対して効率的で方向性を持ったアレロパシー抑制作用を備えている。水生経済作物の一種であるシログワイは、水中にアレロパシー物質を絶えず放出することにより、ミクロキスティス・エ ルギノーサの生長を抑制する [41-42]

 深度の比較的大きな水域では、抽水植物は生長できない。姚東方ら [43] は、ヨシを栽培する生態浮床を設計した。試験結果では、生態浮床が、水中の窒素・リンに対して良好な固定効果を持つだけでなく、浮游生物群集の多様性を高め、富 栄養化した水域の生態系の修復と安定を促すことが示された。このほか生態浮床はさらに、人工魚礁に似た働きを持ち、魚類や一部の甲殻類に餌料生物を提供すると同時に、一 部の魚類の早期発育段階の個体にシェルターを提供するものともなり、「一挙多得」と言える。

3 おわりに

 湖の富栄養化は、水中の生態系の退化のプロセスを同時に伴う。高濃度の栄養塩は、藻類の過度な繁殖をもたらし、水の透明度は低下し、沈水植物は、十分な日照が得られず、生長できなくなる。湖は、草 型から藻型へと転化する。高等植物による固定を欠いた底泥は、波による撹乱を受けて浮き上がり、内因性の栄養塩の放出を加速し、優勢藻類の個体群の数量の増加をさらに促進し、悪循環に陥り、最 終的には水の華の発生につながり得る [1] 。そのため湖の富栄養化の対処にあたっては、水域の生態系の回復を拠り所としなければならない。

 各方面のシミュレーション研究によると、化学試剤と砿物材料による吸着などの物理的・化学的な吸着・沈降方法は、水中のリン元素の吸着・固定効率を確かに大幅に高めることができるが、その過程は、各 種の環境要因の影響を受けやすく、リンの吸着・脱着の均衡は、環境要因の変化の影響を受けて崩れやすく、処理の効果は不安定となる。また化学試剤と材料の多くは使用にあたって、湖 の生物と人類に毒作用がもたらされることも考慮する必要があり、その用法と用量は限定される。このためこれらの方法は長期的な使用には適していない。

 そのため富栄養化湖のリン元素固定の過程では、理化学的な吸着は、湖水のリン濃度を引き下げる補助と補充の方法に限られる。理化学的な処理と生物学的な処理を有効に結合し、生 態構造の改善という角度から出発し、水生高等植物の科学的な栽培と取り入れを行う必要がある。そうすることによって堆積物と水中の浮遊粒子状物質中の有効リンを吸収・吸着し、水域のリン含有量を根本から制御し、藻 類の密度と粒子状物質の負荷を引き下げ、各種の環境要因を調節し、最終的に水域の生態環境を回復することができる。

(おわり)

参考文献

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※本稿は毛成責;矯新明;袁広旺;張暁昱;邵暁陽;余雪芳「浅水富営養化湖泊水体燐吸附及固定研究進展」(『水産養殖』第37巻第1期,2016年1月、pp.24-29)を『水産養殖』編 集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司