第126号
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寒冷高地の砂地の人工植生回復区の地表堆積物の粒度の特徴(その1)

2017年 3月30日

田麗慧:北京師範大学環境演変與自然災害教育部重点実験室

研究テーマ:砂漠化防止対策と生態回復

張登山:北京師範大学環境演変與自然災害教育部重点実験室,青海省農林科学院

彭継平:北京師範大学環境演変與自然災害教育部重点実験室,国家林業局防治荒漠化管理中心

呉汪洋,張佩:北京師範大学環境演変與自然災害教育部重点実験室

概要:

 青蔵高原北東部に位置する共和盆地は、典型的な寒冷高地の乾燥・半乾燥砂漠地域である。青海省治砂試験所は、50年近くの発展を経て、「封砂育草区」「砂防造林区」「農地防護林網区」の一体化したオアシス防護体系を形成し、中国の寒冷高地の砂地の砂漠化総合対策の典型的なモデルを形成している。本稿では、典型的な砂固定植物である檸条(Caragana korshinskii)と烏柳(Salix microstachya)を選び、対策年限の異なる砂丘と丘間地を対象として、対策から50年開始後の人工植生回復区の地表60cmの深さの土壤の粒度の時空的変化を検討した。その結果、檸条の直接播種は、砂丘の地表60cmの土層堆積物の細粒化を促進し、地表から5cmではその程度が特に大きいことがわかった。土壤顆粒の変化は、植生の生長状況と物質の由来と関係がある。

キーワード:沙珠玉;地表堆積物;粒度;檸条(Caragana korshinskii);烏柳(Salix microstachya)

1 序言

 乾燥砂漠地域の比較的小さな空間スケールにおいては、気候の影響のほか、土壤の理化学的性質が植生に决定的な影響を及ぼしている[1]。土性(土壤の機械的組成)は、土壤の物理的性状の重要な一部であり、土壤の透水性や水分の吸収・保持能力、緊密度、粘性などの多くの性質に影響するだけでなく[2]、植物の環境条件と養分供給にも重要な役割を果たしており、砂漠化の発生・発展及び植生回復と密切な関係を持っている[1,3]。植生回復は、土壤-植物複合系統の機能を十分に利用し、局部の環境を改善し、生態系の遷移の方向と速度を一定程度改変し、回復周期を短縮することができ、自然生態系の回復の有効な措置と言える[4-6]。これまでの研究によると、砂地の植生回復の程度が高まるにつれ、表層土壤は細粒化の傾向を示し[1,7]、バイオクラストが出現し始め[8-10]、一定程度まで発展した時には、低木が衰退し始め、草本が徐々に優占種となっていく[1,11]。だがこれはゆっくりとした過程となる[7,12]

 共和盆地は、青蔵高原で土地の砂漠化の程度が最も深刻な地区の一つであり、寒冷高地の乾燥・半乾燥地の砂漠化過程の防止・対策と砂漠化した土地の生態修復技術の研究において、重要な地位と代表性を備えている[5,13]。沙珠玉郷は、青海省共和盆地で砂漠化が最も深刻な地区の一つで[14]、砂漠化した土地は498.19km2にのぼり、土地面積全体の76.5%を占めている。青海省政府は1958年、沙珠玉に「青海省治砂(砂漠化対策)試験所」を設立し[7]、8.58km2の土地を囲って試験モデルエリアとし、流砂対策と砂漠エリアの植生の再構築の試みを始めた[15]。長年の対策を経て、試験エリアで人工栽培した植物がいかに生長したか、対策エリアの土性に改善が見られたかなどをめぐって、これまでの研究ですでに一部の答えが出ている[5,13,7,16-17]。復元生態学の研究においては「空間代替法」がよく用いられる手段の一つとなっている[9,11,18-23]。それらの研究においては、異なる年代の植生回復区の初期状態の土壤特性を一致したものとみなしていた。沙珠玉河は西から東に向かって同地域を流れ、丘間地(砂丘間の土地)には河川の堆積物が残留している。同地域の砂丘は、砂を含む風による堆積物であり、異なる年代において異なる地域で砂の固定がなされている。このため過去の研究において、異なる回復段階に同じ品種が選定されていたことは、一面的であったと言える。本稿は、対策エリアを砂丘と丘間地の2種類に大別し、時系列の最もそろった檸条と烏柳の2品種を研究対象とし、異なる対策エリアの異なる回復段階の土性の変化を研究し、寒冷高地の砂漠エリアの生態プロジェクト建設の作用メカニズムと持続可能発展の研究の参考となることを目指すものである。

2 研究エリアの概況

 沙珠玉は海抜2800~2895m、気候は乾燥・寒冷であり、強風が多く、植生はまばらで低く、砂物質が豊富で、風食や風による堆積が深刻であり[5]。沙珠玉河の侵食面を土台として風食・堆積地形が形成されている[15]。砂堆やバルハン砂丘、バルハン砂丘群、縦列砂丘を中心とし[5]、砂漠化した土地は主に沙珠玉河の南岸に分布している[15]。同地域の平均気温は2.4℃で、無霜期間は91日である。年平均降水量は246.3mmで、主に5--9月に集中し、蒸発散位は1716.7mm[7]、通年の降水-蒸発比(乾燥度)は7で、乾燥気候に属する[24]。平均風速は2.7m·s-1、最大風速は40m·s-1に達し、強風の吹く年間日数、すなわち風速が17m·s-1より大きい日数は50.6d、最多の年で97dに達し、砂塵嵐の日数は平均20.7dに及ぶ。域内には、風砂土(aeolian sandy soil)が広く分布し、植生類型は、短花針茅(Stipa breviflora)を主とする典型的な砂漠草原と、沙蒿(Arte-misia arenaria)を主とする砂地の半低木植生である[5]

 1959年から50年余りの整備を経て、「封砂育草区」「砂防造林区」「農地防護林網」の結合した比較的整った防護体系が形成され、良好な生態・経済・社会効果を得て、青海省と全国の防砂治砂の模範となった[5]。同地域は、砂漠化の防止・対策の面で、機械的な砂固定と生物的な砂固定が結びつき、灌漑造林と無灌漑条件下での挿し木、直接播種造林が結びついた砂漠化処理モデルを編み出した[23]。青海省治砂試験所は、高低木の樹種60種余りを省内外から相次いで導入し、本地区での生長に適した10種余りの優良樹種を選びだした。このうち小葉楊(Populus simonii)は、60年代の主要な造林樹種の一つであり、退化の傾向にはあるが、一部の水分条件の比較的良い丘間地では不均等に存在している。檸条(Caragana korshinskii)と烏柳(Salix mi-crostachya)は年代系列が最も全面的である。1960年代から現在まで、造林では、檸条と沙蒿を用いての砂丘での直接播種造林、烏柳を用いての丘間地と氾濫原での挿し木造林が行われている。

3 研究方法

 本稿は、1960、70、80、90年代と21世紀早期(2004--2005年と2008--2009年)に播種された檸条の流動砂丘と、烏柳を植え付けた丘間地を典型地域とし、流動砂丘と封育草地を対照として選び、14カ所の標本地を設けた(表1)。

 2012年5月、典型標本地において、断面サンプリング法を採用し、砂丘の風を迎える側と丘間地で、深度0~5cm、5~10cm、10~20cm、20~40cm、40~60cmの土壌サンプルを取り、標本地ごとに3つの重複サンプルを取り、合計225のサンプルを得た。採取されたサンプルを実験室に持ち帰って乾燥させ、均等に混ぜ合わせ、北京師範大学環境演変・自然災害教育部重点実験室で粒度測定器Mastersizer 2000を利用して粒度の組成を測定した。

 土壤の機械的組成は、以下の粒径に従って分類する[5]。極粗粒砂(2.0~1.0mm)、粗粒砂(1.0~0.5mm)、中粒砂(0.5~0.25mm)、細粒砂(0.25~0.1mm)、極細粒砂(0.1~0.05mm)、シルト(0.05~0.005mm)、粘土(<0.005mm)に分けられる。FolkとWardの図解法[25]を用いて粒度パラメーター、平均粒径(Mz)と分級係数(δ)、歪度(SK)、尖度(Kg)を計算する。SPSS13.0ソフトウェアを利用して統計分析を行う。

表1 沙珠玉青海省治砂(砂漠化対策)試験モデルエリア典型標本地の選択
Table 1 Sample areas of Shazhuyu sand-control experimental station of Qinghai Province
標本地 番号 初期地形 措置時期 機械的措置 造林方式 人工栽培品種
流動砂丘 MD 流動砂丘 -- -- -- --
50年檸条 NT60 流動砂丘 1960年代 粘土防砂バリア 播種 檸条、沙蒿
40年檸条 NT70 流動砂丘 1970年代 粘土防砂バリア 播種 檸条、沙蒿
30年檸条 NT80 流動砂丘 1980年代 粘土防砂バリア 播種 檸条、沙蒿
20年檸条 NT90 流動砂丘 1990年代 粘土防砂バリア 播種 檸条、沙蒿
7年檸条 NT05 流動砂丘 2005年 粘土防砂バリア 播種 檸条、沙蒿
3年檸条 NT09 流動砂丘 2009年 粘土防砂バリア 播種 檸条、沙蒿
封育草地 GL 固定砂平地 -- -- -- --
50年烏柳 WL60 丘間地 1960年代 -- 実生苗植付 烏柳
40年烏柳 WL70 氾濫原 1970年代 -- 実生苗植付 烏柳
30年烏柳 WL80 丘間地 1980年代 -- 実生苗植付 烏柳
20年烏柳 WL90 丘間地 1990年代 -- 実生苗植付 烏柳
8年烏柳 WL04 丘間地 2004年 -- 長稈の深部への植付 烏柳
4年烏柳 WL08 丘間地 2008年 -- 実生苗植付 烏柳

その2へつづく)

参考文献

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※本稿は田麗慧,張登山,彭継平,呉汪洋,張佩「高寒沙地人工植被恢復区地表沈積物粒度特征」(『中国沙漠』第35卷第1期、2015年1月、pp.32-39)を『中国沙漠』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司