高速鉄道車両の速度センサにおける電磁妨害の測定および分析(その1)
2017年 3月15日
厳加斌:西南交通大学電気工程学院
主な研究テーマは電磁妨害の分析および電磁両立性の設計。
朱峰:西南交通大学電気工程学院 教授
主な研究テーマは電磁妨害の分析および電磁両立性の設計。
李軍, 沙淼, 袁徳強:長春軌道客車股分有限公司
概要:
CRH380BL型鉄道車両の速度センサにおける電磁妨害問題について、現場の実測値と合わせて研究を行った。まず、ホールスイッチセンサそのものに良好な電磁妨害防止能力の有無について分析を行い、パ ンタグラフ降下の際に発生するアーク放電によって車両に過電圧が発生すると車両に電磁妨害が生じることを指摘した。次に、電気双極子理論を採用し、パンタグラフ降下時に励起される電磁場の特性を分析し、磁 場が絶縁体表面の接線成分において非連続的であるという視点から、車両に過電圧が生じた原因を分析した。そして最後に、センサの通信ケーブルのシールド層の接地方法という視点から、車 両の過電圧によるセンサの電磁妨害との結合メカニズムを分析した。その結果、パンタグラフ降下時に生じる磁場強度の最大値は54.07dBμA/mで、周波数は主に5MHz付近に分布し、2 号車車両の車体における過電圧は600V以上に達することがわかった。車体の妨害電圧はケーブルのシールド層とコアケーブルとの間の寄生容量を通じてコアケーブル内に結合し、コ アケーブル内における速度信号の送信を妨害する。このため、1号車車両に保護接地ケーブルを新規に設置した後は、アーク放電による速度センサの電磁妨害を効果的に低減することができた。
キーワード:高速鉄道車両、速度センサ、電磁妨害
1 はじめに
現在、高速鉄道車両の安全な運行においては、外部環境からの試練がますます多くなっており、特に電磁環境による影響は日増しに悪化している[1-2]。C RH380BL型鉄道車両の運行中に発生した代表的な電磁妨害による故障では、パンタグラフ降下時に車両ドアの誤開閉が生じたが、分析の結果、速度センサが受けた電磁妨害と関係することがわかった。現在、中国内外ではセンサの電磁妨害に関する研究が数多く行われているが[3-6]、鉄道車両の速度センサにおける電磁妨害に関する研究は少ない上に、主にCRH2型車両に集中している。楊剣[7]は、鉄 道車両の故障現象について、鉄道車両の保護接地の視点から鉄道車両の速度・距離計測設備に電磁妨害問題が生じる原因を分析した。HATSUKADE S[8]は、鉄道車両の高圧ケーブル接線方式から、パンタグラフの上昇・降下時の車体における過電圧の発生原因を分析した結果、過電圧が車体の高感度設備に電磁妨害を生じさせる主な原因であることを指摘した。しかしながら、ヨ ーロッパ系車両を原型とするCRH3型鉄道車両は設計上、CRH2型鉄道車両と異なる点が多い。例えば、CRH2型車両は速度センサにおけるケーブルのシールド層に両端接地による取付方式を採用しているが、C RH3型車両は一端接地である。また、CRH2型車両の保護接地は多点接地であるが、CRH3型車両は一点接地である[9]。
本稿では、CRH380BL型鉄道車両における速度センサの作動原理を出発点として、速度センサそのものに良好な電磁妨害防止能力が備わっていることを理解し、パ ンタグラフ降下時に励起される電磁場によって鉄道車両の車体上に過電圧が生じると、速度センサを妨害することを指摘した。そして、さらに検証を続け、ま ずは電気双極子理論を採用してパンタグラフ降下時に励起される電磁場の特性を分析した。次に、磁場は絶縁体表面の接線成分において非連続的であるという視点から、車両に過電圧が生じた原因を分析した。また、セ ンサの通信ケーブルのシールド層の取付方式という視点から、車体の過電圧による速度センサへの妨害の結合メカニズムを分析し、現場の実測値と合わせて速度妨害波形を導いた。この結果、保 護接地の新たに設置するという方法によって、鉄道車両の速度センサにおけるアーク放電による電磁妨害を効果的に低減できた。
2 速度センサの作動原理
CRH380BL型鉄道車両の速度センサはホールスイッチセンサ[10-12]であり、電圧レギュレータ、ホール電圧発生器、差動増幅回路、シ ュミットトリガ波形整形器およびオープンコレクター出力の5つの基本的な部分から構成される。図1のとおり。
図1 ホールスイッチセンサの原理
Fig. 1 Schematic diagram of Hall switch sensor
速度センサは、歯車板を取りつけてある車輪軸端に設置されており、車輪が回転する際に、歯車が回転するとセンサ前端周囲のエアギャップ磁場が変化する。ホール効果の原理に基づけば、ホ ール電圧発生器はホール電圧VHを出力できる。その計算式は、式(1)のとりである。
式中、 はホール電圧発生器の幾何学的サイズの長さと幅の比である。すなわち、μはキャリアの移行率であり、Vは安定電圧、Bは外部磁場強度である。
当該ホール電圧は、増幅器によって増幅された後にシュミットトリガ波形整形器に送られる。VHが増幅器によって増幅された後の電圧値が「作動」閾値を上回ると、シュミットトリガ波形整形器は反転し、そ の出力する高電位水平駆動によって、出力トランジスタが導通し、オープンコレクター出力が高電位となる。これと同様に、ホール電圧発生器から発生したホール電圧VHが、増 幅器によって増幅された後の電圧値がシュミットトリガ波形整形器の「作動」閾値を下回ると、シュミットトリガ波形整形器はさらに反転し、トランジスタ出力を打ち切るまで、オープンコレクター出力は低電位となる。こ うして、電位が「高かったり」、「低かったり」することによって、センサは矩形波パルスを出力し、計数回路を経て鉄道車両の速度値に返還される。
CRH380BL型鉄道車両における速度センサの作動原理からわかることは、エアギャップ磁場の変化が、センサの電位出力が跳ね上がる唯一の要素であるため、こ のエアギャップ磁場が妨害を受けるとセンサの出力に直接影響を及ぼすことである。しかしながら、速度センサが設置されている軸端には厚い軸用エンドキャップが取り付けられていて、これは鋼鉄材料で出来ており、外 界の磁場に対して優れた遮蔽効果がある[13]。このため、外界の磁場の変化によるエアギャップ磁場への影響は極めて小さく、センサ出力の妨害とはなり難い。しかし、C RH380BL型鉄道車両の速度センサにおける通信ケーブルの遮蔽層の一端は車体と連結し、もう一端はぶら下がっていることから、一端接地に相当する。パ ンタグラフ降下時に発生するアーク放電によって車体に過電圧が生じる際は、遮蔽層とコアケーブルとの間の寄生容量を通じてコアケーブル内に結合し、速度信号を妨害する。しかし、車 体の過電圧を下げることができれば、パンタグラフ降下時のアーク放電による速度センサへの電磁妨害を効果的に低減できる。この考え方を検証し、C RH380BL型鉄道車両における速度センサの電磁妨害問題を解決するには、関連測定および対比試験を行う必要がある。
3 測定の実施
3. 1 機器パラメータの設定
今回の測定には、空間の磁場測定、車体の電位測定、速度センサの信号ポートにおける電圧測定が含まれる。使用する機器は、R&S ESCI-3電磁妨害受信機(測定範囲は9kHz~3GHz)、R &S HFH2-Z2ループアンテナ(周波数範囲9kHz~30MHz)およびR&S RTM1052オシロスコープ(測定周波数500MHz、サンプリング・レート5GSa/s)である。パ ンタグラフ降下時に生じるアーク放電の時間は短いことから、その電磁妨害は過渡妨害と考えられるため、設置する電磁妨害受信機は周波数掃引モード(分解能帯域9kHz、ピーク値で検波)とし、オ シロスコープはロール・モード(タイムベース500 ms)により測定を行った。
3. 2 測定設計
3. 2. 1 放射測定の設計
CRH380BL型鉄道車両は16両編成であり、測定時には2号車のパンタグラフを上昇・下降させたため、2号車の速度センサを測定対象とした。GB/T 24338.1-2009「軌道交通電磁両立性 第2部分:全軌道システムによる外界への放出」に基づき、10m法を採用して測定を実施した[14]。選択距離については、軌道中心との水平距離が10mのポイントでアンテナを架設する。ア ンテナのループは軌道と平行に設置し、その中心距離については、軌道平面との垂直距離を2mとする。図2のとおり。
図2 アンテナ架設位置
Fig. 2 Setting position of antenna
3. 2. 2 車体の電位測定の設計
パンタグラフ降下時に、オシロスコープを使用して2号車車体のレール(地面)に対する電位を測定する。図3のとおり。
図3 車体の電位測定の設計
Fig. 3 Test layout of car body potential
3. 2. 3 センサの信号ポートにおける電圧測定の設計
パンタグラフ降下時に、オシロスコープの電圧検出回路の正極と負極をそれぞれセンサの信号ケーブルとアースにつなぎ、センサの信号ポートにおける電圧波形を測定する。図4のとおり。
図4 センサの信号ポートにおける電圧測定の設計
Fig. 4 Test layout of sensor signal port voltage
( その2へつづく)
参考文献
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※本稿は厳加斌, 朱峰, 李軍, 沙淼, 袁徳強「高速動車組速度伝感器的電磁干擾測試与分析」(『電子測量与儀器学報』第29巻第3期,2015年3月、pp.433-438)を『 電子測量与儀器学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司