第127号
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ナノ技術の石油探査開発分野での応用(その2)

2017年 4月28日

劉 合:中国石油天然気股フン有限公司勘探開発研究院

 博士。中国石油探査開発研究院教授級高級工程師。低浸透性オイル・ガス貯留の増産改造、機械採掘システムの効率向上、分層注水、シャフト工学制御技術などの研究に主に従事する。

金旭,丁彬:中国石油天然気股フン有限公司勘探開発研究院

その1よりつづき)

2 ナノセンシング技術

 工業分野では、人類のマイクロ多機能設備の研究は絶えることなく続いている。石油工業では、オイルプールの描写に特化したナノセンサーの製造を目指し、オイルプールナノロボットという構想を打ち出している。

2.1 貯留層ナノセンサー

 1980年代中後期には、微小電気機械システムが、電子工学や材料工学、機械工学、情報工学などの複数の科学技術工学を有効に結合し、マイクロメカニズムやマイクロセンサー、マイクロアクチュエーター、信号処理、制御回路、コネクタ、通信電源などを一体化したマイクロデバイス・システムを制作した。だがデバイスのサイズはまだ比較的大きく、多くはセンチメートル—マイクロメートル級だった。科学技術の一層の発展に伴い、ナノ電気機械システムが実現した。加工寸法はわずか1~100nmで、電気機械結合を主要な特徴とし、ナノ級構造による新たな効果に基づいたデバイスとシステムが構成された[18]。ナノ電気機械システムは、ナノ材料とその特殊効果に基づくマイクロデバイスであり、ナノ材料の優れた性能が統合され、ナノ級の寸法によって貯留層の微小孔隙への注入が可能となった。

 ナノ電気機械技術とオイル・ガス産業の需要とを結合し、グラフェンやカーボンナノチューブ、磁性ナノ粒子、圧電材料などの先進ナノ材料を利用し、温度や圧力に耐えることのできるナノ級のサイズのセンシングデバイスを制作し、シャフトから注入し、貯留層中に拡散させ、地層のパフラメーターを記述する。例えばナノ造影剤やナノ信号増強剤は、簡単なナノロボットの役割を果たす。これらは、流体とともに貯留層の孔隙に進入し、貯留層の局部の電気学・磁気学・音響学的特徴を変え、電気検層や核磁気共鳴検層、微小地震検層などの曲線における油層の水層の区分度をさらに高め、貯留層の孔隙度や浸透率、油飽和率などのより多くの情報を獲得するものである。

 在来型のオイル・ガスの貯留岩内部の孔隙の直径は通常2μmより高く、高品質の貯留岩の孔隙の直径は通常30μm(マクロ孔隙また大孔隙)を超え、スロートの直径は10μmを超える。良好な孔隙は、ナノセンサーの注入に無限の可能性を与えている。相対的に言って、非在来型貯留層は、孔隙やスロートの直径が多くは1μm以下で、ナノセンサーの進入と移動は大きく制限される。このため貯留層のナノセンシング技術の対象は、在来型オイル・ガス貯留層となる。このほかナノセンシング機能の実現にあたっては、ナノ材料の性能への要求がより高い。ナノ材料は、オイルプールに自由に進入し、堆積して孔隙を塞ぐことを避けることができるだけではなく、情報の記録や伝送もできなければならない。

 米国AEC(Advanced Energy Consortium)が助成するテキサス州立大学の研究チームは近年、多孔質体中の磁性ナノ粒子の流体における負荷移動について多くの研究を行い、実験と物理シミュレーションを結合し、ナノ粒子の多孔質体における分布を研究した。AECは、イメージング増強造影剤やターゲットに向けて放出されるナノセンサー、圧力破壊による裂け目のキャラクタリゼーションに使うナノセンサーなどを開発している。Agenetら[8]は、蛍光ナノ粒子を製造し、流体のスマートトレースに用いた。Ryooら[19]は、実験を通じて常磁性ナノ流体を製造し、磁性粒子の多孔質体における移動法則をシミュレーションした。これらの研究はまだ実験室の難関突破段階にあるが、産業化の実行可能性を示している。

2.2 オイルプールナノロボット

 オイルプールナノロボットは、オイルプールセンサーとマイクロ動力システム、マイクロ信号伝送システムを一体化したマイクロオイルプール探査・計測設備である。サウジアラムコは、化学分子システムと機械システムの有機的に結合に基づくオイルプールナノロボットを考案・研究開発し、2010年6月に現場での試験を初めて成功させた[20]。比較的高い回収率を収めると同時に、ナノロボットを運ぶ流体も、高い安定性と流動性を示した。理想的なオイルプールナノロボットは、サイズが人類の毛髪の直径の1/100の機能性ナノデバイスであり、注入水とともに地層に入り、オイルプールの温圧や孔隙の形態、流体のタイプ、粘度などオイルプールと流体の情報をその途中で感知し、リアルタイムで記録することができる。さらにこれらの情報を保存し、リアルタイムで地上に伝送し、生産井中の原油の産出とともに回収し、循環使用する。オイルプールナノロボット探査技術の空間分解能は、ウェルシューティングやコア立体スキャン分析を大きく上回り、オイルプールと流体の全体に対するターゲットをもった定量分析ができる。ナノロボットによって取得されたデータは分析後、オイルプールの範囲の確定の補助、オイルプールの裂け目と断層の特徴図の制定、高浸透流の通路の識別と確定、オイル・ガス・水の空間分布や残存オイル・ガスの位置・グレードなどの情報の正確な記述、オイル・ガス井の位置設定の確定と最適化、有効な地質モデルの構築に用いることができる。現在オイルプールに注入されているナノロボットはまだ、多機能探査や運動の能力はない。次世代のオイルプールナノロボットは今後5~10年以内にオイルプールに投入され、多くのパラメーターの識別・伝送機能を持ち、さらに油置換能力も備えたものとなる見通しだ。

 研究開発のコストを考えないとしても、オイルプールナノロボットというコンセプトの実現は、さまざまな難題に直面することになる。主なものとしては、サイズの微小、デバイスの安定性、運動能力、信号の伝送・計測、回収分離、再利用などが挙げられる。貯留層に注入する機能性ナノ粒子またはナノデバイスには、サイズが小さいことが求められる。異なるタイプのオイルプールの孔隙に対して、その体積にはいずれも上限がある。サウジアラムコ社はこの分野で、試験的な研究を行い、ナノロボットのサイズはスロート直径の1/4程度であるべきだと論じた[20]。次に、ナノロボットそのものの信頼性の解決の難度も高い。地層条件下の温度や圧力、流体塩度、pH値などの厳しい条件にもさらされる。Shiauら[21]は、ナノ複合粒子懸濁液の安定性の関連研究を展開した。さらにナノデバイスを多孔質体中に流体とともに注入できるか、自家凝集が発生しないか、孔壁表面へと吸着しないかなども解决すべき問題となる。最後に信号の計測という問題がある。ナノデバイスそのものの体積が小さいこと、また凝集の濃度が比較的低いことから、その信号が地層の複雑な非均質な鉱物の信号によって埋もれないかも、設計において考慮すべき問題となる。回収可能なナノロボットにとっては、流体からいかに有効に分離し、その情報を破壊しないか、収集した情報をいかに解釈するかなどの問題もある。オイルプールナノロボットのカギとなる技術は依然としてブレークスルーが求められている。ナノサイエンスの発展はオイルプールナノロボットの発展を推進し、ナノジェネレーターやナノその場接触分解などの技術の絶え間ない発明と革新はその最終的な産業化応用を実現することとなる。

3 マイクロ・ナノ多孔質体中のオイル・ガス移動シミュレーション技術

 非在来型オイル・ガス貯留層におけるオイル・ガス流動法則の研究の深まりに伴い、数値シミュレーションはもはや、ミリメートルやマイクロメートル級の浸透流シミュレーションにはとどまらず、微小孔隙中のオイル・ガスの分子・原子レベルの運動シミュレーションへと拡張し、鉱物や有機質、オイル・ガス・水の間の相互作用にかかわるものとなっている。貯留層サンプルの強烈な非均質性によって、流体や岩石の相互作用に影響する要素は数多くなる。国内外の従来の物理実験は通常、多くの要素の影響下である一つのマクロパラメーターを直接取得し、データに基づいて各要素の影響のランチャートを作り、特定の要素の影響を検討するものである。だが以上の方法で獲得された趨勢の結果は、温度や圧力、鉱物や有機質の表面の湿潤性などの各種の主要要素の影響の配分をメカニズムの面から明らかにすることはできない。このほか高温や高圧、複雑流体などの条件が同時にかかわる過酷な地層条件は、実験室の物理実験分析計測設備のオンライン構築に大きく影響する。マイクロ・ナノ多孔質体の数値シミュレーションは、以上の問題を根本から解決するものとなる。例えばミクロ浸透流のシミュレーションに用いる格子ボルツマンシミュレーション[22]は、初期の流体タイプや構造モデル、温度・圧力の条件の制御を通じて、制御可能変数法を利用し、流体浸透流または気体-鉱物間の相互作用の法則に対する特定の主要要素の影響を単独で研究し、オイル・ガスの異なるスケールの多孔質体中の移動メカニズムをミクロレベルからより直観的に示したものである。このシミュレーション技術は、貯留層研究において重要な役割を発揮することとなる[23-29]

 シェールの複雑性から、シェールガスの貯留空間における移動集散のメカニズムままだ明確になっておらず、シェールガス資源量の評価や生産能力の評価、効率的な採掘など多くの部分に影響が出る。分子シミュレーションを利用したメタンの吸着・脱着過程の研究においては通常、グラファイト、モンモリロン石、酸化ケイ素などの壁面を利用して、シェール貯留層の孔隙構造を模倣する。だが孔隙モデルは一般的に簡単であることから、多種類の地層条件パラメーターは全面的には考慮されず、シミュレーションの吸着等温線に偏差をもたらしている。そのため生産の指導を行うためには、モデルの簡略化とパラメーターの設置の間でバランスを見つける必要がある。人びとは最初、炭素原子を利用して壁面を構築した。孔隙のタイプの多くは、平行板スリット孔モデルまたはカーボンナノチューブモデルだった[23-26]。このモデルは、均一ナノ材料(活性炭素など)の気体吸着シミュレーションにおいては良好な効果を得た。だがシェールガスに対しては、炭素原子によって構築されただけのスリット孔または管状モデルは単純すぎ、シェール貯留層中の無機質孔隙と有機質孔隙のいずれとも大きな差異があることから、モンモリロン石や酸化ケイ素などシェール孔隙により近い壁面を利用して無機質孔隙のシミュレーションがなされる。Tenneyら[27-28]は、異なる官能基をスリット孔壁面に添加し、分子シミュレーションを用いて、材料表面の異なる成分の非均等性、気体吸着に対する異なる孔隙構造の影響を研究した。Zhaiら[29]は、モンモリロン石の結晶構造に基づき、より正確な全原子モデルを構築し、モンテカルロ法シミュレーションと分子動力学シミュレーションを利用して、埋蔵深度の異なるシェールガスの吸着と拡散のメカニズムと法則、シェールガスの吸着に対する孔径の影響をそれぞれ研究した。Jorgeら[30]は、孔壁にカルボニル基を導入することによって、表面の化学的非均等性をキャラクタリゼーションし、非極性エタンと極性水分子のスリット状活性炭素孔における吸着をシミュレーションした。シェールガスの貯留が極めて大きい有機質孔隙は、内部に芳香族と脂肪族の構造を含み、多種類の表面官能基がある[31]。こうした化学的な非均等性は、気体吸着量や吸着相密度などに直接影響し、メタンの吸着メカニズムにも影響を与える。相対的に言えば、シェール中の有機質ミクロ孔隙内のオイル・ガスの吸着・移動法則の分子シミュレーションに関する発表は比較的少ない。

 オイルはガスに比べて分子量が大きく、成分が複雑で、液態または半固態の形式で貯留層中に賦存している。タイトオイルの貯留層における液体-固体の相互作用の分子シミュレーションの研究は比較的複雑で、展開されている研究は少ない。だが分子動力学を利用すれば、開発過程における壁面に吸着した油分子に対する油置換剤の作用を研究することができる。Wangら[32]は、分子動力学を利用して、開発過程におけるアスファルテンの自己集積メカニズムをシミュレーションを行い、マイクロエマルションの油・水界面におけるアスファルテンの形状と移動法則、孔隙壁面に吸着した油分子に対する油置換剤の作用を研究した。

 このほかCO2の地下貯留とCO2による採掘率の向上も近年の研究の焦点となりつつある。以下の研究は、CO2による採掘率向上の分子シミュレーション研究に考えの道筋を与えるものとなっている。Nicholsonら[33]は、グランドカノニカルモンテカルロ法(GCMC)を用いて、CH4/CO2の選択性に対する孔隙の大きさと分子間作用力場の影響を考察した。Babaraoら[28]も、GCMC法を用いて、CH4/CO2混合気体の吸着行為に対するスリット孔と円柱孔の影響を研究した。Liuら[34]は、Tenneyモデルを土台として、カルボニル基とエポキシ基を添加し、複雑なモデルを利用して、CH4/CO2の吸着行為をシミュレーションした。

 非在来型オイル・ガス資源の主な貯留空間はマイクロ・ナノ孔隙であり、極めて低い孔隙度や浸透率、強い非均質性は、吸着・拡散実験の誤差の大きさをもたらす。また貯留層の温度と圧力は高く、実験室の物理シミュレーションにも難度がある。このためマイクロ・ナノ多孔質体中のオイル・ガスの移動の数値シミュレーション技術は今後、シェールオイル・ガスとタイトオイル・ガスの移動集積のメカニズムや分布方式の探求や資源評価のための重要な手段となる。

その3へつづく)

参考文献

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※本稿は劉合,金旭,丁彬「納米技術在石油勘探開発領域的応用」(『石油勘探与開発』第43卷第6期(2016年12月)、pp.1014-1021)を『石油勘探与開発』編集部の許可を得て日本語訳・転 載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司