第131号
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ヘリコプター全体設計の方針と手法の発展分析(その2)

2017年 8月22日

倪 先平:
中国航空工業集団公司、南京航空航天大学直昇機旋翼動力学国家級重点実験室

朱 清華:
南京航空航天大学直昇機旋翼動力学国家級重点実験室

その1よりつづき)

2 従来のヘリコプター全体設計の手法

 業界内で認められた世代分類方法によれば、ヘリコプターはすでに第四世代まで進化している [10] 。実用型ヘリコプターは1930代末に登場した。第一世代ヘリコプターの技術は未熟で、安 全性に問題があったほか、全体設計は主にヘリコプターの基本的な飛行性能のみに注目したものだった。全 体設計の手法はほとんどが固定翼機と回転翼機の設計手法を参考にしたものだった。オ ートジャイロの発展はヘリコプターよりも約15年早く、そのローター技術はヘリコプター発展の基礎を築いた [11]

 1960年代初期から70年代末にかけて、第二世代ヘリコプターが急速に発展した [10] 。ヘリコプターの型式が大幅に増加し、各分野で幅広く使用されるようになり、ヘリコプターの開発・使 用経験が豊富に蓄積された。ヘリコプター全体設計の手法も徐々に完備され、システム化されていった。こ の段階の全体設計の重点は、機能設計から性能設計へと徐々に転換しはじめ、主 に以下のいくつかの手法が採用された [12-13]

1) プロトタイプ設計法 技術が熟した既存の機体を参考に、ヘリコプターの全体パラメータの初期値、基本的な空力形状、システムの基本案と重量見積もりなどを確定し、こ れをベースとして飛行性能分析やコストパフォーマンスの分析を行い、さらに使用要件と比較して徐々に調整しながら最終的な全体設計案を確定する。

2) 統計分析設計法 既存のヘリコプターの主要設計パラメータの統計データベースを構築し、大量の設計パラメータに対する相関分析を行い、重 回帰分析などを通じてヘリコプターの主要パラメータと統計パラメータ間の統計関係関数式を作り上げる。こうすることで、設計者は使用要件に基づき、統 計関係式からヘリコプターの全体設計パラメータを初歩的に選択することができる [14]

3) パラメータ分析法 使用要件のうちの1つの主要要件に基づき、ヘリコプターの主な全体パラメータを初歩的に確定し、その後その他のタスクの要件に基づきその他の全体パラメータを確定する。こ の手法では通常、ヘリコプターの離陸重量あるいは燃料重量をバランスパラメータとして採用し、コンポーネントとシステムの統計量の公式とヘリコプター性能分析モデルを設計・分析のツールとする [15]

 従来型の全体設計手法では主にプロトタイプ法と統計データ分析を参考にし、設計者の過去の経験に依存していた。このため、物理的概念がはっきりしている、設計プロセスがシンプル、設 計目標が単一的という特徴があった。しかし、各学術分野の理論モデルと計算条件の制限を受けるため、設計で考慮できる要素が比較的少なく、ほ とんどの状況において系統的に分析されるのはヘリコプターの飛行性能のみとなってしまう。また、飛行力学、動力学、音響学といった分野の影響を同時に考慮することは難しく、パ ワーユニットなど主要システムとコンポーネントの設計パラメータを同時に分析することも困難であり、設計パラメータ調整の範囲が非常に限られてしまう。このため、短 期間内に複数の実現可能な全体設計案を作成して比較分析を行ったうえで、最善の案を選択するということができない。その後の詳細設計の段階で、ヘ リコプターに対して各学術分野から見た全面的な特性分析を行う際にも、個々の特性が使用要件を完全に満たしていない、あるいは設計仕様の要件を満たしていないため、全 体設計案に必要な調整を加えなければならない状況が往々にして発生する。こうなると、開発サイクルの延長やコスト増加が招かれる可能性がある。

3 ヘリコプター全体設計の最適化手法

 システム工学の方法論とコンピュータ技術、および最適化理論の迅速な発展に伴い、ヘリコプター全体設計の最適化技術は徐々に発展し、成熟してきた [16] 。ヘ リコプターシステムの費用便益比に重きを置いたヘリコプタープログラム評価が徐々にヘリコプター開発に導入されるようになり、入出力設計の閉ループが形成された。最 適化設計に基づく全体設計の手法は第三世代ヘリコプターの開発で幅広く応用され、ヘリコプターの型式の発展を積極的に推進した。

 ヘリコプター全体設計の初期段階において、最適化技術はパラメータの最適化選択、および空気力学・動力学・ローター・構 造といった主な学術分野やシステムコンポーネントの性能パラメータ設計の最適化などに用いられた [17] 。初期のヘリコプター最適化設計の方針は、従来の全体設計の方針をほぼ受け継いでいたが、カ バーする学術分野の範囲と、設計情報量は従来の設計手法を大幅に上回っていた。最も重要なのは、先 進的なコンピューティング技術を採用したため、コンピュータの計算速度の急速な向上により、設 定した目的関数と制約条件下において迅速に複数の設計案を生成し、総合的なパフォーマンス評価を行い、そ の中から使用要件を満たす最善の設計案を選び出し、効果的に全体設計の質を高め、設 計サイクルを短縮できるようになった点である [18] 。中国国外ではVASCOMP [19] 、HESCOMP [20] 、GTPDP [21] をベースとし、最 適化アルゴリズムを組み合わせた比較的成熟したヘリコプター全体設計最適化ソフトウェアが形成されている。ジョージア工科大学は、シングルローター&テ ールローターヘリやティルトローター機などを含む複数の新コンフィギュレーションのヘリコプターの概念設計に適したソフトウェアシステム・CIR-ADSを開発した。中国国内では、南 京航空航天大学と中国直昇機設計研究所も系統的にこの方面の研究と応用を進めている [12,13,19]

 使用ニーズとの直結、使用ニーズの分析、関連の各学術分野の要求やシステムコンポーネントのサイズ、性能面の要求に折り合いをつけるといった方面で、全体設計の機能を発揮させ、主 な学術分野とシステムコンポーネントの2つの面から見て同時に満足のいく設計案が得られるようにするため、米マクドネル・ダ グラス社はヘリコプターの全体パラメータ最適化とコンポーネントパラメータ最適化を組み合わせ、ヘリコプターの多層的な最適化設計を展開した。最上層はヘリコプターの型式、全 体パラメータおよび主なサイズの最適化選択を行う。局所的な最適化では、ヘリコプターのコア特性とコアコンポーネントの性能に対して最適化を行う。そのプロセスは図5のとおり [22] 。コ ンポーネント最適化モジュールには、ローターブレード・翼型の最適化、ヘリコプター性能の最適化、空力弾性安定性の最適化と構造最適化などの内容が含まれる。この設計手法では、コ ンカレントエンジニアリングの考え方が明確に体現されている。

図5

図5 ヘリコプター設計における多層的な最適化の手法 [22]

Fig.5 Multilevel optimization approach in helicopter design [22]

4 ヘリコプターの全体パラメータの多分野統合最適化技術

 多分野統合最適化技術は、最適化設計手法の近年における最新の発展段階である [22-24] 。1980年代以来、航 空機開発においてコンカレントエンジニアリングのマネジメント手法が徐々に推進されるようになった。多分野統合最適化技術はコンカレントエンジニアリング・マ ネジメントの航空機全体設計における実質的な応用である。多分野統合最適化技術は、ヘリコプター設計における各学術分野間の相互連結、計算および情報機構の複雑性といった問題を解決し、各 学術分野間の矛盾と衝突に折り合いをつけ、学術分野間の相互作用とシナジー効果を利用して、関連の設計・計算分析ツールを集積し、ヘリコプターの設計プロセスを、独立的で共有関係がなかった従来の手法から、並 行と連携のプロセスへと転換するものだ。各学術分野・システムコンポーネントの設計最適化と、ヘリコプター全体設計の最適化を同時進行で実施する。第三世代と第四世代ヘリコプターの全体設計において、こ の多分野統合最適化技術は広く応用されるようになった。

 文献 [25-26] のヘリコプター多分野統合最適化技術モデルには、飛行性能、重量、操縦安定性、経済性という4つの学術分野が含まれる。同研究では、多 分野統合最適化技術集積ソフトウェアプラットフォーム・i SIGHTを利用して計算環境を立ち上げ、ヘリコプターの性能、重量、操縦安定性、経済性を分析するプログラムを集積し、多分野統合実現可能法(MDF)に 基づくヘリコプターの多分野統合最適化システムを打ち立てた。UH-60A型ヘリコプターを例に研究を行い、最適化後のヘリコプターの総合パフォーマンスを顕著に向上させた。そのモデルデータ・フ ローチャートは図6のとおり [25] 。図中のWeはヘリコプターの空荷重量。

図6

図6 ヘリコプターの多分野統合最適化技術モデルのデータ・フローチャート [25]

Fig.6 Data and process flowchart for a helicopter preliminary multidisciplinary design optimization [25]

  1~W 9はヘリコプター調達コスト分析に必要な各コンポーネントの重量。 crは巡航速度。 MRはミッションペイロード。 は巡航飛行時の1時間当たりの燃料消費量。 bはブレードがフラッピングヒンジのまわりを回転するマスモーメント、 bはブレードがフラッピングヒンジのまわりを回転する慣性モーメント。 xxyyzzxyはそれぞれ、ヘ リコプターが各軸のまわりを回転する慣性モーメントと慣性の積。 はヘリコプターの重量効率。 sはヘリコプターの単位総重量の飛行生産性。FQIはヘリコプター操縦安定性指数。D OCはヘリコプターの単位時間当たりの飛行費用。

 ジョージア工科大学は、応答曲面モデルを用いて多分野統合型の精確な分析モデルを集積し、分散型のヘリコプター多分野統合型総合設計システムを確立した(図7) [19,27]

図7

図7 多分野統合と物理学ベースモデルの関係 [19,27]

Fig.7 Relationships between multidisciplinary synthesis and sizing and physics-based models [19,27]

その3へつづく)

参考文献:

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※本稿は倪先平、朱清華「直昇機総体設計思路和方法発展分析」(『航空学報』2016年 37巻 1期、pp.17-29)を(『航空学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同 方知網(北京)技術有限公司