第131号
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ヘリコプター全体設計の方針と手法の発展分析(その3)

2017年 8月30日

倪 先平:
中国航空工業集団公司、南京航空航天大学直昇機旋翼動力学国家級重点実験室

朱 清華:
南京航空航天大学直昇機旋翼動力学国家級重点実験室

その2よりつづき)

5 近代的なヘリコプターの全体設計手法

 多分野統合最適化技術の他にも、様々な学術分野の分析モデル、数値計算手法およびコンピュータ補助設計・計算ツール(CAD、CFD、ANSYSなど)がヘリコプター全体設計に応用されている。第 四世代ヘリコプターと新コンフィギュレーションヘリコプターが発展し、使用されるようになるに伴い、ヘ リコプター全体設計の手法はますますシステム工学とコンカレントエンジニアリングの結合という特徴を見せはじめた。縦方向を見ると、全体設計はユーザー、ニーズ、ライフサイクルに向けた設計理念を採用しなければならない。横方向を見ると、全体設計は各主要学術分野および主要システムコンポーネントの特性を同時に配慮し、協調をとりながら、多分野統合型の設計、大 規模な並列計算と最適化設計を一体化させ、ヘリコプター全体設計の統合化、スマート化、システム化の水準を絶えず高めていかなければならない。

 近代的なヘリコプターの全体設計では、デザインシンセシスが強調される[28]。ジョージア工科大学の包括的製品/プロセス開発モデル(IPPD)は、典 型的なヘリコプターデザインシンセシスモデルである。包括的なコンピュータ環境の下で、トップダウン設計の意思決定プロセス、包括的製品の設計駆動システム工学手法と設計プロセス駆動の品質工学手法に基づき、多 分野統合最適化技術を組み合わせることで、システムのライフサイクルプロセスと多分野統合平行分析から総合的にヘリコプター全体設計を行うことができる。そのプロセスは図8の通り[29]。同モデルには、概 念設計から製造技術にいたるすべてのプロセスが含まれており(図9)[27]、各主要学術分野の計算分析がまとめられている(図7)。

図8

図8 ジョージア工科大学の包括的製品/プロセス開発モデル(IPPD) [29]

Fig.8 Integrated product and process development(IPPD)process of Georgia Institute of Technology [29]

図9

図9 階層ごとのIPPDプロセスフロー [27]

Fig.9 Hierarchical IPPD process flow [27]

図7

図7 多分野統合と物理学ベースモデルの関係(再掲)

Fig.7 Relationships between multidisciplinary synthesis and sizing and physics-based models

 米陸軍のAFDD Advanced Design Officeは1970年代からPSDEソフトウェアの開発に力を入れ、通常型のヘリコプター総合設計に用いた。さらに、P SDEをベースに最適化ソフトウェアRASHを開発したほか、複合ヘリコプターに適したソフトウェアHELO、テ ィルトローター機に適したソフトウェアTRおよびABCローターヘリコプターに適したソフトウェアPD-ABCといったヘリコプター全体設計ソフトウェアを相次いで開発、最 終的に複数のコンフィギュレーションのヘリコプター全体設計に適用できるRCソフトウェアを開発した。21世紀に入ってからは、ヘリコプター分析と設計の最新成果を総括し、回 転翼航空機総合分析設計システムNDARC(NASA Design and Analysis of Rotorcraft)を開発した(図10)[30]

図10

図10 米軍AFDDが開発したNDARCシステム [30]

Fig.10 Components of NDARC developed by US AFDD [30]

 同モデルの主な機能は、ヘリコプターの総合技術案を設計し、設計案の総合的性能を評価することだ。主な特徴は、シングルローター&テールローターヘリや、ティルトローター機、タンデムローター機、同 軸二重リジッドローター機と推力(張力)補助装置つきの複合ヘリコプターおよび、ローター、主翼、尾翼面、着陸装置など各コンポーネントが組み合わさった形の各種回転翼機に適用できる点だ。N DARCモデルのもう一つの特徴として、飛行性能、空力特性、飛行力学と構造といった高精度分析モデルを集積し、エ ージェントモデルを用いてローターの誘導馬力と形状抵抗馬力といった特性データを計算できる点が挙げられる。CAMRADⅡのような総合分析モデルと比較すると、設計・計算時間を大幅に短縮し、設 計コストを大きく引き下げることができる。

 文献[31]では、NASAが開発した多目的設計解析・最適化ツールOpenMDAOとNDARCモデルを組み合わせている。OpenMDAOはオープンなコンピューティング環境を提供でき、多 分野統合分析モデルを総合して自動的な分析を行うことができる。また、各計算分析モデル間でデータ交換を行い、それぞれシリアルモードまたはパラレルモードで各学術分野の計算分析を行うことができる。O penMDAOはこのほかに最適化プログラムを搭載しており、ヘリコプター全体のトップレベル分析を行うことができる。多分野統合最適化技術の他にも、ヘリコプター全体設計ツール、ローター空力分析・構 造分析ツール、音響学分析ツール、幾何学的パラメータツールを駆使してヘリコプター全体設計と各分野の特性分析を行うことができる。OpenMDAOの多分野統合設計環境は図11のとおり[31]

図11

図11 多分野統合型のOpenMDAO回転翼機分析環境の例 [31]

Fig.11 Example of multidisciplinary OpenMDAO rotor-craft analysis environment [31]

 フランスのONERAは現在、新たなヘリコプター全体設計ソフトウェアCREATIONを開発している[32]。同ソフトウェアのコアモジュールは、目標ユニットの飛行性能と環境への影響( 音響学的影響や大気汚染など)である。これら2つのコアモジュールをめぐり、ヘリコプターのタスク・仕様、アーキテクチャ・幾何、重量・構造(空力弾性)、空気力学、パワーユニットという、ヘ リコプターの飛行性能と環境への影響を分析評価するための5つの機能ユニットを構築した。これら計7つのユニットは、それぞれ3つのレベルに分けられる。レベル0のユニットでは、シンプルな統計・分 析モデルを採用する。レベル1のユニットではクローズド分析モデルを採用する。レベル2のユニットでは、数値計算モデルを採用する。CREATIONのアーキテクチャは、平 面上では異なる学術的分野のモジュールからなり、垂直方向は3つの異なるレベルのユニットの、複雑さの異なる分析モデルからなる。垂直方向を見ると、低レベルのユニットは初歩的な概念設計に対応し、高 レベルのユニットは詳細・全体設計に対応する。低レベルのユニットは高レベルのユニットの詳細分析のために必要なパラメータを提供する。平面アーキテクチャ内で、同 じレベルの分析モデルはそれぞれ初歩的な概念設計、詳細・全体設計あるいは設計案の全面的な評価に対応する。

 CREATIONは現在最も新しいヘリコプター全体設計モデルであり、以下の4つの特徴を持つ。

  1. 多分野統合最適化技術を統合。
  2. 多層的な最適化の構想を体現。
  3. 実質的な需要あるいは把握したデータの量に基づき、初歩的な概念設計を行えるだけでなく、複雑な全体設計プログラム評価も行うことができる。
  4. 通常のヘリコプター性能特性だけでなく、近代的なヘリコプター使用のニーズにも焦点を合わせており、環境への影響の分析評価もカバーしている。

6 ヘリコプター全体設計手法の発展と展望

 ヘリコプターの型式は今、第四世代から第五世代への発展の只中にあり、軍用ヘリであれ、民間用ヘリであれ、その使用ニーズは絶えず高まり続けている。軍用面を見ると、近代の戦争における対抗手段の急速な発展に伴い、軍用ヘリコプターの使用環境は日に日に過酷になり、飛行速度がより速く、機動性がより高く、生存能力により優れ、より高度なアビオニクスと兵器を有し、全 天候型で劣悪な環境でも作戦可能であることが、軍用ヘリコプターの型式と技術発展の必然的な趨勢となった。民間用を見ると、経済性、安全性、信頼性、快適性、環境保護性などへの要求がますます高まるにつれ、市 場競争もますます激しくなっている。ライフサイクルコストが低く、安全で信頼性があり、騒音が少なく、低振動・低汚染の型式および技術を開発することが、民間用ヘリコプター分野の基本的な方向性と言える。こ れらの要求はヘリコプターの全体設計に新たな課題を突き付けた。

 21世紀に入って以来、モデルベースの複雑なシステム工学マネジメントがヘリコプター全体設計に新たな理念をもたらし、ヘリコプター関連の各学術分野の理論と分析モデルも急速に発展、新 たな研究領域が次々と出現し、計算の精度、信頼度、複雑度がますます高まり、相互の結合もますます緊密になった。計算流体力学、有限要素解析といった数値計算技術、様々な最適化計算技術、デジタル設計技術( CAT-IA、UG、SOLIDWORKSなど)および各種商用ソフトウェア(FLUENT、ANSYS、ABAQUSなど)は、ヘリコプター全体設計のより良い基盤を築いた。新 たな時代におけるヘリコプター全体設計技術の発展は、以下のいくつかの特徴を示すと考えられる。

  1. 設計理念については、コンカレントエンジニアリングとモデルベースの複雑なシステム工学マネジメントの方針がより一層統合されるとみられる。横方向は、従 来の研究領域と新興研究領域の影響をできるだけ全面的に配慮しつつ、ヘリコプターの総合的な使用パフォーマンスを完全に分析・評価できるようにする。縦方向は、設計段階をできるだけ前後に拡大する。す なわちフロントエンドは、ニーズ志向のモデルベースの複雑なシステム工学理念と使用要件をシームレスに直結させ、バックエンドは詳細設計、エンジニアリング製造、試験・テスト飛行と使用・保 守の全体設計への影響をできるだけ早く計上し、使用要件を全面的に満たすと同時に、品質と信頼度の高いヘリコプター全体設計案が得られるようにする。
  2. 具体的な設計手法については、多分野統合最適化技術、全プロセスのデザインシンセシス、段階別・レベル別の全体案設計・評価といった手法を十分に利用し、様々な理論物理モデル、数値計算技術、デ ジタル設計技術、最適化計算技術および各種の成熟した商用ソフトウェアを設計ツール・手段として利用し、さらに複雑な理論分析モデルの代わりに効果的なエージェントモデルを採用することで、ヘ リコプターの全体設計の手段を改良し、全体設計の効率を高めていく[33-34]
  3. 新コンフィギュレーションヘリコプター発展の需要に応じるため、ヘリコプターの全体設計は分析モデルを絶えず拡大し、考慮する要素の範囲を広げていく必要がある。現在、比 較的成熟したティルトローター機の他にも、同軸二重リジッドローター高速ヘリコプター、ダクト付ベクトル推力ハイブリッドヘリコプターやツインプロペラ・ローターウィング・ハイブリッドヘリコプターなど、新 たなコンフィギュレーションがすでにデモンストレーションの段階に入っている。これらの新型ヘリコプターは、通常のヘリコプターにはない特徴を多く持ち、構造と操縦が複雑で、空 力干渉と空力弾性の結合が大きいため、ヘリコプターの全体設計の段階でこれらの特徴を考慮に入れる必要がある。
  4. 全体設計は今後、ヘリコプター関連の各学術分野の最新技術や成果を絶えず吸収し、ヘリコプターの全体設計モデルはヘリコプターの特性をより精確に描写・反映できるようになるとみられる。近年、先 進的なローターの空力形状および新型のブレード先端設計、先進的なベアリングレス型ローターハブ設計、高効率・高精度のローターエアロダイナミックス数値シミュレーション、ローター・マ ルチボディダイナミクス空力弾性カップリング安定性解析、ローター/ボディ結合ダイナミクス安定性アクティブコントロール(非定常、非線形、時間的変化可能なローター自由航跡高機動飛行力学を含む),高 帯域幅権の飛行制御およびヘリコプターの健康・使用整合性モニタリングなどの新技術が登場し、ヘリコプターの特性を精確に描写できる新たなヘリコプター理論分析・設計ツールをもたらした。

7 結論

 ヘリコプターの型式と技術の発展は、絶え間ない革新のプロセスである。ヘリコプター全体設計の理念、方針、手法も絶えず革新し続ける必要があり、成熟した設計手法を型式設計に応用する一方で、新 たな理念や方針、技術、手法を常に取り入れてヘリコプター全体設計の手法を改良、改善し、発展させていかなければならない。

  1. ヘリコプターの全体設計は、改良を重ねながら発展していく必要があり、これまでの技術を継承しつつ、革新し続けなければならない。従来のプロトタイプ設計法、統計分析法、パ ラメータ分析法は完全に時代遅れになったわけではなく、その応用価値は依然として存在する。新たな設計手法の中にも従来の設計手法のエッセンスを残すべきである。全体設計は依然として、ヘ リコプターのデータベースを絶えず補強する一方で、既存の成果と経験を十分に活用する必要がある。
  2. 全体設計分析モデルにおいては、使用要件を全面的に反映しなければならない。開発する型式の主なタスク・使命に基づいて使用要件を総合的に評価し、合理的に使用要件を解析し、主な要件を設計目標とし、そ の他の重要な要件を制約条件とし、設計段階においては各要件のバランスをとり、使用要件をできるだけ全面的に満たす最善の設計案を得られるよう努力するべきである。
  3. ヘリコプター全体設計においては、シンセシスを強調しなければならない。設計モデルにおいて、学術分野やコンポーネントシステムが含まれようとも、設 計の方針は常に総合的パフォーマンスの向上を目的とし、各学術分野のデザインシンセシスを強調する必要があり、どれか一つの性能ばかりを追い求めてはならない。

(おわり)

参考文献:

[27] DANIEL P S.Technology for rotorcraft affordabilitythrough integrated product/process development(IPPD)[C]//Proceedings of the 55th AHS Annual Forum.Fair-fax,VA:AHS Press,1999.

[28] HIRSH J E,WILKERSON J B,NARDUCCI R P.An in-tegrated approach to rotorcraft conceptual design[C]//Proceedings of AIAA 45th Aerospace Sciences Meetingand Exhibit.Reston:AIAA,2007.

[29] DANIEL P S, WILLIAM M C.Integrated product/process development approach for balancing technology push and pull between the user and developer[C]//Pro-ceedings of the 68th AHS Annual Forum.Fairfax,VA:AHS Press,2012.

[30] WAYNE J.NDARC-NASA design and analysis of rotor-craft validation and demonstration[C]//Proceedings of theAmerican Helicopter Society Aeromechanics Specialists'Conference.Fairfax,VA:AHS Press,2010.

[31] MICHAEL A, RAJNEESH S. OpenMDAO/NDARCframework for assessing performance impact of rotor tech-nology integration[C]//Proceedings of the 70th AHS An-nual Forum.Fairfax,VA:AHS Press,2014.

[32] BASSET P M,TREMOLET A,CUZIEUX F,et al.TheCREATION project for rotorcraft concepts evaluation:The first steps[C]//Proceedings of the 37th European Ro-torcraft Forum.Bonn,Germany:ERF Press,2011.

[33] WILLIAM A C,DAVID H L.The genetic algorithm asan automated methodology for helicopter conceptual design [J].Journal of Engineering Design,1997,8(3):231-250.

[34] EMRE G M,ADEEL K,DANIEL P S.Weight estima-tion using CAD in the preliminary rotorcraft design[C]//Proceedings of the 33rd European Rotorcraft Forum. Bonn, Germany:ERF Press,2007.

※本稿は倪先平、朱清華「直昇機総体設計思路和方法発展分析」(『航空学報』2016年 37巻 1期、pp.17-29)を(『航空学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同 方知網(北京)技術有限公司