第134号
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鉄鋼インテリジェント製造を背景としたマテリアルフローとエネルギーフローの協同方法(その1)

2017年11月28日

鄭 忠,黄 世鵬,竜 建宇(重慶大学材料科学・工程学院)

高 小強(重慶大学経済・工商管理学院)

概要:

 鉄鋼企業は、在庫増加や生産能力過剰、収益難などの問題に直面しており、グリーン化とインテリジェント化の発展を通じて現今の厳しい状況に対応する必要に迫られている。鉄鋼企業の製造プロセスの特徴に基づき、企業の鉄フローを核心としたマテリアルフローとこれに対応するエネルギーフローのネットワークの特徴の分析を通じて、マテリアルフローとエネルギーフローの協同作用において企業の既存の情報化システムに存在する問題をめぐって、鉄鋼製造過程のマテリアルフローとエネルギーフローが協同作用を発揮する方法を提案する。マテリアルフローとエネルギーフローの結合は鉄鋼製造の個々の工程設備とプロセスネットワーク全体の両レベルから計画・設計・実施しなければならないことを明確化し、情報モニタリングの改善と計画協同、調整協同の3つの面からの協同最適化の実現を論じる。既存の情報システムアーキテクチャーに基づき、対応する企業資源計画システムや製造実行システム、エネルギー管理システムなどの情報システムの機能の増加、マテリアルフローとエネルギーフローの協同最適化情報サブシステムの構築という方式を通じて、鉄鋼製造過程のマテリアルフローとエネルギーフローの関連情報のデジタル化とモデル化を下支えとし、製造プロセスのマテリアルフローとエネルギーフローの協同最適化を実現し、生産最適化と資源最適化、エネルギー最適化の効果を達成することを構想した。

キーワード:鉄鋼企業; マテリアルフロー; エネルギーフロー; 最適化; 情報システム

 近年、製造業の水準の向上をめぐる新概念や新技術が次々と登場し、製造業は現在、重大な変革を迎え、世界の産業競争体制にも重大な調整が起こりつつある。ドイツは「インダストリー4.0」戦略[1]、英国は「高価値製造」戦略[2]、米国は「先進製造」イニシアチブ[3]をそれぞれ打ち出した。「メイド・イン・チャイナ2025」戦略[4]はそうした状況を背景として生まれ、その核心思想は、製造業のデジタル化・ネットワーク化・インテリジェント化、情報通信技術と製造技術の深度の融合、製品と製造システムの全ライフサイクルへの志向、ユビキタスセンサー条件下での情報化・インテリジェント化製造の実現にかかわるものである。

 鉄鋼業は、国民経済の支柱産業であり、工業体系全体において最も重要な基礎・戦略産業の一つでもある[5]。インテリジェント製造の発展を背景として、「グリーン化、インテリジェント化」という発展の新たな目標と要求も提起されている。中国は現在、世界で鉄鋼生産量が最大の国であり、2015年の粗鋼生産量は8.038×108tで、世界の総量の49.53%を占めた。だが鉄鋼業には、生産プロセスが長い、資源とエネルギーの利用率が低い、環境保護の圧力が高い、生産能力の過剰が深刻である、利潤の実現が難しいなどの状况が存在している。「低成長、低価格、高圧力、低収益」という「新常態」(ニューノーマル)は今後も続く見通しで、理念の革新やビジネスモデルの革新、管理の革新、技術の革新が強く必要となっている。

 鉄鋼製造プロセスにおけるマテリアルフローとエネルギーフローの相乗効果を最適化することは、企業が省エネ・排出削減やコスト削減、収益増加を実現する重要な手段の一つとなる。製造プロセス全体に対する合理的な組織と精密化された管理を行い、新たな技術的手段を用いてマテリアルフローとエネルギーフローの相乗効果の最適化を行うことで、エネルギーシステムが生産の需要をより良く満たすことを促進し、エネルギー管理システム(energy management system,EMS)と、企業が生産の管理・制御を行う企業資源計画システム(enterprise resource planning,ERP)、製造実行システム(manufacturing execution system,MES)のさらなる融合をはかり、生産効率とエネルギー利用率を引き上げ、企業の競争力を高めることができる。このため「グリーン化・インテリジェント化鉄鋼製造プロセスと品種・技術の統合開発・応用」という中国鉄鋼業発展の総体任務を実現するためには、鉄鋼製造プロセスのマテリアルフローとエネルギーフローの協同最適化方法の研究を展開することが重要な意義を持つ。

 本稿は、鉄鋼インテリジェント製造の発展の趨勢を背景として、鉄鋼製造プロセスのマテリアルフローとエネルギーフローの関連研究に対する分析を通じて、鉄鋼製造プロセスのマテリアルフローとエネルギーフローの協同最適化のための初期的な構想を打ち出し、鉄鋼インテリジェント製造の発展の推進に考えの道筋を提供するものである。

1 鉄鋼製造プロセスのマテリアルフローとエネルギーフローの関連研究の進展

 鉄鋼製造プロセスは、物質状態の転換と物性の制御、物流の制御の最適化が結合した複雑な多元的物流システム[6]であり、規模が巨大である、生産ユニットが多い、技術が複雑である、専門化と協同化の程度が高いなどの特徴を持つ。このうち微粉鉄などの鉄を含む材料は、各工程とそれに対応する工作設備によって構成された生産プロセスネットワーク内で、生産のニーズに応じて、特定の加工工法ルートに沿って、設備上で加工され、一連の物理的・化学的変化を経て、原料からさまざまな鉄鋼製品への転換を実現する。この過程が、鉄のマテリアルフローの流動形式となる。これと同時に、鉄を含む材料の加工過程には、エネルギーニーズとエネルギー変換、二次エネルギー製品産出が伴う。エネルギーの供給は、生産の需要を満足させるように行われ、この過程はエネルギーフローの流動形式となる。炭素冶金が主流の現在の状況においては、これを炭素フローとみなすことができる。鉄鋼製造プロセスにおいては明らかに、鉄フローを主体としたマテリアルフローが加工の対象となり、製造プロセスネットワークの基礎を構成する。炭素フローとその関連二次エネルギーフローを主体としたエネルギーフローは、製造加工過程における駆動力や化学反応媒体、熱媒体などであり、エネルギーフローはマテリアルフローの流動を伴う。鉄鋼製造プロセスのマテリアルフローとエネルギーフローの関連問題については、中国内外の多くの専門家が大量の研究活動を行っている。

 殷瑞鈺[7-8]が提起した「冶金プロセス工学」は、鉄鋼製造プロセスの関連研究を工学の高みに押し上げ、鉄鋼生産過程を生産製造プロセスの各工程からなる複雑なプロセスネットワークとみなすことができると指摘した。鉄鋼生産においては、鉄鋼のマテリアルフロー(主に鉄フロー)が、エネルギーフロー(主に炭素フロー)の駆動と作用の下、設定された「プログラム」に従い、「プロセスネットワーク」に沿って動的で順序立った動きを示す。冶金プロセス工学は、研究の方法論の土台を築いた。

 陸鍾武ら[9-11]は、鉄鋼生産プロセスの物質とエネルギーの動的変化や複雑さという特徴をめぐって、「鉄鋼生産プロセス基準物流図」を打ち出し、「材料1トン当たりの基準エネルギー消費量」と「鉄鋼1トン当たりの基準エネルギー消費量」によって、鉄鋼生産プロセスにおけるエネルギー消費量に対する各種マテリアルフローの変化の影響の基本的な分析方法を構築し、各工程における鉄資源効率と製造プロセスにおける鉄資源効率との関係と影響を論じ、産業エコロジーの学説を提出した。さらにマクロな視点から、生産全過程における物質消耗とエネルギー利用の状況を分析し、指標体系の構築方法を提供した。

 鉄鋼製造分野におけるマテリアルフローとエネルギーフローに関する研究には主に次のいくつかが挙げられる。蔡九菊ら[12-15]は、複雑な鉄鋼生産システムを互いに連動する物質の流動とエネルギーの流動の2つの部分に分け、工程のレベルからマテリアルフローとエネルギーフローの解析モデルを構築し、鉄鋼生産過程における企業のエネルギー消費と資源効率、エネルギー効率に対するマテリアルフローの変化とエネルギーフローの変化の影響を分析した。鉄鋼生産過程における資源消耗と製品生産、汚染物質排出の問題を考慮し、汚染物質のフローと物質・エネルギーとの関係を構築した。さらに大規模システムの最適化に基づき、鉄鋼業システムの省エネと科学的なエネルギー使用の方法を提出した。孫彦広[16-17]は、全プロセスのエネルギー使用とエネルギー回収、エネルギー変換伝送の3段階のエネルギーフローのネットワーク化定量分析モデルを構築した。さらにこれを土台として、多層的・多角的なエネルギー効率分析、マルチメディア・マルチシーンのエネルギー計画、フィードバックとフィードフォワードが結合したエネルギー調節手段を総合し、企業のエネルギーコントロールの3つの閉ループを実現した。首鋼京唐や沙鋼などの鉄鋼企業がモデル応用を行い、エネルギーの放散を有効に減少させ、エネルギーの変換と使用の効率を高め、生産コストを引き下げている。陳光ら[18-19]は、鉄鋼企業のマテリアルフローとエネルギーフローの分析を通じて、システム論と制御論、シナジェティクスを利用し、マルチメディア・多層的・多元的なエネルギー消費モデル体系を構築した。マテリアルフローとエネルギーフロー、設備状態、熱平衡の角度から、鉄鋼企業のエネルギー消費分析の新たな方法とエネルギー消費の計算公式を提起した。物流とエネルギーフローとの効率的な結合とオンライン調整、動的最適化を実現し、エネルギーのスリムな管理システムと制御サポートシステムを構築した。Tangら[20-21]は、鉄鋼製造プロセスにおける中心的なマテリアルフローとなる鉄フローの加工設備の選択と時間決定の問題をめぐって、数理計画モデリング理論を利用し、静的配置モデルと動的配置モデルをそれぞれ構築し、ラグランジュ緩和アルゴリズムと差分進化アルゴリズムを提出して解を求め、鉄マテリアルフローの秩序ある効率的な生産に最適な配置案を実現した。王剛ら[22]は、鉄鋼生産においてマテリアルフローとエネルギーフローがエネルギー消費に同時に影響するという問題をめぐって、エネルギー消費ボトルネック診断モデルを構築し、鉄鋼比係数と工程エネルギー消費をそれぞれ用いてマテリアルフローとエネルギーフローをはかり、鉄鋼1トン当たりのエネルギー消費に対する各要素の影響を定量的に記述し、エネルギー消費のボトルネックを探し、これをターゲットとした省エネのプランまたは措置を打ち出した。賀東風と梁超[23]は、単一工程の熱平衡と平衡分析に基づき、エネルギー準位と経済性を考慮し、熱効率と効率、エネルギー準位のマッチ、経済コストを総合した鉄鋼企業のエネルギー利用の評価指標体系を提起した。最適化された「エネルギーフローネットワーク」を構築し、エネルギー変換機能の発揮と企業システムの省エネに向けた考えの道筋を提供した。汪鵬ら[24]は、鉄鋼ライフサイクルのマテリアルフロー及びエネルギー消費、排出の分析を通じて、鉄鋼の生産・加工・消費・減価償却の全ライフサイクルモデルと一人あたりの鉄鋼ストックに基づく生産量予測モデルを構築し、基準と耐用年数延長、鉄スクラップ回収率向上、エネルギー効率向上、総合の5種類の場面の水準を予測した。

 鉄鋼製造プロセスのマテリアルフローとエネルギーフローに関する海外の研究は主に、省エネ・環境保護分野に集中している。Bisio[25]は、鉄鋼生産に対するエネルギー効率の分析を通じて、エネルギーと資源の利用効率を向上させる方法を探った。Michaelisら[26]は、分析方法を鉄鋼ライフサイクル評価のモデリングと結合し、工法の改良とエネルギー回収利用の増加の必要性を指摘した。AndersenとHyman[27]は、米国の鉄鋼業の大量の生産データに基づき、最終エネルギー消耗モデルと工程マテリアル消耗モデルを構築し、鉄鋼生産の効率向上と排出減少に考え方の筋道を提供した。Larssonら[28]は、製鋼所の全体とユニットとの間の消耗と排出の関係の分析を通じて、最小エネルギー消費と廃棄物排出過程の統合モデルを構築し、省エネ・環境保護の促進のための意思決定の参考となった。Yellishettyら[29]は、マテリアルフロー分析方法を利用して鉄砿石の使用と鉄鋼生産量を分析し、未来の鉄鋼生産量の傾向を予測し、省エネ・排出削減の方向を指し示した。

 鉄鋼製造プロセス中のマテリアルフローとエネルギーフローは複雑なシステムの重要な一部をなし、そのシステム全体の最適化にあたってはシナジェティクスが理論的な土台となる。シナジェティクス(synergetics)は、ドイツの著名な物理学者ヘルマン・ハーケン(H. Haken)が1970年代に初めに打ち出したものである[30]。この理論では、システム論や情報論、制御論などの理論を土台とし、動力学と統計学の結合した分析方法を採用し、複雑なシステムの中の各構成要素またはサブシステムの間の操作運用過程における協力や協調、同期などの協同メカニズムを発見し、最終的にシステム全体の秩序化を実現する[31]。シナジェティクスは近年、複雑系の資源の最適配置過程において幅広く応用されている[32]。徐浩鳴[33]は、シナジェティクスを製造業の産業組織に応用し、製造企業の情報化構築を指導した。包北方ら[34]は、製品のカスタムメイドに協同作用を応用し、資源の最適配置を実現した。物流業と製造業の発展をめぐっては、孫鵬[35]が、シナジェティクスなどの複雑系理論を運用し、現代の物流業と製造業の協同進化の動的法則を分析し、協同発展メカニズムを構築した。彭本紅[36]は、シナジェティクスの秩序変数の進化過程を運用し、物流業と製造業の進化メカニズムを検討し、現代物流業と先進製造業の共生と協同は産業進化の必然的な結果であると指摘した。鄭東ら[37]は、シナジェティクスの原理と方法を運用し、自動車メーカーとサプライヤーの需求関係を研究し、自動車のサプライチェーンの最適化に意思決定の補助を提供した。プロセス工業過程のシステム中の物質とエネルギー、情報の流動問題をめぐっては、竜妍[38]が、制御論とシナジェティクス、エントロピー理論などを用いて、マテリアルフローとエネルギーフロー、情報フローの協同メカニズムを研究し、サブシステムの局部の最適化と大規模システムの全局の最適化の秩序ある構造を実現し、鉄鋼企業を対象として応用分析を行った。

 関連研究の進展を見渡すと、鉄鋼製造プロセス中のマテリアルフローとエネルギーフローの研究の関心の重点は、鉄要素のマテリアルフローの生産計画の調節問題と、これに伴うエネルギー利用効率の問題であることがわかる。プロセスの進行制御にかかわる最適化方法とエネルギー消費の計算にかかわる解析方法を採用し、鉄マテリアルフローとエネルギーフローのそれぞれの動きからマテリアルフローとエネルギーフローの協同進行へ、冶金学科自身の発展からシナジェティクスやシステム学などの新興交差学科の理論方法の進展へと注目点を移す。その目的は、生産目標を満たすことを前提とし、マテリアルフローとエネルギーフローの協同を通じて、物質やエネルギーなどの資源の合理的な配置を実現し、省エネや消費削減、経済性、排出削減などの条件下で鉄鋼生産を合理的かつ有効に進めることである。

 このためインテリジェント製造とグリーン製造という発展状況の下、鉄鋼製造プロセス全体とマテリアルフロー・エネルギーフロー協同に対する認識をいかに深め、方向性をもってさらなる研究を展開するかが極めて重要となる。我々は、鉄鋼企業の製造プロセスのマテリアルフローとエネルギーフローの特徴と主要な情報化システムに対する分析に基づき、企業の情報化システムのアーキテクチャーの下、製造プロセスと製造ユニットの異なるレベルから、鉄鋼企業のマテリアルフローとエネルギーフローの協同最適化方法をいかに求めるかを研究し、鉄鋼インテリジェント製造の推進に向けた発展の考え方の道筋を探求する。

その2へつづく)

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※本稿は鄭忠,黄世鵬,竜建宇,高小強「鋼鉄智能製造背景下物質流和能量流協同方法」(『工程科学学報』2017年第39巻第1期、pp.115-124)を『工程科学学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司