新疆雹災経済損失評価・リスク区分研究(その2)
2018年 2月28日
史 蓮梅: 新疆ウイグル自治区人工影響天気弁公室エンジニア
2008年、南京信息工程大学卒業。人工影響天気(気象制御)業務の技術と災害気象の研究に従事する。
李 斌,李 圓圓: 新疆ウイグル自治区人工影響天気弁公室
孔 令文: 烏魯木斉市達坂城区気象局
劉 衛平: 新疆ウイグル自治区気象信息中心
( その1よりつづき)
2 結果・分析
2.1 雹災経済損失の動向の分析
新疆気象台・観測所や人工防雹作業点、現地の民政部門などが記載したデータと「災害状況直接報告システム」や「新疆統計年鑑」(1990-2015年)、「中国気象災害年鑑」(2003-2014年)、「 中国気象災害大典·新疆巻」、「新疆災害状況年報」などの統計資料に基づき、式(1)~(5)を利用して、各年の環境不安定度E nと雹災総経済損失のGDP比C rを計算し、(E nmax-E nmin)/5と( C rmax-C rmin)/5の比を用いて5つの等級区分を行った。さらに式(6)を利用し、雹災経済損失を評価する総指標ECの大きさを計算し(表1)、1984-2 014年の新疆の雹災経済損失を評価した。
等級 | 環境不安定度E nの閾値 | 寄与率C rの閾値/×10 -2 | 経済損失総指標EC |
1 | ≤0.117 | ≤0.441 | ≤0.059 |
2 | 0.118~0.214 | 0.442~0.841 | 0.060~0.108 |
3 | 0.215~0.311 | 0.842~1.241 | 0.109~0.157 |
4 | 0.312~0.408 | 1.242~1.641 | 0.158~0.206 |
5 | ≥0.409 | ≥1.642 | ≥0.207 |
図1からは、1984-2014年の31年間の新疆の雹災農業経済損失E aと総経済損失E Aは変動しながらの上昇という傾向を見せ、二者の総体的な動きは基本的に一致していることがわかる。31年間のE aの最大値(最小値)は3.096(0.081)億元で、2013年(1999年)に出現した。E Aの最大値(最小値)は46.982(0.475)億元で、同様に2013年(1999年)に出現した。
図1 雹災農業経済損失と総経済損失の年次変化
Fig.1 Interannual changes of the agricultural economic loss and the total economic loss of hail disaster
図1からはさらに、ここ31年の雹災農業経済損失は、80年代と90年代には、年次変化の起伏が大きくなかっただけでなく、比較的低い水準を保ったことがわかる。1990年の1.088億元を除けば、ほ かの各年はいずれも0.8億元以下を保持し、変動幅の絶対値の平均値も0.209億元にとどまっている。21世紀に入ると、各年の変動幅は明らかに増大し、その絶対値の平均値は1.129億元、最 大値は2.597億元に達した。雹災経済損失の降雹の頻度や強度、農作物作付面積などの年次変化が大きいことを示している。これと比較すると、雹災総経済損失の変動幅は全体として穏やかで、相 対的に安定した低い水準をほぼ保ち、1984-2008年はいずれも10億元以下を保った(2005年の10.953億元除く)。だがここ6年は、総経済損失は明らかに増加した。新疆経済の財産の蓄積と、高 リスク区への人間の移動により、雹災の災害状況の拡大がもたらされたとみられる。
図2からは、ここ31年の新疆の雹災農業経済損失E aが総経済損失E Aに占める比率Qの変動の起伏が比較的大きいことがわかる。だが変動は小さくなりつつあり、変 動の起伏が大きかった年は主に2007年以前に集中した。これは2008年以来、雹 災に対する新疆の農業インフラの防御能力が高まったことを示している。
図2 総経済損失に占める雹災農業経済損失の比率
Fig.2 Proportion of agricultural economic losses from hail disaster to total economic loss
図3からは、環境不安定度E n値とその年次変化の幅が1984-2014年、3つの段階を経たことがわかる。第一段階は1980年代で、E n値は比較的低い水準を保持し、いずれも0.060以下だった。ま たE nの年次変化の幅も小さく、その絶対値の平均値は0.016だった。第二段階は1990-2008年で、E n値はその前の段階からいくらか増加したが、総体として0.160以下を保った( 2005年の0.197を除く)。E nの年次変化の幅は明らかに増大し、その絶対値の平均値は0.067で、その前の段階を0.051上回り、同時に1984-2014年の最小値0.020(1999年)も 出現した。第 三段階は2009-2014年で、E n値は大幅に増加し、最大値は0.505(2013年)となり、31年間の最小値の0.020の25.250倍に達した。E nの年次変化の幅の増幅も際立ち、最 大値を記録した2013年にはとりわけ高まった。2012年と2014年との変化の幅の絶対値はそれぞれ0.158と0.225に達し、こ の段階のE nの年次変化の幅の絶対値の平均値は一気に0.097へと高まった。
図 3 環境不安定度の年次変化
Fig.3 Interannual changes of the environmental instability
雹災総経済損失のGDP寄与率C rの年次変化の特性に目を向けると(図4)、全体として1995年を境に2つの段階に分けられることがわかる。第一段階(1995年以前)では、C r値とその年次変化の幅の絶対値はいずれも大きく、第二段階(1995年以降)のC r値とその年次変化の幅の絶対値はいずれも小さい。1995年以前、C r値は比較的高い水準を保ち、平均値は0.012に達し、最 大値は0.020(1985年)だった。年次変化の幅の絶対値の平均値も0.006と高かった。1996年以降、C r値は総体として比較的低い水準を保ち、その平均値は、前 段階の4分の1となる0.003にとどまった。最大値は0.006(1998年)で、前段階の最小値0.003(1994年)の 2倍にすぎなかった。C rの年次変化の幅も比較的低い水準を保ち、そ の絶対値の平均値0.002は前段階の3分の1だった。
図4 雹災経済損失のGDP寄与率の年次変化
Fig.4 Interannual changes of the contribution ratio for hail disaster economic loss to GDP
雹災経済損失指数ECの年次変化(図5)の特徴は、環境不安定度の年次変化と基本的に一致し、やはり3つの段階に分けられる。第一段階(1984-1989年)の EC値とその年次変化の幅の絶対値はいずれも小さく、第二段階(1990-2008年)のEC値とその年次変化の幅の絶対値はいくらか増加し、第三段階(2009-2014年)の EC値とその年次変化の幅の絶対値はいずれも大幅に増加し、最大値はそれぞれ0.255と0.114に達した。
図5 雹災経済損失指数の年次変化
Fig.5 Interannual changes of the hail disaster economic loss index
2.2 雹災リスク区分
2.2.1 雹災危険性区分
新疆気象台・観測所や人工防雹作業点、「新疆災害状況直接報告システム」などが記録した1984-2014年の新疆各市・県の雹災頻度を用い、各市・県の31年間の雹災危険性指数を式(8)で計算し、こ れに基づき、雹災の危険性を5つの等級に区分する(表2)。
危険性等級 | 危険性指数Hの閾値 |
超高危険区 | H≥3 |
高危険区 | 1≤H<3 |
一般危険区 | 0.5≤H<1 |
低危険区 | 0.1≤H<0.5 |
超低危険区 | H<0.1 |
図6は、ここ31年で新疆では90市・県のうち71市・県が少なくとも1回の雹災を受けていることを示している。その危険性指数の平均値は1.000である。超高リスク区は、雹 災頻度の比較的高い石河子市、温泉県、新和県、昭蘇県、沙雅県、阿瓦提県、烏什県に現れ、その危険性指数はいずれも>3.000である。超低リスク区は、雹災頻度がわずか1回にすぎない富蘊県、和静県、吉 木薩爾県、奇台県、伊吾県、和田市、洛浦県、民豊県、烏魯木斉市に現れ、その危険性指数はいずれも0.064である。
図6 新疆雹災危険性区分
Fig.6 Hazard zonation for hail disaster in Xinjiang
2.2.2 雹災脆弱性区分
新疆気象台・観測所や人工防雹作業点、「新疆災害状況直接報告システム」、「新疆災害状況年報」、民政部門などの統計した新疆の1984-2014年の雹災による農作物被災面積、さらに「新疆統計年鑑」( 1990-2015年)の統計した各市・県の農作物作付面積を応用し、各市・県の雹災脆弱性指数を式(9)を用いて計算し、雹災脆弱性指数の閾値を確定した。脆弱性分級標準を表3に示した。
脆弱性等級 | 脆弱性指数Vの閾値/% |
超高脆弱区 | V≥10 |
高脆弱区 | 3≤V<10 |
一般脆弱区 | 1≤V<3 |
低脆弱区 | 0.5≤V<1 |
超低脆弱区 | V<0.5 |
新疆雹災脆弱性区分の結果(図7)からは、各市・県のうち雹災脆弱性の値が大きい地区は集中しておらず、北疆(天山山脈以北)の伊犁河谷地帯の伊寧市(15.759%)や南疆(天山山脈以南)の 阿克蘇地区の柯坪県(14.059%)などに分散している。脆弱性の値が小さい地区はいくらか集中しており、北疆の天山山脈一帯の烏魯木斉市(0.218%)や奇台県(0.153%)、米泉県(0.010%)、南 疆和田地区の和田市(0.101%)などに分布している。
図7 新疆雹災脆弱性区分
Fig.7 Vulnerability zonation for hail disaster in Xinjiang
2.2.3 雹災リスク区分
すでに計算した1984-2014年の新疆各市・県の雹災危険性指数と脆弱性指数を利用し、各市・県の雹災リスク係数Rをモデル(7)を用いて計算し、A rcGISソフトウェアの空間情報処理技術を用いて、表4の分級標準に基づき、それぞれのリスク等級を反映した新疆雹災区分マップを作成した。
リスク等級 | リスク指数Rの閾値/% |
超高リスク区 | R≥15 |
高リスク区 | 5≤R<15 |
一般リスク区 | 1≤R<5 |
低リスク区 | 0.1≤R<1 |
超低リスク区 | R<0.1 |
図8に示した新疆の雹災リスク区分の結果は次の通り。
超高リスク区:柯坪県、烏什県。
高リスク区:霍城県、温泉県、昭蘇県、拜城県、阿瓦提県、新和県、喀什市、石河子市、塔都市、温宿県、特克斯県、阿克蘇市、沙雅県、博楽市、庫車県。
一般リスク区:額敏県、裕民県、瑪納斯県、嶽普湖県、烏蘇市、伽師県、沙湾県、巴楚県、麦盖提県、克拉瑪依市、伊寧市、阿克陶県、尼勒克県、鞏留県、察布査爾錫伯自治県、呼図壁県、叶城県、阿合奇県、吉 木乃県、庫爾勒市、英吉沙県、福海県、且末県、精河県。
低リスク区:和碩県、布爾津県、尉犁県、伊寧県、托里県、新源県、莎車県、哈巴河県、沢普県、伊吾県、洛浦県、和布克賽爾蒙古自治県、輪台県、阿勒泰市、墨玉県、阿図什市、巴里坤哈薩克自治県、昌吉市、富 蘊県、哈密市、民豊県、若羌県、青河県、烏恰県。
超低リスク区:吉木薩爾県、和静県、烏魯木斉市、奇台県、和田市、米泉県、博湖県、焉耆回族自治県、阜康市、策勒県、疏附県、疏勒県、塔什庫爾干県および基本的に降雹の無い皮山県、于田県、和田県、吐 魯番市、鄯善県、托克遜県。
図8 新疆雹災リスク区分
Fig.8 Risk zonation for hail disaster in Xinjiang
3 結論
(1)図1~5の比較からは、雹災経済損失の変化が環境不安定度と比較的際立った正の相関関係にあることがわかる。これは環境不安定度が、新 疆の雹災経済損失の変化に影響する主要な原因であることを示している。両者はいずれも、変動しながら上昇する傾向にある。環境不安定度は、新疆の雹災評価の重要な指標の一つとすることができる。
(2)農作物作付面積や雹災被災面積、農作物減産総面積、農業総生産額、直接経済損失、域内総生産などの要素に基づいて構築された経済損失指標は、新疆の雹災経済損失の変化を分析する合理的で実行可能、便 利な方法と言える。これらの資料は、統計データがそろっており、容易に取得できるだけでなく、これに基づいて構築された新疆雹災経済損失指数は、雹 災による経済損失の程度とその変化の傾向を客観的に反映するものとなる。同時に各種の気象災害経済損失評価との比較も便利で、応用性と比較可能性の拡張が可能である。
(3)GISの情報処理技術に基づき、県を単位とした雹災頻度や被災面積、農作物作付面積などの指標によって構築した雹災リスク区分モデルを用いて、新疆の雹災リスクを区分し、新 疆の雹災リスクをマクロな視点から評価した。
(4)新疆雹災リスク区分の分布から見ると、新疆の雹災リスクは全体として、一般リスクと低リスクが主で、高リスクがこれに次ぎ、超高リスクは最も少なかった。雹災リスクの高い地域は主に、阿 克蘇地区と伊犁哈薩克自治州、博爾塔拉蒙古自治州、克拉瑪依市に集中している。これらの州・市は、天山山脈の南北両側に分布している。さらにその多くは、西と東に広がるラッパ形の河谷地帯にあり、大 規模な冷気の侵入や雹を降らせる雲の移動速度の加速、不安定エネルギーの蓄積によって、降雹確率が大きく高まる [20-23] 。さらに上述の地域は、単位面積当たりの被災コストが比較的高い穀物や綿花、瓜類、果 物を主に栽培しており、リスク等級が高くなっている。これらの地域では、耐雹能力が高く、成 熟期の適切な作物の栽培を増やすと同時に、降雹のメカニズムや作業方法・技術などの研究を深め、人 工防雹作業の科学水準を高め、人工防雹作業点を増設し、作業の空白地区を補い [24] 、雹災リスクを引き下げることを提案する。
4 検討
本研究は、雹災経済損失指標モデルとリスク度モデルを利用し、1984-2014年の新疆の雹災による経済損失を評価し、ArcGISソフトウェアを用いて雹災リスクの初期的な区分を行ない、地 域における雹災の防災減災と現地農民の栽培作物の選択に科学的な根拠を与えるものとなった。だが研究では、データの使用の正確性の問題や、モデル構築の指標が全面的でないという問題、災 害経済損失の評価とリスク区分の正確性の問題など、一定の問題と不足も存在し、さらなる研究と改善が必要と言える。
(おわり)
参考文献(References)
[20]. Wang Qiuxiang, Ren Yiyong. Temporal and spatial distribution features of hail disasters in Xinjiang in recent 51 years[J]. AridLand Geography, 2006, 29(1) : 65-69. [王秋香, 任宜勇. 51a新疆雹災損失的時空分布特徴[J]. 乾旱区地理, 2006, 29(1) : 65-69.]
[21]. Fu Congbin, Wang Qiang. The definition and detection of the abrupt climate change[J]. Scientia Atmosphenca Sincia, 1992, 16(4) : 482-493. [符淙斌, 王強. 気候突変的定義和検測方法[J]. 大気科学, 1992, 16(4) : 482-493.]
[22]. Yang Lianmei. Climatic characteristics of hail in Xinjiang and the prevention[J]. Journal of Catastrophology, 2002, 17(4) : 26-31. [楊蓮梅. 新疆的氷雹気候特徴及其防御[J]. 災害学, 2002, 17(4) : 26-31.]
[23]. Ma Yu, Wang Xu, Guo Jiangyong. Characteristic analysis on circulation pattern of systematic hail weather processes and satellite cloud image in Xinjiang[J]. Plateau Meteorology, 2004, 23(6) : 787-794. [馬禹, 王旭, 郭江勇. 新疆系統性氷雹天気過程的環流形勢及衛星雲図特徴分析[J]. 高原気象, 2004, 23(6) : 787-794.]
[24]. Xiang Mingyan, Fan Lihong, Haimit Yimiti, et al. Study on the change of eteorological disasters and the prevention measures in Xinjiang since recent 45 years[J]. Arid Zone Research, 2007, 24(5) : 712-716. [向明燕, 範麗紅, 海米提·依米提, 等. 新疆近45年気象災害及其防御措施[J]. 乾旱区研究, 2007, 24(5) : 712-716.]
※本稿は史蓮梅,李斌,李圓圓,孔令文,劉衛平「新彊氷雹災害経済損失評估及風険区劃研究」(『氷川凍土』2017年第39卷第2期、pp.299-307)を『氷川凍土』編集部の許可を得て日本語訳/転 載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司