海底電力ケーブルを考慮した海上風力発電所の動的誘導性無効電力補償(その2)
2018年 2月27日
熊 信恒: 武漢大学電気工程学院
海上風力発電所の無効電力補償と過電圧の研究に主に従事。
陳 柏超: 武漢大学電気工程学院 教授
博士課程指導教員。高圧磁気制御リアクトル技術の研究に従事。
袁 佳歆: 武漢大学電気工程学院
( その1よりつづき)
2 海上風力発電無効電力補償
2.1 風力発電所の無効電力需要の分析
臨海風力発電所を研究対象として,海上風力発電所の無効電力需要を分析する。図3は同海上風力発電系統の連系系統の接続模式図である。風力発電所は,100台の3.0MWの二重給電非同期誘導風力発電機( DFIG)から構成される。海上昇圧プラットフォームのメイン変圧器は,2台のSFZ-180000/220の低圧側二重スプリット変圧器で,220kV海底ケーブルは,3 本の1×800mm 2の交流電力ケーブル,220kV高架線の長さは20kmである。
図3 臨海海上風力発電系統連系系統連結図
Fig.3 Wiring diagram of grid system of Binhai offshore wing farm
無効電力補償装置を設置せず,風力発電機が無効電力を発しない状況下では,風力発電所で無効電力を消耗する設備は主に,35kV昇圧変圧器と35kV海底電力ケーブル,220kVメイン変圧器,2 20kV海底ケーブル,220kV高架線があり,その大小は路線の潮流にかかわる。風力発電所で無効電力を発する設備は主に,35kV海底電力ケーブルと220kV海底ケーブル,220kV高架線があり,そ の大小は電圧の変動に従うが,変化は極小さく,不変とみなすことができる。臨海風力発電所の関連パラメーターを基凖とし,風 力発電機の出力と電力ケーブルの長さの変化に応じて計算された系統の無効電力需要は図4に示す通りである。
図4 系統無効電力需要に対する風力発電機の出力水準と電力ケーブルの長さの影響
Fig.4 Impact of output level of wind turbine and cable length on reactive power demand of system
図4から,海底ケーブルの長さが20kmを超えた時,誘導性無効電力に対する風力発電所の需要は,容量性無効電力に対する需要をはるかに上回ることがわかる。臨 海風力発電所の220kV海底ケーブルの実際の長さは30kmで,風力発電機の出力について100%と90%,60%,40%,0%の5種類の状況を想定して計算し,風力発電機の出力の力率に1を取り,式(1)~ (6)に基づいて,風力発電所の系統連系ポイントの無効電力需要Q xを計算することができる。表1に示す通りである。
計算に基づくと,風力発電機の出力の力率が1であり,風力発電機の出力が100%の状況の下では,系統の無効電力需要は,比較的小さい容量性無効電力となる。風力発電機の出力が91%よりも小さい時は,系 統の無効電力需要はいずれも誘導性無効電力となる。だが実際の運用においては,風力発電所の出力が80%を上回る確率が10%に満たず [12] ,海上風力発電所の無効電力需要は主に誘導性無効電力となる。表 1の計算からは,風力発電所の無効電力需要をQ xmin≤Q x≤Q xmaxと導くことができる。このうちQ xmin=-14.474Mvar,Q xmax=+71.539Mvarである。
風力発電機出力/% | ||||||
0 | 40 | 60 | 90 | 100 | ||
無効電力消耗 | 35kV昇圧変圧器 | +2.640 | +6.131 | +10.459 | +20.313 | +24.458 |
35kV海底ケーブル | 0 | +0.504 | +1.135 | +2.556 | +3.156 | |
220kVメイン変圧器 | +2.161 | +6.546 | +12.018 | +24.266 | +29.421 | |
220kV海底ケーブル | +0.327 | +4.187 | +9.052 | +20.115 | +24.842 | |
220kV高架線 | +0.563 | +1.983 | +3.791 | +7.992 | +9.827 | |
路線充電電流 | 35kV海底ケーブル | -3.996 | -3.996 | -3.996 | -3.996 | -3.996 |
220kV海底ケーブル | -69.333 | -69.333 | -69.333 | -69.333 | -69.333 | |
220kV高架線 | -3.901 | -3.901 | -3.901 | -3.901 | -3.901 | |
無効電力需要Qx | +71.539 | +57.880 | +40.740 | +1.998 | -14.474 |
2.2 風力発電所における無効電力補償容量の配置
風力発電の無効電力補償は,静的無効電力補償と動的無効電力補償に分けられる。単位容量当たりの動的無効電力補償装置のコストは,静的無効電力補償よりも高価である。コスト節約のため,合 理的な容量配置を通じて補償要求を満たすことができる。
二重給電非同期誘導風力発電ユニットの無効電力調節能力は,風速の増大に応じて減少し,さらに定格運行状態とその付近のDFIGは,一定量の無効電力を吸収してその正常な運行を維持する [3, 4] 。そ のため昇圧プラットフォームの集電母線上にコンデンサーを設置して開閉することにより,一定の容量性無効電力による支えを風力発電ユニットに提供できる。表1に基づけば,風力発電機の出力が90%を 上回った時にコンデンサーを投入すると,風力発電所の無効電力需要は依然として誘導性無効電力,すなわちQ xmin≥0となる。誘導性動的無効電力補償装置だけを配置すれば,系 統の無効電力需要を満たすことができる。
海上風力発電所の構造に基づくと,35kV集電母線と220kV上陸ポイントの集中制御センターに無効電力補償装置を設置することができる。これに対応し,磁 気制御リアクトルに基づく海上風力発電無効電力補償には2つの案が生まれる。1)海上プラットフォームの集電母線上に35kV磁気制御リアクトルを設置する。2)上 陸ポイントに220kV磁気制御リアクトルを設置する。集電母線は海上昇圧プラットフォームにあり,陸地から離れており,設置や整備が不便である。一方,220kV電圧階級のMCRはすでに技術が成熟している。そ のため220kV上陸ポイントの集中制御センターに大容量MCRを設置する無効電力補償方式が優位性を持っている。このため35kV集電母線への固定コンデンサーの設置と上陸ポイントへのMCRの設置が,全 体としての動的無効電力補償を形成する。従来方式に比べると,無効電力補償系統は構造が簡単で,制御が容易で,信頼性は大きく高まる。海上風力発電所の無効電力補償の配置構造は図5の通りである。
図5 海上風力発電所の無効電力補償配置
Fig.5 Configuration of reactive power compensation of offshore wind farm
35kV集電母線上に設置されたコンデンサーバンクの容量は,風力発電所の定格運行時の無効電力需要Q xminによって决定される。表1の計算結果から,固定コンデンサーの設置容量をQ xminとし,母 線を4組に分け,1組につき-3.618 5Mvarとする。高圧側の補償容量は,風力発電所の無負荷時の無効電力需要に基づいて决定され,風 力発電所がさらに必要な補償容量はQ xmax=71.539Mvarとなる。
以上の分析はいずれも,二重給電風力発電ユニットの出力の力率を1と仮定しており,二重給電風力発電ユニットの無効電力調節能力を十分に利用していない。実際には,DFIG発電ユニットはすでに,出 力の力率を±0.95に制御できるようになっている。通常,二重給電発電ユニットの信頼できる運行を保証するには,その出力の力率は多くの場合,±0.98以上に制御される。二 重給電風力発電ユニットの力率を±0.99とすると,300MW二重給電風力発電ユニットが出力可能な最大の誘導性無効電力はQ wmax=42.3Mvarとなる。MCRが提供しなければならない誘導性無効電力容量はQ mcr=Q xmax-Q wmax=29.239Mvarとなる。
2.3 海上風力発電所の無効電力補償制御構造
風力発電所の無効電力補償にとっての目標は,制御系統連系ポイントの力率を1とする,すなわち系統連系ポイントの無効電力を0とすることである。そのため制御系統の補償無効電力の参考値は,上 陸系統連系ポイントの無効電力を直接取ることができる。
DFIGの無効電力調節能力を十分に利用し,風力発電ユニットの最大無効電力出力の際の系統連系ポイントの無効電力の飽和限界値を,DFIGの無効電力出力の参考値とする。M CRの出力する無効電力容量と直流制御電圧は正の相関関係を示し,MCRの閉ループ制御を構築することができる。コンデンサーの開閉の制御は,風力発電ユニットの出力水準に基づいて判断する。風 力発電機の出力水準が90%を上回った際にコンデンサーを投入し,80%を下回った際にコンデンサーを切断する。海上風力発電所の無効電力補償制御構造は図6に示した通りである。
図6 海上風力発電所の無効電力補償制御
Fig.6 Reactive power compensation control of offshore wind farm
上陸ポイントで系統連系ポイントの無効電力Q pccをモニタリングする。風速が比較的低い際には,系統連系ポイントの無効電力需要はQ x>0となり,DFIGは十分な無効電力調節能力を持っている。限 定されたDFIGの最大無効電力出力を超えない状況の下,DFIGの出力する無効電力の参考値をQ w_ref≤Q wmaxとし,DFIGの無効電力調節能力を十分に発揮する。同時に,系 統連系ポイントの無効電力とMCRの出力する無効電力の偏差をPI段階の入力信号とし,P I段階の出力をMCRの直流励磁の制御電圧V dとすることで,MCRに相応の容量の無効電力を出力させる。風 速の増大に伴い,風力発電機の出力が90%を超えた後は,DFIGの無効電力調節能力は弱くなり,コ ンデンサーバンクを投入すると,系統連系ポイントの無効電力需要はQ x≥0となり,この時は主に,風 力発電所の無効電力補償はMCRによって行われる。風速が減少した際には,コンデンサーの反復的な開閉を避けるため,風力発電機の出力が80%を 下回ってからコンデンサーを切断する。
このような無効電力補償の全体プロセスにおいて,系統連系ポイントの無効電力需要は常にQ x≥0となり,MCRによって無効電力補償を行うことが可能となる。
3 シミュレーション研究
風力発電所来にとっては,風速は常に変化するもので,風力発電機の出力を変化させ,海上風力発電所の系統連系ポイントの無効電力も常に変化する。この補償方式の効果を検証するため,以下では,系 統連系ポイントの無効電力を0とすることを目標に,シミュレーション分析を行う。
風速変動区間全体の系統の無効電力補償の効果を確かめるため,相応の風速モデルを構築し,風速が6~14m/sでまず増大しそれから減少するとし( 風力発電機の系統連結の最低風速と定格を超えた風速を含む),ノイズや干渉と合成し,風速をシミュレーションした(図7)。
図7 風速シミュレーション
Fig.7 Simulated wind speeds
このような風速の変化の下での風力発電機の回転速度は図8のように,また出力される有効・無効電力の変動曲線は図9のようになる。
図8 風力発電機の回転速度
Fig.8 Rotate speed of wind turbine
図9 風力発電ユニットの出力
Fig.9 Power output of wind turbines
風力発電機の最大出力は回転速度と3乗の関係にある [1] 。そのため図9では,風速が定格風速近くに高まる過程で,風力発電機の有効電力の出力は急激に上昇する。風速が定格風速に近づいた後,風 力発電機の出力する無効電力は急激に減少し,無 効電力の調節能力は弱まる。風速が再び減少した後,風力発電機の出力する無効電力は高まり,風速とともに変動する。
MCRとコンデンサーバンクの動的無効電力補償は図10に示す通りであり、風力発電所における無効電力補償前後の系統連系ポイントの無効電力は図11に示す通りである。
図10 MCRとコンデンサーバンクの動的無効電力補償
Fig.10 Dynamic reactive power compensation of MCR and capacitors
図11 補償前後の系統連系ポイントの無効電力
Fig.11 Reactive power of point of grid connection
図11によると,補償前には,38~41s前後の系統連系ポイントの無効電力需要は容量性無効電力となっていた。コンデンサーによる補償後,系統連系ポイントの無効電力需要はすべて誘導性となり,4 1s前後には,コンデンサーが風力発電機の出力減少に伴って切断され,系統連系ポイントの無効電力は風速に伴って変動する。最後に,MCRとコンデンサーの協同補償により,系 統連系ポイントの無効電力は平衡となる。図10においては,MCRの動的誘導性無効電力補償が,系統連系ポイントの無効電力需要を良好に追跡している。図11においては,補 償後の系統連系ポイントの無効電力が小幅に変動し,系統連系ポイントの力率を1に近付けている。
補償前後の系統連系ポイントの電圧の変動状況は図12の通り。
図12 補償前後の系統連系ポイントの電圧
Fig.12 Voltages of point of grid connection
図12からは,補償後の系統連系ポイントの電圧は1.0(p.u.)により近付き,変動はより小さいことがわかる。コンデンサーの投入後,補償前後の系統連系ポイントの電圧の振幅は接近する。コ ンデンサーの切断後,補償後の系統連系ポイントの電圧の変動は減少し,振幅は安定する。シミュレーション結果からは,風力ユニットの動的無効電力調節と組み合わせることで,MCRは,風 力発電所系統連系ポイントの無効電力の出力変化をスピーディーに追跡し,海上風力発電所の動的無効電力補償を実現できることがわかる。
4 結語
海上風力発電所の無効電力需要の特性を分析し,海底ケーブルの長さが比較的長い海上風力発電所をターゲットとして,二重給電風力発電ユニットの無効電力調節能力を合理的に利用するという状況の下,誘 導性だけの動的無効電力補償装置に固定コンデンサーを合わせた無効電力補償案を提起した。大容量・高電圧のMCRを無効電力補償装置として採用し,臨 海風力発電所の無効電力需要と一定の力率下でのDFIGの無効電力調節能力の分析を通じて,同海上風力発電所の無効電力補償系統の容量配置と協同制御方法を確定した。従来の方法と比べると,この方法は,海 上プラットフォームへの大容量動的無効電力補償装置の設置を回避し,コストを引き下げ,系統の信頼性を高めることを可能とした。シミュレーション結果からは,系統連系ポイントの無効電力と電圧は良好に制御され,風 力発電系統連系の関連要求を満たしたことがわかった。
(おわり)
参考文献:
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※本稿は熊信恒,陳栢超,袁佳歆「考慮海底電纜的海上風電場動態感性無功補償」(『武漢大学学報(工学版)』2016年第49巻第4期、pp.591-602)を『武漢大学学報(工学版)』編 集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司