第137号
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ベリリウム光中性子による研究用原子炉の過渡特性に対する影響

2018年 2月26日

張 丹: 原子炉システム設計技術重点実験室エンジニア

現在、原子炉の熱水力学と安全性について主に研究。

張航、張舒、鄒志強、陸雅哲: 原子炉システム設計技術重点実験室

概要:

 減速材または反射体としてベリリウムを採用した熱中性子炉においては、235Uの核分裂生成物により放出される高エネルギーのγ光子が9Beと(γ, n)反応を生じ、光励起による遅発中性子、すなわちベリリウム光中性子が発生し、原子炉の動態特性に影響を与える。本稿では、ベリリウム光中性子の典型的な炉定数を選び出し、relap5システムプログラムを採用して研究用原子炉の過渡特性に対するベリリウム光中性子による影響を研究した。その結果、ベリリウム光中性子の存在により、原子炉の残余核分裂出力が増加し、持続時間も延長されるために、残留熱レベルも高まることがわかった。ベリリウム光中性子の存在により、過渡状態における核出力の変化に遅延が生じるため、原子炉の安全性に対して一定の影響がある。

キーワード:研究用原子炉、ベリリウム反射体、光中性子、過渡

 原子炉内の遅発中性子は主に核分裂生成物の壊変により発生するが、動力炉、特に重水炉においては、γ光子と重水素の反応閾値が低いため、(γ, n)反応が生じて光中性子が放出される可能性がある。研究用原子炉において減速材としてベリリウムを大量に採用し、反射体にベリリウムまたは重水を採用すると、ベリリウムは重水素と類似するため、やはり(γ, n)反応が生じて光中性子を産生する。原子炉の安定状態での運行中は光中性子の割合が核分裂中性子に比べて非常に低いため、正常運行への影響は非常に小さいが、原子炉が過渡状態または炉停止のプロセスにおいては、光中性子の存在は原子炉の特性に一定の影響を与える。

 中国のある研究用原子炉において反射体としてベリリウム構成材を採用したところ、原子炉と反射体内において一定量の光中性子が存在した。光中性子が原子炉の動態特性に与える影響については、中国と海外でいくらかの研究がなされているが、原子炉の過渡特性に対する光中性子の影響についてシステムプログラムと結びつけて実施された研究は少ない。そこで、本稿ではこの研究用原子炉について、光中性子が原子炉システムの過渡状態に与える影響に関する研究を行った。

1 ベリリウム光中性子に関する研究

 原子炉において、γ光子のエネルギーが充分に大きく、標的核と中性子の結合エネルギー(大多数の核種は7MeV)を克服できる場合は(γ, n)反応を生じる[1]が、原子炉の材料のほとんどにとって光中性子の反応閾値は高すぎるため、研究においては関心を払う必要がなかった。重水炉とベリリウム構成材を使用する研究用原子炉から見れば、重水素とベリリウムの光中性子の反応閾値は低く、それぞれ2.225MeVと1. 665MeVであるため、原子炉内のγは2H(γ, n)1Hと9Be(γ, n)8Beの反応により光中性子を産生し[1]、そのことによって原子炉の動態特性に影響を及ぼす。

 ベリリウムと核分裂生成物により生じた遅発γ線の光子作用により放出される中性子をベリリウムの遅発光中性子という。遅発中性子先行核と類似し、光中性子先行核も核分裂生成物の壊変により得られるため、光中性子は研究では一般的に予定外の遅発中性子として取り扱われる。運行の視点から見れば、光中性子の占める割合のβphotoは非常に小さいため、反応度をなさないものとして測定することができるが、原子炉の達しうる最小限界出力比に影響をもたらし、これは原子炉運行中のバックグラウンドの光中性子源により決定される。しかし、過渡状態に対しては、光中性子の存在により一定の影響をもたらす。

 Keepin[3]はベリリウム遅発光中性子の産生量について研究したところ、235U遅発中性子先行核と比べると、ベリリウム光中性子先行核の半減期は非常に長いが、その占める割合は非常に小さく、総遅発中性子の約~2%であった(βU235, thは約0. 0065,βphoto = 0.00015)。1965年にKeepinは9グループの遅発光中性子のグループ分け方法を報告し(表1を参照)、ベリリウム光中性子の炉定数を導いた。このグループ分け方法は、後に設計者の間で広く採用されるようになった。こうして、従来からの6グループの遅発中性子に加え、遅発中性子は合計15グループとなった。

 ベリリウム光中性子を考慮に入れた後の原子炉の一点炉動特性方程式は、以下のとおり。

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 以上の各式において、nは中性子束、ρは反応度、βeffは遅発中性子と光中性子の合計の実効割合、Λは即発中性子生成時間、Cdi、Cpjは遅発中性子と光中性子先行核の密度、βdi、βpjは遅発中性子と光中性子の相対的割合、λi、λjは遅発中性子と光中性子先行核の壊変定数、γd、γpは遅発中性子と光中性子の実効割合係数である。

 上記のγd、γp値は反射体および炉心の構造材と関係があり、主に中性子の吸収、漏洩や先行核γの損失等の要素による影響を考慮する。たとえば、ベリリウム反射体を用いた研究用原子炉と小型中性子源研究炉(MNSR)[2]について計算して得られたγd、γpはそれぞれ1.23と0.246で、ORR炉についてはγ-pは0.9であった。ポーランドの研究用原子炉Maria[4]に対する分析ではγ-pの値は0.9で、酸化ウランに酸化ベリリウムを結合させた燃料を採用したパルス炉ACRR[3]の初歩的な分析においてはこの割合を考慮しなかった。以上のことから、ベリリウム光中性子の一般的な実効割合係数はいずれも1を下回り、すなわち、すべての遅発中性子に対するベリリウム光中性子の貢献は2%を下回るはずであることがわかる。本稿の分析においては、ベリリウム光中性子の作用を際立たせるためにこの係数を1とした。

 原子炉の特性に対するベリリウム光中性子の影響については、海外では以下のような研究がなされている。ハンガリーのBudapest[5]研究用原子炉では、ベリリウム反射体による光中性子の制御棒価値に対する影響について研究を行った。Edward J. Parmaは、円環炉心研究炉ACRR[3]についてベリリウム光中性子による原子炉のパルス動態への影響を研究した。Silva Kalcheva[6]は、ベルギーのBR2原子炉におけるベリリウム反射体の反応度変化に対する「毒性学的」影響を研究し、反応度の正確な予測におけるベリリウムの毒性による重要性を検討した。シリアMNSR(小型中性子源炉)[7]に対する熱水力学的分析においてもベリリウム中性子による影響は考慮された。中国では、高束工学試験用原子炉(HFETR)でベリリウム構成材が反射体として採用され、研究者はベリリウム光中性子の産生量[8]とベリリウム( n,α)反応により産生された「毒性物質」6Liと3Heによる反応度への影響を計算し[9]、残留熱放出の影響[10]および光中性子による物理的起動特性への影響[11]について研究を行った。その他、呉暁飛ら[12]はベリリウム反射体を採用した小型原子炉における光中性子の反応について初歩的な模索を行っている。

表1 235Uの核分裂におけるベリリウム遅発光中性子および235Uの核分裂における遅発中性子炉定数
Table 1 Group Constants for Beryllium Delayed Photo neutrons from 235U Fission and Delayed Neutrons from 235U Thermal Fission
注:中性子グループの平均寿命: image
  ベリリウム遅発光中性子 235U核分裂遅発中性子
グループ数 半減期 割合
βi(10-5 )
半減期
(s)
割合
βi(10-5 )
1  12. 8 d 0. 057 55 21
2 77. 7 h 0. 038 23 142
3 12. 1 h 0. 26 6. 2 127
4 3. 11 h 3. 2 2. 3 257
5 43. 2m 0. 36 0. 61 75
6 15. 5m 3. 68 0. 23 27
7 3. 2 m 1. 85    
8 1. 3 m 3. 66    
9 30. 6 s      
合計 15. 175   650
平均寿命 3. 33h   12. 99 s  

 現在行われているベリリウム光中性子による原子炉の特性への影響に関する研究は、主に反応度に対する影響ひいては制御棒価値への影響、ならびに中性子源に対する影響と残留熱に対する影響等がある。しかし、原子炉の過渡特性への影響に関する研究は少ない。しかし実際には、過渡特性は原子炉の安全性と密接な関係があるため、中国でも海外でも研究用原子炉の安全性において高く注目されており、中国の原子力安全監督管理部門[13]も、研究用原子炉の法規・基準体系を整備し、研究用原子炉の分類に基づいて安全監督管理業務を現在行っているところである[14]。このため、ベリリウム遅発光中性子の存在時における原子炉の過渡特性について研究を行う必要がある。

2 過渡状態に関する研究

 表1からわかるように、ベリリウム遅発光中性子の割合は小さいが、235U遅発中性子やベリリウム光中性子に比べると半減期が非常に長いため、その平均寿命もこれに相応して長く、原子炉の過渡特性に一定の影響を及ぼす。本節では典型的なKeepinの9グループによるベリリウム中性子の炉定数データを採用し、システムプログラムRelap5を用いて研究用原子炉の過渡特性について研究を行い、ベリリウム光中性子の有無による原子炉の過渡特性を対比分析し、原子炉の残留熱に対する影響と事故の過渡特性に対する影響を重点的に研究した。

2. 1 原子炉残留熱への影響

 原子炉残留熱は、残余核分裂出力(遅発中性子による)と核分裂生成物の壊変出力(核分裂生成物と中性子捕捉産物の放射性壊変による)[15]に由来する。ベリリウム光中性子は、主に残余核分裂に影響を及ぼし、原子炉の残留熱から需要を導く上で、一定の影響がある[16]

 図1は炉停止後の積分残留熱の比較である。ベリリウム光中性子を考慮した際の原子炉の積分残留熱はベリリウム光中性子を考慮しない際を上回り、炉停止から15h後は、ベリリウム光中性子を考慮した際の積分残留熱は約1.5%増加することが分かる。

図1

図1 原子炉の積分残留熱

Fig. 1 Integral residual heat of the reactor

 ベリリウム光中性子は主に炉停止後の残留核分裂出力に影響を及ぼすことから、図2に炉停止早期における残留核分裂出力と2つのケースにおける出力差を示した。235Uの6グループの遅発中性子の状況のみを考慮した場合には、核分裂出力は500s未満の時間内に0近く下がるが、この時期にベリリウム中性子についても考慮した場合も、依然として0.15%前後の残留核分裂出力があることが図2からわかる。両者の差は、炉停止後100s内に3%まで急速に増加し、炉停止後900s前後で最大値3.5%に達する。この時に最大の割合を占める光中性子のグループである第六グループはちょうど半減期に達し、この後の差は徐々に減少する。ベリリウム光中性子の平均寿命は非常に長く、約3.33hであるため、ベリリウム含有原子炉は炉停止後の残留核分裂持続時間が比較的長い。

図2

図2 残留核分裂出力および出力差

Fig. 2 Residual fission power and the power difference between two cases

2. 2 事故時の過渡特性への影響

 原子炉事故の際の過渡特性に対するベリリウム光中性子の影響についての研究に関しては、本稿では中性子動力学と緊密な相関性のある、満出力下における制御棒クラスタ飛出し事故(PWR)と停電下における原子炉停止機能喪失事象(Anticipated Transient Without Scram, ATWS)について分析を行い、核出力と核燃料ケースの限界熱流速比(Departure from Nucleate Boiling Ratio, DNBR)に対するベリリウム光中性子の影響を導いた。

 過渡状態についての分析に関しては保守的な初期条件を採用し、原子炉は初期時刻においては満出力にて運行されていたと仮定した。

2. 2. 1 制御棒クラスタ飛出し事故(PWR)

 制御棒クラスタ飛出し事故(PWR)においては、制御棒の制御不能による飛出しによって炉心が正の反応度に導かれ、中性子束に突然の変化が生じて出力の上昇を導き、炉心の安全性に脅威をもたらす。この事故は中性子束の変化と密切に関係するため、ベリリウム光中性子の存在が事故の進展に一定の影響を及ぼす。

 図3に過渡プロセスにおける核出力の変化を示す。図から分かるように、ベリリウム光中性子を考慮した後の核出力の上昇はベリリウム光中性子を考慮しない際に比べてやや劣る。制御棒を挿入した後の出力下降も同様である。

図3

図3 原子炉における核出力

Fig. 3 Nuclear power of the reactor

 図4に示すように、燃料表面の最小限界熱流束比に関しては、2種類の状況下における核出力が非常に近いために燃料表面の熱工学的状態も非常に近いことから、限界熱流束比の計算結果には顕著な差がなかった。

図4

図4 最小限界熱流束比

Fig. 4 The minimum DNBR

2. 2. 2 停電によるATWS事故

 原子炉停止機能喪失事象(ATWS事故)とは、主に原子炉において予想される過渡変動(モードⅡ事件)中に緊急炉停止の不具合が積み重なることによって引き起こされるもので、基準においては一般的に設計基準超過事故または付加モードとして定義され、動力炉においては主に炉心冷却系および一次回路における圧力境界の完全性に関心が注がれる。研究用原子炉についてはその設計と運行の特殊性により、事故分析においては一般的に燃料芯材温度または表面の限界熱流束比が規制値を超えないよう慎重に制限される。本節では、典型的な停電によるATWS事故に対する分析結果を選んで対比分析を行った。

 先進的な研究用原子炉については、一般的に2つ目の炉停止システムが設置されているが、本分析においては主にベリリウム光中性子による影響を考慮し、2つ目の炉停止システムの動作を考慮しない。すなわち、事故発生後の炉心の出力は主に炉心冷却剤の温度上昇により導かれる負のフィードバックにより抑制される。フィードバックの小さい炉心寿命の初期モードを選択して分析を行った。

 過渡中の核出力変化曲線(図5のとおり)により、ベリリウム光中性子を考慮した後の核出力の低下はベリリウム光中性子を考慮しない際に劣るために、同時刻における前者の燃料表面の熱流量密度は後者を上回る。すなわち、前者の出力/流量比のほうがミスマッチなために、燃料表面の限界熱流束比がより低くなる(図6のとおり)。

図5

図5 核出力

Fig. 5 Nuclear power of the reactor

image図6

図6 最小限界熱流束比

Fig. 6 The minimum DNBR

3 結論

 本稿では、ある研究用原子炉を例にとり、ベリリウム反射体により産生される遅発光中性子の研究用原子炉の過渡性能に対する影響を研究し、以下の結論を得た。

(1)ベリリウム光中性子の存在により、原子炉の炉停止後の残余核分裂時間が延長され、残余核分裂出力が増えることにより、残留熱の増加が導かれる。

(2)事故時の過渡状態について言えば、ベリリウム光中性子を考慮することによって核出力の変化に遅れが生じるため、原子炉の安全性に一定の影響をもたらす。

 このため、ベリリウムまたは重水を含む原子炉の設計においては、原子炉の動態特性に対して光中性子がもたらす影響を考慮しなければならない。

主要参考文献:

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※本稿は張丹、張航、張舒、鄒志強、陸雅哲「鈹光中子対研究堆瞬態特性影響研究」(『核安全』2016年第15巻第3期、pp.79-83)を『核安全』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司