斜面災害モニタリング・早期警戒IoTシステムとその工学的応用(その2)
2018年3月22日
孫 光林:
中国砿業大学(北京)深部岩土力学・地下工程国家重点実験室、中原工学院建築工程学院講師,工学博士。
地質災害制御・情報分析処理方面の研究に従事
陶 志剛、宮 偉力:
中国砿業大学(北京)深部岩土力学・地下工程国家重点実験室
( その1よりつづき)
3 プロジェクト応用
3.1 プロジェクトの背景
本鋼集団南芬露天鉄山は、アジア最大の単体露天鉄山であり、斜面の高度は最高で700mに達する。工業鉱体は3つの鉄鉱層からなり、傾きの方向は南西で、鉄鉱石の埋蔵量は巨大で、生 産規模は年間1500万tを超える。鉱区の地質状況は複雑であり、主要断裂構造はF1断裂で、鉱層の天盤岩石を切断しており、北北東または南北寄りに伸び、傾きの方向は西で、傾斜角は約45度、5 ~20mの広さの異なる破砕帯が発達している。この地域の地下水は被圧水であり、第四紀孔隙潜水含水層は緩い斜面堆積層と洪積層、沖積層であり、廟儿溝と黄柏峪河谷に帯状に分布し、水 位の深度は0.5~1.0mである。
3.2 モニタリング・早期警戒プランの設計
斜面災害モニタリング・早期警戒モノのインターネットシステムの要求に基づき、モニタリングポイントは、斜面の安定性の変化をすばやく精確に反映できる場所に設置する必要がある。南 芬露天鉄山の現場での地質調査の状況に基づき、地すべり災害の危険度とプロジェクトにおける重要性の等級が高い(I級)地域の478mプレートと502mプレート、526mプレートにそれぞれモニタリング・早 期警戒ステーションを設け、北から南にそれぞれ「478-1」「478-2」「478-3」「478-4」「502-1」「502-2」「502-3」「502-4」「526-1」のコードをつける。同 じ高さの隣り合う2つのモニタリングポイントの距離は50mとし(表1)、点状分散収集の方式を取る。これらのモニタリングエリアで採取された情報を、南 芬露天鉄山の上部岩盤の522mプレートにある通信DTUデータ転送センターに伝送し、現場力学モニタリング情報の点-面状情報採取ネットワークを形成する。具体的な位置分布は図4参照。
プロジェクトの重要性 | モニタリングポイント間の距離/m | モニタリングポイントの密度/m |
I | 50 | 20 |
II | 70 | 40 |
III | 100 | 60 |
図4 斜面モニタリング・早期警戒モノのインターネットの分布
Fig.4 Slope monitoring and early warning network distribution map
3.3 プロジェクトの実例
設計要求に基づき、各モニタリング・早期警戒ポイントは、6本のアンカーケーブルを採用し、開ける穴の入射角は約25度、直径は150mmとする。QM15-10型アンカーを用いる。注 入する液体の水セメント質量比は0.45、セメント砂質量比は1:1とし、穴の底から口へと逆に注入する。モルタルが凝固し、設計の要求を満たした後、アンカーを引っ張ってロックする。施工過程は図5参照。南 芬露天鉱山は、中国の東北地区にあり、冬に入る時間が早く、気温が比較的低い。そのため冬季の施工には、防凍剤を入れてモルタル注入やアンカー固定の施工の質を保証する。
図5 プロジェクト実施の流れ
Fig.5 Project implementation process flow chart
3.4 プロジェクト実施の効果
検測によると、モニタリング・早期警戒ポイントの各パラメーターはいずれも基準を満たし、システムは正常な稼動を始めた。現場モニタリングポイントの効果は図6a参照。デ ータ転送センターのDTUは図6b参照。
図6 南芬露天鉄山のプロジェクト設備
Fig.6 Nanfen open pit mine monitoringand early warning site
4 モニタリング・早期警戒の実例分析
システムの連続的なモニタリングの実施を通じて、大量の貴重なモニタリングデータが得られた。2010年7月と8月、同システムは、下部岩盤526mプレートで発生した「10-0731地すべり」と「 10-0805地すべり」に対する事前の警告を成功させた。すべり力と降雨の結合したモニタリング曲線を図7に示した。
図7 すべり力-降雨結合モニタリング曲線
Fig.7 Sliding force-rainfall coupling monitoring curves
図7は、斜面災害モニタリング・早期警戒モノのインターネットシステムを利用し、「10-0731地すべり」と「10-0805地すべり」に対して行ったモニタリング・早期警戒の全過程である。1)2 010年6月、すべり力モニタリング曲線の変化は大きくなく、総体として近似平穏状態にあった。モニタリング・早期警戒モデルに基づき、斜面は「安定」状態にあると判断された。2)2010年7月初、採 掘と降雨の共同作用によって、採掘場526m平面のすべり力が急速に上昇した。モニタリング・早期警戒モデルに基づき、斜面は「亜安定」の状態にあると判断された。7月20日午前10時10分、す べり力は約100kN高まり、モニタリングシステムは「黄色」(イエロー)の早期警戒情報を発した。3)7月26日午後3時00分、すべり力のモニタリング曲線の上昇の速度はさらに高まり、斜 面の不安定度は激化し、システムは「橙色」(オレンジ)の早期警戒情報を発した。鉱山の指導者は、危険区域の作業員と設備の撤退を決定した。4)7月31日午前10時05分、す べり力のモニタリング曲線は突然大幅に低下し、低下幅は約200kNに達した。モニタリング・早期警戒モデルに基づき、斜面は「滑動」の状態にあると判断され、システムは「紅色」(レッド)の 早期警戒情報を発した。現場の調査から、採掘場の下部岩盤の526m平面で局部的な滑動が発生し、両側の落差は1mであることが発見された(図8a)。5)7月31日以降、すべり力モニタリング曲線は安定せず、上 昇傾向を見せた。モニタリング・早期警戒モデルに基づき、斜面はまだ安定を回復しておらず、「亜安定」の状態にあると判断された。6)8月5日、すべり力モニタリング曲線は急劇に上昇し、す べり力は極めて短い時間に220kNを超える増量を観測した。モニタリング・早期警戒モデルに基づき、斜面は「亀裂」の状態にあると判断され、システムは「紅色」の早期警戒情報を発した。現場の調査により、5 26m平面の下縁から430m平面にかけて比較的大きな亀裂が発生しているのがわかり、幅は平均1.2m、長さは約48mだった(図8b)。7)8月10日、すべり力モニタリング曲線は安定を回復した。モ ニタリング・早期警戒モデルに基づき、斜面は「安定」の状態にあると判断され、警戒は解除され、鉱山は生産を再開した。
図8 斜面の滑動と亀裂の特徴
Fig.8 Characteristics of slope slip and crack
その原因としては、採掘場の下部岩盤の斜面岩層の傾斜角は30度~60度で、斜面の走向小角度と交わり、典型的な傾斜流れ盤岩質斜面であることが考えられる [22] 。降雨や採鉱、爆破、地震動など、人為的または自然的な動力の影響を受けると [23] 、潜在的な地すべりのリスクは極めて大きくなり、過去にも多くの地すべり災害事件が発生している。とりわけ近年、採掘強度が一段と高まっていることで、採 掘垂直深度は504mに達している。ま た下部岩盤のモニタリングエリアは主に、フレーク状緑泥片岩、角閃緑泥片岩からなり、水に遭遇すると斜面の岩体強度は急劇に低下する。さらに斜面の亀裂と節理状の発達、風 化や雨水の流れの作用で亀裂は徐々に拡張し、表層の亀裂と深部の節理の貫通を徐々にもたらし、
強度が低下した後の軟弱岩体は潜在的なすべり面を形成しやすく、滑動面の両側の岩体の変形をもたらし、相対しての滑動が発生し、最終的に「10-0731地すべり」や「10-0805地すべり」の 発生を招いた。
「10-0731地すべり」と「10-0805地すべり」の早期警戒が正しく科学的なものであったことから、人員と設備の危険回避措置がすばやく行われたために、人 員と設備に対する落石と地すべり体による損害は回避され、人員の死傷と重大な経済損失を有効に避けることが可能となった。
5 結論
1)斜面災害モニタリング・早期警戒モノのインターネットシステムは、定抵抗大変形アンカーケーブルサブシステムとスマート給電サブシステム、デュアルチャンネルデータ通信サブシステム、デ ータ受信処理サブシステムの4サブシステムからなる。この4つのサブシステムは相互に連携し、完全な有機体を共同で構成し、システム全体の長期的で安定した有効な運用を保証し、地 すべり災害に対する遠距離リアルタイムスマートモニタリングを実現した。
2)モニタリングシステム曲線の変化の「安定」「亜安定」「亀裂」「滑動」「外乱」の5種類のモニタリング・早期警戒モデルを改良し、モニタリング・早期警戒事業の操作性を高め、地 すべり予報の精度と科学性を保証した。
3)斜面災害モニタリング・早期警戒モノのインターネットシステムの南芬露天鉄山の典型的な傾斜流れ盤岩質斜面への応用は、定抵抗大変形アンカーケーブルが、地 すべりの亀裂の幅が1.2mに達した時にも断裂せず、地すべりのすべり力モニタリングデータの持続性を確保したことを示した。採掘場下部岩盤の526m平面の「10-0731地すべり」と「 10-0805地すべり」の全プロセスの早期警戒予報の成功は、重大災害による損失を回避させ、斜面災害モニタリング・早期警戒モノのインターネットシステムの実用性と有効性を検証した。
謝辞:本プロジェクトは、本渓鋼鉄(集団)南芬露天鉄山と深部岩土力学・地下工程国家重点実験室の大きな支持を得た。ここに感謝を表す。
参考文献:
[22]. 付国竜, 王長軍, 陶志剛. 順層岩質辺坡開挖致滑的滑動力監測[J]. 金属砿山, 2012(9):154-157.
FU Guolong, WANG Changjun, TAO Zhigang. Sliding force monitoring of cut tests on a bedding
rockslope[J]. Metal Mine, 2012(9):154-157.
[23]. YANG J, TAO Z G, LI B L, et al. Stability assessment and feature analysis of slope in Nanfen OpenPit Iron mine[J]. International Journal of Mining Science and Technology, 2012, 22(3):329-333.
※本稿は孫光林,陶志剛,宮偉力「辺坡災害監測預警物聯網系統及工程応用」(『中国鉱業大学学報』2017年第46卷第2期、pp.285-291)を『中国鉱業大学学報』編集部の許可を得て日本語訳/転 載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司