第140号
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中薬有効成分のプロバイオティクスによる代謝の研究の進展(その1)

2018年5月29日

戴 承恩: 浙江亜林生物科技股份有限公司

中級エンジニア。分子薬理と機能性食品の研究に主に従事。

李 海竜: 浙江亜林生物科技股份有限公司シニアエンジニア

何 小平: 中国林業科学研究院 亜熱帯林業研究所

鄭 芬芬,竺 画柳,劉 良豊,杜 偉: 浙江亜林生物科技股份有限公司

概要:

 中薬(漢方薬)の有効成分がその薬理活性を発揮できるかは、人体の腸内のプロバイオティクスの微小生態環境に大きく左右される。プロバイオティクスは、中薬の有効成分の代謝や転換、吸収などの作用に影響することで、中草薬の効能を変えたり、新たな内容を付け加えたりする。プロバイオティクスと中薬の結合は、機能性食品と中薬の研究開発の革新ポイントであり、中薬の現代化研究の新たな考えの筋道でもある。本稿は、中国内外の腸内プロバイオティクスの中薬主要有効成分の代謝の研究の進展、腸内プロバイオティクスに対する中薬の有効成分の調節作用、プロバイオティクスの中薬中の応用の現状、プロバイオティクス中薬製品の研究と開発に存在する主要な問題と展望の分析を総論したもので、中薬の発酵プロセスに理論的な指導と実際の応用価値を提供することを狙いとする。

キーワード:中薬;有効成分;薬理活性;プロバイオティクス;機能性食品;代謝

 中薬の有効成分は、疾病の治療と予防の主要な作用物質である。中薬の有効成分の詳細な研究と開発は、多くの学者が重視する課題であると同時に、中薬の現代化研究の重要な内容である。微生物の代謝活動を通じた中草薬(生薬)の治療効果の増強や新たな活性成分の産出、毒性副作用の低下、生物学的利用能の向上などは、中薬の有効成分の研究においてすでに徐々に展開されている。微生物とりわけプロバイオティクスの運用による中薬有効成分の代謝は、現代の中薬学の研究の焦点となる。

 プロバイオティクスは、十分な数量を備えた際に宿主の健康を増進する作用を持つ一群の活性微生物である[1]。正しく言えば、人体の腸内に定着し、明確な健康の効果を生み、宿主の微生物生態バランスを改善し、有益な作用を発揮する活性微生物の総称である。腸内細菌叢の構造の改善や免疫力の向上、コレステロールと血圧の低下、静菌、抗炎症。抗がん、さらには口腔の健康などで作用を発揮することから[2-6]、プロバイオティクスは、飲料や食品において幅広く応用され、薬物臨床研究において大きな進歩を実現した。だがプロバイオティクスの中薬における応用の研究はまだ比較的不足している。本稿は、中薬の有効成分に対する人体の腸内プロバイオティクスの代謝作用の中国内外の研究の進展や、腸内プロバイオティクスに対する中薬の有効成分の調節作用を簡潔にまとめ、プロバイオティクスの中薬への応用の現状と将来性を分析し、新薬と機能性食品の開発に新たな参考の提供をはかったものである。

1 腸内プロバイオティクスの中薬有効成分の代謝の研究

1.1 フラボノイド系化合物

1.1.1 バイカリン フラボノイド系化合物は、人体に摂取された後、ほとんどは分解されず大腸に入り、腸内細菌叢酵素の作用の下で対応するアグリコンに転換し、生体に吸収利用されるか、さらに代謝される[7]。バイカリン(baicalin)及びそのアグリコンはオウゴン(黄芩)の主要活性成分であり、幅広い薬理作用を備えている。Trinh H Tら[8]は体外実験を通じて、バイカリンが人体の腸内細菌叢の代謝を経た後の産出物は主にバイカレイン(baicalein)とオロキシリンA(oroxylin A)であることを発見した。これらの2種の代謝産物は、抗ヒスタミン作用を通じてマウスの瘙痒反応を改善することができ、抗瘙痒作用はどちらもバイカリンより強い。Myung-Ah Jら[9]は、腸内細菌叢のバイカリン抗炎作用への影響の研究で、バイカリンとその代謝産物のうち、オロキシリンAの炎症抑制効果が最も際立ったが、菌叢のβ-グルクロニダーゼの活性の下落に伴い、抗炎作用の効果は明らかに弱まることを発見した。バイカリンは腸内細菌叢のβ-グルクロニダーゼの作用の下、バイカレインとオロキシリンAを生成し、生体の抗炎効果を高めたことがわかる。

1.1.2 大豆イソフラボンとプエラリン 大豆イソフラボン(soyisoflavones)の主要生物活性物質はダイゼイン(daidzein)とゲニステイン(genistein)で、大部分のダイゼインはビフィズス菌の作用を経てエクオール(equol)になる[10]。最終的な代謝産物であるエクオールは、生物活性がより高く、より吸収されやすく、血漿中の除去速度がより遅いなどの特徴を持つ。だが大豆イソフラボンアグリコンのエクオールへの転換は、人間のグループによって特異性があり、一部の人だけが転換能力を持つ[11]。Munoz Yら[12]は、エクオールはダイゼインと比べて、抗前立腺がん作用や抗酸化活性がより強く、性質がより安定し、生物学的な利用能がより高いことを発見した。ダイジンは、ほとんどの腸内細菌によってアグリコンに代謝される。だがBraune Aら[13]の研究は、ビフィドバクテリウム・ロンガムH-1やラクノスピラCG19-1など少量の腸内細菌だけが、プエラリン(puerarin)をダイゼインに転換でき、その他のフラボノイドC-グリコシド結合を酵素分解できることを発見した。

1.1.3 マンギフェリン マンギフェリン(mangiferin)は、マンゴーの葉の主要有効成分であり、経口吸収が遅く、生物学的利用能は低いが、人体の腸内細菌叢によってすばやくアグリコンに代謝される[14]。Sanugul Kら[15]は、腸内細菌からバクテロイドMANGを分離し、マンギフェリン中の化学的性質の安定したC-グリコシド結合を有効に分解し、アグリコン--1,3,6,7-テトラヒドロキシキサントン(norathyriol)を代謝形成することができる。この分解酵素は量と時間の特異性を示し、適量のマンギフェリンが存在して初めて細菌自身の産出を誘導する。Braune Aら[13]が分離した腸内細菌CG19-1は、プエラリンとマンギフェリンのC-グリコシド結合を酵素分解するだけでなく、フラボノイドのOグリコシド結合を加水分解できる。だが酵素分解の効率はC-グリコシド結合には及ばない。

1.1.4 ヘスペリジン ヘスペリジン(hesperidin)は、陳皮のフラボノイド物質の主要有効成分である。ヘスペレチン(hesperetin)はヘスペリジンの代謝産物であり、両者はいずれも、多くの薬理作用を持つ。ヘスペリジンは、人体の腸内細菌叢酵素の作用の下、ヘスペレチンとその他の代謝産物を生成する。ヘスペレチンは生体に吸収利用され、さらに代謝される[16]。Lee N Kら[17]は、ヘスペリジンとヒトの腸内細菌叢との共培養を研究し、ヘスペレチンがヘスペリジンの主要な代謝産物であることを発見した。これはlgEによって引き起こされるRBL-2H3細胞の炎症媒介物質ヒスタミンの放出と受動的皮膚アナフィラキシー(PCA)反応を効果的に抑制できる。だがヘスペリジンそのものはヒスタミンの放出を抑制できず、ヘスペリジンは、腸内細菌叢の代謝を通じてヘスペレチンを産出し、その薬理活性を発揮することがわかる。楊新玲ら[18]は、体外実験を通じて、ヘスペレチンやヘスペリジンを比べると、ヘスペレチンの代謝産物は抗炎症と抗酸化のより強い薬効作用を示すことを発見した。

1.1.5 ケンペリトリン 中薬の羅漢果は、免疫機能の向上やせきの症状の改善、抗不安、静菌などの作用を持つ。羅漢果中の主要有効成分には、トリテルペノイドサポニンとフラボノイドが含まれる。フラボノイドの主要活性物質はケンペリトリン(kaempferitrin)で、腸内の善玉菌の作用を経てケンペロール3-O-α-Lラムノシド(kaempferol3-O-α-L-rhamnoside)とケンペロール7-Oα-L-ラムノシド(kaempferol7-O-α-L-rhamnoside)、ケンペロール(kaempferol)、p-ヒドロキシ安息香酸(p-hydroxybenzoic acid)に転換する。だがケンペリトリンの薬理作用にはさらなる研究が待たれる[19]。Vissiennon Cら[20]は、ケンペリトリン代謝産物の薬理活性を研究し、その代謝産物p-ヒドロキシフェニル酢酸が良好な抗不安作用を持ち、経口投与を通じてケンペロールと同様の効果を持つことを発見した。だが腸内細菌叢による代謝を経ないケンペロールは抗不安作用を示さなかった。ケンペリトリンが腸内細菌叢酵素の作用を経てまずアグリコンに転換し、アグリコンがケンペロールを代謝生成し、ケンペロールがその他の活性化合物を代謝生成することがわかる。

1.2 配糖体系化合物

1.2.1 ジンセノサイド 人参中の主要な活性物質はサポニン系化合物であり、すでに30種余りの活性成分が分離され[21]、幅広い薬理学作用を示している。研究によると、ジンセノサイド(ginsenoside)は肝臓内では基本的に代謝せず、主に腸内で分解される。代謝産物の最高濃度到達時間(tmax)と最高濃度(Cmax)、濃度時間曲線下面積(AUC)は、個体の腸内細菌叢の活力に左右されるが、代謝終産物の吸収と腸内細菌の転換活力は無関係である[22]。Bae E Aらの研究は、バクテロイドとビフィズス菌、ユーバクテリウムはジンセノサイドRg3を共同代謝し、ジンセノサイドRh2を経て、ジンセノサイドcompound Kに転換し、フソバクテリウムは単独でジンセノサイドRg3をジンセノサイドRh2に転換することができることを発見した。これらの希少ジンセノサイドは、体内で薬効を発揮する主要成分である[23-24]。Jung I Hら[25]は、ジンセノサイドの人体内の代謝研究により、ジンセノサイドRb1がβ-D-グルコシダーゼの作用下でジンセノサイドcompound Kに転換し、ビフィドバクテリウム・ロンガムH-1のβ-D-グルコシダーゼ遺伝子をクローンしたことを発見した。

1.2.2 グリチルリチン グリチルリチン(glycyrrhizin,GL)は、カンゾウ(甘草)に含まれるサポニンで、カンゾウの主要薬用成分であり、加水分解後のアグリコンはグリチルレチン酸(glycyrrhetic acid,GA)である。グリチルリチンの経口投与における生物学的利用能は極めて低く、腸内のプロバイオティクス加水分解を通じて末端のグリコシルが分解されてグリチルレチン酸モノグルクロニド(glycyrrhetic acid monoglucuronide,GAMG)またはグリチルレチン酸となって初めて吸収され、薬理活性を産出する。代謝経路は2種類ある。一つは、GLを直接加水分解してGAを生成するもの。もう一つは、まずGLを加水分解してGAMGを生成し、GAMGを加水分解してGAを生成するものだ。Akao Tら[26]の研究は、GLは単独でβ-D-グルコシダーゼの活力を高めることができ、すぐに加水分解されGAとなるが、代謝産物とともに存在する時には、容易に代謝されないことを発見した。同様の条件下で、GAMGはより容易に加水分解される。最新研究によると、高濃度GAは、良好な活性成分吸収の協調作用を示し、ペオニフロリンの腸内での吸収を有効に促進する[27]

1.3 アントラキノン系

1.3.1 センノシド 中薬のダイオウとセンナ葉にはいずれもセンノシド(sennoside)が含まれる。これにはもともと瀉下作用はないが、体内で腸内細菌叢酵素の作用によりアグリコンとレインアンスロン(rheinanthrone)に転化され、その薬理活性を発揮する。Kobayashi Tら[28]は、高効率液体クロマトグラフィーによるセンノシドAの代謝過程の測定を通じて、その主要な代謝産物がレインアンスロンとセニジンA、セニジンBであることを発見した。Matsumoto Mら[29]は、88株の乳酸菌と47株のビフィズス菌のセンノシドへの作用の研究により、5株の乳酸菌と21株のビフィズス菌がセンノシドを加水分解する活性を持つことを発見した。このうち4株のビフィズス菌は強い加水分解能力を持っていた。同時に乳酸菌(LKM512)とビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム(LKM10070)がセンノシドを代謝して薬理活性の強いレインアンスロンに転換できることを発見した。TakayamaKら[30]の研究は、アントラキノン系化合物がビフィズス菌代謝酵素の活力を高めることによってセンノシドAの生物転換を加速し、センノシドAの生物活性を増すことを発見した。

1.3.2 バルバロイン バルバロイン(barbaloin)は、アロエやダイオウ(大黄)、ケツメイシ(決明子)などの伝統的な中薬から抽出された一種のアントラキノン系生物活性成分で、センノシドと同様、自身には瀉下作用はないが、人または動物の腸内細菌叢の代謝過程を通じて活性のある産物を産出し、薬効作用を発揮する。Akao Tら[31]の研究は、ユーバクテリウム属BAR株など人の腸内細菌は、バルバロインのC-グリコシド結合を酵素分解し、これをアロエレインアンスロン(aloeemodin anthrone)に代謝できることを発見した。後者は顕著な瀉下作用を持ち、腸内細菌叢の微生物生態環境の違いに応じて、その薬理活性も変化する。

1.4 テルペン系化合物

1.4.1 ゲニポシド ゲニポシド(geniposide)は、クチナシの主要有効成分であり、保肝・利胆の中薬として常用されている。健康食品としては、科学性の肝障害の補助治療に常用される。その薬理活性は、腸内細菌叢によるアグリコンゲニピン(genipin)の代謝産出によって引き起こされる[32]。Jin M Jら[33]の研究も同様に、ゲニポシドの薬理活性が、腸内細菌叢の生物転換によって代謝産物が産出されることで作用し、腸内細菌叢の数量や構造、環境などがゲニポシドの生物活性に対して重要な影響を持つことを裏付けた。だが別の研究では、腸内細菌叢は確かにゲニポシドをゲニピンに生物転換するが、ゲニピンの産出に伴い、細胞毒性作用も高まることが発見されている[34-35]

1.4.2 ペオニフロリン ペオニフロリン(paeoniflorin)は、シャクヤク(芍薬)の主要活性成分であり、心血管系と神経系に顕著な保護作用を持っている。Liu Z Qら[36]の研究によると、ペオニフロリンの微弱な浸透作用とp-糖タンパク質の流出作用、グリコシダーゼの加水分解作用から、ペオニフロリンの経口投与では直接吸収が少なく、生物学的利用能は低い。大量の研究は、ペオニフロリンが薬理作用を発揮するには、腸内細菌グリコシダーゼの作用の下、ペオニフローゲニン(paeoniflorgenin)、ペオニラクトングリコシド(paeonilactone glycoside)、ペオニメタボリンⅠ,Ⅱ,Ⅲ(paeonimetabolinⅠ,Ⅱ,Ⅲ)などの成分に転換しなければならないことを証明している。人体腸内のプロバイオティクスが中薬有効成分の代謝と吸収に重要な役割を果たしていることがわかる[37-40]。研究者らは近年、大量のペオニフロリン代謝産物をすでに検出しているが、多くの代謝産物の正確な構造と生理活性についてはさらなる研究が待たれる[41]

1.4.3 ゲンチオピクロシド ゲンチオピクロシド(gentiopicroside)は、常用される中薬のリュウタン(竜胆)の主要有効成分であり、保肝・利胆・抗炎などの作用を持つ。楊肖鋒ら[42]の研究は、体内でゲンチオピクロシドがアルカロイドに転換し、ゲンチアニン(gentianine)とゲンチアナール(gentianal)がゲンチオピクロシドの体内で代謝される主要な活性産物であることを証明した。ゲンチオピクロシドの生物活性は、ゲンチオピクロシドと体内で転換生産されたアルカロイドの相加作用であると考えられる。研究では同時に、ゲンチアニンとゲンチアナールの腸内での生産と吸収が同時でないことも発見された。大量のゲンチオピクロシドの代謝産物はすでに分離に成功し、一部の産物はすでに鑑定され、ゲンチオピクロシドの人体内での代謝経路と作用機序がいっそう明確化された[43-44]

1.5 アルカロイド系

1.5.1 アコニチン アルカロイドは、有機窒素化合物に属し、分子中にはしばしば、エーテル結合と配位結合を持ち、腸内細菌叢によって容易に加水分解される。アコニチン(aconitine)は、川烏や草烏、附子などの薬用植物中の主要有毒成分である。消炎や鎮痛、抗腫瘍の薬理作用を持つが、中枢神経及び心血管系に明らかな毒性副作用がある。研究によると、アコニチンは、腸内細菌の代謝作用の下、脱アシル基、メチル基、ヒドロキシ基を経て、エステル合成反応を生じ、新たなモノエステル型、ジエステル型、脂質アルカロイドなどの多くの種類の毒性の比較的弱い代謝産物を産出する。さらに脂質アルカロイドは、アコニチンと同様の薬理活性を持ち、毒性はアコニチンより明らかに低い[45-46]

1.5.2 オキシマトリン オキシマトリン(oxymatrine)とマトリン(matrine)は、苦参や苦豆子、広豆根から分離される2種類の主要なアルカロイドであり、両者は、相似した薬理作用を持つ。王明雷ら[47]は生体外実験を通じて、オキシマトリンが人体の腸内細菌に代謝された後の主要産物はマトリンであり、両者はいずれも吸収されて血中に入ることを示した。研究はさらに、2種類のアルカロイドはいずれも、TPH-1細胞のTNF-α遺伝子の発現を抑制することができず、オキシマトリンの炎症性サイトカインの産出抑制の作用はマトリンより強いことを発見した。呉暁鸞らの研究は、静脈を通じた投与では、わずかなオキシマトリンだけがマトリンに還元されることを示し、両者の濃度時間曲線下面積比は(AUC0-∞)MT/(AUC0-∞)OMT=(19.9±5.4)%[48]だった。

1.5.3 シノメニン シノメニン(sinomenine)は、中薬のセイフウトウ(青風藤)から抽出したアルカロイド単体であり、リウマチ性またはリウマチ様関節炎の治療に幅広く用いられているが、水溶性が低い、生物学的半減期が短い、光や熱に対して不安定である、分解されやすいなどの欠点があった。陳万一ら[49]の研究は、シノメニンは経口投与では絶対的生物学的利用能が低く、体内で比較的速く除去され、個体間の差異が大きいことを明らかにした。人体内の代謝研究によって、大部分のシノメニンは生物転換を生じ、脱メチル化代謝物とヒドロキシル化代謝物を主に形成し、産物の吸収と利用を高めることがわかっている[50-51]

1.6 有機酸類

1.6.1 クロロゲン酸 クロロゲン酸(chlorogenic acid)は、金銀花(キンギンカ)や魚腥草(ギョセイソウ、ドクダミ)、忍冬藤(ニンドウ)などの天然薬物中の抗菌消炎・清熱解毒の主要活性成分である。クロロゲン酸は一種の有機弱酸であり、経口投与では吸収されにくく、腸内細菌叢の作用下で加水分解を生じ、小分子物質を形成した後、吸収され血中に入り、薬理作用を発揮する。研究によると、クロロゲン酸の体内代謝は、水素添加、脱ヒドロキシル化、エステル加水分解などの作用を順に経過する。個体によって分解の順序はいくらか異なるが、形成される代謝産物はほぼ同じである[52]。Couteau Dら[53]の研究によると、クロロゲン酸は、大腸菌やビフィズス菌、ガセリ菌など腸内細菌叢の代謝作用の下で加水分解を生じコーヒー酸(caffeic acid)とキナ酸(quinic acid)を形成する。コーヒー酸は分解されにくいが吸収利用が可能であり、キナ酸は幅広く代謝される。だがGonthier M Pらの研究では、コーヒー酸が腸内細菌叢の脱ヒドロキシル化作用を経てm-クマル酸(mcoumaric acid)を形成し、メチル化作用を経てフェルラ酸(ferulic acid)とイソフェルラ酸(isoferulic acid)を産出し、さらに馬尿酸(hippuric acid)と3-ヒドロシキ馬尿酸(3-hydorxyhippuric acid)を代謝産出できることがわかった。クロロゲン酸の生物学的利用率は、微生物の産出する代謝産物に大きく依存し、クロロゲン酸の摂取量の57.4%を占める[54]。同時にコーヒー酸は、還元酵素を経て水素化作用を起こし、ジヒドロコーヒー酸を生成、後者はさらに代謝される[55]。Ludwig I Aら[56]はすでに、11種のクロロゲン酸の代謝産物を分離し、ジヒドロコーヒー酸(dihydrocaffeic acid)とジヒドロフェルラ酸(dihydroferulic acid)、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸であり、腸内細菌叢での作用の主要代謝産物で、含有量は75%~83%を占めると論じた。クロロゲン酸の分解・吸収利用は、それぞれの個体の腸内細菌叢の構造や数量、活力などの要素の影響を受けるとした。

その2へつづく)

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※本稿は戴承恩,李海竜,何小平,鄭芬芬,竺画柳,劉良豊,杜偉「益生菌代謝中薬有効成分的研究進展」(『中国中薬雑誌』2018年第43巻第1期、pp.31-38)を『中国中薬雑誌』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司