第140号
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来年開港! 京津冀エリア発展の新たな動力源「北京新空港」(その1)

2018年05月28日 閔傑(『中国新聞週刊』記者)、趙一葦、江瑞(翻訳)

来年10月の開港へ向け、急ピッチで工事が進む「北京新空港」。完成後はさらなる整備により、年間1億人以上の旅客受け入れを目指す超大型プロジェクトだ。とはいえ、国際的ハブ空港建設のみが新空港の目的ではない。雄安新区を核とする京津冀エリアの発展を後押しする「動力源」となることこそが、与えられた使命だ。

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図1:北京新空港のエコ建設(クリックすると、ポップアップで拡大表示されます)

 2016年12月14日午前9時45分、中国国際航空の武漢発北京行きCA8201便が北京首都国際空港に着陸した。この瞬間、空港の同年度の旅客数は9000万人の大台を突破した。

 北京首都国際空港の総旅客数は同年、のべ9439万3000人に達した。昨年の総旅客数も、のべ9579万人を記録し、アメリカのハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港に次いで、8年連続で世界2位となった。

 だが、年々増加する旅客数は、喜ばしさと同時に想像を超える負荷をもたらしている。空港の3つのターミナルビルは、年間のべ7600万人の旅客容量を想定して設計されていたが、すでに何年も超負荷で稼働している。

 中国国内で最も利用者数の多い北京首都国際空港は、これまで何度も拡張工事を繰り返してきた。だが、常に予想より早く飽和状態に達してしまい、拡張工事が旅客数の増加スピードに追いつけない状況が続いていた。

 北京新空港プロジェクトのフィージビリティ・スタディ報告書は北京エリアの航空旅客ニーズについて、2020年にのべ1億4000万人、2025年にのべ1億7000万人、2040年にはのべ2億3500万人になると予測、「首都国際空港には、これほど旺盛な航空輸送ニーズを引き受けるだけの空間は、もはやない」と結論づけている。

 キャパシティオーバーのもうひとつの顕著な例は、超過密な発着枠だ。首都国際空港行きの便は、大手航空会社の多くが最も就航を望みながら、その実現が最も難しい路線となっている。

「ピーク時の離着陸回数は平均49秒に1便。これは世界でも最も混雑しているレベル」。昨年の両会期間中、中国民用航空局の馮正霖(フォン・ジョンリン)局長は人民大会堂で囲み取材を受けた際、同空港の混雑ぶりについてため息混じりに語った。「海外の航空会社による国際線乗り入れ申請受理はきわめて困難。発着枠がないことに加え、空域・地上・人的資源のキャパシティが頭打ちになっているのがその理由」

 発着枠という制限に押さえつけられ、同空港の指標の伸びは軒並み鈍化している。離着陸回数は、2009年には前年比13%に達する勢いで増加していたが、2013年以降は同3%以下の増加にまで落ち込んでいる。

 各種リソースの飽和状態は、上記の問題以外に、構造的な問題も同空港にもたらしている。

 一昨年上半期の北京首都国際空港のトランジット旅客の割合はわずか8.4%、国際旅客の割合もわずか25%で世界36位、国際線の割合は20~25%だった。

 国際的なハブ空港と比べると、その差は歴然だ。ドバイ国際空港は2015年、年間総旅客数のべ7800万人で世界3位だったが、その内訳をみると、国際旅客が90%以上を占め、乗り継ぎ率も90%に達している。

 北京首都国際空港は中国国内の中小空港からの直行便が多く、これが国際線の発着枠を奪っている。こうした非主要路線やマイナー路線の運営は、効率という点からすれば、いいとは言えない。

「現在は、二・三線都市からの便が空港発着枠の28%前後を占めている。それらの便を天津空港と石家荘空港に振り分け、北京首都国際空港の国際線の発着枠を大幅に拡大できれば、同空港を国際ハブ空港に育てていくことができる」(馮局長)

 拡大し続ける空港のキャパシティと航空輸送ニーズのギャップ。北京首都国際空港の負担緩和は待ったなし、北京新空港の建設も焦眉の急なのだ。

一空港を「発展の新たな動力源」に位置づけた理由とは?

 中国の民間航空業は、30年以上にわたり2桁の成長スピードを保ってきた。直近5年の民間航空輸送取扱総量、旅客輸送量、貨物・郵便輸送量の年平均増加率はそれぞれ12.2%、11.4%、5.5%で、ゼネラル・アビエーション業務量も年平均9.3%で成長している。

 昨年の世界の民間航空の成長に対する中国の貢献率は25%以上、アジア・太平洋地域の民間航空の成長に対する貢献率は55%を超えている。中国の航空業は世界との結びつきをますます強めており、航空権の開放においても、目下、123の国および地域と航空輸送協定を結び、59カ国134社の航空会社が、国外135都市から中国の51都市に定期便7544便を毎週就航させている。

「中国経済の成長スピードが減速してからも、民間航空業の発展は少しも衰えていない。一昨年の民間航空総輸送量はプラス12.5%、昨年も13%近く増加した」(中国民間航空科学技術研究院民間航空発展計画研究院の胡華清(フー・ホワチン)副院長)

 だが、極度に混雑した空域や、粗雑な拡張といったネックは依然解消されていない。

 現在、中国の民間航空輸送における取扱総量や輸送用航空機の数はアメリカの半分以下、輸送機発着空港の数は約3分の1、従事者数に至ってはわずか4分の1だ。世界の航空会社上位10社のうち、アメリカは5社を占めるが、中国はわずか2社。世界の旅客輸送空港上位10社では、アメリカが4社を占めているのに対し、中国大陸からは1社が入っているのみだ。

「規模の面でも実力の面でも、世界の民間航空強国にはまだほど遠い。民間航空の国際ルールや基準づくりにおける主導権・発言権、なにより、世界の民間航空業の発展をリードするイノベーション力という点で、世界のトップグループとはかなりの差がある」(馮局長)

 そんななか、昨年2月23日に北京新空港の建設現場を視察した習近平国家主席による「北京新空港は、国家発展の新たな動力源」との発言が、民間航空業界全体に大きな反響を巻き起こした。「一空港を『国家発展の動力源』と位置づけたことは過去にはない」。北京新空港建設指揮部の姚亜波(ヤオ・ヤーボー)総指揮はそう語る。

「国は当初、民間航空業をインフラ産業と位置づけていたが、2012年に国務院が『民間航空業の発展促進に関する意見』を公布したことで、国の戦略産業に位置づけられた」。胡副院長によれば、戦略産業とは、「国の社会・経済をリードする産業」のことだ。今回、新空港が「動力源」に引き上げられたことは、国民経済における民間航空業の役割が拡大し、「産業全体のレベルアップや構造最適化においても役割を果たす」ようになることを意味する。

 中国民航大学臨空経済研究所の曹允春(ツァオ・ユンチュン)所長は習主席の発言について、「新空港を世界的ハブ空港に育て上げることで『一帯一路』実現を戦略的にサポートし、中国をグローバルな発展の主力に押し上げていくことを意味している」とみる。

 姚氏は「北京新空港がその存在意義を十分に発揮するのは開港から5~10年後」と指摘、特に国際的な航空アライアンス戦略や市場戦略などを通じて影響力を発揮し、世界の民間航空業界の発展を加速させるだろうと予測している。

3地点・4空港の協調発展へ向けた課題解消が先決

「北京新空港が国家発展の『新たな動力源』に格上げされたのは、空港建設地の特殊性や与えられた使命にも関係している」と曹所長は考えている。

 新空港の位置は、北京市大興区楡垡鎮および礼賢鎮、そして河北省廊坊市広陽区にまたがっている。天安門までは直線距離にして46㎞、廊坊市中心までは26㎞。さらに、天津市街地までは80㎞、雄安新区までは約60㎞と、京津雄(北京市・天津市・雄安新区)を結ぶ三角形の中心に位置している。

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図2:新空港内部のイメージ図。画像/取材先提供

「新空港は将来的に地域の総合交通の要となる。京津冀には軌道交通のハブも必要だが、新空港がそのポジションを担うことは疑いない。北京首都国際空港、天津空港、石家荘空港のいずれも、この役割は果たせていなかった」。京津冀空港群という括りは以前からあったが、実質性を欠いていた。だが、新空港の開港後は、各種交通が京津冀間のアクセスを良好にし、空港群と都市群の発展を支えていく、と曹所長は分析する。

「新空港は、中国にも世界にも大きな影響を及ぼす」と胡副院長は言う。北京新空港に加え、2020年には成都新空港も開港する。航空輸送市場全体に重大な変革がもたらされるのは必至だ。「2019年は民間航空の変革元年になるだろう」

 だが、新空港開港後に「サイフォンの原理」が強く働き、天津空港と石家荘空港の旅客が吸い取られるのではないか、との懸念の声は絶えない。

 京津冀3空港にはこれまでも、「北京ぎゅうぎゅう、天津・石家荘はガラガラ」という利用者数の不均衡が存在していた。

 だが、この問題は近年、徐々に解決に向かっている。昨年12月、国家発展改革委員会と民用航空局は「京津冀民間航空の協同発展推進実施に関する意見」を発行、「3地点・4空港の分業協力」の基本方針を掲げた。首都国際空港と新空港を国際競争力のある「ダブルハブ」空港に位置づけ、それ以外の機能は徐々に周辺空港に移し、両空港からあぶれた便を天津・石家荘の両空港が受け入れる形だ。天津空港は、国内乗り継ぎ便や周辺国への観光便といった特定路線を重点に中長距離の国際線を適度に発展させ、同時に航空貨物輸送・物流・中継機能を強化、貨物輸送便の増発を図る。一方、石家荘空港は、周辺地域からの集客や輸送機能を重点的に強化するとともに、LCC、貨物専用機、エクスプレス便といった特定市場に力を入れていく。

 3地点の協力体制は、管理面でも進展が見られる。2015年には首都国際空港を中心に置き、天津空港と石家荘空港がこれを支える「3地点の空港協同運営および連合管理モデル」が誕生している。

 姚氏によると、運営の統一管理が実現した後、「天津空港、石家荘空港の旅客数増加スピードは首都国際空港を大きく上回り、天津空港は北京への新しい『空の道』に、石家荘空港は京津冀地域への新しい『旅の入り口』になりつつある。航空市場構造は明らかに改善の方向に進んでいる」と語る。

 航空管制面での協力も重要だ。空域の混雑は中国の民間航空業全体を悩ます大問題となっているが、空域問題はきわめて複雑で、軍民の協調が欠かせない。地上をどれだけ整備して滑走路を作ろうが、離着陸ルートが限られているかぎり、便数は増やせないからだ。

 たとえば、北京首都国際空港には滑走路が3本あり、国内外200以上の飛行ルートに連結しているが、離着陸ルートは11のみ。上海浦東国際空港と虹橋空港に至っては八つの離着陸ルートを共用している。空域の混雑は多数の大型ハブ空港の足かせとなっており、それゆえ生じる運航遅延は中小空港よりもはるかに深刻だ。

 民間航空業はこれまで2桁増の成長スピードを保ってきた。しかしこの間、民用空域の増加率はわずか2%で、その差は拡大する一方だ。民間航空業界は空域管理体制の改革を呼びかけ、より多くの空域の民間への配分を求めている。

 空域の混雑を解決する方法は二つ、新たに増やすか、最適化するかだ。大幅な空域の増加が望めないという前提に立つなら、既存の空域でなんとかするしかない。北京新空港開港後の空域・管制問題については、現在調整が進められている。

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図3:建設中の北京新空港のエアターミナル内部。撮影/『中国新聞週刊』記者 董潔旭

 新空港完成後の各空港の役割分担については、取材した専門家たちから懸念の声は聞かれなかった。天津空港も石家荘空港も、旅客数が増加しているからだ。「この先、3地点・4空港の位置づけが明確に差別化されれば、競合状況は効果的に抑制されるだろう」(曹所長)

「新空港は北京だけの空港でなく、京津冀エリアの共用空港。新空港誕生により、同地域の協同発展理念にも大きな転換がもたらされるはず」。これが専門家らの一致した見解だ。

その2へつづく)


※本稿は『月刊中国ニュース』2018年6月号(Vol.76)より転載したものである。