中国キャリアロケット技術の発展(その3)
2018年7月27日
魯 宇: 中国運載火箭研究院研究員
中国運載火箭(キャリアロケット)技術研究院科学技術委員会主任。
(その2よりつづき)
4.3 再利用可能キャリア
キャリアの繰り返しの利用は、廉価、スピーディー、機動的、高信頼などの特性を持ち、宇宙輸送システムの重要な発展方向であり、打ち上げコスト引き下げの重要な手段でもある。中国内外の発展状況の分析を通じ、中国のキャリア繰り返し使用の技術研究の現状と技術の土台を考慮し、米国がキャリアの繰り返し利用の発展プロセスで単段での軌道入りの先端指標を過度に追求して何度も挫折したことを教訓として、中国のキャリア繰り返し利用発展の「スリーステップ」の発展の筋道を提起した。
第1ステップ:ロケット動力のブースターまたは第一段の再利用で工学的応用を実現する。この第1ステップに関しては、パラシュートを利用した回収や垂直発着技術など一部のキー技術の研究をすでに展開している。一部は実験での検証を終え、いくつかのキー技術ではブレークスルーを実現している。
第2ステップ:ロケットの動力を担う2段の完全な再利用が可能なキャリアで工学応用を実現する。
第3ステップ:複合動力2段完全再利用可能キャリアで工学応用能力を備える。
4.4 スマート技術の応用
60年余りの進化を経て、特にモバイルインターネットやビッグデータ、スーパーコンピューティング、脳科学などの新たな理論や技術の駆動を受け、人工知能の発展は新たな段階に入り、ディープラーニングやジャンルを超えた融合、人間とマシンの協同、集合知の開放、自律操作などの新たな特徴を示している[6]。将来は、人工知能もキャリアロケットの属性の一つとなり、設計から製造、飛行、進化、管理まで全ライフサイクルの各段階をカバーするものになるとみられる。
4.4.1 スマート設計・検証
キャリアロケットの設計は典型的なシステム工学であり、さまざまな学科や専攻にかかわり、パラメーターモデルは複雑で、系統間のデータのやりとりが多く、開発のプロセスは長期にわたる。中国のキャリアロケットは現在、数理モデルの専門的設計方法と、ドキュメントのインターフェースを通じた伝送方法、総体プランの最適化とサブシステムの独立設計、製品の統合とテストからなる「総-分-総」の開発プロセスを取っているが、新型機の開発と精密化設計のニーズに適応できなくなっている。モデル上では、次世代キャリアロケットは、新たなブースト技術を採用した後、姿勢制御の方程式を再び導き出すのに2年を費やした。インターフェース伝送では、ドキュメント伝送の反復過程が長いことから、各系統は標準動作に基づき大偏差の下で設計を展開しなければならず、設計裕度は大きい。開発プロセスでは、製品の統合試験は、総体プランの最適化の最終的な検証であり、有効な中間検証段階が欠けると、検証周期は極めて長くなる。
キャリアロケットスマート設計体系は、デジタル化開発プロセスをめぐって、仮想現実のスマートモデリング技術と結びつき、仮想サンプルマシンに基づき、統一データソースの下のシステム設計と「仮想と現実を結合」した試験を展開する。数理モデルと仮想サンプルマシンの結合によって単一的な数理モデルを代替し、データ+モデル駆動によって設計ドキュメント駆動を代替し、「仮想と現実の結合」した試験によって実物の検証を代替する。製品のCAEモデルを土台とし、パラメーター駆動を通じて、製品の物理構造や電気性能などを統合した仮想サンプルマシンを構築し、総体とサブシステム、設備の性能のシミュレーションを完了し、新技術への適応能力を大幅に増強する。プラットフォーム統一データソースを共同開発し、反復の自動化と設計の精密化を実現し、設計効率と精密化水準を大幅に高める。仮想と現実が結合した試験手段を通じて、シミュレーションと検証を早期に展開し、「総-分-総」の「V字形」の開発プロセスを、いつでも検証し反復する「W字型」のプロセスへと変え、検証周期を短縮し、計画のリスクの繰り返しの可能性を引き下げ、設計効率を高める。
4.4.2 スマート構造とスマート製造
スマート構造は、センサーや駆動装置、マイクロプロセッサーなどの部品を統合し、記憶合金や機能複合材料などの特殊材料からなった構造であり、外部環境を感知して能動的に呼応する能力を備え、自己適応構造とも呼ばれる。スマート材料による感知や自己適応による変形や呼応の性能を利用し、ロケット上の構造の損傷検出や能動的な損傷抑制、自己診断、計器設備の能動的な振動・騒音軽減制御に用いることができる。またスマート構造をロケットの作動する機構へと用いられ、機械的な低衝撃分離または宇宙ランデブー・ドッキングと組み立てを実現するほか、再利用可能ロケットの回収プロセスでは、能動的な空力外観制御、再突入の気動と回収姿勢の制御を実現できる。
「中国製造2025」などの国家戦略に導かれ、スマート製造は、軍事工業製造業の発展の重要な方向となっている。生産設備のスマート化とネットワーク化、クラウドデータの採取、生産ラインの動的でスマートなスケジューリングなどの技術を採用し、スマート生産ラインとスマート工場を建設する[8]。インダストリー4.0の製造体系の下、デジタル化設計・製造のルートを切り開き、設計と製造の一体化を実現する。スマート製造の基礎的な環境と標準体系を構築し、スマート管理・制御システムを建設し、モデルに基づくスマート化仮想製造プラットフォームを構築し、スマート化技術設備を大量に採用し、宇宙関連製品の品質と製造能力を大幅に高める。
4.4.3 故障診断と再構成に基づくスマート飛行
国内のキャリアロケットの飛行プログラムは現在、キャリアロケットの各コンポーネントが正常に作動しているとの仮説に立っており、一部の飛行試験ではこの方法の深刻な不足が明らかになっている。キャリアロケットの自動飛行からスマート飛行への飛躍を実現する必要がある。
未来のキャリアロケットでは、スマート技術に基づいて故障診断と再構成を行うことが重要な発展方向となる。部分的な故障の下でのシステムの再構成と任務の再構成を通じて、スマート飛行を実現する。まず発生した故障に基づき、スマート技術を十分に採用し、システムのモデルの総合的な分類やクラスタリング、相関、孤立点の分析などのデータマイニングとモデリング分析によって故障の診断と定位を完了する。その後、ニューラルネットワークの自己適応制御方法などを用いて、システムの再構成を行い、ロケットの安定飛行を保証し、任務の再構成に土台を提供する。任務の再構成は、スマート飛行の主要な目標であり、ロケットのリアルタイムの情報と目標軌道の情報に基づき、目下の任務を正常に完了できるかを判断し、軌跡のオンラインでの生成を行うべきかを判断する。任務を完了できないものに対しては、任務目標をオンラインで引き下げる。例えばLTO軌道からLEO軌道へと目標を下げ、ペイロードは、より低い軌道上でその他の方式で軌道への投入を行うか、救援を待つ。任務の引き下げが不可能な場合は、再突入と自己破壊、残骸墜落エリア計画のプロセスに入る判断を行う。
4.4.4 平行スマート鏡像システム
キャリアロケットの地上と宇宙での平行スマート鏡像システムを構築し、ロケット上の故障診断とシステム再構成の協同作業を行う。飛行時間の短い任務に対しては、ロケット上での意思決定をメインとする。飛行時間の長い任務に対しては、地上とパラレルなスマート鏡像システムによる意思決定をメインとする。ロケットの飛行過程では、飛行遠隔測定データに基づき、リアルタイムの状態シミュレーションと地上での故障診断を行い、ロケット上でよりもはるかに高速な地上の計算能力を利用し、スマート技術増強の補強とし、故障情報のより深いマイニングを展開し、故障状況下で判断に補助を与え、地上の操作員の緊急の意志決定を支持し、システムの再構成と任務の再構成を行う。
飛行任務がない時には、鏡像システムのディープラーニングを展開し、システムのスマート水準を高めることができる。また鏡像システムを利用して人員の訓練を行い、設計師と測定・制御チームの能力を高めることもできる。鏡像システムを利用して多くの種類のプランを比較し、多くの種類の新技術を試用し、多くの種類の故障をリアルタイム・ランダムに注入し、プランと新技術のロバスト性を検証し、ロケットの課題について識別と持続的な改良を行い、精確な分析と有効な検証によってロケットのスマート化水準を高める。
4.4.5 スマート管理
中国の宇宙事業は60年の発展の歩みの中で、ドキュメントに基づく宇宙システムの工学開発と組織管理方法を一貫して貫いてきた。生産力の発展に伴い、このモデルの欠点もあらわになってきた。情報の完全性や一致性、情報間の関係の評価と確定が難しい、複雑な活動を記述しにくい、更新の影響分析の全面性が不足している、各プロセスの横向きと縦向きの階層が多く情報の即時性や精確性を保証しにくい、などが挙げられる。モデルに基づくシステム工学(MBSE)とスマート管理の研究を展開し、キャリアロケット開発中の「需要-機能-行為-構造」モデルを確立し、システム工学研究中の動的情報を有効に伝送し、システム設計の一体化を実現し、システム開発の再利用性を高め、開発プロセスの顕性的な記述と再現を増強し、全プロセスの情報伝送の一致性を確保し、高効率・スマート・協調・集約の特性を持つキャリアロケットの開発体系を打ち立て、中国キャリアロケットの全ライフサイクル・全要素のデジタル化スマート管理を実現する必要がある。
4.5 未来の国際協力構想
中国は将来、商業打ち上げや宇宙技術共同研究、国際打ち上げ協力、有人・宇宙ステーションなどの多くの分野で世界各国と協力を展開できる。まず中国宇宙輸送システムの合理的な配置と全面的なカバー、高い能力、高い適応性といった長所を引き続き生かし、全世界へと開放し、商業打ち上げサービスを提供する。中低軌道主流衛星打ち上げ任務は主にCZ-8で行われ、微小衛星の発射にはCZ-11が用いられ、高軌道打ち上げ任務はCZ-3Aシリーズロケットと次世代中型高軌道ロケット、CZ-5ロケットが担うことになる。ロケットと上段の結合は、より柔軟な軌道投入方式を提供する。「CZ-3B+上段」と「CZ-5+上段」のロケット打ち上げGEO任務運搬能力はそれぞれ1.8tと4.5tで、多軌道面の配置とコンステレーション、星群の打ち上げサービスを提供し、任務の適応性を高めた。主要衛星の打ち上げ任務と同時に、「宇宙のシェアカー」の役割を十分に発揮し、潜在的な搭載打ち上げサービスの能力と時期を定期的に公表・更新し、発展途上国または新興宇宙国に搭載打ち上げのプラットフォームを提供し、世界の宇宙事業の調和的発展を促した。
宇宙技術の共同研究も国際協力の重点の一つとなる。中国は、その他の宇宙大国と国際学術機構または共同実験室を設立し、全世界の優れた資源を結集して宇宙輸送システムの基礎技術研究を展開し、未来の発展に技術の堅固な土台を築き、革新の原動力を与えている。最近では、国際共同実験室をプラットフォームとして、新概念飛行器や再利用可能キャリア、先端複合材料の設計と試験など専門技術の分野で立ち入った協力を展開し、未来の微小型キャリアロケットの開発と打ち上げを支えている。同時に固定した技術交流プラットフォームを設立し、宇宙輸送システムの技術・管理・サービスなどにかかわる成果の展示や経験の交流を定期的に展開し、世界の宇宙輸送システム分野の健全で急速な発展を促している。
キャリアロケットの共同開発は、未来の中国のロケット開発の手段の一つとなる。例えば重量型キャリアロケットの開発では、中露協力の優位性を十分に利用し、低温エンジン開発や大型試験、大構造製造などの面で協力を展開できる。また各国・地域の資源の優位性を発揮し、ロケット上の製品と地上の設備について、世界からの調達と国外への拠点設立を行い、キャリアロケットの性能をさらに高め、コストを引き下げ、より競争力の高い運搬ツールを提供することができる。中国は4カ所の発射場で打ち上げを実施できるほか、国外でも発射場を借り、打ち上げの柔軟性を高めることができる。または赤道地区への国際共同発射場の建設や海上打ち上げプラットフォームの開発を共同で進めることも可能だ。
2022年前後には中国は恒久的な宇宙ステーションを完成する。国際宇宙ステーションが退役する中、中国の宇宙ステーションは、国際協力の主要なプラットフォームとなる条件を備えている。各国の宇宙飛行士と科学者は、地球と宇宙ステーションの間を往復し、規模の比較的大きな宇宙の応用を展開できる。長征ロケットは、ほかの国に有人打ち上げサービスを提供し、宇宙ステーションの建設に参加する能力を持つ。中国は、世界の宇宙研究機構や企業と宇宙旅行などの民用産業研究を協力展開し、宇宙技術の人びとの暮らしへの普及を促進することができる。
5 結語
ここ数年の開発とブレークスルーを通じて、中国の宇宙輸送システムは巨大な進歩を実現し、長征シリーズキャリアロケット、遠征シリーズ上段、再利用可能キャリアの3大製品体系と技術体系を形成し、各種ペイロードを予定の作動軌道に送る能力を備えた。さらに搭載打ち上げや商業衛星打ち上げ、軌道上引き渡しなどの国際協力を幅広く展開し、世界の宇宙技術の進歩を促進した。中国は今後、国際協力にさらに注力し、低コストや再現可能、人工知能などの面で発展を加速し、中国のキャリアロケットの世代交代やモデルチェンジの歩みを速め、中国の宇宙強国への仲間入りを加速する必要がある。
本稿は、中国キャリアロケット技術研究院の設立60周年(1957-2017)に捧げるものである。
(おわり)
参考文献:
[6] 国発[2017]35号. 国務院関于印発新一代人工智能発展規劃的通知[C/OL]. http://news.xinhuanet.com/tech/2017-07/21/c_1121355212.htm.
[7] 李洪. 智慧火箭発展路線思考[J]. 宇航総体技術,2017,1(1):1-7.
[8] 李傑,倪軍,王安正 . 従大数拠到智能製造[M]. 上海:上海交通大学出版社,2016.
※本稿は魯宇「中国運載火箭技術発展」(『宇航総体技術』2017年第1巻第3期、pp.1-8)を『宇航総体技術』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司