第142号
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技術特性とリスクの把握 航空宇宙製品開発のモデルと方法の改良(その1)

2018年7月31日

余 後満:中国空間技術研究院研究員

略歴

中国空間技術研究院副院長。航空宇宙システムの研究・生産総合管理、宇宙関連プロジェクト業務に従事。研究テーマは、システム工学とプロジェクト管理、宇宙機の品質と信頼性の管理、製品エンジニアリング。

概要:

航空宇宙製品の開発と運用の過程で発生する問題は主に、航空宇宙製品の技術特性に対する掌握が全面性を欠き、リスクに対する認識と制御が十分でないことを原因としている。航空宇宙製品の新技術特性、総合技術特性、動的特性、敏感特性などの技術特性、リスクの盲点や技術の交差点、特性の敏感点などのリスクを分析し、航空宇宙製品開発のモデルと方法に具体的な改良の提案を行う。これには多学科の製品開発チームの設立、航空宇宙製品の詳細な設計と評価審査の強化、故障モード影響解析(FMEA)とフォルトツリー解析/イベントツリー解析(FTA/ETA)の2種類の方法の総合運用の強化が含まれる。これらの研究成果は、基礎部分での設計の改善、鍵となる特性の把握、航空宇宙製品のリスクの有効なコントロールに、指導的な意義と参考価値を備えている。

[キーワード]:航空宇宙製品;技術特性;リスク管理

1 序言

 中国の宇宙重大プロジェクト任務の順調な実施、宇宙インフラ建設の歩みの推進加速、宇宙技術の急速な発展に伴い、航空宇宙製品の開発水準は急速に高まっている。ランデブー・ドッキングセンサー、月面着陸センサー、単相・二相流体ループ熱制御コンポーネント、着陸緩衝機構、コントロール・モーメント・ジャイロなど一連の複雑なハイテク製品の開発と応用の成功は、有人宇宙船と天宮実験室のランデブー・ドッキング、嫦娥三号の月着陸・探査などの重大航空宇宙任務の実施の成功に大きく貢献した。

 中国はここ数年、航空宇宙製品の開発モデルや開発プロセス、製品保証技術などの方面で多くの有益な模索を行った。これには航空宇宙製品シリーズの構築、航空宇宙製品の設計チームと生産チームの分離、航空宇宙製品の成熟度の評価と向上、航空宇宙製品の開発試験の強化、航空宇宙製品の信頼性・安全性関連業務の改善などが含まれる。こうした模索を通じて、多くの良好な経験と方法を総括・形成し、宇宙事業の発展を大いに推進した[1-3]。だが宇宙事業の急速な発展に伴い、とりわけここ数年の宇宙機の高強度の開発と高密度の打ち上げ任務実施を通じて、航空宇宙製品開発におけるいくつかの問題と不足が明らかになった。主に次のいくつかの課題が挙げられる。

(1)単機製品の品質問題の発見が遅い。AIT(組み立て、統合、テスト)段階と軌道上での飛行の過程で明らかになる問題は主に単機の設計問題であり、単機の開発段階での取り組みが十分でなく、設計と設計検証に不足があることがわかる。

(2)複雑な製品の開発と生産の際に重複が出現し、宇宙機の開発の順調な展開にマイナス影響を及ぼし、宇宙機打ち上げ計画を大幅に調整しなければならないこともある。これは開発過程の一部の鍵となる作業が適切に行われていないことを示す。

(3)鍵となる部分やリスクをはらむ部分についてなかなか安心することができないため、品質検査が日常的に繰り返し行われている。技術特性に対する研究が不足し、科学的な手順と方法を欠き、鍵となる技術の特性の完全な理解を確保できず、技術リスクの十分な認識と有効な制御が難しい。

 このため航空宇宙製品技術の特性とリスクの研究を深め、開発過程に存在する不足にターゲットを絞り、航空宇宙製品の開発モデルと開発プロセスを改善し、開発方法を改良し、宇宙機開発の能力と水準を高める必要がある。

2 航空宇宙製品技術の特性の分析

 航空宇宙製品のリスクの高さは主に、技術リスクの高さを意味する。航空宇宙製品開発の計画リスク、コストリスク、管理リスクなどは主に、高い技術リスクによって引き起こされる。航空宇宙製品開発の核心は、技術リスクの識別と制御であり、技術リスクは技術の特性によって决まる。航空宇宙製品の高い技術リスクと関係する技術特性としては主に次のいくつかが挙げられる。

1)新技術特性

 ハイテクが集中的に応用された航空宇宙製品は、新技術の発展成果が表れたものと言える。航空宇宙技術は急速な発展を遂げており、製品は目まぐるしく世代交代している。航空宇宙製品においては機能性の先進性が重要となるだけでなく、信頼性や安全性が高く、体積や質量が小さく、エネルギー消費が低いことも求められる。これらは先端技術の発展と応用にさらに高い要求をつきつける。開発プロセスが科学性や合理性を欠けば、新技術の応用過程で、技術特性の把握の不足や新たな故障モードの識別の不十分、潜在リスクの有効な把握の失敗によって開発リスクが生じる可能性がある。

2)総合技術特性

 複雑な航空宇宙製品は一般的に、複数の学科や複数の専攻の技術成果の結晶と言え、学科間は高度に融合し、技術特性の関連度も高い。そのため局部の微細な問題や異常が製品全体の機能の減衰や故障につながり得る。開発チームの組織モデルと製品開発方式が十分な考慮を欠けば、設計者チームの一部の専門知識の欠如や関連専攻の基本的な技術特性への認識不足により、製品に低レベルの技術問題が発生する可能性がある。

3)動的特性

 航空宇宙製品の中には多くの機構製品がある。船体間のドッキング機構、ソーラーパネル駆動機構、アンテナ展開機構、モーメンタムホイール、コントロール・モーメント・ジャイロ、冷却装置、ペイロード駆動機構などが挙げられる。これらの機構製品の動的特性と宇宙機の飛行過程で鍵となる動作は、飛行任務の成功にとって極めて重要となる。動的特性に対する研究や分析が足りず、地上での検証試験条件が実際と異なり、試験の手順と方法の考慮が不十分で、リスクの識別と制御が適切に行われないと、品質問題の発生を招くことにもなる。

4)敏感特性

 一部の航空宇宙製品は生産過程に対して敏感である。例えば剰余物は、推進系統や熱制御流体ループのコンポーネントの詰まりを招き、機械製品の停止や電子製品のショートを引き起こしやすい。静電気は静電センサーの損傷を招きやすい。一部の材料とコンポーネントは宇宙環境に対して敏感である。例えば、一部のコンポーネントは単粒子に対して敏感であり、一部の材料は、静電気の蓄積を招きやすい。製品開発の過程では、これらの敏感特性を十分に考慮し、関連するリスクを有効に制御しなければならない。

5)離散特性

 材料の不一致性やコンポーネントの個体差、工法プロセスの不確定性、加工パラメーターの離散分布などはいずれも、製品の生産品質の不安定、製品間の状態の不一致、飛行製品の状態と鑑定製品の状態の差異をもたらし得る。一部の製品は、地上検証または鑑定試験を順調に通っても、飛行任務の成功を毎回確保することはできない。

6)時効特性

 一部の材料(主に非金属材料)は物理的応力や熱応力の作用の下でクリープを起こし、宇宙環境の作用の下で劣化する。一部の材料は、真空環境で凝結性ガスを放出し、その材料の使われた製品そのもの(二相流体ループコンポーネントなど)または付近に設置された製品(低気圧に対して比較的敏感で低気圧放電をもたらす可能性のあるマイクロ波デバイス汚染に対して比較的敏感な光学製品)の機能に対して不良な影響または破壊をもたらし得る。一部の工法は化学反応(スズによる金の腐食など)または応力の作用により、稼働状態が時間の推移に伴って変化する。上述の時効特性により、製品の軌道上での稼働状態は鑑定状態や正常な稼働状態から徐々に逸脱し、軌道上での故障をもたらす。

3 航空宇宙製品の主要リスクの分析

 航空宇宙製品のリスク特性に基づき、航空宇宙製品のリスクは主に以下のいくつかの面に表れる。

1)リスクの盲点

 新技術の課題攻略の不十分、新技術の特性の把握不足、製品の故障モードの認識の不十分、潜在リスクの考慮不足は、技術の盲点やリスクの盲点を容易に生み出す。このほか一部の航空宇宙製品は設計段階ではリスクの特性とリスクを十分に考慮しながら、予測や検査のできない部分が存在しており、製品の生産過程での制御が適切でなく、関連する特性の制御が十分でなく、後続の検証段階での検出も難しいと、リスク制御の盲点を容易に生み出す。

2)技術の交差点

 学科をまたぎ複数の専門にかかわる技術製品においては、専門技術の特性は往々にして関連し、複合的なものである。このため技術リスクは通常、互いに結合され影響するものとなる。一部の製品は、新技術を用いると同時に、飛行検証を経ていない新材料や新工法も用いており、複数の技術リスクが併存し、開発リスクは大幅に高まることになる。一部の製品は、新製品であると同時に、鍵となる項目にも属し、重要な単一点が存在し、関連する特性はプロセスにおいて検出と保証が難しく、リスク制御の難度は顕著に増大する。

3)敏感ポイント

 生産製造過程と生産環境に対して敏感な材料や工法、コンポーネントに、工学的にばらつきの大きな工法段階、工法特性の制御の難しい弱い段階、剰余物や静電などの生産要素に対して敏感なコンポーネントや部品にとりわけ注目する必要がある。同時に軌道上の運行宇宙環境に対して敏感な材料や工法・コンポーネント、宇宙機誘導環境(微振動、雑光、凝縮性剰余物など)に敏感なコンポーネントと部品にも注目しなければならない。

4)性能臨界点

 性能臨界点は主に、製品設計のパラメーターの臨界として表れる。設計の裕度の不足や環境適応性の考慮の不十分、入力負荷とインターフェースの適応性への考慮の不足によって、製品機能性能が全ライフサイクルにわたって安定的な作動状態を保つことはできなくなる。設計過程では、各種の環境や各種の作動モデル、各種の負荷の条件下での製品の機能特性の変化の傾向と変化の法則の研究が不足しており、特性曲線が不安定な作動区間を回避していないことから、製品が常に安定的な作動状態を保つことができなくなる。

5)任務の単一点

 無人宇宙機の軌道上のハードウエア製品はメンテナンスが不可能で単一点段階、とりわけ任務の重要な機能の完成に重大な影響をもたらす単一点段階が存在する。これは製品設計にあたって特に注意し、重点的に制御しなければならないリスク段階となる。このほか冗長設計の際にも、冗長の有効性を深く分析し、冗長設計の欠陥によって引き起こされる偽の冗長(実際には単一点)を防止する必要がある。同時に、共通の要因による故障、とりわけ生産過程と軌道上の環境に敏感な冗長設計の段階に注意し、ヘテロジニアス設計を考慮し、できるだけ異なる原理と方法によって製品の機能冗長を実現する必要がある。

6)機能のデッドポイント

 機構製品にとっての機能のデッドポイントには主に、フックポイントや応力集中ポイントがある。電気機械製品のデッドポイントには主に、フリーズポイントやショート・断路ポイントがある。電気機械製品は、安全隙間の考慮不足から、運用の過程でショートが発生する可能性がある。同時に長時間の作動による部品の摩損や絶縁層の破壊は、給配電のショートまたは断路、電気的機能の喪失などをもたらす。電子製品には、電子回路の安全性設計の考慮の不足などから、潜在的ショートポイントなどが存在する。

その2へつづく)

参考文献

[1]徐福祥.衛星工程[M].北京:中国宇航出版社,2002:257-260
Xu Fuxiang.Satellite engineering[M].Beijing:China Astronautics Press,2002:257-260(in Chinese)

[2]袁家軍.航天産品工程[M].北京:中国宇航出版社,2011:1-17
Yuan Jiajun.Space product engineering[M].Beijing:China Astronautics Press,2011:1-17(in Chinese)

[3]譚維熾,胡金剛.航天器系統工程[M].北京:中国科学技術出版社,2009:482-488
Tan Weichi,Hu Jingang.Spacecraft systems engineering[M].Beijing:China Science and Technology Press,2009:482-488(in Chinese)

※本稿は余後満「把握技術特性和風険点 改進宇航産品研制模式和方法」(『航天器工程』2017年第26巻第2期、pp.1-6)を『航天器工程』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司