消防ロボット研究の現状および展望
2018年8月29日 倪銀堂、呂迪洋、王振豪(南京工程学院)
はじめに
火災の消火と被災者の救助は現在の消防分野における難題となっている。先進的な消防技術や自動化技術の発展に伴って消防ロボットが誕生し、移動ロボットシャーシや先進的な消防設備の搭載によって消防隊員の代替、または消防隊員との協調によって消防・救助活動が実施されている。消防ロボットの登場は、消防作業のスムーズな実施にとってプラスであり、消火活動や被災者救助の効率を高めることができる。
1 消防ロボットの種類およびその発展
1.1 消防ロボットの種類
消防ロボットの種類は多様であり、危険な火災の消火や被災者の救助、破壊救助活動等の任務において、消防分野の重要設備として消防隊員を支援することができる。消防ロボットの種類に関しては、機能基準の面からは破壊ロボット、消火ロボットや救助ロボット等に分類され、制御方式の面からはドライブ・バイ・ワイヤ(drive-by-wire)システム、無線制御および適応制御ロボットに、感覚機能の面からはサーマルロボット、視覚ロボット、嗅覚ロボット等に、知能面からはプログラムロボットおよびスマートロボット等に分類できる。消防ロボットは、種類によってその役割や応用場面が異なる。
1.2 消防ロボットの発展
消防ロボットは海外で早期に発展し、さまざまな種類の消防ロボットが実際の消防・救助活動で重要な役割を発揮している。先進技術を有する国々は消防・救助活動で主に遠隔操作ロボットを使用し、捜索隊員の代わりに現場に入って消火・捜索・救助・調査等の任務を行い、各種センサ設備やビデオカメラを搭載して未知の環境を探査し、救助隊員の分析のために情報を伝達する。自律救助ロボットという難題に取り組むラボや企業も一部には存在することから、救助活動においてロボットによる自律的活動が実現する可能性がある。他方、中国の消防ロボット関連研究は1970年代に始まり、技術進歩に伴って消防ロボットの発展も後押しされ、いくつかの重要な段階を経た結果、消防ロボットの種類も今や多様化を見せている。たとえば、多機能型消火・階段昇降ロボットによってロボットによる階段昇降という目標が実現したことで、消防・救助活動に大きな支援効果がもたらされた。また、一部の大出力消防装置と消防ロボットの融合によって、動力エネルギーが大幅に改良された。
2 消防ロボットの応用範囲および課題
2.1 消防ロボットの消防活動における応用範囲
消防ロボットが消防活動で応用されれば、スマート技術の支援を受けてデータ収集や分析機能を充分に発揮できるため、救助活動のスムーズな実施の助けとなる。その応用範囲は以下のとおりである。
(1) 石油化学工業等の現場における消防・救助活動においては良好な救助効果を上げる助けとなる上に、救助隊の安全を保障できる。たとえば、2015年8月12日23:30ごろに天津市濱海新区にある天津港の瑞海公司危険品倉庫で火災・爆発が発生した事故では、火災発生現場が危険区域にあったため火災のリスクも大きく、爆発が発生すれば消防隊員の現場入りも難しくなるため、消防ロボットが使用された。その結果、救助効率の向上に効果が見られ、消防隊員のリスクも低減できた。
(2)高層建築における応用。現在、中国では高層建築が増え続けていることから、火災発生の確率も高まっている。高層建築の火災・救助活動は難しい上に危険性も高い。このため、高層建築火災において消防ロボットを使用すればリスクを低減できる。また、高層建築火災は蔓延のスピードも速いため、消防ロボットの設計プロセスにおいて高層建築の特徴を考慮して階段の昇降が可能な救助ロボットを設計すれば、高層建築内の火災状況を救助担当者が分析し、救助プランの最適化に有利な情報提供を保障し、負傷・死亡を極力低減することができる。よく見られる階段昇降ロボットの階段昇降イメージは図1のとおり。
(3)地下鉄トンネルおよび地下建築における応用。地下建築および地下鉄トンネルは閉鎖的空間であり、火災発生時には温度上昇が急速な上に煙の濃度も急激に上がり、救助隊員の安全に対する大きな脅威となっている。消防ロボットの使用によって、実際の救助活動に効果的な支援を提供し、負傷・死亡を極力減らすことができる。
図1 よく見られる階段昇降ロボットの階段昇降イメージ
2.2 消防ロボットの課題
他方、消防ロボットには実際の応用プロセスにおいて、多くの課題もある。消防ロボットの機械構造設計が充分に合理化されておらず、移動が不便で火災現場への進入に時間がかかるとその長所が発揮される上で足かせとなる。また、センサ等のロボット作動モジュールの精度や可用性が低いと、実際の消防・救助活動において通信が中断されやすく、活動の進行に影響を及ぼす。たとえば、火炎や距離の検知、人とモジュールの相互干渉による誤判断等がある。また、消防ロボットは実際の応用モデルの面では整備が十分でなく、人と機械のマッピングの側面で発展が遅れていることも、消防ロボットの役割の発揮や普及に一定の影響を与えている。
3 救助・消火ロボット
ロボットによる協調作業はロボット分野における研究テーマの一つであり、システムという視点から群ロボット(Swarm Robot)のさまざまな組織化形式や情報交換、協調行動や進化モデル等を研究し、さまざまな機能のロボットに明確に分業化させ、通信と協調動作によって複雑な任務を全うさせる必要がある。環境センシングや情報交換、ロボットの相対的姿勢検出および位置検出技術、複数のロボットによる協調計画のいずれについても、システム設計の際に考慮しなければならない。
消火・救助ロボットシステムにはさらに高い機能が必要とされており、システムには図2のとおり上位マシン、消火ロボット、救助ロボット、壁体センサユニット、マルチコプター等の動作ユニットが含まれる。壁体センサユニットにおいて可燃性ガスや火炎が検出され、上位マシンに対して異常地点の位置や被災者の有無等の状況が送信されると警報が発信される。その後、消火ロボットによって指定地点へのルートが計画されると消火活動への出動が開始し、水源補充ポイントもあらかじめ設定される。そして、火勢が上限値に達すると救助ロボットが出動して被災者の捜索を行う。これと同時に、上位マシンは火勢状況に基づいてマルチコプターにGPS航路を設定して飛行計画を立てる。マルチコプターでは、搭載されているスマートカメラやサーマルカメラから火災情報を獲得して上位マシンに伝送できる。さらに、システムは救助隊の現場到着後も捜査担当者によって制御されるため、救助隊・システム間の情報交換を行い、無線伝送モジュールを通じて画像送信を行い、搭載設備を通じて救助支援を行うことができる。このように、技術の発展や成熟に伴って消防ロボットの生物歩行技術や透視技術、情報交換技術等の設計目標がすべて実現されれば、実際の消防救援作業においてさらに効果的な応用が可能となる。
図2 救助・消火ロボットシステムの構造
4 結びに
消防ロボットの応用に当たってはその実際の機能や役割を十分に重視し、消防ロボットの長所と課題、応用範囲等を把握することによって初めて、消防ロボットの役割が充分に発揮される。
※本稿は倪銀堂、呂迪洋、王振豪「消防機器人的研究現状綜述与展望」(『自動化応用』2017年第2期、pp.28-29)を『『自動化応用』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司
主要参考文献:
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