スマートシティを背景とする都市ガバナンスの革新・発展モデルの研究(その1)
2018年9月12日
摘要:
都市の情報化は次世代情報通信技術の後押しを受けて、デジタルシティ、インテリジェントシティに続き、今度はスマートシティという高度な発展段階に突入した。スマートシティを背景とするスマートガバナンスの発展は、従来型の突貫式あるいは運動式(注:政府や国家など政治的な権力を持つ主体が、社会の安定や秩序を保つために各階級・集団・社会などの構成員を動員し、突発的事件や重大な社会問題などの対処に当たるという、大規模かつ組織的な管理方法)の都市管理を、様々な主体が参加する、標準化・常態化された都市ガバナンスへと転換させた。ス マートシティを背景とする都市ガバナンスの革新モデルは、都市の公共情報プラットフォームを基盤とし、複数の部門が連携して管理し、社会大衆が幅広く参加し、閉ループの標準化されたプロセスを持つ、科学的・効率的で精確な都市管理モデルであり、近代的な都市ガバナンス構造の形成と発展を推進している。
キーワード:スマートシティ; 都市管理; 都市ガバナンス
ここ数年、モノのインターネット(IoT)、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、モバイルインターネットといった次世代情報通信技術が大きく発展し、幅広く応用されるようになった。これを背景としてスマートシティが建設され、発展しつつあり、中国の新型都市ガバナンスモデルの形成と発展を推進する一方で、政府の都市に対するガバナンスにも革新・発 展という新たな要求が突きつけられるようになった。本稿では、スマートシティの発展と都市ガバナンスの関係を分析したうえで、スマートシティを背景とする都市ガバナンスの革新・発展モデルについて研究し、中国の都市ガバナンスの革新的な実践に向けて理論的な参考となる情報を提供したい。
1 スマートシティおよび都市ガバナンスの要素分析
1. 1 スマートシティの要素および特徴
技術面から見ると、スマートシティとは、デジタルシティ、インテリジェントシティに続いて出現した、次世代情報通信技術を基盤とする都市情報化の高度な発展段階である。デジタルシティとは、主に情報技術を駆使して物理的世界と対応する仮想ネットワーク世界を構築し、その都市の存在および現状をスピーディーかつ網羅的・視覚的に人々に伝える、というものである。イ ンテリジェントシティはデジタルシティを基礎とし、統一的で開放的な情報プラットフォームを構築することで、様々な情報システムをリンクさせ、各情報システムの互換と相互運用を実現し、都市の各分野のインテリジェント化に対応する、というものである。デジタルシティ、インテリジェントシティと比べると、スマートシティは、(1)より徹底的な感知(2)より深いレベルでの統合(3)よ り幅広い相互接続(4)より全面的な革新的応用――という4つの点で「高度」であると言える(具体的な内容は表1を参照のこと)。これらの要素は互いに密接につながり合い、徐々に発展している。スマートシティの中では、物質と実体からなる物理的世界と、情報技術によって構築された仮想世界が互いに独立・分離しているという現状が、次世代情報通信技術によって打破されるため、都市内の人と物、物と物、人 と人の相互接続が実現する。こうした個人、組織、政府間の統合と共有、開放と連携、革新的な運営が、スマートシティの基本的特徴である [1] 。
主な特徴 | 主な要素 |
徹底的な感知 | 物理的世界に対する感知を実現。すなわち、モノのインターネット(IoT)などの情報技術を駆使して都市の物理的空間を全面的・包括的・徹底的に感知する。 |
深いレベルでの統合 | モノのインターネット(IoT)、インターネット、衛星センサーネット、通信ネットワーク、ラジオ・テレビネットワークなど複数のネットワークプラットフォーム上のマルチソース異種データを深いレベルで統合する。 |
相互接続 | 統一的かつ開放的な公共情報プラットフォームを構築することで、都市の各分野の様々な設備、組織および、情報システムの中に分散した情報とデータを共有・統合し、個人、組織、政府間の連結と提携を実現する。 |
革新的応用 | 高速、ユビキタスで融合的な情報ネットワークにより、個人、組織、政府間のより多様な結びつきと協力を実現。また、これを基礎に、様々な応用(スマートグリッド、スマート医療、スマート教育、スマートコミュニティ、スマート企業など)を形成し、経済、社会、文化の革新・発展を推進する。 |
1. 2 都市ガバナンス: 都市管理の延長と超越
「ガバナンス」という概念が都市の公共事務管理に用いられるようになったのは、1980年代である。この言葉は「都市管理」の延長でもあり、「都市管理」という単方向の概念を超越したものでもある。狭義の都市管理とは、都市の公共事務を管理することを指し、中国の行政実務においては通常、これを「城管(都市管理行政執法局の係員)による法執行」と同一視している。すなわち、城管局(都市管理行政執法局)や、市 容(都市外観)管理局といった政府部門が、行政処分権や強制権などを行使する末端の行政管理活動のことである。これに対して広義の都市管理は、都市計画、都市建設、都市管理・法執行などの活動を含み、政 府が都市インフラの維持、公共の場の秩序、公共サービスの効果的な供給を保障するために行う一連の管理・サービス活動を指す [2] 。都市ガバナンスは都市におけるガバナンス理論の運用であり、その基本的な内容は広義の都市管理と対応している。その基本原則は、都市計画と管理に関する討論、協議および意思決定と実施に利害関係者が参加し[3] 、制度化された設計と手配を通じて、政府(政府部門と非政府部門)が効果的かつ正確に都市問題に対処するための能力を創り上げることである[4] 。都市管理と比べ、都市ガバナンスでは、都市の公共事務の処理において複数の主体が共同で管理するという点をより強調している。政府はもはや唯一の権力の中心ではなくなり、政 府が集団に関わる公共事務を処理するためにはその他の社会組織との提携・協力が必要となる。つまり、政府と各民間部門、ボランティア団体などの関連各方面が自主的なネットワークを構築し、その他の参加者は特定の分野内で政府と協力して行政責任を分担し、政府と大衆、公共部門と民間部門の相互作用の中で、より一層効率的、公平かつ適切に都市の公共製品を供给し、公共問題を解決していくのである。
2 スマートシティを背景とする都市ガバナンスの発展方向と特徴
2. 1 都市ガバナンスの発展方向
次世代情報技術を駆使して、政府の制度革新、複数の主体による垣根を超えた協力および参加型ガバナンスを推進することが、都市ガバナンスの将来的な発展方向である。近年、経済社会の発展および技術変革の推進に伴い、都市の運営と発展には新たに複雑な問題や課題が出現した。例えば、利益配分と利益団体間の矛盾、市場の需要と供給の矛盾、経済の持続的な成長、資源・環 境の保護などである。これらの問題を解決するには、政府が制度の変革と革新を推進し、参加型ガバナンスを積極的に実施し、政府のガバナンス方式を革新することによって、問題と矛盾の適切な解決を促進する必要がある[5] 。趙強ら[6]は論文の中で、従来型の階層制・官僚制の政府モデルに頼っているだけでは、複雑かつ急速に変化する今の時代に出現した、組織の垣根を超えた取り組みが必要な新問題解決のニーズを満たすことはできないとし、政府はビッグデータ技術など次世代の情報技術によってデータ・情報を収集・分析し、組 織の垣根を超えた対応によってこれらパブリック・ガバナンスの難題を解決することができると指摘している。
新常態(ニューノーマル)下における中国の都市ガバナンスの難題により良く対応するため、スマートガバナンスがスマートシティを背景とする都市ガバナンスの核心的な内容となった[7]。スマートガバナンスは、スマートシティの特徴である、徹底的な感知、深いレベルでの統合、相互接続、革新的応用――に対応し、新たな情報技術によって実現する都市管理、教育、医療、公共安全、交通、公 共事業といった分野の重要インフラとサービスの相互接続、スマート化、効率化を基礎とし、以下の3つの面で政府のスマート化・モデルチェンジを実現する。1つ目は管理および業務面で、新たなスマート技術を導入することによって、都市管理のネットワーク化と運営方式のスマート化を実現する。例えば、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータ技術をベースとするスマート・ウォーター・ネ ットワークは、水資源を「精確にモニタリング、迅速に伝送、明確に表示、より良く管理」することを可能とし、水資源をより便利に、より柔軟に、より効率的にモニタリングすることができる。無線ネットワーク技術に基づくスマート交通システムは、リアルタイムの道路交通状況を提供し、スマートな交通誘導を行い、交通システムの効率を高め、車の流れを分散させ、人々の外出をより便利化することができる [8] 。2つ目は組織および意思決定面で、情報の収集、分析、マイニングを通じて、政府の意思決定プロセスを見直し、よりスマートな意思決定を実現する。ビッグデータに基づく意思決定のデータ化は、こ こ数年の政府の改革と革新の重要な内容と方向性になっている。政府は、データ公開を積極的に推進・模索し、データを効率的に生成し、科学的に統合し、先進的な統計方法によってビッグデータ分析を行う一方で、意思決定のデータ化という文化・技能・習慣を意思決定者に浸透させる必要がある。3つ目は運営モデル面で、新たな情報技術の広汎性、基礎性、浸透性を十分に活用することで、政府、企業、市 民など複数の主体の協力による都市のガバナンスを実現する。これらのうち、3つ目のモデルチェンジはスマートガバナンスの最高レベルであり、本稿が研究する都市ガバナンス革新の重点的な発展方向でもある。
2. 2 スマートシティを背景とする都市ガバナンス革新の主な特徴
スマートシティは革新的でプロスペクティブな管理により、各利害関係者間が効率的な行動をとれるようにし、市民に対して先進的で、ユーザー目線の、ユーザーと共に創造するサービスを提供している [9] 。同様に、スマートシティを背景とする都市ガバナンスも社会大衆が幅広く参加する革新的モデルであり、都市レベル、ビジネスレベル、組 織レベルという3つのレベルの公共情報プラットフォームを駆使している。スマートシティを背景とする都市ガバナンスは、以下の2つの特徴を持つ。(1)都 市管理を行う政府部門とその他の都市ガバナンスの主体間の相互接続と資源の共有を実現する。例えば、都市の緊急時対応は重要なプロジェクトであり、気象、環境保護、公安、城管(都市管理行政執法)、交通、品質の監督・管理、衛生、林業、商工業、海洋、水、電気、ガス、工業生産など多くの分野・部門に関わる問題だ。突発的事件は影響が大きく、適時性が高いため、事件発生時に同じ部門でも階層が違う、あるいは、部 門は違うが階層が同じといった状況で速やかに協調をとり、連携しなければならない。スマート緊急時対応システムは、複数の業界、階層および部門の垣根を超えた統一指揮センターを設置することで、各関連部門間の相互接続、情報共有、連携を実現し、突発的な事件が発生した場合に情報の即時伝達を可能にし、複数の関連部門の組織・協調を図り、資源や人員の配置を実現できる。(2)都 市管理部門と大衆が相互にコミュニケーションを図るネットワークプラットフォームを構築することで、一般市民の知恵を十分に募り、大衆の力を引き出し、共同建設・共同管理という社会ガバナンスの構造を実現する。例えば、米国のあるプログラマーはSeeClickFixというアプリケーションを発明した。このアプリは、街角で見つけた壁の落書きや壊れた信号、詰まった排水管、割 れたマンホールなどの問題がある場所をスマートフォンを使って撮影し、その写真をアップロード・通報することができる。市民から寄せられたこれらの苦情は公共事業部門に伝達され、速やかに問題を解決することができる [10] 。
( その2へつづく)
参考文献:
[1] 張小娟. 智慧城市系統的要素、結構及模型研究[D].広州: 華南理工大学博士学位論文,2015.
[2] 莫于川,雷振. 从城市管理走向城市治理: 《南京市城市治理条例》的理念輿制度創新[J].行政法学研究,2013(3) : 56-6 2.
[3] 王佃利. 城市治理体系及其分析維度[J].中国行政管理,2008(12) : 73-77.
[4] 張銜春,等. 内涵·模式·価値: 中西方城市治理研究回顧、対比輿展望[J].城市発展研究,2016(2) : 84-9 0+104.
[5] 許愛萍. 創新型城市政府治理的工具効応[J].中国科技論壇,2014(12) : 39-43.
[6] 趙強,単煒. 大数据政府創新: 基于数据流的公共価値創造[J].中国科技論壇,2014(12) : 23-27.
[7] 張丙宣,周濤. 智慧能否帯来治理: 対新常態下智慧城市建設熱的冷思考[J].武漢大学学報,2016(1) : 21-31.
[8] 劉暁雲. 基于智慧城市視角的智慧応急管理系統研究[J].中国科技論壇,2013(12) : 123-128.
[9] 呉標兵,林承亮. 智慧城市的開放式治理創新模式: 欧盟和韓国的実践及啓示[J].中国軟科学,2016(5) : 55-66.
[10] 徐継華. 智慧政府: 大数据治国時代的来臨[M].北京: 中信出版社,2014.
※本稿は張小娟,賈海薇,張振剛「智慧城市背景下城市治理的創新発展模式研究」(『中国科技論壇』2017年10期、pp.105-111)を『中国科技論壇』編集部の許可を得て日本語訳/転 載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司