都市の水害対策と雨水利用、新技術でサポート
2018年10月22日 孫玉松(科技日報記者)
「視覚中国」より
雨季が来るたびに、中国の都市ではまるで海が出現したかのような内水氾濫の景色が繰り返される。北京や上海、天津のような大都市も例外ではない。雨季が過ぎると、降 水の少ない北方の都市では今度は水不足が問題となる。都市は年々拡大し、ますます急速に発展している。都市が強い雨に見舞われた際、より余裕をもって対処できるようにし、雨 水に対する動的なコントロールとより良い利用を実現する方法はないだろうか。
北京市水科学技術研究院(以下「水科院」)による「都市地表面流出制御・面源汚染削減技術研究」と名付けられた国家「十二五」(第12次5カ年計画、2011-2015)水汚染防止・抑 制重大特別課題がこのほど検収を終え、推進と応用を開始した。同研究は、中国国内の多くの都市が直面する雨季の内水氾濫や冠水の頻発、深刻な流出水汚染という弱点に狙いを定め、都 市の内水氾濫の解決や雨水の最大利用の実現に新たな技術や希望をもたらすものとなった。
サンプル採取の「神器」、雨水測量の時間と手間を削減
「都市地表面流出制御・面源汚染削減技術」という聞き慣れないこの技術について、水科院副チーフエンジニアで課題責任者の張書函氏は、「われわれの研究は実際には総合的な応用システムと言える。コ ア技術の成果には、都市の降水過程と時空的特徴の定量的な表現方法、異なる地表空間の類型と調整措置の干渉下での降水流出の水量・水質定量計算方法など8つの技術が含まれる」と語る。8 つの技術はシステム全体を形成し、都市の雨水の動的コントロールと調整貯留の新たな武器となる。
記者は水科院で、張書函氏が最も大切にする「神器」、天然降水自動サンプラーと雨水流出知能サンプラーを見ることができた。天然降水自動サンプラーは食卓程度の大きさで、ステンレス鋼でできており、上 下両層に分かれている。上面の一層は、下に沈んだ大きな漏斗のような形をしており、これを取り巻くチューブによって第二層につながり、チューブの下側は多くの白色の容器に規則的に連結されている。チ ューブの末端は円形の貯水タンクとなっている。「一見すると何ということはないが、非常に高い機能を備えている」。張書函氏の話によると、これまでの雨水採取の多くは単一の容器で行われ、最 終降水量を採取後の計算で出しており、誤差は非常に大きい。天然降水サンプラーは、人工で設けた小さな川のように、雨水は漏斗に落ち、チューブに沿って流れ、貯水容器を一つ一つ満たしていき、余 った雨水は最終的に末端の水タンクに集められる。降水量を正確に計算できるだけでなく、貯水容器がいっぱいになる時間の長さを通じて、降水過程の異なる時間帯の雨勢の強弱と雨量をはっきりと記録・観察できる。こ れらのデータをモデルに導入すれば、降水の全過程を明瞭に分析・観察できる。
雨水流出知能サンプラー
天然降水自動サンプラー
天然降水自動サンプラーは、降水の全過程の観測・記録を初めて実現したが、雨水流出知能サンプラーも非常に強大な実力を持っている。このサンプラーは正確な測定ができるだけでなく、降 水地表面流出の自動観測記録を形成できる。降水の開始と終了の時間、流出流量、流速を測定できると同時に、流出した水の水質も自動で分析できる。荷台のようなこの装置は、台座部分が空洞になっており、枠 組みの上には3枚の太陽光パネルが整然と並べられ、装置の稼働に電源を提供する。台座上には長方形の計器キャビネットが置かれ、タイマー付きの天然降水水力駆動自動サンプラー、水質分析記録計、流 速測定装置などの設備が配備されている。計器設備はプローブを通じて外界とつながり、雨水が地表面流出を形成すると、プローブが情報を捕捉し、スピーディーなサンプリングと分析を行い、無 線通信系統を通じてただちに結果を伝送する。「これができてから、真夜中に大雨が降っても、人員が現場に赴いてサンプルを採取する必要がなくなり、時間と手間を節約できるようになった」。張書函氏によると、こ の発明品は、普段人が少ない川に配備できるだけでなく、都市近郊の山間部の河川や冠水が起こりやすい地区への配備にも適している。
「漏斗」式の調節貯留で雨水の効率利用を実現
内水氾濫による都市の秩序への影響を防止するためには、雨季の冠水を迅速に排除しなければならない。雨水が少ない季節になると、都市の緑化や景観には大量の水資源が必要となる。こ うして雨水が出入りするだけでは、その最大限の調整と利用はできない。雨水の貯留を動的に調整し、内水氾濫を形成せず、都市の貯水を増やすことのできる方法はないだろうか。
張書函氏らの研究成果に記者はその答えを見つけた。開発されたシステムに降水過程と地理のデータを入力すると、計画と水害対策の要求や標準に照らし、設計した需要に基づき、すぐに自動計算を行い、当 該地域の一定時間内の雨水流出の変化の動向を割り出し、システム内でシミュレーションを行うことができる。都市の屋根や道ばたの草むらに落ちた水は細い水流となり、雨水溝へと流れ込み、パ イプラインを通って都市の景観河川や湿地、湖へと排出される。一般と異なるのは、この雨水流出の流れをコントロールできるという点だ。雨水の流動は、透水舗装やくぼんだ緑地、緑化された屋上、雨水湿地、生 物滞留池、緑化溝など、地表面流出を削減・コントロールする技術をよりどころとし、地表面のデジタル識別、水影響評価、内水氾濫リスク分析技術、さらには区域降水流出の水質・水 量の総合モデリングとカップリングの分析技術などを通じて、すべてのプロセスでの一部の雨水を留めることができる。余った水は、最良の流速と流量で、調節のためのパイプラインや池、緑地、湿地、河 川を通じて徐々に排出し、秩序ある排出を実現する。それだけでなく、生物滞留槽などの施設を通じて、雨水の排出をスローダウンすると同時に、人工土壤と植物根系を利用して、雨水の吸着と浄化を実現する。こ れによって最終的にパイプラインと河川に入った雨水の質は大きく改善し、都市は、利用可能でクリーンな水資源を大量に貯留できるようになる。
「降るたびに都市を海のように変える大雨は、いつ冠水のピークを迎えるのか。どうすれば冠水をすばやく引かせることができるのか。過去にはシミュレーションモデルがなく、明 確な観察のための有効なデータも不足していた。われわれが開発した設備をネットワーク状に配備することができれば、降水が開始し、地表面流出を形成し、最終的に雨水が引くまでのプロセスを確実に追跡し、可視化・再 現し、科学的な政策決定や調整を後押しすることができる」。研究成果に張書函氏は自信を持っている。「現在の都市の降水は水の行き来が慌ただしいだけで、水資源の利用に適していない。都 市の降雨による水害の防止にあたっては今後、最大限の貯留の必要がある」。新システムでは、巨大な「漏斗」のような都市雨水貯留・排出の仕組みが形成され、雨水の科学的な保持と漸次的な排出が実現される。都 市であふれた雨水のより科学的な排出ができるだけでなく、総合的な調整や貯留も実現し、水が多い時には、地下の配管やトレンチ、湿地などへの分散貯留を行い、水が足りない時には、配 管を通じて貯留した水を統一的に配備し、集中的に使用することができる。
水害対策の実戦で顕著な効果
張書函氏らの研究成果は、2013年にはすでに、敷地面積10平方キロメートルの「北京未来科学城」で統合試験を行った。追跡調査では、課題チームの研究成果が検証された。モ デルエリア内での5年に一度以下の降水時の雨水最大流出係数は0.175で、削減措置を取らない場合に比べて70%の削減を実現した。
この研究成果は、すでに実際の応用で効果が確かめられている。北京と上海、広州、鎮江の4都市では、このシステムはすでに、都市内水氾濫の気象リスク調査、都 市内水氾濫のモデル構築でデータと意志決定のサポートを提供し、都市排水・水害防止プロジェクト計画でも応用されている。
江蘇省鎮江の都市行政部門はこの技術を利用し、中心部の30平方キロメートル範囲の地表空間類型の識別と計画を行い、「鎮江雨水総合コントロールプラットフォーム」を構築した。このプラットフォームは、現 地の水害防止と雨水の調整貯留の優れたツールとなっている。研究成果は、都市行政の建設管理部門で応用されているだけでなく、広州や上海などの不動産開発設計や建築計画設計の企業の関心も集めている。多 くの企業担当者がこの技術を用いれば、企業が開発前の事前計画を立てる際、大量の調査研究の時間を省き、より良いマッチングや選択を行い、資金の節約や効率の向上を実現できると期待している。
※本稿は、科技日報「地表径流減控 譲城市降水不再来洶洶去匆匆」(2018年09月28日第06版)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。