第147号
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中国のブロックチェーン産業発展の現状

2018年12月10日

于智為

略歴

2010年、清華大学博士課程卒業。独学で日本語を学び、2007年から日中のソフトウェアアウトソーシングに従事。2017年からブロックチェーン事業に関わり始め、ENChain.Asiaを設立。中日ブロックチェーン関連ビジネスを展開している。

呂欣欣

大上智子(翻訳)

最新技術、非中央集権、暗号化、グローバル化、投資ブーム、詐欺問題など、昨年から全世界で仮想通貨が話題沸騰中。隣国、中国での政府規制、仮想通貨ビジネスの変革、国際交流など、中国での仮想通貨事情を解説します。

 かつてプロジェクトの白書1冊だけ作ってICO(イニシャル・コイン・オファリング。暗号通貨の発行による資金調達のこと)で10億円相当の資金調達ができたという神話や、10倍上がるコインだよと言われて買ったらたった1日で10分の1の値段になった詐欺事件など、デジタル通貨が狂ったように乱発された時期を経て、現在の中国のブロックチェーン(の発展)は日に日に理性的になっています。業界人から注目されているのは、既存の会社の構造的な不足要素をブロックチェーンを用いて解決することです。ブロックチェーンシステム下における経済管理やインセンティブモデルは、企業に新しい生態系の扉をこじ開けさせることができるというのが業界人にとって重要なのです。

 社会全体という面では、政府はブロックチェーンの管理について、法制度とインセンティブ制度を一歩一歩並行しておこなうことにより、市場に価値のないデジタル通貨や資金源があふれていた前段の状況を押え、真の意味で本格的運用が可能であるブロックチェーンプロジェクトを積極的に後押しし続けています。

政策の変化

 最近、網信弁(中国国家互聯網信息弁公室)は、「ブロックチェーン情報サービス管理規定(草稿)」を発表しました。その草稿には、中国大陸において、社会大衆ブロックチェーン情報サービスを提供する主体およびノード、およびブロックチェーン情報サービスに技術提供をおこなう機関や組織は、いずれも必ず届出をしなければならないと明確に規定されています。

 網信弁は、ブロックチェーン業界組織の自律性を強化することを強調し、業界のサービス提供者のサービス規範を確立し、業界情報評価体系の設定を推進し、業界の健全で秩序ある発展を促進することを強調しています。

 これまでの中国におけるICO狂いの時代を経て、中国はいま初めて、ブロックチェーンを正式に監督しようと準備しているとみられています。それに合わせて各地の政府は、地域のブロックチェーンの健全かつ合理的な発展を積極的に推進しています。その中で、上海の楊浦区は、ブロックチェーン産業の企業に対する事細かな経済優遇政策を発表し、楊浦区へのブロックチェーン企業の登記を歓迎しています。

 上海の楊浦区以外にも、中国の地方・地域はそれぞれ各地区のブロックチェーン企業の誘致政策を打ち出しています。ブロックチェーン関連企業を地元に誘致し、産業構造の向上を図り、地方経済発展の足掛かりにしたいのです。

ビジネスモデルの変化と日中間のブロックチェーンビジネス

 ICO狂乱時代を経て、国内の業界人士は、ブロックチェーンを利用した経済管理システムを利用して、企業内の不足部分を解決し、経済モデルやインセンティブモデルを通じて新たな生態系の扉をこじ開けようとしています。「通証化改造」と呼ばれ、主に伝統企業の改造に焦点を当てて、ブロックチェーン技術とDACの組織構造を通じて、伝統的な企業の発展と経済のアップグレードを助けてきています。

 中国に比べ、日本は法律の安定性と法定通貨への交換が可能という2つのメリットがあるため、2017年から中国ブロックチェーン関連企業が日本へ積極的に進出しています。日本で登録されている仮想通貨交換業の中にも中国人代表の企業や、中国資本の企業は少なくありませんし、年末コインチェック不正流出事件により交換業登録の審査が厳しくなったとしても、ミートアップ・交流会開催、取引所・関連ソフトの開発、ICOプロジェクト現地コミュニティ運営など、日中ブロックチェーン関連ビジネスはまだまだ親密におこなわれています。

 インターネット、モバイルインターネットとは異なり、中国のブロックチェーンの創業関係者は最初から世界に目を向け、多くのプロジェクトは初期のころから全世界に拠点を持っています。日本もブロックチェーン関係者が最も重要な市場と認識している地であり、将来は日中双方に、技術・資金・政策などの各方面による協力交流が多くなると信じています。

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写真:日中ブロックチェーン産業技術交流会「ENCHAIN TOKYO」が2018年6月2日に東京で開催、日中関係者約60人が参加。(写真/胡姝琦)