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中国廃棄物輸入規制で行き場を失うゴミ 世界資源リサイクルのあり方に再考促す

2019年1月29日

知乎 哲也(zhihu zheye)

略歴

東京外国語大学中国語学科卒業後、清華大学公共管理学院で修士号を取得。北京にて環境ビジネス専門コンサルティング会社で5年勤務。留学から足掛け12 年の北京生活を終えて昨年日本に帰国し、リ サーチ会社に在籍中。

 中国が打ち出した廃棄物輸入規制政策が、世界各国に衝撃を与えその影響が徐々に出始めた。中国のみならず各国内外に突き付けられたのは、環境への取り組みは後戻りできない段階に来ており、世 界は資源循環のあり方を再考すべき時期に差し掛かっているという事実である。

 中国が打ち出した環境規制政策が、我が国日本など近隣国のみならず、欧米含む各国のゴミ処理問題に影響を及ぼしている。これまで資源不足を補うために海外の廃棄物を原材料として輸 入していた中国政府が2017年7月、世界貿易機関(WTO)に対して海外からの廃棄物輸入を段階的に停止する旨を通告したことで、中 国への廃棄物輸出によってこれらの処理を依存していた各国各業界に衝撃が走ったのである。

 中国が海外から輸入していた廃棄物には多くの汚染物質が混入しており、中国国内では深刻な環境汚染に対する反対の声が高まっていた。また、中 国自体も経済成長に伴い国内廃棄物の排出量が増加してきており、国内リサイクル産業育成・成熟が求められてきていたことが、廃棄物輸入停止の方針となって現れたとされる。

 「国門利剣」(ナショナルソード)と呼ばれるこの中国の取り組みは、税関部門における密輸撲滅プロジェクトとして始動したものであった。

 廃棄物輸入規制に関わる動きは、時を遡れば2013年2月、税関総署はゴミなど異物の不正輸入を防ぐため、古紙の輸入コンテナに対 する税関検査を強化するため、「グリーンフェンス」政 策を発令したことに端を発する。これにより、輸入コンテナで混入物比率1.5%の許容基準を超えたものについては輸入許可が得られなくなった。

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写真1:中国国内では環境汚染に対する深刻な反対意見が高まっている。

 ナショナルソード2016年版で絶滅危惧動植物や違法薬物などを密輸撲滅の重点として一定の成果を挙げた税関部門は、翌2017年初頭、同年の重点規制対象を「海外ゴミ」す なわち輸入廃棄物に置くことを決定し、グリーンフェンス政策の後継策として発令した。国内向けには、同年7月に国務院弁公庁が「海外ゴミ輸入禁止による固形廃棄物輸入管理制度改革推進実施方案」を配布し、2 017年末までに環境リスクが高く人体への健康被害が大きい固形廃棄物の輸入を全面的に禁止し、2019年末までに国内で代替可能な固形廃棄物の輸入を段階的に停止することが明らかにされた。更 に2018年4月、生態環境省、商務省、国家発展改革委員会、税関総署は「輸入廃棄物管理リスト」の改定を発表し、廃金属(金、銀、銅、鉄、錫)、廃船、自動車スクラップ部品、製錬スラグ、工 業廃プラなどのリサイクル可能な廃棄物16品目についても、2018年12月31日をもって輸入禁止とすることとした。

 過去20年にわたって世界最大の廃棄物輸入国であった中国の挙動だけに、次々と打ち出される輸入規制措置は世界各地で大きな影響を及ぼし、各国の報道で「ゴミ危機」と報じられた。米 国では、国内廃棄物処理の3分の1を輸出に頼り、最大の輸出先が中国であったため、今年に入って輸出を予定していた廃棄物が西海岸に留めおかれるという現象が起きているとみられる。

 日本でも、昨年まで海外に輸出していたプラゴミの半数が中国向けであったこともあり、環境省が中国廃プラ輸入禁止に伴う影響について調べたアンケート結果によれば、保 管量が増加した自治体が24.8%に上り、5自治体では既に許容量を超過しているという。

 日本政府はこれを受けて、廃プラリサイクル設備の導入補助を強化する決定をしている。業者の間では、行 き場を無くした廃棄物の輸出先をインドや東南アジアなど他国に変更するなどの対応を模索しているが、今後こうした代替国でも中国と同様の禁輸措置に移行していく可能性は高い。

 政策の影響は、無論中国国内にも現れている。華南最大の廃プラ輸入基地であったエリアでは、現在多くの工場がもぬけの殻となっており、求 人募集も勤務地をベトナムとするなど国内事業が急速に縮小したことが窺える。かつては地方都市でも小規模廃プラ処理業者が乱立していたが、取締りが強化され、その多くが閉鎖に追い込まれた。国 内の環境政策の強化も相まって、今後は一部の資本力や高度な設備技術を有する大手業者に集約されていくことが予想される。

 かつて中国では「上に政策あれば下に対策あり」と言われ、中央が政策を打ち出しても地方ではローカルルールが幅を利かせておりいくらでも抜け道があると言われてきた。ま た厳しい政策を打ち出しても現実的ではないとして、一時的に難を凌げばまた規制が緩和されることはよくあった。このため、長く中国側とのビジネス関係者の間でも、今 回の廃棄物規制の動きについては積極的な対応を図るよりも静観を決め込んでしまった人たちがいたのではないかと思われる。こと環境問題に対する昨今の中国政府の姿勢は本気そのものであり、一 連の輸入規制措置では強烈にその姿勢を全世界に知らしめたといえよう。もはや「世界の廃棄物処理場」ではなくなった中国の措置により、世界は廃棄物処理・リサイクルのあり方について再考を迫られている。 

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写真2:経済成長に伴い人々の環境意識も高くなっている。


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年2月号(Vol.84)より転載したものである。


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