第149号
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貴州:基礎研究で民族医薬の発展を「強化」

2019年2月21日 洪永(科技日報実習生)/何星輝(科技日報記者)

「夜郎無閑草、黔地多靈藥」(夜郎国(現在の貴州省)には無用の草薬はなく、霊薬が多く存在する)

 恵まれた気象条件と自然環境によって豊かな生薬資源を育み、悠久の歴史、少数民族文化の集約し、神秘的な民族医薬(少数民族の文化・伝統に基づく医療)となる。中国の4大生薬産地のひとつとなった貴州省には4,802品種の生薬資源があり、苗薬(ミャオ族の文化・伝統に基づく医療)を代表とする民族医薬に豊かな特色がある。近年、貴州省は基礎研究の「強化」を続けており、民族医薬の振興に向けて「神秘」の力を注いでいる。

基礎研究が苗医薬の理論的支柱に

「吾聞上古之為医者曰苗父,苗父之為医也......」(吾聞く、上古の医を為す者を苗父と曰ふ、苗父の医を為すや......)。前漢の書物『説苑 巻十八 弁物』には、上古の時代に苗父が施した医療による珍奇な治療効果について述べられており、これがミャオ族の医療の起源を示す重要な歴史的証拠となっている。

 第6回全国国勢調査の結果によれば、ミャオ族の人口は少数民族の中で第4位であり、貴州省がその最大の居住地域で、重要な生薬生産地でもある。そのような天の時・地の利・人の和を活かし、貴州省はどうすれば特色ある民族医薬を発展させ、盛んにしていくことができるだろうか。

「苗薬産業の振興には、学問による下支えが不可欠だ」。科技日報記者による取材を受け、中国民族医薬学会の副会長で貴州省苗医薬重点実験室の主任も勤める杜江氏はこう答え、「歴史的に見れば、ミャオ族には統一された文字が存在しないことが苗医理論の発展の足かせとなっており、その理論的基盤は脆弱である。長年の努力により、苗医の理論体系はおおむね確立されてはいるが、さらなる拡充が必要である」と続ける。

 貴州省科技庁が2014年から実施している8つの重大応用基礎研究プロジェクトのひとつとして、貴陽中医学院の副校長である崔瑾氏がリーダーを務める「苗医薬の基本理論の深化、拡充および応用に関する研究」プロジェクトはまさにこの問題に照準を合わせており、苗医薬の歴史的背景や文化的土壌、基本理論および診療方法等を系統的に整備し、この分野の基礎研究をさらに深めるものである。

 現在までに、このプロジェクトから、論文60本余りが発表され、発明特許4件が申請され、研究生47名が育成された上に、民族医薬専門書4冊が出版されている。また、このプロジェクトの研究成果である「苗薬の生薬である紫金牛(シキンギュウ)および鉄掃箒(メドハギ)が遺伝子レベルの多くでCOPD患者の気道の再構築に干渉するメカニズムの研究」が2017年度の中国民族医薬学会の科学技術賞で一等賞を獲得し、書籍『苗医絶技秘法伝真(ミャオ族伝統医療の絶技・秘法の伝承)』が中国民族医薬学会の優秀学術専門書の一等賞を獲得した。

投資の「強化」によって基礎研究の不足を補う

 基礎研究を産業化につなげるには、どれほどの道のりが必要だろうか。基礎研究と応用開発の間の「最後の1キロ」はどうすれば打開できるのだろうか。

 苗医薬の産業化と発展への道のりについては、杜江氏は「さまざまな原因のために、苗医薬の発展には多くの足かせがあり、基礎研究から実践・応用に至るまでには少なからず障害がある」と語る。また、苗薬は「山奥の至宝」であるとはいえ、産業化と発展に向けた安全性や科学性、実現可能性については系統的な研究が待たれており、これらの基礎研究についてはいずれもさらなる拡充が必要とされる。

 貴州省の特色ある民族医薬分野の基礎研究は引き続き「強化」されている。2018年末には、貴州省のカルスト地形に関する科学研究という基本的な条件を十分に利用することを目的として、国家自然科学基金委員会・貴州省カルスト科学センターによるプロジェクトが予備申請を通過し、「カルスト環境と健康ならびに特色ある民族医薬」プロジェクトが立案され、直接的資金援助として2700万元の費用を獲得した。

 プロジェクト担当機関である貴州省中国科学院天然産物化学重点実験室科学研究処の処長を務める潘衛東氏によれば、貴州省における中薬(中国の伝統的な漢方薬)・民族薬の販売品種の多くは2000年代初期に実施された地方標準から国家標準に格上げされた154品種であるが、その多くについて系統的な物質基盤や製造工程の合理化、品質コントロール、臨床的有効性、安全性評価等に関する研究が不足しており、関連する重要品種の品質向上や効能強化、ならびに貴州省の中薬・民族薬産業の持続可能な発展に影響を及ぼしている。

 「中薬・民族薬の原料となる生薬の持続可能な供給は、大量の特色ある生薬の野生繁殖と人工栽培に依存するものだが、生薬の環境適応性や優良品種の導入・順化、品質評価等に関する基礎研究も非常に重要だ」と潘衛東氏は語る。

 基礎研究の不足を補うために、貴州省では基礎研究を「強化」するとともに、「人材グリーンカード」申請プロジェクトにおけるグリーンルートも開通させている。2019年に貴州省科学技術基金は初めて、貴州省でハイレベル人材グリーンカードを獲得した個人に対する無制限申請を受付け、データによると、基金プロジェクトの申請数は2018年の580件から615件に増加し、資金援助総額は2018年の2880万元に比べて93.75%増となる。

研究成果から応用開発に直接ねらいを定める

 基礎研究の強化に伴い経費が増加し、プラットフォームの構築も同時に強化され、応用開発に直接ねらいが定められるようになった。2018年には国家苗薬エンジニアリング技術研究センターが検収を通過した。同センターは中国初の民族薬エンジニアリング技術研究センターとして、国家的な民族薬産業の発展におけるハイエンド開発プラットフォームの空白を補うだけでなく、貴州省の中薬・民族薬分野における初の国家級研究開発プラットフォームとして、ゼロからのブレイクスルーを成し遂げた。

 国家苗薬エンジニアリング技術研究センターは、その建設期間においても多くの成果を成し遂げ、民族薬業界に共通するコア技術に関する問題を解決し、苗医薬理論を整理し、苗薬資源データベースを整備した。

 特筆すべきは、国家苗薬エンジニアリング技術研究センターによって苗薬の生薬・錠剤品質基準がレベルアップされ、熱淋清顆粒等の苗薬・民族薬における主要12品種の2次開発が完了し、臨床試験前の研究開発が完了した苗薬・民族薬の新薬品種が5品種、第2期臨床試験まで進んだ品種が1品種、医院製剤が7品種、保健品(サプリメント)が3品種、保健品としての承認を得た品種が3品種となったことである。現在、同センターの主導によって「貴州省に立脚し、西南地区を射程範囲とし、全国を対象とする」苗薬インキュベーション基地の整備がすでに進められている。

 これは、貴州省の民族薬産業の急速な発展をサポートするものであろう。

 近年、苗薬を代表とする特色ある民族薬産業は、貴州省で重点的に建設が進められているいわば「5枚の名刺」(貴州省が拡大を図る5つの消費財、酒・タバコ・茶・医薬品・食品を指す)と「6大基幹産業」の一つとして、地方経済の発展に対して目覚ましい貢献を果たしている。データによれば、2016年の貴州省の民族薬・苗薬の総生産高は553億元で、2013年に比べて38.2%増加し、民族薬の生産高で全国首位を維持している。

 2019年、貴州省科技庁は基礎研究計画に対する支援を強化するために、省級重点実験室3ヶ所の建設を決定する予定である。

 「基礎的業務として、理論研究を深化させ、開拓し続けることこそ、苗医薬の発展における重要なプロセスだ」と杜江氏は考えている。


※本稿は、科技日報「基礎研究為民族医薬発展"加碼"」(2019年2月11日付1面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。