リン酸鉄リチウム電池で新エネルギー産業に果敢に挑む
2019年2月12日 王春(科技日報記者)
新エネルギー車、太陽エネルギー、風力エネルギーの送電網・周波数変調エネルギー貯蔵・発電所、移動通信基地、電動物流車両......。新エネルギー産業の発展において、動力電池は非常に重要な役割を果たしている。
新エネルギー車や再生可能エネルギー、スマートグリッドなどの新興産業が発展するにつれて、動力リチウム電池の研究開発が最も重要な研究分野となっている。その中でも、リン酸鉄リチウムは、安全性が高く、サイクル寿命が長く、容量が安定しているなどのメリットがあり、さらに、豊富で安価な鉄やリンなどの資源を使うことができ、コバルト、ニッケルなどの非鉄金属を必要とせず、世界公認の持続的発展が可能な動力リチウム電池正極材だ。
上海交通大学化学化工学院の馬紫峰教授率いるチームは2004年以降、比亜迪股份有限公司、中聚電池有限公司、江蘇楽能電池股份有限公司、上海派能能源科技股份有限公司などの企業と提携し、15年間の取り組みを経て、独自の知的財産権を持つリン酸鉄リチウム動力電池技術体系を構築し、新エネルギー車やエネルギー貯蔵システムに広く応用した。また、同チームが比亜迪などの企業と提携して構築した「リン酸鉄リチウム動力電池の製造やその応用をめぐるコア技術」は、2018年国家テクノロジー進歩賞の二等賞を受賞した。
新しい合成反応を考案し、1万トン級の生産へ
1996年、リン酸鉄リチウムが動力リチウム電池の研究に応用された。しかし、リン酸鉄リチウムの大規模な応用を実現するためには、トンレベルの生産能力を有した製造技法や設備が必要となる。
馬教授らは、たくさんの有名な海外企業の合成技法を分析し、そのメカニズムにおいて一酸化炭素やアンモニアなどの有害な気体が発生することのほか、焼結の時間が長いこと、エネルギー消費量が多いことなどを発見した。生産コストを削減し、生産過程における汚染を減らすために、馬教授率いるチームはリン酸リチウム鉄合成の新反応を考案し、新しい構造の正極材を調合した。2004年、同チームは新しい方法を携えて、横店集団東磁股份有限公司と提携し、リン酸鉄リチウム正極材を開発した。そのプロジェクトは2006年、浙江省のテクノロジー成果実用化プロジェクトの支援を受け、年間300トンの生産能力を持つ、合成リン酸鉄リチウムのパイロット規模での生産が始まり、上海徳朗能電池公司と提携して電気自動車用リン酸鉄リチウム電池を開発し、大規模生産ラインの基礎を固めた。
2007年、馬教授は首席科学者として、国家重点基礎研究発展計画(973計画)の「電気自動車用低コスト、高密度蓄電体系基礎科学問題研究」プロジェクトを担当し、リン酸鉄リチウム電池の産業化発展に新たな活力を注入した。上海交通大学は清華大学、復旦大学、厦門(アモイ)大学などと連携し、比亜迪などの企業と、リン酸鉄リチウム材料とその応用技術研究開発を展開した。その後、馬教授率いるチームは比亜迪と提携して、リン酸鉄リチウム電池エネルギー貯蔵システム低コスト化コア技術の研究を展開し、リン酸鉄リチウム電池の応用範囲を、新エネルギー車から、スマートグリッド、エネルギー貯蔵システムなどへと拡大していった。
2012年、上海交通大学は、馬教授らが発明したリン酸鉄リチウム合成新技術の特許を全て譲渡して、中聚電池研究院を立ち上げ、リン酸鉄リチウム電池技術を大規模に展開し、権利を授けられた多数の企業がそれを応用し、一連の特許技術が生まれた。2014年、江蘇省の企業イノベーション・成果の実用化特定項目の支援を受け、馬教授が首席専門家として、江蘇楽能に年間2万5600トンの生産能力を持つナノリン酸鉄リチウム生産ラインを構築し、その製品が比亜迪や寧徳時代新能源科技股份有限公司などの有名電池企業で応用されるようになった。
業界の専門家で構成されるテクノロジー成果鑑定委員会では、馬教授率いるチームの研究成果は、材料合成の理論、技法、電池設計などの面で、重要なイノベーションを達成し、世界で初めて鉄単体アトムエコノミーリン酸鉄リチウム合成反応を考案したとの認識で一致している。
世界一の製造・応用大国に
卓越した性能の動力電池を製造するためには、非常に優れた正極材が必要であるほか、電池材料の化学体系を最適化し、適切な負極材と電解質を見つけなければならない。その他、動力電池の製造の過程、技法も電池の性能を改善するために非常に重要となる。馬教授率いるチームは、ある液の塗り方とそのコーティングの方法を発明し、相応の技法を考案して、技術パラメータを最適化し、超高率放電を実現し、サイクル寿命が非常に長いナノリン酸鉄リチウム動力電池とそれを製造する新たな方法を編み出し、リン酸鉄リチウム電池のコールドスタートと高率放電をめぐる問題を解決した。2015年、研究開発チームは江蘇中興派能電池有限公司と提携して、低温特性の優れた高率放電が可能なリン酸鉄リチウム動力電池の研究開発と産業化を展開し、移動通信基地に広く応用された。
動力電池システムの残量は、自動車の航続距離に直接影響を及ぼす。電池の残量は残容量(SOC)で表される。SOCは、複雑な動態変化の過程で、電池システムの温度、充電、放電速度などと密切な関係がある。馬教授率いるチームが開発した新しいSOCの推定模型は、世界最先端の指標と比べて、電池の健康状態の推定精度が約5ポイント向上し、97%に達した。その他、同チームが比亜迪と提携して開発した非線形最適フィードバック制御に基づくSOC推定模型は、SOCの推定精度をさらに向上させ、99%に達した。
15年間に及ぶ産学研の連携を経て、中国は世界一のリン酸鉄リチウム電池の製造・応用大国となっており、リン酸鉄リチウム動力電池は、電動バス、電動物流車両、乗用車などに広く応用され、リン酸鉄リチウムを動力とする電動バスは米国や日本、英国、欧州、オセアニアなどに輸出されるようになっている。
※本稿は、科技日報「執磷酸鉄鋰電池,弄潮新能源産業」(2019年1月31日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。