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宇宙で宝を掘り起こす―民間ロケットが力を蓄えチャンスを待つ

2019年2月19日 于紫月(科技日報実習記者)

 数回の延期を経て1月23日、米航空宇宙企業・ブルーオリジン(Blue Origin)はついに、垂直離着陸型の回収ロケットとミッション機器を搭載するカプセルから構成される宇宙船ニューシェパードの発射実験を行い、打ち上げ、カプセルの回収に成功した。今回の打ち上げには、NASAが支援する8個の実験機器も搭載された。

 同月、中国の民間ロケット会社2社からも吉報が届いた。1社は深圳市翎客航天技術有限公司で、第5世代再使用型宇宙往還機・RLV-T5の発射実験に成功した。もう1社は北京藍箭空間科技有限公司(以下「藍箭航天」)で、新型ロケットエンジンの点火実験に成功した。

2018年は民間ロケットの門出の年に―観測ロケット打ち上げに向け道をつける

「手の届かない」宇宙が、技術が進歩し、市場、政策などの支持を受けるようになっているのを背景に、「手の届く」存在になりつつあり、多くの中国企業がこの「宝の山」に目を向けるようになっている。1月27日、北京千域空天咨訊有限公司の創始者・藍天翼氏は科技日報の取材に対して、「2018年は『中国民間ロケット発射元年』、『民間ロケットの門出の年』などと称されている。2018年、中国の民間企業3社はのべ5回のロケット発射を行った」と話した。

 2018年4月、北京星際栄耀空間科技有限公司(以下「星際栄耀」)は、中国初の民間ロケット「双曲線一号S」を発射した。5月には、北京零壹空間科技有限公司(以下「零壹空間」)がロケット「重慶両江之星(OS-X)」を発射、9月には星際栄耀が「双曲線一号Z」を発射し、その2日後に、零壹空間が「重慶両江之星(OS-X1)」を発射した。

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2018年9月5日、打ち上げに成功した「双曲線一号Z」(画像は取材対応者提供)

 公開されている資料によると、上記のロケット4機はいずれも観測ロケットで、衛星を軌道に乗せる機能は備わっていない。航天科工火箭技術有限公司の市場部の曹夢部長は、「観測ロケットの発射により、人工衛星打ち上げロケットのコア技術の検証を行うことができるほか、今後の研究開発体系の基礎を築くことができる。観測ロケットの発射は、ロケット民間企業がロケットの設計から、審査、許可取得、発射までの全プロセスを行えることを示している」と説明する。また、星際栄耀の技術総監・鄭立偉氏は、「本当の意味で真価が問われるのは、衛星を宇宙に送り込む人工衛星打ち上げロケットを打ち上げることができるかだ」と指摘する。

 2018年10月、藍箭航天は小型人工衛星「未来号」を乗せた3段式の固体ロケット「朱雀一号」を発射した。打ち上げに成功すれば、宇宙の軌道に衛星を投入する中国で初の民間人工衛星打ち上げロケットとなるはずだったが、飛行の過程で問題が発生し、軌道投入には失敗した。

 しかし、中国の業界も国民も、民間ロケットには、試行錯誤できるよう寛容な姿勢を示している。航空宇宙飛行エンジニア聯合組織「小火箭聯合会」の創設者・邢強博士は、小火箭のWeChat公式アカウントで、「衛星の軌道投入には失敗したが、人工衛星のユーザー・中国中央テレビ局(CCTV)は非常に寛容な態度を示している」と書き込んでいる。

 曹部長も、「私も、当社全体も、民間宇宙飛行のチャレンジと努力に対して尊敬のまなざしを向けている。私たちは社会各界と共に、商業宇宙飛行産業の発展を促進することを願っている」としている。

液体燃料エンジンと帰還・再使用をめぐる難題克服に挑戦

 ロケットの研究開発において、民間企業も、国家チームも技術的難題に直面している。

 曹部長は、「民間企業の技術チームは、元々宇宙機関に所属していたケースが多く、一部の専門家は『国家チーム』の骨幹となる中心的メンバーだった。そのため、単純に技術という面だけを見るなら、民間ロケット企業と国有企業との間に差は全くない」と説明する。

 鄭氏は、「液体燃料エンジンと、帰還・再使用は、現段階では主要技術の難題に直面している。ロケットエンジンの研究開発周期は長く、一歩一歩経験を積み、技術検証を行っていかなければならず、非常に時間がかかる。ロケットエンジンの研究開発において、スピードを求めるなら、往々にしてエンジンの信頼性や制御性を犠牲にすることになる」との見方を示す。

 鄭氏の言葉を裏付ける前例がある。1960年代、米国はアポロ11号を打ち上げ、史上初めて人類を月に着陸させることに成功した。米国に肩を並べようと、ソ連は急いで大型ロケットN1の研究開発を進めた。しかし、十分な時間がなく、予算も十分に投入されなかったため、エンジンを含む研究開発のプロセスが大幅に短縮され、地上での検証や実験も十分に行わずに、飛行実験が行われ、結局4回の試験打ち上げすべてに失敗して計画は放棄となり、米国との競争に敗北した。

 歴史を教訓にすれば、得失を明らかにすることができる。鄭氏は、「スタートが遅く、自主研究開発の道を歩む民間企業にとっては、ロケット研究開発、特に、非常に重要なエンジンの研究開発は決して焦ってはならず、段取りを踏んで事をすすめ、しっかりとした技術テストを行うというのが最もコストパフォーマンスが高い選択となるだろう」との見方を示す。

 その他、鄭氏は、「人工衛星打ち上げロケットをメインとしたキャリアロケットの再使用は、膨大な資金が必要な商業宇宙飛行にとって非常に魅力的である」と指摘する。公開されている資料によると、民間宇宙企業・スペースXは再使用型ロケットの飛行に3回成功している。一方、中国の「国家チーム」や民間ロケット企業も、ロケットの回収と再使用に焦点を絞って力を注いでおり、現在、垂直離着陸の地上検証、実験が進んでいる。

 ただ、曹部長は、「宇宙飛行先進国との差はまだ非常に大きいという現実を直視しなければならない。再使用可能なキャリアロケットの研究開発にはまだ課題が山積。最も大きなボトルネックは、推進力の強さをコントロールできる再使用可能なエンジンの技術。宇宙飛行従事者全員が今以上に努力しなければならない」と指摘する。

将来は「乗客」の需要が商業宇宙飛行市場成長の力に

 曹部長は、「中国は60年余り宇宙飛行の分野で経験を積み、資金を投じてきた。そのほとんどの資源は国有企業にあり、確実で効果的な研究開発保障体系が形成されている。民間企業は時間をかけて経験を積み、改良を重ねなければならない。また、技術のほか、両者は研究開発の経費や市場の問題にも直面している」と指摘する。藍氏によると、「研究開発経費の解決の仕方は異なる。『国家チーム』は主に国が支出する資金に支えられている。一方、民間の宇宙飛行は融資に頼っている」。

 「投資家は確実に商業宇宙飛行を重視するようになっている」。この点は藍氏も実感しており、「以前、商業宇宙飛行は馴染みのない分野だったが、2018年には特に話題となった。それは、国の政策や世論、環境、ビジネスムードなど様々な要素が重なった結果だ。ロケットは宇宙に行くための唯一の『交通手段』で、ビジネスロジックはシンプルだ。今後、投資家が最も注目する商業宇宙飛行の分野の一つになるだろう。米国の直近10年間の投資データによると、ロケットは商業宇宙飛行の各分野で、投資が最も多い産業チェーンの部分となっている」と話す。

 藍氏によると、民間ロケット市場は、衛星の応用と密接な関係がある。星際栄耀の姚博文・総裁助手は、「民間企業が成熟した人工衛星打ち上げロケット製品を手にすると、衛星の需要が非常に大きくなり、ロケット市場の規模が爆発的に成長する可能性が大きい。当社が既に受けている注文を見ると、2019年の市場情勢の見通しは明るい」と話す。

 「市場では熾烈な競争が繰り広げられる中、民間ロケット企業は機構の融通が利き、決定が速いなどのメリットがある」と曹部長。藍氏も、「公平な市場環境で競争するとなれば、民間企業は『国家チーム』より、人気になるだろう。それだけでなく、民間企業が、能力と資質さえ備えていれば、国のミッションを請け負う可能性さえ十分にある」との見方を示す。

 ロケットは衛星を運ぶだけでなく、今後はその「乗客」が多元化し、発展していく可能性がある。藍氏は、「将来、コストや信頼性などの面における一定の要求が満たされたロケットは宇宙旅行や宇宙移民などに使われる可能性がある。飛行機も初めの頃は主に手紙を運ぶのに使われていたが、今は人や貨物を運ぶようになっている。それと同じで、ロケットも今は主に衛星を運ぶために使われているが、将来は地球と宇宙を行き来する交通手段になる可能性もある」と予想する。

資本が民間ロケットに原動力を注入

 「小火箭」のWeChat公式アカウントの統計によると、2018年、軌道投入されたロケット打ち上げは世界で100回以上に達した。近年で軌道投入数が3桁(100回)に達したのは1990年であり、それ以降ロケット発射は低迷期に陥っていた。邢博士は2018年末に書いた文章の中で、「28年ぶりに宇宙開発の黄金時代が戻ってきた」としている。

 これまで宇宙飛行衛星、人工衛星打ち上げロケットなど、国有企業主導だった市場に多くの起業家が参入し始めており、ロケット企業が続々と立ち上げられている。「民間ロケットの研究開発の柱となるのは資本。投資家は往々にして鋭い嗅覚で今後を予想する。企業の融資が経てきた過程を見ると、中国の民間ロケット発展のトレンドを垣間見ることができる」と姚総裁助手。

 公開されている資料によると、2017年に発足した星際栄耀は、2018年9月にA+ラウンドで融資を受け、これまでに約7億元(1元は約16.25円)の融資を受けた。また、2015年前後に発足した民間ロケット大手・藍箭航天と零壹空間も、2018年下半期に、B+ラウンドとBラウンドでそれぞれ融資を受け、累計融資額は約8億元に達している。

 36氪基金投資の石亜瓊・経理は、「人材と技術の蓄積があるかは、投資家が民間ロケット企業を信頼する第一歩。加えて2018年、中国国内のベンチャーキャピタル投資の分野には、系統的な新たな投資スポットがなく、商業スタイルがはっきりし、クライアントが比較的固定しており、周期が非常に長い商業ロケットの分野に投資家が徐々に目を向けるようになった」と説明する。


※本稿は、科技日報「太空挖宝,民営火箭蓄勢待発」(2019年1月29日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。


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