第150号
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毎年10万人以上!江蘇省はなぜ外国人材を引き付けるのか?

2019年3月13日 季天宇(科技日報実習生)/張曄(科技日報記者)

 毎年、10万人以上の外国人材が江蘇省で才能を発揮し、力を注いでいる。「中国区域国際人材競争力報告」によると、江蘇省の競争力指数は中国全土で上位に入っており、南京、蘇州は、数年連続で「外国人材にとって最も魅力ある中国の都市トップ10」に入っている。

  では、外国人材が喜んで海を渡り、異郷の地である江蘇省に来て活躍しているのはなぜなのだろう?江蘇省はこのほど、同省で働く外国人専門家を招いて座談会を開催し、江蘇の魅力を語ってもらうとともに、江蘇の未来の発展のために積極的な提案を述べてもらった。

人材政策を活用して人材呼び込みを促進

 江蘇省は2013年から、「外国人専門家百人計画」を実施し、約5年間、国際的に有名な外国人ハイレベル人材や不足する分野の専門家100人を呼び入れるよう取り組んできた。

 人材をめぐる新政策を確実に実行するために、江蘇省は2016年に、全国に先立って外国人専門家スタジオ制度を設立し、同省で就職した外国人専門家が在籍する雇用機関は、外国人専門家スタジオを設立して、ソフトウェア・ハードウェア施設を揃え、外国人専門家がメリットや満足感を得られるようにしている。

 電気回路設計の専門家であるパキスタン人のアドビーさんは、米国東部の有名大学と天津大学で教壇に立つ機会をあきらめ、南京に来ることを選んだ。南京に来てから、アドビーさんはこの都市がとても気に入り、ここに留まり続けるつもりであるという。江蘇英特神斯科技有限公司に就職したアドビーさんは、外国人専門家スタジオに所属する首席エンジニア3人のうちの1人で、主に、ハードウェアMEMSの研究開発や超音波システムの分野の研究に取り組んでいる。

 同計画実施以降、江蘇省はこれまでに、およそ300の「江蘇省外国人専門家スタジオ」の設立を認可し、その分野は現代農業、装置製造、バイオ医薬、新材料などをカバーしている。その後、江蘇省は、「インテリジェンス導入特定項目」などの政府特定プロジェクトを次々に打ち出し、外国人専門家が江蘇省でイノベーションを行うための道をひらいてきた。

 また、外国人材を誘致し、彼らの入国をスムーズにするために、江蘇省は出入国関連の新政策を打ち出し、外国人専門家を対象に、グリーンチャンネルを設け、条件をクリアする外国人材が中国に永住できるようにしている。また、外国人専門家が中国での就職、入国許可、在留などの申請を一ヶ所で済ませることができるようにしている。認定基準をクリアしている外国人ハイレベル人材と、その配偶者、未成年の子供については、関係当局の推薦があれば、中国での長期滞在を直接申請することができる。

 2018年、江蘇省全体の研究開発への資金投入が地域の国内総生産(GDP)に占める割合は2.64%で、1万人当たりの発明特許所有件数は26.45件、ハイテク企業は1万8000社以上、テクノロジー進歩による経済成長への寄与率は63%に達し、中国においてイノベーションの実力が最も高い省の一つとなっている。江蘇省の外国人専門家は年々増加しており、同省の経済、社会の発展、対外交流、協力に際立つ貢献をしている。

国際イノベーションプラットフォームを構築して海外とマッチング

 各種イノベーション要素を提供できるかが、人材が成果を挙げられるか、そして人材を定着させられるかのカギとなる。

 2018年、ノーベル物理学賞受賞者のアンドレ・ガイム(Andre Geim)氏は、世界最先端のグラフェン技術を携えて提携の機会を探し、南京市政府に書面でその思いを伝えた。そこにはガイム氏が最も関心を抱く8つの質問が記されており、その中でも「安定した技術の供給源はどこにあるか?」というのが一番の関心事だった。南京市政府は「科学教育の面で優位性を誇っている南京は、安定した科学研究チームの支えとなる。南京大学の実験室、マンチェスター大学の共同実験室は、いずれも人材チームの後ろ盾となる」と返答したという。

 よりガイム氏の心を動かしたのは、南京がイノベーションチェーンを整備し、ベンチャー・キャピタル、プロジェクト化プラットフォームなどを整えただけでなく、株式構造を通して大きな利益も得ることができるようにしたことだった。8つの質問に、南京が満足のいく回答をしたため、ガイム氏のチームはすぐに新港開発区に、南京鼎騰グラフェン研究院を立ち上げた。研究院でインキュベートされた企業は既にグラフェン・アンテナを量産して、それを市場に投入している。

 江蘇省は近年、産業化の見通しが明るいリーディングテクノロジーについては、イノベーションチェーンを中心に産業チェーンを配置する一方で、技術的制限が明らかな分野、部門については、産業チェーンを中心にイノベーションチェーンを配置するという二つの異なる取り組みを行っている。産業とイノベーションはどちらを優先しても、人材という懸け橋が必ず必要になる。

 海外とのマッチングを実現し、技術的連携を行うために、江蘇省はイノベーション大国やカギとなる小国とのテクノロジー協力を積極的に展開している。そして真っ先にイスラエルや英国、フィンランドなど6ヶ国と政府間産業共同研究開発資金を立ち上げ、毎年、共同で、一連の二国間協力プロジェクトに支援を行い、共同で産業イノベーションの発展水準向上に取り組んでいる。カナダのウェスタンオンタリオ大学のジョーン・カポネ(John Capone)副学長は、「江蘇省は人材育成、科学研究の面で高い実力を持っている。江蘇省にはとても魅力があり、オンタリオ州の最先端技術を積極的に江蘇に移転している」と語る。

 イノベーションという媒介役と生態があれば、外国人ハイレベル人材が自然と江蘇省に流れ込んで来る。バウマン記念モスクワ国立工科大学の専門家チームが筆頭となる南京華曼情報技術研究院、蘇州大学、ウェスタンオンタリオ大学と共同で立ち上げた放射光共同研究センター、ケンブリッジ大学--南京テクノロジーイノベーションセンターなどは、いずれも江蘇省が国際イノベーションプラットフォームを構築したことの成果だ。江蘇省はこれまでに、国家級国際テクノロジー協力拠点を40ヶ所以上設立し、600以上のハイレベル外資系研究開発機関を呼び込んできた。その数は中国全土でトップレベルとなっている。


 ※本稿は、科技日報「毎年10万人次!江蘇縁何譲"洋専家"心動」(2019年3月4日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。