第150号
トップ  > 科学技術トピック>  第150号 >  北京・天津・河北協同イノベーション―基礎研究が「個人戦」から「団体戦」に

北京・天津・河北協同イノベーション―基礎研究が「個人戦」から「団体戦」に

2019年3月12日 孫玉松(科技日報記者)

img
img

「私たちの研究成果が北京市と河北省に認められ、採用されるとは思いもしなかった」。春節(旧正月)が終わったばかりのころ、南開大学環境科学・工程学院の展思輝教授は満足そうな表情を浮かべた。展 氏が天津市科学技術局から請け負う「南水北調の送水先の地表水における細菌の移動・付着行為に対する影響」研究プロジェクトが、京津冀(北京市・天津市・河北省)の専門家チームの合同審査に無事合格し、同 時に北京市と河北省に認定・採用された。これは京津冀の科学技術機関が基礎研究で自ら変化を求め、偏見をなくし共に前進したことによるものだ。京津冀の基礎研究は従来の「個人戦」から「団体戦」に変わり、多 くの基礎研究プロジェクトで、3エリアの科学研究者が活躍している。

第1期の基礎研究協力特別プロジェクトが実を結ぶ

 南水北調(中国南方地域の水を北方地域に送りこむプロジェクト)は白洋淀と雄安新区の生態建設にどのような影響を及ぼすのか。水 がもたらす外来種は密雲ダム浮遊生物群の構造にどのような変化を生じさせるのか。送水先の水環境建設・保護をどのように促進するのか。京津冀協同イノベーションの第1期基礎研究協力特別プロジェクトである「 南水北調の京津冀送水先の生態環境への影響及び調整メカニズムの研究」プロジェクトの検収がこのほど、天津科学技術局で行われた。3エリアの科学技術機関の専門家でつくるチームは、3 エリアが2015年に共同支援した同プロジェクトの検収を行った。13の課題の現場検収が行われた。

「これは京津冀が初めて共同支援した基礎研究協力プロジェクトであり、その成果は非常に喜ばしいものとなった」。天津市科学技術局基礎研究所の金双竜所長は、科技日報の取材に「 基礎研究の多くのプロジェクトに共通性があるが、隷属関係と経費の出処などの制限があり、京津冀の基礎研究は互いにつながりを持とうとせず、個人戦を展開していた。これにより多くの研究プロジェクトが重複し、貴 重な人的資源と科学研究費が無駄になった」と語った。

 南水北調中線プロジェクトの稼働に伴い、同じく受水エリアとなる京津冀は基礎研究の分野で、初めて手を携え南水北調の専門テーマを打ち出した。南 水北調の生態環境への影響及び調整メカニズムをめぐり研究を計画する。この試みに3エリアの科学研究者は積極的にこたえ、清華大学、中国水利水電科学研究院など多くの有名大学や中央機関の研究者を引きつけた。3 エリアの科学技術者は3年にわたり学際的協力と協同イノベーションを促進し、今や多くの成果を上げている。プロジェクト検収専門家、河北農業大学の楊路華教授は「 これらのプロジェクトは3エリアの科学研究資源の強者連合によるものだ。検収状況を見ると、各研究プロジェクトは目標を達成するか、それを上回っている。多くの研究成果が応用され、良好な経済的・社 会的効果を生み出している」と述べた。

管理メカニズムの壁を打破

 京津冀は全国でイノベーション資源が最も集中している地域で、全国の4分の1以上の大学、3分の1の国家重点実験室及び工学(技術)研究センター、3分の2以上の中国科学院中国工程院院士、4 分の1の留学経験者が集まっている。基礎研究の雰囲気が濃厚で、協同イノベーションの大きな余地が残されている。京津冀協同イノベーションの2015年の第1陣となる基礎研究により、3 エリアの科学研究者は初めて省と直轄市を跨ぎ一つのテーマの共同研究を試みた。河北省自然科学基金委員会弁公室の李志国室長はメディアの取材に対して、「第1陣の研究テーマは、京 津冀の発展の切実な需要と関連する課題が選ばれた。課題の共同研究の機会を借り、3エリアの科学研究資源がついに総合利用を実現した。また3エリアの科学技術者と管理者は、いい経験を積むことができ、新 たな科学研究協力の発展方法を見つけた」と語った。

 ここ2年、3エリアは「京津冀一体化都市間鉄道システム発展の基礎理論・コア技術の研究」「スマート製造」「精密医療研究」という3つの特別プロジェクトを共同企画・実施した。3 エリアは3年以上にわたり48件の基礎研究プロジェクトに共同出資しており、一部のプロジェクトは初期段階の成果を上げ、実践で応用されている。3エリアの医学専門家は今年より緊密に連携し、腫瘍、心臓・脳 血管疾患、神経疾患、代謝性重大疾患の「精密医療」特別基礎研究を展開する。

 筆者の調べによると、京津冀の科学技術主管機関は研究協力をさらに促進し、プロジェクトの順調な実行を保証するため、協同イノベーション協力メカニズムを次第に整備している。基 礎研究共同管理機関と専門家指導チームを設立し、3エリア・4000人の専門家チームを結成した。プロジェクトの実施においても新モデルを模索し、特別プロジェクトによる実施を模索している。3 エリアの基礎研究協力は現在、統一企画、統一申請、統一審査、統一立案、成果共有の統一管理という「5つの統一」を形成している。3エリアに共通する問題と需要をめぐり、管理機構の壁を打破し、3 エリア地域イノベーションの基礎研究の「友人の輪」を共に構築している。

活気がなかった基礎研究に火がつく

 京津冀「協同イノベーション発展戦略研究及び基礎研究協力枠組み協定」が2015年8月に調印され、活気がなかった基礎研究に火がついた。京津冀の基礎研究プロジェクトは徐々に「ベンチを温める」境 遇から脱却し、勢いをつけている。「600万元(約1億円)の支援金をめぐり206件のプロジェクトが競争を展開した」。金氏によると、京津冀基礎研究協力特別プロジェクトが2018年に打ち出されると、か つてないほど注目を集めた。筆者が先ごろ終了した2019年度京津冀協同イノベーション基礎研究活動協調会から得た情報によると、3エリアは今年、協力プロジェクトの数を昨年より20件増やし、プ ロジェクト支援の経費は2017年から倍増し1200万元以上にのぼる見通しだ。北京市自然科学基金委員会弁公室の王紅室長はメディアの取材に対し、「北京市は多くの科学研究機関と人材を持ち、天 津市と河北省は工業の基礎が強く、産業の需要が旺盛で、研究開発に方向性とアプローチをもたらす。京津冀協同イノベーション基礎研究は、3エリアの優れた科学技術資源を集め、3 エリア協同発展において共通する需要を満たし、共通する問題を解消するため力を合わせる」と述べた。

 北京市・天津市・河北省3エリアの科学技術管理機関は今年、さらに協力の仕組みを深化させ、高効率共同管理機関を形成し、基礎研究特別プロジェクトの新モデルの模索を推進する。実 質的な共同研究の深化を続けることで、基礎研究協力及び成果のマッチングを促進し、基礎研究成果の3エリアにおける共有と実用化を加速する。天津市科学技術局の戴永康局長はメディアの取材に対して、「 京津冀は共通する問題と需要をめぐり、個人戦を協力に変えた。国家特別プロジェクトが地域の需要を十分に満たせないといった問題を効果的に解消し、京 津冀協同イノベーションの基礎研究協力分野における掘り下げた発展を力強く推進し、3エリアにおける成果の共有及び実用化を促進する。これによって京津冀協同発展をより力強く支える」と話した。


※本稿は、科技日報「京津冀協同創新 基礎研究"単打"変"団体賽"」(2019年3月4日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。