第150号
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張家港大学院生研究開発拠点:企業イノベーションの飛躍の翼に

2019年3月7日 張家港市科学技術局

 イノベーションが企業の未来を決定し、企業のイノベーションの水準が都市のイノベーションの水準を決定する。2000年代初め、「日曜日のエンジニア(兼業技術者)」に依って発展した郷鎮企業は、「技術者が見つからない、提携する大学が見つからない」という問題に直面し、新しい産学研連携モデルの構築、イノベーションのルート開拓、イノベーション資源の誘致・固定化、企業のイノベーションコストの削減が急務となった。2009年、江蘇省科技庁と教育庁は、大学院生研究開発拠点を設立して、企業が直面する問題、課題を解決するという計画を打ち出し、江蘇省張家港市を最初の実験エリアに選定した。

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国泰華栄公司の大学院生研究開発拠点

 江蘇省における企業の大学院生研究開発拠点は、企業が申請、出資して設立し、大学教員の指導下にある大学院生チームがそこで技術研究開発を展開する機関であり、一定規模以上の企業(年売上高2000万元以上の企業)と大学が連携する産学研連携の重要なプラットフォームだ。2009年以降、張家港市では、江蘇省企業大学院生研究開発拠点が253ヶ所設立され、省内の県・市では9年連続で最多となっている。2015年に同省が優秀大学院生研究開発拠点の評価業務を開始して以降、張家港市の大学院生研究開発拠点8ヶ所がそれに認定され、3年連続で省内1位となっている。これまでに誘致された大学院生は1,275人で、うち、博士が210人。研究開発や検査、テストなどの設備約7,000台、時価総額11億4500万元(1元は約16.6円)相当が投入された。提携プロジェクトは656件で、投じられた研究開発経費は12億元以上、開発された新製品は910点で、売上高は170億元以上となっている。市級以上が実施したテクノロジープロジェクトは500件近くで、うち国家級が38件、省級が165件だった。特許取得件数は2,938件で、うち発明特許が724件、発表された論文は389本だった。

 ここ10年の張家港市の企業大学院生研究開発拠点の推進と設立を振り返ると、「プロジェクトのチャンスを掴み、人材を集め、実用化を促進し、実際の効果を重視する」ことが、カギとなってきたと言える。

 プロジェクトの推進をきっかけとし、産学研連携の基礎が効果的に構築されている。張家港市の省級企業大学院生研究開発拠点253ヶ所は大学26校と連携し、そのうち、拠点を10ヶ所以上設立している東南大学、蘇州大学、江蘇科技大学、南京航空航天大学、江蘇大学、常州大学、江南大学の7大学は、協力プロジェクトを656件展開し、12億元以上の経費を投じ、50以上の技術分野をカバーしている。大学院生研究開発拠点の設立推進により、2008年以前の「技術者が見つからない、提携する大学が見つからない」という問題を効果的に解消し、企業と大学の産学研連携の基礎が効果的に築かれている。

 人材の呼び込みを目的とし、企業の人材を増やしていく。張家港市の省級企業大学院生研究開発拠点253ヶ所は、大学院生合わせて1275人を誘致した。うち、博士が210人、修士が1,065人で、江蘇省のテクノロジー副担当者9人を育成した。大学院生研究開発拠点は、企業のハイレベル人材の採用コストを効果的に削減し、拠点を設立している大学が博士と修士の大学院生を派遣し、企業で課題研究に従事し、企業が生産ラインの改善、スマート改造、工法の改善などをめぐる難題を解決できるようサポートしている。特に、年間売上高が5000万元以下の多くの企業がハイレベル人材を誘致するのが難しいという問題を解決し、多くの企業がサポートにより博士号や修士号を持った従業員がいないという状態を打破できた。また、大学の教育資源を活用して、企業が人材を育成したり、従業員が学部や工学修士の学歴を得ることができる教育を受ける計画を展開したりできるようサポートし、企業の人材のレベルアップを促進している。

 研究開発プラットフォームをベースに、企業の独自イノベーション能力を向上させる。張家港市の省級企業大学院生研究開発拠点253ヶ所は、研究開発や検査、テストなどの設備約7,000台、時価総額11億4500万元相当を投入した。企業は拠点を設立している大学との連携を強化し、拠点を設立している大学が提供する資源を活用して、大学院生研究開発拠点をもとに、さらなるレベルアップを図り、博士研究員研究開発拠点、院士研究開発拠点などの人材研究開発拠点を設立し、さらに、大学と連携してハイクオリティの研究開発機関を設立している。現時点で、同市に設立されている企業研究院、江蘇省重点企業研究開発機関など、省級研究開発機関、省級博士研究員科学研究活動拠点などの人材研究開発拠点は300ヶ所以上に達しており、企業のイノベーション能力やコア競争力が効果的に向上している。

 技術成果の実用化という手段で、企業の製品の付加価値を向上させている。企業は発展の需要に基づき、共同課題を設け、拠点を設立している大学、研究機関が共同でテクノロジープロジェクトを実施し、ハイテク成果の研究開発と実用化を促進している。また、大学院生研究開発拠点253ヶ所がこれまでに実施した市級以上のテクノロジープロジェクトは約500件ある。内訳は国家級プロジェクト38件、省級プロジェクト165件、蘇州市級プロジェクト94件、張家港市級プロジェクト194件となっている。2015年度、江蘇科技大学は張家港市海獅機械、同大機械と連携して、江蘇省重大成果実用化プロジェクト2件が認可を受け、省級奨励資金2000万元を獲得した。知的財産権保護を強化するために、研究開発に成功したテクノロジー成果の特許申請を積極的に行い、特許取得数は2,938件に達している。うち、発明特許が724件で、各級刊行物に掲載された論文は389本にのぼる。連携の実効性を向上させるために、大学院生研究開発拠点は、新製品産業化という目標の方向性を採用し、共同課題を共同のテクノロジー成果に、テクノロジー成果を製品に、製品を付加価値の高い製品にと、段階的な実用化を実施している。海獅機械と江蘇科技大学が共同で開発した洗浄システムは発売後、欧米製品による独占状態を打破し、その価格は30%以上値下がりした。現時点で、研究開発拠点253ヶ所が開発した新製品は累計で910点で、売上高は170億元以上となっている。

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同大機械公司の大学院生研究開発拠点

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海獅機械公司と江蘇科技大学が共同で開発した洗浄システム

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海獅機械公司の大学院生オフィス

 運営実績を目標に、大学院生研究開発拠点の管理水準を向上させる。張家港市は、「企業大学院生研究開発拠点の設立、管理を一層強化することに関する通知」を制定・発表し、大学院生業務の管理をめぐる規定や規則を定め、毎年、専門家を組織し研究開発拠点の現場を視察し、成果があまり挙がっていない拠点に対して指導を行い、2年連続で「不合格」と評価された拠点に対しては、閉鎖措置を講じている。また、江蘇省では率先して支援モデルを改善し、設立した年は奨励を出さず、2年目は成果を評価し、専門家が視察して評価し、評価後50ポイントの支援(1ポイント当たり2,000元の奨励)を支給し、制度を通して、企業が評価よりも実際の効果を重視するように誘導している。

 張家港市の企業大学院生研究開発拠点の設立は、企業に新たなイノベーションの活力を注入し、江蘇省、ひいては中国全土が、「企業を主体とした市場志向で、産学研が深く融合した技術イノベーション体系」を構築するうえで、有益な経験と参考を提供している。しかし、イノベーション型国家を建設するために必要なことと照らし合わせて考えると、まだ多くの課題を解決する必要がある。例えば、一部の従来型企業は、大学院生研究開発拠点の設立に意欲的でなく、力をあまり入れていない点だ。また、スカウトしている博士などのハイレベル研究開発人材が少なく、人材に占める割合も低いことや、一部の企業は設立を重視しているものの、その運営には力を十分に入れていないなどの問題もある。

 江蘇省で企業大学院生研究開発拠点設立を実験的に実施する県・市としての張家港市は、今後も、「成果を出し、経験を提供し、典型的なケースとなる」ことを目標に、「企業を主体とし、教員が先頭に立ち、互恵協力」という原則を堅持し、入念な計画を立て、措置を強化し、確実に実行することで、大学院生研究開発拠点の設立の水準を全面的に向上させたい計画だ。

 ハードウェア施設の建設に一層力を注ぎ、研究開発拠点イノベーションのイメージを向上させる。大学院生研究開発拠点の設立の主体は企業で、それを設立する企業が継続的に資金投入を拡大し、イノベーション研究開発環境の構築を強化し、良い「巣」を作って、「鳳凰」を呼び寄せ、大学の教員と大学院生が来て、留まるようにし、チームが根を下ろし、花を咲かせ、実を結ぶようにする。また、サービスとサポートを一層強化し、視察による評価に基づいて、ランク分けした支援を実施している。研究開発拠点の研究開発プロジェクトサポートを優先的に当該市のテクノロジー計画に盛り込み、上級の各種テクノロジー計画・プロジェクト、テクノロジー奨励を優先的に推薦したり、届け出たりし、優先的にプロジェクトを立ち上げてプロジェクト技術研究センターを設立する。

 研究開発チームの構築に一層力を入れ、研究開発拠点の研究開発の実力を向上する。継続的に大学院生チームの実力を充実させ、教員が先頭に立つ原則を堅持し、拠点を設立している企業が大学教員や関係当局との意思疎通を強化するよう牽引し、一人でも多くの教員や大学院生を誘致して強力な研究開発チームを作る。特に、博士の大学院生や博士課程指導教員を一人でも多く誘致して、研究開発チームの構造を最適化し、大学院生チームの実力を向上させる。また、企業の研究開発者が積極的に参加するよう牽引し、企業の研究開発者が参加することで、大学と企業両方が優位性を発揮し、相互学習し、共に進歩し、企業のハイレベルの人材チームを育成する。大学と企業が一つになって取り組むことで、研究開発拠点イノベーションの研究開発の実力を向上させ、拠点ができるだけ早く、より多くの成果を出すことできるようサポートする。

 科学的管理に一層力を入れ、研究開発拠点の運営の質を向上させる。継続的に業務指導を強化し、大学院生研究開発拠点の業務報告、計画報告を確実に行う。企業の調査・研究の展開を深化させ、各企業の大学院生研究開発拠点の設立と運営の状況を常に把握し、大学と企業が連携する中で出て来る問題を速やかに解決し、ノウハウや成功の経験を速やかにまとめて、広めていく。一方で、運営の規範化を強化し、各企業の大学院生研究開発拠点に入所している大学院生に対する管理規則を確実に実行し、大学院生の入所、出所の過程を規範化し、プロジェクト研究開発を入念に企画し、良好な業務と生活の環境づくりをし、入所する大学院生が研究開発や学習に打ち込めるようにサポートし、研究開発拠点の運営の質を向上させていく。

 連携する大学との意思疎通を一層強化し、研究開発拠点の設立水準を向上させる。企業と学校が意思疎通を強化し、拠点を設立している企業の責任者が定期的に、先頭に立つ教員と業務をめぐる話し合いを行い、双方の連絡を強化し、入所する大学院生の考え方を把握し、研究開発拠点を設立する上で力を合わせるようにする。市場の変化や企業の発展状況に基づいて、研究開発の方向やポイントを適時調整・改善し、研究開発活動の方向性や有効性を確実に向上させる。一方で、拠点を設立している企業が積極的に大学に対して技術資源のサポートを求め、プロジェクト研究開発の進捗状況に基づいて、対応する教授チームとマッチングさせ、プロジェクト研究開発推進が加速するよう促進する。


※本稿は、科技日報「張家港企業研究生工作駅:為企業創新挿上騰飛的翅膀」(2019年2月27日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。