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2.2 ナノテクノロジー・材料分野の現状および動向

(3) 主な分野の動向

1)ナノ構造材料・新機能材料

 中国のナノ構造材料・新機能材料分野では、一部利益率の高いところで技術導入が進んでいる。また、表面改質関連研究が国の重点プロジェクトに採用された関係で、研究水準や技術開発水準が急速に向上している。超分子やデンドリマー(dendrimer)の研究も活発化している。一方で、複合系材料や精密重合高分子については、これまで不足が指摘されていた研究インフラの整備が進み、海外の帰国組を中心に研究水準や技術開発の向上が進んでいる。この分野における中国の主な研究成果を以下に紹介する。

 中国科学院物理研究所の解思深院士の研究グループは1996年、多孔質SiO2基板の微孔にナノ触媒粒子を閉じ込め、多層カーボンナノチューブの直径と成長方向をコントロールできる調製方法を解明した。これにより、従来方法の問題点が解決され、高密度、高強度の定方向カーボンナノチューブを調製できるようになった。この研究成果は「サイエンス」誌に掲載された。

 また、同研究グループは1998年、長さ3mmの非常に長いカーボンナノチューブの調製に成功し、他の方法と比べ、チューブの長さを1~2桁向上させた。さらに、2000年には直径わずか0.5ナノのカーボンナノチューブの力学、熱学、光学、導電性などの性能を研究し、その成果は「ネイチャー」誌に掲載された。

 一方、清華大学の範守善院士らはカーボンナノチューブをベースに、直径3~40ナノ、長さ数ミクロンの青く発光する一次元GaNナノ棒の調製に成功し、カーボンナノチューブの制限反応概念を提唱した。この研究成果は当時世界初であり、「サイエンス」誌に掲載された。

 さらに、2002年には順次配列するカーボンナノチューブ列を調製できた。このナノチューブ列から連続的にカーボンナノワイヤを抽出できる。これらのカーボンナノワイヤを熱処理すると、防弾チョッキ、電磁遮断材料などに応用することができる。成果は「ネイチャー」誌に掲載された。

  中国科学院金属研究所の研究者は1999年、効率よく単一壁カーボンナノチューブを調製できる流動触媒を用いた化学ガス相沈積調製方法を開発した。さらに実験で、プラズマアーク蒸発法で調製した高品質の単壁カーボンナノチューブが優れた水素貯蓄能力を持つことも発見した。水素貯蓄容量は4%に達する。

 また、同研究所の別の研究グループはナノ金属合金塊およびナノセラミック材料の調製方法およびその力学性能について研究を行い、多くの成果を得た。たとえば、常温で圧延すると、ナノ銅の延性は50倍に達する。これは当時世界初の発明であった。さらに2004年、ナノスケールの結晶成長による金属の属性を強化する新しい方法を確立し、実験で獲得した純銅サンプルの引っ張り強度は1068MPaに達する(普通純銅の10倍以上であり、高強度鋼材に相当する)一方、常温での導電率は無酸素高導電率銅材料(OFHC)に匹敵した。これは他の材料にない特性であり、ナノスケールでの構造設計が材料の性能を向上させることを証明した。これらの成果はいずれも「サイエンス」誌に掲載された。

 ナノ無機材料の調製分野については、中国科学技術大学の研究者が溶剤熱合成技術を利用し、ベンゼン熱合成法によるナノGaNマイクロ結晶の調製方法を発明し、初めて300℃の温度条件下で粒径30ナノのGaN結晶を合成した。

 一方、清華大学の李亜棟教授は液体—固体—溶液界面の転換と分離メカニズムによってナノ結晶体を合成する新しい方法を確立した。この方法は金属イオンと界面活性剤分子の間のイオン交換と相転換メカニズムを利用し、異なる界面の化学反応をコントロールすることにより、貴金属、半導体、磁性、蛍光ナノ結晶や有機EL材料、導電高分子材料、燐灰石など単分散ナノ結晶の調製するものである。

 従来の合成方法で問題となっていた、大量の有機溶剤の使用によるコスト上昇や環境汚染が解決されるとともに、限られた種類のナノ材料の調製にしか適用できないという課題も克服した。これらの研究成果は2005年9月の「ネイチャー」誌に掲載されるとともに、「2005年中国基礎研究十大研究成果」の1つに選ばれた。

 このほか、復旦大学の研究者は広範囲な規則配列を持ったナノ多孔材料の設計合成に成功し、高い定序性を持ったナノスケールの六角形孔を有するSBA-15ケイ素材料など、多孔材料の合成制御分野で大きな影響を及ぼした。

 中国科学院化学研究所の研究グループはナノ高分子ハイブリッド材料とナノ界面材料分野で様々な研究を行い、数々の知的財産権を持つ技術を開発した。このうちの一部技術についてはすでに産業化されている。

 中国科学院は2007年8月1日、化学研究所の有機固体実験室が伝統的な化学気相成長法での製造過程において、磁場を加えた分枝構造および充填構造のカーボンナノチューブの生成に関する新たなメカニズムを発見したと発表した。

 それによると、垂直方向の磁場では分枝構造のカーボンナノチューブが、また平行方向の磁場の作用では充填構造のカーボンナノチューブが生成されるという。中国科学院は、今回の発見によって、磁場下での化学気相成長法に関する理解が深まり、分枝構造と充填構造のカーボンナノチューブを製造するうえで簡易な方法が得られたと指摘している。

 また、中国科学院は2007年12月15日、傘下の化学研究所が複数の色を発光する新型ナノ材料の合成に成功したと発表した。

2)ナノ加工技術分野

 中国は、ナノ加工技術分野では欧米帰りの研究者によって研究が立ち上げられているものの、本格的な立ち上げには時間を要するとみられている。しかし、ナノ加工技術の研究開発に努力が傾注されていることから、ナノスケール加工技術条件は着実に改善されつつある。

 たとえば、清華大学-FOXCONNナノ科学技術センターにはナノスケール加工および計測設備がほぼ揃っている。また、国家ナノ科学技術センターのナノ加工プラットフォームも建設中である。こうしたなかで、清華大学は新しい3次元ナノ加工技術を利用し、ナノケイ素センサー、ナノケイ素マイク、ナノケイ素モーター、ナノポンプなどを開発している。

3)ナノエレクトロニクス分野

 中国は、有機エレクトロニクスの研究水準や固体照明・発光デバイスの産業技術力で最先端にあるが、全体としては他の国とまだ差がある。とくに固体照明や発光デバイスの研究では北京大学清華大学を中心に結晶成長、LEDプロセス、照明応用という一貫したプログラムの下で研究、人材育成が進められている。産業技術力も世界トップレベルにある。この分野における主な成果を以下に紹介する。

 中国科学院半導体研究所は2001年、量子井戸構造を有する赤外線測定器(13~15ミクロン)および半導体量子レーザ(0.7~2.0ミクロン)を開発した。また、中国科学院物理研究所は常温で作動する単電子デバイスを開発した。同研究所では、単原子・単電子トンネル接合、常温での単電子トンネル障壁通過効果、高性能光電測定器、原子挟み型スーパーマイクロ量子デバイスに関する研究も行われている。

 中国国内の多くの研究グループは、マイクロナノチューブおよび半導体ナノワイヤを用いた電界効果トランジスタ(FET)の研究開発を行っている。中国科学院は2008年9月12日、傘下のマイクロ電子研究所が独自に開発した新技術をベースに中国で初めてZnOナノ針状結晶(ナノロッド)によるFETの開発に成功したと発表した。

 ZnOは新型の高性能ワイドバンドギャップ半導体材料で、ZnOナノ材料は多様な光・電子・磁気機能を持つ材料として注目されている。FETの開発成功は、新型ナノデバイスおよびその応用において新たな研究領域を切り開くものであり、同研究所ではデバイスの性能向上や実用化における課題解決に関する研究を進めるとしている。

 中国科学院化学研究所有機固体実験室は、有機半導体材料を用いるナノFETの製造に関する研究分野で多くの研究成果と発明特許を取得している。2006年には、結晶体原位置外延法と呼ばれる方法を利用し、SiO2基板に密着して成長する有機半導体単結晶ナノ帯を獲得し、有機半導体のナノ単結晶回路の開発ベースを構築した。

 西安交通大学清華大学は高品質のカーボンナノチューブ列を利用し、平面ディスプレーサンプルを作成している。

4)ナノサイエンス分野

 中国科学院化学研究所は1988年、自主知的財産権を持つ走査トンネル顕微鏡(STM)、レーザ原子間力顕微鏡、弾道電子放出顕微鏡を相次いで開発、製造した。中国科学院電子顕微鏡公開実験室は同時期、大気型STMを開発した。北京大学物理学院は、超高真空走査電子顕微鏡-走査トンネル電子顕微鏡-電子エネルギー損失分光法(UHV-SEM-STM-EELS)システムと極低温走査型近接場光学顕微鏡(LT-SNOM)システムを開発した。

 中国科学院化学研究所の研究者はSTM技術を利用し、有機分子の固体表面で自己組織的に形成したナノ定序構造を詳しく研究した。これらの成果は、2006年の「Accounts of Chemical Research」誌(米国)と「Angewandte.Chemie」誌(ドイツ)に掲載された。

 中国科学技術大学の研究者は2001年、ケイ素界面のC60単分子の吸着方向と電子状態を正確に測定し、分子デバイスの設計構築に貢献した。この成果は「ネイチャー」誌に掲載された。2005年、候建国院士らはSTMを利用し「近藤現象」(磁気的不純物の遮蔽磁化に関して起こる温度誘起の相転移)を観察し、スピン単分子の制御に成功した。この成果は「サイエンス」誌に掲載された。

 中国科学院物理研究所と北京大学の研究グループは2005年、それぞれ電子顕微鏡にマイクロ探針を追加し、カーボンナノチューブの電気輸送特性を測定した。研究成果は「Physical Review Letters」誌に掲載された。

 中国科学技術大学の研究者は2005年、低温超高真空STMを利用し、金属表面に吸着したコバルト・フタロシアニン分子に「単分子手術」を施し、単分子スピン状態制御に成功した。世界で初めて単一分子の内部で化学反応を起こし、局部的な化学反応により分子の物理性質を変化、制御し、重要な物理反応を起こしたのである。

 これは、単分子機能を持つ部品の製造にとって非常に重要な方法となるもので、単分子研究の展望を示すものとなった。この成果は「サイエンス」誌に掲載されるとともに、「2005年中国十大科学技術成果」の1つに選ばれた。

 中国科学院物理研究所と化学研究所の研究グループは2006年、有機超高密度メモリに関する基礎研究でも大きな研究成果を達成した。具体的には、ロタキサン分子で形成された固形薄膜にドットマトリクスを記録し、分子スケールで2桁の導電特性の変換を誘導することに成功した。これによって、情報記録密度を既存メモリの約100万倍にすることが可能になった。この成果は「Advanced Materials」誌に掲載された。

 2007年には、中国科学技術大学ミクロ物質科学実験室の潘建偉らが実験によって、「シュレーディンガーの猫」と量子計算に直接使うことのできる、もつれ光子数が最も多いクラスター状態をつくり出し、光子のもつれと量子計算の2つの世界記録を更新した。これらの研究成果は「ネイチャー」誌の巻頭論文として掲載されるとともに、「2007年中国十大科学技術成果」の1つに選ばれた。

5)バイオ・医薬分野

 中国はこの分野での研究成果はまだ少ないが、帰国した留学経験者を中心に多くの研究を展開している。技術開発水準はそれほど高くないものの、臨床研究に対する規制が少ないため、体内輸送システムや再生医療分野においてナノ材料の応用が大きく進展する可能性があると見られている。

 2005年に中国科学院上海ケイ酸塩研究所が開発した「薬物分子ナノメートル輸送ビークル」は、直径わずか200nmであるが、積載した薬物を途中洩れることなく特定の患部に運び、患者が必要な時に薬物を放出させ、治療の役割を果たすことができる。この「ビークル」を用いて消炎、止痛、抗癌剤の運搬実験に成功した。この成果は米国やドイツの専門誌で発表されたほか、「2005年中国十大科学技術成果」の1つにも選ばれた。

 このほか、中国科学院高能物理研究所や生物物理研究所、軍事医学研究院は共同でナノ粒子の薬物担体としての安全性およびナノ粒子材料の大量使用による人体および環境への影響に関する研究を行っている。

 なお科学技術部は2006年7月27日、ナノバイオテクノロジー開発に関する見解を発表した。それによると、中国のナノバイオテクノロジー研究は主にナノ創薬の研究開発、ナノ検査・診断・治療技術、ナノバイオテクノロジー機器に特化してきた結果、以下の3つの領域で大きな進展が得られたとしている。

  • 肝臓癌細胞を選択的に識別するセンサー、新型SARSウイルス核酸ゾンデなど、いくつかのナノバイオロジー機器を開発し、既に生物医学分野で応用している。
  • 初歩的な単分子ポリメラーゼ連鎖反応増幅技術を作り上げた。
  • 農業用ナノ材料とナノ肥料の産業化が順調に進展した。

さくらサイエンスプランウェブサイト

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