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2.2 ナノテクノロジー・材料分野の現状および動向

(4) その他分野

1)エネルギー・環境

 エネルギー・環境分野は材料科学の進展と密接な関係があり、革新的な技術開発をもたらす可能性を持った新材料技術との融合は不可欠となっている。以下にエネルギー・環境分野において今後一段と重要になると考えられる太陽電池、二次電池、超電導利用、水処理用膜分離技術、光触媒などの分野の現状および動向について紹介する。

① 太陽電池

 中国は1990年代から再生可能エネルギーである太陽光発電産業の発展に注力している。2000年以降、多くの民間企業がこの分野へ多額の投資をしたこともあり、2006 年には中国での太陽電池の生産能力は1000MWに達し、太陽電池産業の年間成長率は過去10年間、40~60%で推移してきた。

 2007年には世界の太陽電池生産量は3436MW規模に達し、前年比56%増を記録したが、このうち中国メーカーの市場シェアは2006年の20%から35%へと大きく上昇した。また、中国製太陽電池のエネルギー転換効率は、多結晶シリコン20%、単結晶シリコン25%、非結晶シリコン太陽電池9%に達し、技術は世界先進レベルに達した。しかし、企業独自の研究開発能力は一般的にまだ低く、主な半導体原材料や設備は輸入に頼っている。

 太陽電池材料の基礎研究には、主に結晶シリコン、薄膜シリコン、CIGS系(Cu(InGa)Se2)、CdTe、色素増感型、有機半導体型が含まれる。中国では1990年代から複数の研究機関が有機半導体、とくにPhthalocyanine類、PPV類、Polyaniline類化合物を用いる太陽電池材料・装置の基礎研究を積極的に行っており、多くの研究成果をあげている。

 たとえば、有機染料応答型Graztel電池材料のエネルギー転換効率は8~10%に達している。しかし、先進国と比べ、電子給与体/電子受容体ハイブリッド光電薄膜材料および関連の太陽電池に関する研究レベルは劣っている。

 中国の関連研究機関は有機電子給与体(Phthalocyanine類、Polyaniline類化合物など)と無機電子受容体(形状が制御できる炭素、ケイ素、TiO2 、Cd-Seなどの無機ナノチューブもしくは金属ハロゲン物質)の選定、設計および特殊な光電性能を持つ光電材料の調製を今後の太陽電池分野の重要な研究課題と位置付けている。

② 二次電池

 中国は近年、リチウムイオン電池の研究開発を積極的に行っている。具体的な事例を以下に紹介する。

  • プラス電極材料:LiCoO2 については、基礎研究は主にLiCoO2材料の構造解明および合成プロセスの最適化に集中している。また、産業化開発は主に電極成型プロセスの開発および粒子材料のエネルギー密度の向上に集中している。LixNiO2材料の有酸素条件下での製造コストは依然として高いが、無酸素条件下の製造プロセスはまだ開発途上段階にある。現在、Ni成分の一部をCoに代えるLiCoxNi1-xO2材料の製造プロセスが開発されている。LiFePO4材料の応用については、すでに実証試験段階に入っており、将来、リチウムイオン電池自動車への応用が期待されている。
  • マイナス電極材料:黒鉛、軟炭および硬炭などの炭素材料はすでに実用化されている。現在、有機硫化物、窒素化合物、錫酸化物、錫合金およびその他の金属化合物質に関する研究が行われている。今後は、マイナス電極材料としてケイ素材料に対する関心が高まると見られている。
  • リチウムイオン電池用隔膜:現在、中国が使っているリチウムイオン電池用隔膜はすべて海外から輸入しており、ほとんどが多孔性Polyolefinである。中国科学院物理研究所、化学研究所、多数の大学等では、ハイブリッド多層隔膜の膜形成メカニズム、材料の選定および隔膜の製造に関する研究が行われているが、理論研究と実験室レベルでの開発が中心であり、産業化までにはまだ時間がかかると見られている。

③ 超電導利用

 「第10次5ヵ年」期間中(2001~2005年)、中国の超電導利用研究は「863計画」や「973計画」、国家自然科学基金の支援を受けて多くの成果をあげ、100以上の発明特許を取得した。また、超電導材料の初期産業化も実現した。超電導利用に関する研究開発能力および産業化能力を見ると、低温超電導材料分野は先進国レベルに接近している。

 一方、高温超電導材料分野の状況は、以下のようにまとめられる。

  • BiSrCaCuO(BSCCO)系高温超電導材料技術は先進国レベルと大きな差がなく、すでに産業化発展段階に進んでいる。
  • MgB2材料に関する理論および実用研究も先進国レベルに達している。
  • 次世代高温超電導材料のYBCO塗層超電導材料に関する研究は、先進国のレベルとは大きな開きがある。「第11次5ヵ年」期間(2006~2010年)における中国の超電導材料の研究開発は、MgB2材料の低電場応用とYBCO塗層超電導材料の高電場応用を中心に行われる。一方、超電導材料の応用技術に関する開発は高温超電導磁性体を用いるMRI画像システム、NMRシステム、安全かつ高効率の超電導電力システム、超電導材料を用いるバイオ・医学機器および超電導による汚染物質分離除去システムの開発を中心に行うとしている。

④ 水処理用膜分離技術

 中国では、水処理用膜は主に産業用水の浄化、海水淡水化、かん水淡水化、市政汚水の再資源化、飲用水浄化などの分野で応用されている。

 各種の水処理用膜技術の研究開発・応用の現状を以下に紹介する。

  • イオン交換膜:中国ではまだ全フッ素硫黄酸(カルボキシル酸)膜やそれらの複合膜、双極膜は生産できない。現在生産できるのは一般の電気透析用陰、陽イオン交換膜であるが、いずれも非均一膜が主であり、均一膜は陰膜のみの生産であり、製品の種類、規格も少ない。
  • 逆浸透(RO)膜:中国国内企業のRO膜の生産プロセスは既に成熟し、RO膜の全シリーズの生産が可能であり、低圧純水膜の製造技術も成熟している。しかし、国内企業の生産設備の管理精度が低く、技術導入時に最新で最も優れた生産プロセス・技術を導入できていないため、海水の淡水化膜と超低圧RO膜は今でも安定した大量生産ができない状況にある。また、国産RO膜モジュールの耐汚染性、耐洗浄性、耐酸化性も劣っており、国外の最も優れた製品と比べ2~5年は遅れている。
  • NF(ナノ)膜:中国国内でも基本的なNF膜製造技術は確立されているが、生産は安定しておらず、製品の種類と生産量も少ない。膜材料はAPA、PIP、SPES、CAのみである。
  • 限外濾過(UF)膜、精密濾過(MF)膜:中国国内のUF/MF膜の種類、規格は多いが、UF膜の濾過分子量は基本的に1万~6万5,000であり、MF膜の平均孔径も基本的に0.1μm 、0.2μm 、0.4μmの3種類しかない。また、膜の製造過程で中孔尺度の制御技術がまだ確立されておらず、MF膜の孔径分布は非常に広い。

 今後の中国における水処理用膜技術の研究開発の重点は下記のとおりである。

  • 電気透析用のイオン交換膜の研究においては、高耐腐食性、高耐熱性、高浸透性と高耐汚染性を有する膜および双極膜を開発し、電気透析とイオン交換技術を発展させる。
  • UF、MF膜の研究においては、膜の流量を向上し、強度を高める。膜の耐汚染能力を向上させ、耐用を延ばす。洗浄の技術レベル、膜の効率を向上する。モジュールとシステムのセット技術を発展させ、プラント設備の性能を高める。
  • NF、RO膜の研究においては膜の流束、分離効率を高めるとともに、操作圧力を下げ、耐酸化、耐腐蝕および耐汚染の能力を高める。

⑤ 光触媒および光による水素発生

 中国の研究者は海外の学者と共同で、世界で初めて可視光活性を持つ新型光触媒-In1-xNixTaO4触媒を発見し、光による水素発生プロセスに応用した。また、光触媒をシリーズ化し、環境汚染の浄化や有毒有害物質の分解への応用にも成功した。さらに、分解過程において生成した中間生成物質を定量的に測定し、光触媒による有毒有害物質の分解に関するメカニズムが明らかにされた。

 これ以外にも、中国の研究者はエネルギー貯蔵/光触媒ハイブリッド材料に関する研究開発で大きな成果をあげた。開発された光触媒ハイブリッド材料は、良好な汚染浄化および抗菌殺菌機能を持っている。

2)産業用構造材料

 この分野は多岐にわたるため、代表的な例として、鉄鋼、アルミ、高機能セラミックを紹介する。

① 鉄鋼材料

 鉄鋼材料は最も主要な構造材料である。現在、低炭素鋼材、低合金鋼材、合金構造鋼材の純化、細結晶化、均一化に関する分野で重要な研究成果があがっており、世界で初めてQ235普通炭素鋼材の降伏強度を200MPaから400MPaに向上させ産業化生産を実現した。この成果は、「2005年中国国家科学技術進歩一等賞」を受賞した。

 また、微細結晶鋼材の研究開発についても、まず、DIFT( Deformation Induced Ferrite Transformation)と称する基礎理論モデルを構築した。これに基づき、産学研連携で生産技術の開発と産業化・生産を実現した。2005年現在、微細結晶鋼材の生産量はすでに400万トンを超えた。

② アルミ材料

 アルミはインフラ建設に広範に利用される非鉄金属である。中国はアルミ産業大国であるが、既存アルミ鉱山資源の80%は精錬しにくいケイ素含有量が多いボーキサイトである。このため、「第10次5ヵ年」期間中、「973計画」や「難関攻略計画」の支援を受け、高ケイ素ボーキサイトの浮遊選鉱方法に関する研究が実施され、重大な研究成果がもたらされ、アルミ鉱山資源の利用可能年数を30年延ばすことができた。

 また、「第10次5ヵ年」期間中、アルミ酸化物の溶出と分解に関する技術、不活性電極材料の使用による省エネアルミ電解技術、アルミ材料の純化、微細結晶化および均一化に関する技術の研究開発が行われた。「第11次5ヵ年」期間中に、こうした技術の向上と実用化が図られることになっている。

③ 高機能セラミック材料

 高機能セラミック材料は、耐高温、耐摩擦、耐腐食、高硬度などの特性を持つため、省エネ、環境保全、機械、冶金、化工、電子、医学、宇宙工学など多くのハイテク分野で応用されている。中国の高機能セラミック材料に関する研究開発は「863計画」、「973計画」、「難関攻略計画」の支援を受け、多くの新材料、新製品を開発した。具体例を以下に紹介する。

  • 溶融石英セラミック材料:中国山東工業セラミック研究設計院の研究グループは、金属材料熱処理炉用として溶融石英セラミック材質の中空ローラーを開発した。この製品は酸化、還元条件下において1100℃の高温での使用が可能で、寿命は1年以上である。黒鉛材質のローラーに比べ、耐腐食性と耐熱性がよく、寿命は3倍以上である。また、同研究グループは強化炉用の溶融石英セラミックローラーも開発し、世界でも3番目に同製品を生産できる国になった。
  • ZrOセラミック材料:「第10次5ヵ年」期間中、天津大学は国の支援を受け、ZrO粒子材料を利用した高圧ヘドロポンプ用ZrOセラミック缶体を開発した。高い強度を持ち、寿命は金属材質の缶体と比べ約10倍の2500時間という特徴を持つ。すでに多くの油田で採用されている。また天津大学は、清華大学、山東華光セラミック公司と共同で、石油抽出ポンプ用大サイズZrOセラミック材質ピストンを開発した。この製品の寿命は従来製品の約3倍である。
  • 発泡セラミック材料:「第10次5ヵ年」期間中、上海ケイ酸塩研究所と佛山セラミック研究所は、共同で発泡セラミック材料に関する研究を行い優れた研究成果をあげた。一般的に高温の溶融鉄濾過用発泡セラミック濾過装置の多くはZrO材質である。しかし、ZrO材質の製品の生産プロセスは複雑であるため、製造コストが高く、市場価格は20万元/㎥である。上海ケイ酸塩研究所は耐火性が高い(1700℃以上)炭化ケイ素発泡セラミック材料を開発して産業化・生産に成功した。生産コストは3.5万元/㎥まで抑えられた。
  • セラミック軸受:「第10次5ヵ年」期間中、上海ケイ酸塩研究所と上海材料研究所は共同でセラミック軸受の開発を行い、ナノハイブリッドセラミック技術および焼結過程における欠陥制御技術などの新しい技術を利用し、中国国内で初めてSiN材質の全セラミック軸受および直径が2mm以下のセラミック軸受用ボールを開発した。寿命は鋼質軸受の10倍である。現在、電機軸受、高速軸受、耐腐食軸受として、医薬、電機、飛行機など多くの分野で利用されている。

主要参考文献:

  1. 「中国科技統計年鑑」(2002~2007年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)
  2. 「国家中長期科学技術発展規劃綱要」(国務院、2006年2月)
  3. 「国家“十一五”科学技術発展規劃」(科学技術部、2006年10月)
  4. 「国家納米科技発展綱要(2001~2010年)」(国家科学技術部、国家計画委員会、国家教育部、国家自然科学基金委員会中国科学院、2001年)
  5. 「国家納米科技発展指南框架」(中国国家科学技術部、「中国基礎科学」誌、2001年9月)
  6. 「白春礼:跑歩前進的中国納米研究」(科学時報、2007年6月)
  7. 「納米科技発展宏観戦略」(任紅軒ら編著、化学工業出版社、2008年5月)
  8. 「中国納米科技研究的進展」(裘暁輝ら、「前沿科学」誌、2007年1月)
  9. 「材料科学学科発展報告」(中国科学技術協会主編、中国材料研究学会編著、中国科学技術出版社、2007年3月)
  10. 「学科発展戦略研究報告-有機高分子材料科学」(国家自然科学基金委員会工程と材料科学部、科学出版社、2006年6月)

主要関連ウェブサイト:

  1. 科学技術部(http://www.most.gov.cn
  2. 国家自然科学基金委員会http://www.nsfc.gov.cn
  3. 中国ナノテク網(http://www.chinanano.cn
  4. 中国科学院ナノテクノロジー網(http://www.casnano.ac.cn
  5. ナノテク・応用国家工程研究センター(http://www.nercn.com.cn
  6. 香山科学会議(http://www.xssc.ac.cn
  7. 中国基礎科学研究網(http://www.br.gov.cn
  8. 国家重点基礎研究発展計画(http://www.973.gov.cn
  9. 国家高技術研究発展計画(http://www.863.org.cn

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