6.2 社会基盤分野の現状および動向
(3) 都市化および都市発展
1)資源節約・環境友好型社会
中国では、1978年に改革開放政策を実施して以来、都市化が急速に進んだことから、エネルギーや資源、環境問題が深刻化を増し、経済発展と環境保護との矛盾がますます顕著になってきた。中国政府は、こうした状況を踏まえ、「両型社会」(資源節約・環境友好型社会)の構築に乗り出した。
中国科学技術部と建設部は2007年5月、都市化と都市発展に関するプロジェクトの発足会を開催した。最初に発足したプロジェクトは以下の通りである。
- 省エネ中核技術の研究とモデル
- 都市住民居住環境の改善・保障の中核技術に関する研究
- 環境友好型建築材料の製品の研究開発
- 近代化建築の設計・施工に関する中核技術研究
- 都市部大型建築の災害防止に関する中核技術研究
- 都市部地下空間の建設技術に関する研究とモデル・プロジェクト
- 都市部デジタル化のコア技術に関する研究とモデル
- 建築工事設備技術に関する研究と産業化開発
こうしたなかで国家発展改革委員会などは2007年12月、天津市を国家循環型経済モデル実験都市とすることを決めた。実験都市建設の目標としては、①資源節約型のモデル都市を建設する②工業を中心に、第一次、第二次、第三次産業の相互作用による循環型経済産業発展の枠組みを構築する③泰達と子牙の国家旧モデル実験パークを重点に循環型経済産業体系を構築する④エコ快適居住モデル区を建設する⑤制度と科学技術のイノベーションに重点を置き、循環型経済の支援システムを構築する――ことが掲げられた。
また国家発展改革委員会は2007年12月14日、国務院の同意を得て、湖北省の武漢都市圏と湖南省の長沙・株洲・湘潭都市群を、全国資源節約・環境保護型社会建設に向けた総合一体型改革モデル地域と指定することを承認し、両省政府に対して通知した。
このうち湖南省では、中国都市計画設計院が同省の要請を受けて1年程度をかけてまとめた張家界空間発展戦略・都市全体計画が2008年7月6日、内外の専門家の審査にパスした。同計画では、世界自然遺産と世界地質公園に指定されている武陵源風景名勝区の保護をさらに強化する措置がとられた。
具体的には、これまで武陵源区に設定されていた都市発展・観光サービスの主要区域が風景区から約30km離れた永定区に移されるとともに、観光産業などに関連した新しいタイプの工業拠点も風景区から100km以上離れた慈利県や桑植県に定められた。湖南省北西部の武陵源山脈にある張家界は、自然の織り成す美しい風景で知られる中国有数の名勝である。
2)都市計画
2010年の万博を控えた上海市政府は2008年7月10日、「都市環境建設と管理を強化するための600日間行動計画綱要」を公布し、ベター・シティ(better city)、ベター・ライフ(better life)の実現、美しい居住環境作り、都市文明レベルの向上をめざして、「都市景観の改善」、「市民生活環境改善」、「都市管理強化」の3つのプロジェクトを実施することを明らかにした。
上海市政府は、国際都市という名前とは不釣合いの「不潔、乱雑」な現状に対して、「清潔、整然、美観、安全」を基準として、15項目の措置をとることによって徹底的に改善を行う考えを表明した。
具体的には、違法建築を徹底的に解体するほか、道路設備のクリーン化をはかる、車両・船舶を徹底的に洗浄する、建築物の壁を洗浄する、広告看板や公共施設、駐車場の規制を統一化するなどの対策が含まれている。
また、上海市が公布した綱要では、万博地区の周辺区域や万博の見学・接待所、観光スポット、交通の要衝、黄浦江、高架道路、鉄道、高速道路、軌道交通沿線区域などが重点的に改善する区域として指定された。
上海市は、公共緑地の拡大も進めており、公共緑地500ヘクタールを含めた1000ヘクタールの各種緑地を建設するとの計画を2008年3月に明らかにしている。この計画によると、1人あたりの公共緑地面積を12.5m2に引き上げるとともに、10万m2の屋上を緑化することを目標に、2008年に10ヵ所の古い公園を改造し、260ヵ所の旧住宅地を緑化することになっていた。
こうしたなかで住宅・都市農村建設部は2008年10月、都市緑地システム防災計画の策定を急ぐよう、各地方政府の関係部署に通達した。都市部の緑地化を進め、緑地の持つ防災機能の健全化をはかり、総合防災機能をさらに強化するのがねらいという。
上海市は、地下空間の開発・利用を拡大する一方で、地下空間の管理を強化する動きを強めている。同市の計画・国土資源管理局によると、上海市にはすでに1000万m2に達する地下建築物や構造物が建設されている。上海市は、31ヵ所の重点開発地区を地下空間重点開発区と指定しており、この中には万博地区や徐家漚、江湾五角場、北外灘地区などが含まれている。なお、深圳市政府も2008年7月、「深圳市地下空間開発利用臨時弁法」を公布し、地下空間利用に関する方針を示した。
3)都市部での雇用確保
国家統計局がまとめた2008年の全国人口変動状況によると、2008年末までに中国の都市人口が6億人を超えた。2007年時点と比べると1288万人増加した計算になるが、人口増加のスピードは鈍っている。
一方で、米国発の金融危機を発端とする世界的な経済危機によって、中国が抱える都市問題が浮き彫りになった。
農業部が2009年2月に実施した調査によると、経済危機の影響を受け、農村からの出稼ぎ労働者(農民工)の失業者数は約2000万人に達した。中国社会科学院の人口・労働経済研究所の王徳文氏は、農民工の70%に相当する1400万人が、職を求めて都市に戻ると推測している。
同氏によると、都市部での労働力人口の増加もあり、現在830万人が失業している。さらに、2009年には610万人が専門学校や大学を卒業することに加えて、都市部では前年に職につけなかった150万人の浪人がいる。このため、都市部では、約3000万人分の雇用を確保する必要があるものの、経済成長にともなって創出される新規雇用は毎年900万人程度しかないとみられている。