6.2 社会基盤分野の現状および動向
(4) 国土の管理・保全
1)中国の耕地面積
中国の耕地面積は1996年に1億3000万ヘクタールに達した後、減少を続けた。国土資源部が2008年4月16日に公表した「2007年中国国土資源公報」によると、2007年末時点の耕地面積は1億2173万ヘクタールとなった。
中国政府は、「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)において、耕地面積1億2000万ヘクタールの維持を、拘束性を持った目標として掲げている。また、耕地面積維持の一環として、1987年に公布された「中華人民共和国耕地占用税暫定条例」が改正され、2008年1月から施行されている。
新条例では、それまでの条例で規定されていた税額基準をベースに、上限と下限がそれぞれ約4倍引き上げられ、各地方の具体的な適用税額は、省や自治区、直轄市の政府が新条例の規定と各地の状況に基づいて決定することになった。このほか、外資系企業と海外企業を新たに耕地占用税の課税対象とし、国内資本と海外資本の税負担が一本化された。
税額基準の引き上げにあたっては、物価や地価の上昇、国が定めた厳格な耕地保護制度の徹底、「三農」(農民、農村、農業)向けの資金の確保――が考慮された。
中国における耕地面積減少の背景には、以下のような原因があると指摘されている。なお、2007年には開墾等によって19万5800ヘクタールの耕地が増加している。
- 農業以外への転用
- 生態系保持
- 災害による破壊
- 農業構造調整
中国政府は2008年末、国際的な経済危機に対応するための内需拡大・経済安定促進策を打ち出しているが、国土資源部をはじめとした関係部門は共同で、内需拡大にともなう各種の土地使用を厳しくチェックするよう求めた通達を出している。
2007年全国国土利用状況

出典:「2007年中国国土資源公報」(国土資源部、2008年4月)
全国耕地面積変化の推移

出典:「2007年中国国土資源公報」(国土資源部、2008年4月)
2)砂漠化防止と緑化
中国では、砂漠化の防止が急務となっている。国家林業局によると、1990年代末には1年間に3436km2が砂漠化していたが、2007年には約3分の1程度までに減少してきた。
しかし、中国国務院発展研究センター工業交通貿易司の唐元・司長が2008年11月25日に明らかにしたところによると、砂漠化による直接経済損失は毎年540億元にも達し、約4億人の生活に影響を与えている。
同氏によると、砂漠化は国土の18%にまで達している。また、全国の水土流出面積は356万km2、砂漠化した土地の面積は174万km2に達しているだけでなく、90%以上の草原が退化している。砂漠化によって、大量の粉塵が舞い上がり、砂嵐が頻繁に発生している。北京や天津などでは、住民の健康や生活まで深刻な影響が及んでいる。
こうしたなかで砂嵐の観測や砂漠化を防止するプロジェクトが着々と進められている。国家発展改革委員会は、「青海湖流域の生態環境保護と総合整備計画」を承認し、2008年から10年をかけて、湿地保護や砂漠化した土地の整備、生態人工保護林の整備などを実施することになった。
プロジェクトは、青海湖流域の剛察、海晏、天峻、共和の4県で実施され、面積は2万9661km2に及ぶ。15億6700万元が投じられることになっている。中国最大の塩湖である青海湖は、青海チベット高原の生態系を維持するだけでなく、西部地区の砂漠化が東部地区へ拡大するのを防ぐ天然の障壁になると期待されている。
また中国科学院は2008年1月28日、同研究院傘下の新疆生態地理研究所や新疆農業大学などが共同で乾燥・砂漠化地域の生態系修復再生研究プロジェクトに着手したことを明らかにした。
同プロジェクトでは、砂漠化地域の修復や退化した生態系の回復・再生技術の研究とモデル地区の建設、生態環境保全技術の研究開発とモデル地区の建設、乾燥・砂漠化地域の水・土壌生態環境の安全と生態系の持続的管理に関する研究などが行われる。
外国との緑化プロジェクトも活発に行われている。韓国のヒュンダイ自動車、中国の北京ヒュンダイ自動車、韓国の環境保護組織の「環境運動連合」、内モンゴル自治区のアバグ旗人民政府は2008年5月5日、砂漠化防止・緑化プロジェクトに関する協力協定を締結した。
一方、トヨタ自動車は2008年5月31日、河北省豊寧満族自治県に建設していた「21世紀中国首都圏環境緑化交流センター」の開所式を行った。中国科学院や河北省林業局、特定NPO法人「地球緑化センター」と共同で推進している「21世紀中国首都圏環境緑化モデル拠点」プロジェクトの一環として新設した。
トヨタなど4機関は、2001年から日中共同事業として、中国の首都圏近くまで拡大している砂漠化の防止に向けた緑化活動を展開している。2010年までの計画では、緑化交流センターの建設のほか、500ヘクタールに及ぶ植林を行う。
3)地質災害の予防と対策
「2007年中国国土資源公報」によると、2007年には全国で各種の地質災害が2万5364件発生し、死傷者数が1123人(死者598人、行方不明者81人)に達した。こうした地質災害の直接的経済損失は24億8000万元と推定されているが、前年に比べると、死者・行方不明者数が12.3%、経済損失が42.6%、それぞれ減少した。以下のような、地質災害の予防と対策が強化されたことが寄与したと見られている。
- 地質災害予防の知識普及がはかられた
- 重点地区等の地質災害に関する詳細な調査が行われた
- 増水期の地質災害モニタリング警報システムが整備された
このほか、三峡ダム地区の地質災害の予防と対策で重要な成果が得られた。湖北省と重慶市では2007年末までに応急措置プロジェクト229件、堤防のかさ上げ工事1002件、非応急措置プロジェクトの調査および実施可能性調査231件が終了し、128ヵ所で移転・避難プロジェクトが実施された。
中国では、土地の汚染問題も深刻になっている。環境保護部によると、中国の耕地面積の10%が汚染しており、経済的損失は200億元に達している。そうしたなかで中国科学院は2008年9月2日、傘下の南京土壌研究所が開発した重金属や残留農薬で汚染された土地の修復技術が成果をあげたことを明らかにした。
中国科学院によると、南京土壌研究所は20年間にわたる汚染土壌の修復研究によって、スーパー植物や鉱物、細菌などを利用して土壌中の重金属や残留農薬の吸収・吸着固定化に成功したという。
主要参考文献:
- 「中国科技統計年鑑」(2002~2007年版、国家統計局・科学技術部編、中国統計出版社)
- 「国家中長期科学和技術発展規劃綱要(2006-2020年)」(中華人民共和国国務院、2006年2月)
- 「国家科技支撑計劃“十一五”発展綱要」(科学技術部、2006年9月)
- 「国家高技術研究発展計劃(863計画)“十一五”発展綱要」(科学技術部、2006年9月)
- 「国家“十一五”科学技術発展規劃」(科学技術部、2006年10月)
- 「道路水路交通科学技術発展戦略」(交通運輸部、2005年2月)
- 「公路水路交通中長期科学技術発展規劃綱要(2006-2020年)」(交通運輸部、2005年9月)
- 「公路水路交通“十一五”科学技術発展規劃」(交通運輸部、2006年2月)
- 「“十一五”西部交通科学技術発展規劃」(交通運輸部、2006年4月)
- 「建設科学技術“十一五”規劃」(建設部、2006年9月)
- 「「建設事業“十一五”重点推進技術分野」(建設部、2006年12月)
- 「地震科学技術発展規劃(2006-2020年)」(地震局、2006年3月)
- 「国家地震科学技術発展綱要(2007-2020年)」(地震局、2007年8月)
- 「国土資源部中長期科学技術発展計劃綱要(2006-2020年)」(国土資源部、2006年3月)
- 「中長期鉄路網規劃」(鉄道部、2004年1月)
- 「中長期鉄路網規劃(2008年度調整版)」(鉄道部、2008年11月)
- 「公路水路交通第“十一五”発展規劃」(交通運輸部、2006年9月)
- 「総合交通網中長期発展規劃」(国務院、2007年10月)
- 「2007年国土資源部科技成果統計分析報告」(国土資源部)
- 「2007-2008城市科学学科発展報告」(中国科学技術協会主編、中国城市科学研究会編著、中国科学技術出版社、2008年3月)
- 「2007年中国国土資源公報」(国土資源部、2008年4月)
- 「中国科学技術発展報告2006」(科学技術部、科学技術文献出版社、2008年1月)
主要関連ウェブサイト:
- 国家発展改革委員会(http://www.ndrc.gov.cn)
- 科学技術部(http://www.ndrc.gov.cn)
- 住宅都市建設部(http://www.cin.gov.cn)
- 交通運輸部(http://www.moc.gov.cn)
- 鉄道部(http://www.china-mor.gov.cn)
- 中国地震局(http://www.cea.gov.cn)
- 国土資源部(http://www.mlr.gov.cn)
- 中央人民政府網(http://www.gov.cn)
- 国家科技支撑計画網(http://kjzc.jhgl.org)
- 国家重点基礎研究発展計画網(http://www.973.gov.cn)
- 中国科学技術協会(http://www.cast.org.cn)
- 中国科技統計網(http://www.sts.org.cn)