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【13-002】中国の実用新案制度について

韓 明星(北京銘碩国際特許事務所所長、中国弁理士)  2013年 3月26日

 前回で言及したように、中国の専利法は、日本での特許、実用新案、意匠の3つの権利を統合した法律である。この10年間で、中国の特許、実用新案、意匠(中国語で、それぞれ発明専利、実用新案専利、外観設計専利と言う)の出願件数は急増して、2012年までに三つの権利出願数とも世界トップになった。

 その中で、中国実用新案の動向が格別に注目されている。これに関して、昨年末、中国知識産権局(中国の特許庁)は、特別に「中国実用新案制度発展状況」というレポートを発表した。このレポートから中国実用新案の動向について紹介し、中国の実用新案制度について解説したいと思う。

1.特許と実用新案の区別

 今現在、全世界57の国また地域が実用新案制度を施行しており、日本も含まれている。しかし、日本の実用新案出願数はこの10年ほど前から激減しており、今は年間1万件ぐらいで推移している。

 各国が実用新案制度に対する位置づけは大同小異だが、制度の狙いはほぼ同じであり小さな発明、考案に対する保護を図ることを目的に設けた制度である。つまり、一般的に実用新案に含まれている技術要素は、発明特許よりはレベルが低いとされている。しかし、実際は実用新案と発明特許間に明確な線引きはなく、中国では同じ技術に対して、実用新案と発明特許いずれも出願可能である。

 つまり同じ発明案件を発明者も出願者も同一人物(企業)が、同じ日に特許と実用新案の両方に出願することができる。このような制度を取っているのは世界中で中国だけである。

 実用新案と特許の両方に出願しても、その両方の権利を取得することはできない。普通は実用新案の出願・登録によって権利化し、その後に特許の審査を経て権利化された場合は、実用新案か特許のどちらかの権利を保持することを選択することになる。

 いずれにしても実用新案と特許のどちらの権利を保持するかは、出願人が技術保護の重要度、査定可能性、費用、時間など総合的に考慮して決めることになる。

 それでは中国の発明特許と実用新案の主な違いについて、以下にご説明する。

2.中国実用新案制度の沿革

 1984年3月12日公布され、1985年4月1日から施行された「中華人民共和国特許法」では、実用新案権利の存続期間は5年で、5年満了した後に、3年延長することができると規定した。

 第一次特許法の改正(改正要点は、第1回の内容を参照)で、実用新案権利の存続期間を10年に拡大し、存続期間延長制度を廃止した。

 第二次特許法の改正(改正要点は、第1回の内容を参照)で、実用新案の登録後にその新規性、進歩性、実用性に対して評価する検索報告制度を導入し、実用新案に対して復審委員会の審判決定について不服の場合は、裁判所に提訴することができると規定した。

 第三次特許法の改正(改正要点は、第1回の内容を参照)で、同一出願人が一つの技術に対して同じ日に特許及び実用新案の双方を出願できると明文化し、初歩審査で顕著に新規性がない出願を排除するようにし、検索報告を実用新案権利評価報告と改称するとともにその評価の範囲を拡張した。

3.中国実用新案の効力

 中国の特許法は、日本での特許、実用新案、意匠の3つの権利を統合した法律である。したがって、明確に限定しない限り、特許に関する規定が実用新案及び意匠にも適用される。

 また、日本の場合、実用新案の権利を行使する場合に、まず実用新案技術評価書を提示する義務があり、また権利行使後の無効審判などにより、実用新案権が無効となった場合には、権利行使で相手に与えた損害を賠償する責任がある。そして権利者は侵害者の過失を立証しなければならない負担がある。しかし、中国の特許法ではこのような制限は設けていない。

 このような側面からみると、中国での実用新案の法的権利は特許と同じ効力を有している。

 特に注目すべき点は、中国知財裁判で最高損害賠償金額が出された知財訴訟裁判判例は、特許でなく実用新案の侵害裁判である。原告の温州正泰グループ(中国民営企業)が家庭内で使用する電気のブレーカーの技術に関してシュナイダー電気天津社(フランス系企業)を実用新案侵害で訴えたものだ。一審の温州人民法院で3億3000万人民元の損害賠償判決で被告が敗訴、二審の浙江省高級人民法院で被告が1億5700万人民元損害賠償金で和解成立となった。実質的に温州正泰グループの勝訴となったのである。

 この判例からも分かるように、中国での知財戦略ので、実用新案に対しては発明特許同様に重要視しなければならないことになる。

4.中国実用新案の出願状況

 中国では、実用新案出願が発明特許出願より審査期間が短く、費用が低いなどの利便性がある。また法的に発明特許と同等に権利行使できるとの側面から、1985年特許法が正式に施行されてから、中小企業、個人を中心に積極的に利用されてきた。

 1997年中国の実用新案出願数が5万件を突破し、世界第一になった。その後も年々増加し、2008年には20万件、2009年には30万件、2010年には40万件、2011年には58.5万件、2012年74万件に達しており、2011年出願に比べると年間26.4%で増加したことになる。

 2000年に既に、中国実用新案出願数が全世界実用新案出願数の42%占めており、2010年には中国実用新案出願数が全世界出願件数の83%占めている。

 2012年中国知的財産局が授権した実用新案権利は57.1万件で、2012年年末に中国知的財産局が授権しまだ有効である実用新案権利は150.1万件に達している。特に権利者の大部分が中国の中小企業または個人である。2012年実用新案出願数から見ると、74万件の実用新案出願のうち、中国国内人出願数は73.4万件、国外からの実用新案出願数はわずか5853件である。また2012年年末まで有効な実用新案権利150.1万件の中、中国権利者が148.7万件、国外権利者が1万4205件である。

 これに対し、知識産権局の「中国実用新案専利制度発展状況」レポートでは、「近年中国実用新案出願数は大幅な増加にあり、数字的には膨大であるが、実際人口比例で見ると高いとは言えない。

 2011年中国実用新案出願数は1万人あたり4.5件であって、ドイツ、日本、韓国など歴史的に実用新案を多く出願した時期の人口比例出願数から見ると遥かに低いレベルにある。20世紀70年代のドイツでの実用新案出願数は一万人あたり7件ぐらいあった。日本は80年代実用新案出願数が一万人あたり平均17件に達していた。また韓国は90年代実用新案出願数が一万人あたり最高で14件もあった。

 こうした先進国での実用新案の実績を考えるとこれから先も中国実用新案出願数は更に増加する傾向にあると考えられている。

 (上記のデータは「中国実用新案レポート」及び中国知識産権局ホームページから引用)

5.中国実用新案の安定性

 「中国実用新案レポート」によると、2011年までに中国国内有効実用新案権利のうち、3年以上権利維持した実用新案が52.8%で、6年以上権利維持した実用新案が12.9%占めている。また、2002年から2011年の間、特許覆審委員会が受理した実用新案権利無効審判請求案件数は10044件、その中結審した案件が9532件、実用新案権の全部無効割合が35.60%、一部無効の割合は11.80%である。

 つまり、52.6%無効審判の実用新案権利は権利維持された結果になる。これは特許権とは違い実態審査段階を得て授権された権利ではないにもかかわらず、高い権利性を維持することを示しており、実用新案権利を無効にすることの難しさを示唆しており、実用新案の権利安定性を裏付けている。

6.今後の課題

 「中国実用新案レポート」では、実用新案制度は中国の国内実情に合った制度であり、将来にわたってもこの制度は継続され維持されるべきだと述べている。

 このように、これからも中国の実用新案出願は更に継続的に増加し、最高出願数はどんどん更新されると予想される。このような状況において、中国実用新案制度に対して今まで以上に重要視して、対応策をとる必要があり、この制度を有効に活用する必要があると思われる。このような状況での対策として、EU特許庁及び日本特許庁では中国実用新案に対して、機械翻訳サービスを提供することを打ち出している。

 このような課題の中、私達が対応策として提案することは、権利行使する角度では微細な技術改良部分においても実用新案として権利確保し、また特許と実用新案同時に二重出願する制度を活用することだ。

 また、特許出願の中で、装置クレームは実用新案として出願するなど対応策を講じることもできる。また、他社からの攻撃に対する防衛策として発明レベルが低い考案に対し出願しない場合には、積極的に公開し、公知技術として無効審判時の引例としての位置を確保することも有効な手段だと考える。


【付記】 論考の中で表明された意見等は執筆者の個人的見解であり、科学技術振興機構及び執筆者が所属する団体の見解ではありません。

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PROFILE
韓 明星

韓 明星(HAN Mingxing)

 1984年中国東北大学資源学部卒、85年中国弁理士第一期生として登録。中国特許事務所で10年勤務後、韓国サムスン電子知的財産部の特許顧問として10年勤務。2 004年4月北京銘碩国際特許事務所を設立。中国弁理士会理事。日本知財学会で2010年以降、中国の知財動向などに関する研究成果を発表している。特許ライセンス契約の締結、関連法律コンサルティング、産 学連携など幅広く活動している。

連絡先:北京銘碩国際特許事務所・日本事務所 東京都千代田区外神田5-6-14秋葉原KDビル


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